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立ち去るピローヌを見ていると、集まっていた人々の視線が俺に向いていることに気付く。
やってしまった。全ての計画が台無しだ、と焦燥と後悔が俺の頭を埋め尽くす。
変装をしているから王子ということはバレていないだろうが、怪しげな男が貴族のお供をぶっとばしたとは目に映ったはず。
通報されてしまってもまずいし、変装した状態ですら街を歩けなくなるのもまずい。
そう考えているとアリゼッタとエリーゼが俺の腕にしがみついてきていた。
「エトはばかですわっ! あそこまで我慢しなくてもいいじゃないの! 本当は、本当は……!」
「アリゼの言うとおりです。エトが我慢する分私たちはもっと我慢しているんです。本来であるなら……!」
「その先は口にしては駄目なことなのは分かっているだろ?」
二人が身分を明かしては駄目ということを分かっていることは知っている。
だから自分の意思で言うのをやめたのだから。
「分かってますわ! それでも、エトが……あまりにも……」
「うぅ……。なんで大切な人が殴られるところを黙ってみていなきゃいけないのですか……」
「大志を叶えるために小事は我慢していかないといけないんだ。これからも二人にはつらい思いをさせるかもしれない」
二人は俺の腕を離すと、最初出会った時とはまるで違う磨かれた目を向けてくる。
「私はなにがあろうとエトについて行くと決めてますわ。リーゼは我慢できないのであれば脱落しても構いませんわよ」
「私だってエトに人生を捧げるって決めているんです。アリゼは泣いていたじゃないですか。怖いなら私がアリゼの分まで頑張りますよ」
「あ、あんただって泣いてたじゃない!」
「私は目にゴミが入っただけです!」
「おいおい、二人とも仲良くしろよ……。……それよりこの状況をどうするか考えてくれ」
俺が途方に暮れ辺りを見回すと、ひとりのおばちゃんが歩み寄ってくる。
不安から俺は僅かに顔をそむけたが、おばちゃんの言葉は良い意味でそれを裏切ってくれた。
「あんた、変な格好してるけど良い男だね。おばちゃん感動しちゃったよ。最初から見ていたけど、どう見ても向こうが悪かった!
鼻持ちならない貴族を懲らしめてくれて胸がスッとしたわ」
「あの……俺は……」
「大丈夫よ、警邏にはちゃんと説明しとくから。あんなに強いのに我慢していたのは何か理由があるんだろ?
ほら、行きなさい。可愛い二人の女の子をちゃんと守ってあげるのよ」
ニヤニヤしながらなのでなんとなく微妙な気持ちになるが、その言葉は本当にありがたかった。
するとどこからともなくパチパチと拍手の音が聞こえ、観衆から声が上がり始める。
「俺も見ていたぞ!」「兄ちゃんは悪くねぇ!」「そのがっちりした背中で私も守られたいわぁ」
「それよりこいつらのほうこそ警邏につきだすべきなんじゃないか?」「ああ、無抵抗の人間を殴ったんだからな!」「罰を受けるべきよ!」
わーわーと騒ぎ出し始める皆に、俺は両手を広げて制止をかけた。
「待ってくれ! そいつらの事も見逃してやって欲しい。ある意味仕事でやっただけなんだからな」
「おいおい兄ちゃん、それはあまりにもお人よしが過ぎるぞ」「まるで聖人様ね」「仕事でやってるようには見えなかったぞ!」
「それでもだ。俺からのお願いだから頼むよ。ここでは何もなかった。そういうことにしてくれ」
そうこうしているうちに、警邏と思わしき濃い青色の服を着こんだ、屈強な男がやってこようとしているのが見えた。
俺はアリゼッタとエリーゼにこの場から離れようと話す。
「二人とも行くぞ。素性を明かすわけにはいかない」
「ええ、当然ですわね。けれど、エトはちょっと優しすぎますわ」
