戦慄の罠師 ~世界を相手取る俺の圧倒的戦術無双~

こたつぬこ

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第1話 白い空間に一人ポツン

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「ほっ、はっ、とりゃぁぁぁ! っとと、のわぁ」

 白い白い俺の眼に白しか映らない不可思議な空間。
 一人ポツンと寂しかった俺は、ワンツーを放ってから大技の上段回し蹴りをぶん回しよろめいてこけた。

 いや、決して寂しかったわけではなく、身体の状態を確かめるために必要な動作として行ったのだ。
 この白い空間はよくある小説の展開というやつだと考えた結果、その行動をするに至った。

 つまり身体にもなんらかの変化があるはずだと考えた。
 結果ターゲットも何もない現状では、よく分からんという結論。
 無駄な時間ではあるが俺の寂しさは少しだけ紛らわすことができた。

 下はどうなってるか知らないが、こけたというのに全然痛くない。
 まさか夢? そんな風に考えてほっぺたをつねってみたけれどやはり痛くなかった。

 でも、夢にしてはリアルすぎるこの感覚。
 目を擦ろうが覚醒することはないし、自由自在、俺が思ったように動くことができる。
 というよりほっぺたをつねる時は現実フラグだというのが俺の考えである。

「しっかし白い空間ってのは、あまりに白過ぎて広いのか狭いのかもよく分からんもんなんだなぁ」

 見回しながらそのあたりの空間をにぎってみても、白いものが手の中に掴みとれたリなんかはしない。
 つまりこの白は空間を埋めている質量体ではないというわけだ。
 といっても雲を掴もうとしたところで掴めないわけで、結局質量を持ってるかどうかなんて俺の手では分からない。

 おそらくこの後、神にでも会うことになって、どこかに行くことになるのだろう。
 この白い空間は最初で最後の訪れる場所ということになる。
 そうなるのであれば、やれることはやっておきたいと思うのが人間の性というもの。

「ほりゃぁ! おりゃぁ! せいりゃぁあぁ!」

 再度体を動かしてみても俺の声が空間に溶けていくだけだ。
 孤独感と虚無感からだんだんと寂しさを感じ大きく息が漏れる。

「はぁぁぁぁぁ」

 つま先を立て足をコンコンと鳴らそうとしても音はならない。
 足の動きは止まるというのにだ。
 一体俺はどこに立っているのかと不思議な感覚に包まれる。

「だれかーいませんかー!」

 両手でメガホンを作り叫んでみても返答はない。
 一体俺にどうしろというのだろうか?
 この空間で何をすればフラグが立つというのだろうか?

 辺りを見回していると歩と思う。白い空間はまるではるか彼方まで続く海のようだと。
 もしかして泳げるかもしれない。
 半信半疑、というよりは正直な話暇つぶしだ。
 どうせ痛くないのであれば試してみるのも悪くはない。

 そんなつもりで踏み切りを行い勢いよく飛び込みを行ってみたら、なぜだか俺の身体は猛烈な勢いですべっていくこととなった。

「うぉーい、ちょっきし待ってくれよ! 手かけるとこないからとまんねぇ!!」

 どういう原理なのかは分からないが、俺は先ほどまでは確かに足で立っていたというのに、今は地面に手を伸ばしてみても空を掠めるだけ。

 ひどい展開だ。
 これではまるで宇宙空間を泳ぐかのようではないか。
 先ほどは自分で泳げるかと思ってやってみたことだったのではあるけども、まさか実現するとはだれが思うだろうか。

 摩擦がないのかよく分からないが、まるで速度が落ちる様子をみせず、俺の心は不安で満たされていく。
 そんな中でも、とりあえずクロールと平泳ぎとバタフライを試す心の余裕だけは持ち合わせていたのだが。

 とはいえ、このままでは流石にまずい。
 最終的に世界の果てにぶつかって終わりのパターンな気がする。
 ぐちゃりと俺の体はつぶれトマトジュースのようになるだろう。

「誰かたすけてくれー。ひぃー。俺が悪かったー。一昨日、とーちゃんの大切にしていたカニ茶わん蒸し食ったの謝るからさー。
 身はカニカマだったけどねー」

 もっともこの白い世界に果てがあったとするならば、という仮定の話だ。
 なければ俺は未来永劫とも言える時の海原を、娯楽もなしに泳ぎ続けることになるのかもしれない。

「うひっ」

 ぶるりと体が震え、思わず奇妙な声が漏れる。
 こんな体験も今だけだろう。
 ずっと続けていれば俺の心は無となり、固く巌のような魂へとその姿を変えていくことが予想できる。

 それをぼーっと待っているわけにはいかない。
 もし小説の展開が起きてくれるのであれば女神様との邂逅があるはずだ。
 そう考えた俺は白い空間を滑りながら女神の容姿を想像することにした。
 金髪碧眼、流れるような髪に粉雪のようにきめ細かい肌。そして最も大事なのは胸が大きい事。

「うん、いいすな! グラマラスねーちゃん! いでよグラマー女神様!」

 勿論現れるはずもなく、こんなことをしながらおよそ一時間ほど白い空間をすべりそろそろ絶望に暮れていると、お約束のように何かが見えてきた。
 俺の心に息吹が吹き込まれるような感覚が満たす。
 目に映ったものは明らかに人のような影。

 心底ホッとし口元が緩む……が!

「たすかった! じゃねぇ! ぶつかるー!」

「へっ!?」

 振り向いた人影は、おっぱいがめっちゃ大きくてパツキンの翼を生やした姉ちゃんであり、一瞬俺と視線が交わった。
 女性であるという時点で俺の中では女神確定。
 先ほど妄想していた通りの容姿に目元も緩みそうになる。

 それに。

 女神なら俺を止めてくれるくらいのことは容易いだろう。
 というか止めてくれなければ衝突確定。完全なこちらの過失事故だ。
 しかし、残念ながら女神(?)は止めてくれることなく、俺は姉ちゃんのマシュマロのような二つの膨らみにダイブすることになった。

「きゃぁっ」

「うひょひょ。きたーーー」

 ここぞとばかりに体に抱きつき頬ずりをかます。
 こんな機会めったにない。
 いや、もう二度とないと思う。
 俺の妄想が具現化したような女性にラッキースケベできる機会なんて。

 そう。ラッキースケベ、つまり完全な事故だ。
 俺にはどうすることもできなかった。
 この後謝れば寛大なお心で許してくれると期待するしかない。

 それにおっぱいを掴むまでは流石にしなかった。
 ほんとに女神だったら機嫌を損ねたらまずいと思ったんだ。
 惜しいとは思っていない……といえば嘘になるが。
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