王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

こたつぬこ

文字の大きさ
21 / 46

21

しおりを挟む
 立ち去るピローヌを見ていると、集まっていた人々の視線が俺に向いていることに気付く。
 やってしまった。全ての計画が台無しだ、と焦燥と後悔が俺の頭を埋め尽くす。
 変装をしているから王子ということはバレていないだろうが、怪しげな男が貴族のお供をぶっとばしたとは目に映ったはず。
 通報されてしまってもまずいし、変装した状態ですら街を歩けなくなるのもまずい。

 そう考えているとアリゼッタとエリーゼが俺の腕にしがみついてきていた。

「エトはばかですわっ! あそこまで我慢しなくてもいいじゃないの! 本当は、本当は……!」

「アリゼの言うとおりです。エトが我慢する分私たちはもっと我慢しているんです。本来であるなら……!」

「その先は口にしては駄目なことなのは分かっているだろ?」

 二人が身分を明かしては駄目ということを分かっていることは知っている。
 だから自分の意思で言うのをやめたのだから。

「分かってますわ! それでも、エトが……あまりにも……」

「うぅ……。なんで大切な人が殴られるところを黙ってみていなきゃいけないのですか……」

「大志を叶えるために小事は我慢していかないといけないんだ。これからも二人にはつらい思いをさせるかもしれない」

 二人は俺の腕を離すと、最初出会った時とはまるで違う磨かれた目を向けてくる。

「私はなにがあろうとエトについて行くと決めてますわ。リーゼは我慢できないのであれば脱落しても構いませんわよ」

「私だってエトに人生を捧げるって決めているんです。アリゼは泣いていたじゃないですか。怖いなら私がアリゼの分まで頑張りますよ」

「あ、あんただって泣いてたじゃない!」

「私は目にゴミが入っただけです!」

「おいおい、二人とも仲良くしろよ……。……それよりこの状況をどうするか考えてくれ」

 俺が途方に暮れ辺りを見回すと、ひとりのおばちゃんが歩み寄ってくる。
 不安から俺は僅かに顔をそむけたが、おばちゃんの言葉は良い意味でそれを裏切ってくれた。

「あんた、変な格好してるけど良い男だね。おばちゃん感動しちゃったよ。最初から見ていたけど、どう見ても向こうが悪かった!
 鼻持ちならない貴族を懲らしめてくれて胸がスッとしたわ」

「あの……俺は……」

「大丈夫よ、警邏にはちゃんと説明しとくから。あんなに強いのに我慢していたのは何か理由があるんだろ?
 ほら、行きなさい。可愛い二人の女の子をちゃんと守ってあげるのよ」

 ニヤニヤしながらなのでなんとなく微妙な気持ちになるが、その言葉は本当にありがたかった。
 するとどこからともなくパチパチと拍手の音が聞こえ、観衆から声が上がり始める。


「俺も見ていたぞ!」「兄ちゃんは悪くねぇ!」「そのがっちりした背中で私も守られたいわぁ」
「それよりこいつらのほうこそ警邏につきだすべきなんじゃないか?」「ああ、無抵抗の人間を殴ったんだからな!」「罰を受けるべきよ!」


 わーわーと騒ぎ出し始める皆に、俺は両手を広げて制止をかけた。

「待ってくれ! そいつらの事も見逃してやって欲しい。ある意味仕事でやっただけなんだからな」


「おいおい兄ちゃん、それはあまりにもお人よしが過ぎるぞ」「まるで聖人様ね」「仕事でやってるようには見えなかったぞ!」


「それでもだ。俺からのお願いだから頼むよ。ここでは何もなかった。そういうことにしてくれ」

 そうこうしているうちに、警邏と思わしき濃い青色の服を着こんだ、屈強な男がやってこようとしているのが見えた。
 俺はアリゼッタとエリーゼにこの場から離れようと話す。

「二人とも行くぞ。素性を明かすわけにはいかない」

「ええ、当然ですわね。けれど、エトはちょっと優しすぎますわ」

「後に禍根を残したくないというのが強いがな。俺はお前らに何かあれば鬼にでも悪魔にでもなるぞ」

 二人が顔を赤くし黙り込むのを見つつ、俺たちは警邏が来る前に立ち去ることに成功した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

誰からも食べられずに捨てられたおからクッキーは異世界転生して肥満令嬢を幸福へ導く!

ariya
ファンタジー
誰にも食べられずゴミ箱に捨てられた「おからクッキー」は、異世界で150kgの絶望令嬢・ロザリンドと出会う。 転生チートを武器に、88kgの減量を導く! 婚約破棄され「豚令嬢」と罵られたロザリンドは、 クッキーの叱咤と分裂で空腹を乗り越え、 薔薇のように美しく咲き変わる。 舞踏会での王太子へのスカッとする一撃、 父との涙の再会、 そして最後の別れ―― 「僕を食べてくれて、ありがとう」 捨てられた一枚が紡いだ、奇跡のダイエット革命! ※カクヨム・小説家になろうでも同時掲載中 ※表紙イラストはAIに作成していただきました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...