「後に禍根を残したくないというのが強いがな。俺はお前らに何かあれば鬼にでも悪魔にでもなるぞ」
二人が顔を赤くし黙り込むのを見つつ、俺たちは警邏が来る前に立ち去ることに成功した。
やってしまった。全ての計画が台無しだ、と焦燥と後悔が俺の頭を埋め尽くす。
変装をしているから王子ということはバレていないだろうが、怪しげな男が貴族のお供をぶっとばしたとは目に映ったはず。
通報されてしまってもまずいし、変装した状態ですら街を歩けなくなるのもまずい。
そう考えているとアリゼッタとエリーゼが俺の腕にしがみついてきていた。
「エトはばかですわっ! あそこまで我慢しなくてもいいじゃないの! 本当は、本当は……!」
「アリゼの言うとおりです。エトが我慢する分私たちはもっと我慢しているんです。本来であるなら……!」
「その先は口にしては駄目なことなのは分かっているだろ?」
二人が身分を明かしては駄目ということを分かっていることは知っている。
だから自分の意思で言うのをやめたのだから。
「分かってますわ! それでも、エトが……あまりにも……」
「うぅ……。なんで大切な人が殴られるところを黙ってみていなきゃいけないのですか……」
「大志を叶えるために小事は我慢していかないといけないんだ。これからも二人にはつらい思いをさせるかもしれない」
二人は俺の腕を離すと、最初出会った時とはまるで違う磨かれた目を向けてくる。
「私はなにがあろうとエトについて行くと決めてますわ。リーゼは我慢できないのであれば脱落しても構いませんわよ」
「私だってエトに人生を捧げるって決めているんです。アリゼは泣いていたじゃないですか。怖いなら私がアリゼの分まで頑張りますよ」
「あ、あんただって泣いてたじゃない!」
「私は目にゴミが入っただけです!」
「おいおい、二人とも仲良くしろよ……。……それよりこの状況をどうするか考えてくれ」
俺が途方に暮れ辺りを見回すと、ひとりのおばちゃんが歩み寄ってくる。
不安から俺は僅かに顔をそむけたが、おばちゃんの言葉は良い意味でそれを裏切ってくれた。
「あんた、変な格好してるけど良い男だね。おばちゃん感動しちゃったよ。最初から見ていたけど、どう見ても向こうが悪かった!
鼻持ちならない貴族を懲らしめてくれて胸がスッとしたわ」
「あの……俺は……」
「大丈夫よ、警邏にはちゃんと説明しとくから。あんなに強いのに我慢していたのは何か理由があるんだろ?
ほら、行きなさい。可愛い二人の女の子をちゃんと守ってあげるのよ」
ニヤニヤしながらなのでなんとなく微妙な気持ちになるが、その言葉は本当にありがたかった。
するとどこからともなくパチパチと拍手の音が聞こえ、観衆から声が上がり始める。
「俺も見ていたぞ!」「兄ちゃんは悪くねぇ!」「そのがっちりした背中で私も守られたいわぁ」
「それよりこいつらのほうこそ警邏につきだすべきなんじゃないか?」「ああ、無抵抗の人間を殴ったんだからな!」「罰を受けるべきよ!」
わーわーと騒ぎ出し始める皆に、俺は両手を広げて制止をかけた。
「待ってくれ! そいつらの事も見逃してやって欲しい。ある意味仕事でやっただけなんだからな」
「おいおい兄ちゃん、それはあまりにもお人よしが過ぎるぞ」「まるで聖人様ね」「仕事でやってるようには見えなかったぞ!」
「それでもだ。俺からのお願いだから頼むよ。ここでは何もなかった。そういうことにしてくれ」
そうこうしているうちに、警邏と思わしき濃い青色の服を着こんだ、屈強な男がやってこようとしているのが見えた。
俺はアリゼッタとエリーゼにこの場から離れようと話す。
「二人とも行くぞ。素性を明かすわけにはいかない」
「ええ、当然ですわね。けれど、エトはちょっと優しすぎますわ」
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