俺のスキル『勘違い』が壊れ性能過ぎて吹く

こたつぬこ

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第10話 子供でもしっかり冒険者

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「まじ……かよ……?」

 目を瞑るのは止め、恐怖心に打ち勝とうと思い目を見開く。 
 そこには、先刻クエストショップに案内してくれた少年――ユウマが立っていた。
 その様相はさっき転んで泣いていた少年とは思えないほどに立派なもの。
 ユウマは俺たちの持っている貧相な剣とは比べ物にならないくらいの立派な剣を持っていて、大きくボアボアに向けて振り下ろす。
 それはザシュッっと鋭い音を奏でボアボアの右目に直撃していた。

「ブヒィ……!」

 ボアボアは小さな呻き声を上げると、少しずつ下がっていく。
 片目は綺麗に切られ、そこからは血がドクドクと噴き出している。 

 そのままボアボアは逃げるように、この場を去って行く。ミラノも俺たちがいる手前、深追いはしないようにしたのだろう。
 辺りを見渡し安全を確認した後、ミラノは俺たちの方へ振り向いた。

「お兄さんたち大丈夫?」

 そう言って俺の後ろを見るなり、崩れ落ちている本田のもとへ急いで駆け寄った。

「お兄さん、どこが痛いの? ……左腕? 分かった、治すからじっとしてて」

 本田が左腕をずっと押さえているのを見たためだろう。怪我した場所をいち早く察知した少年は、本田の左腕に両手を添える。
 すると――――そこからは眩しい程の白い光が放たれる。
 あまりの眩しさに目を瞑ってしまうが、その眩しさは一瞬のものだった。
 再び目を開け傷を確認すると、傷口がどこにも見当たらない。
 本田も不思議そうな様子で腕を擦っている。

「お兄さん、まだ痛い?」

「いや……痛くない。回復魔法……なのか?」

「よかった。うん、そうだよ」

 剣士であるような身のこなしに回復魔法の使い手。
 さぞ有用な存在になっていくんだろうな。
 そんなことを考えていると、少年は俺の方へ振り向く。

「お兄さんたち、どうしてここへ?」

 どうしてここに来たかははっきりいって言いづらい。
 まずはお礼と思い口を開く。

「えっと……。ユウマくん、助けてくれてありがとうな。そういえばミラノくんは?」

 まるで兄弟のようだったので常に一緒にいるのかと思ってそう聞くと、ユウマは微笑みながら答えてくれた。

「ミラノは今頃、家にいるんじゃないかな。クエスト完了したことを報告した後、すぐに家に戻ったから。 
 そしたら突然なんだかお兄さんたちのことが心配になって……、お兄さんたちが進んで方向にやってきたんだ」

「はは、そうだったんだ……。ユウマくんは命の恩人だよ」

 みっともないところを子供に見られるも、俺たちは恥ずかしがっている場合ではない。
 実際に力がないのだから。 

「本田、俺たちは今迷っているんだよな……? それで自分の身に危険を及ぼし、人に迷惑をかけた」

「……」

 本田はそっぽを向いて答えようとしない。

「篠宮たちのところへ戻ろうぜ。 二人共待ってる」

「……戻ったとしても、俺は篠宮に強く当たると思うぜ」

 俺に対してではなく篠宮に対して不満を抱いていたことに正直驚いた。
 てっきり俺がリーダーであることに不満を抱いていると思っていたのだ。
 なら俺の心も少しは晴れようというもの。

「あぁ、いいよ。今モンスターに迷わず立ち向かったように、仲間から逃げないならそれでもいい」

「……」

 しばらくの間本田は考え込んだ様子だったが、『分かった』と言って、その場から歩き出す。
 これで本田を引き戻すことに成功したのだが、俺たちにはまだ課題がある。
 やはりというかレベル差はでかい。本田が強化魔法を使ったのかは分からないが、レベル10の差を覆すことはできなかった。
 そこで脳裏に浮かぶのは先ほどのユウマの剣捌き。
 明らかに年下とはいえ、俺たちとはその熟練度に決定的な差異がある。
 それに……ここから戻るのは大変だ。

「あのさ、ユウマ。 俺たち、迷子になっちゃったんだけど……案内してもらえないかな」

「いいよ。どこまで行きたいの?」

「ユニブ街道脇の丘っていうところ」

「分かった。ここからじゃ少し遠いけど、ポータルを使って移動したらそうでもないね。行こう」

「ポータル……って?」

「お兄さんたちポータルも知らないの? 街道沿いに魔法石の石柱が立ってたでしょ? クエストショップで売ってる移動石を使えばそこに飛べるんだよ」

 ゲームのような移動方法があることに驚いた。
 とはいえその移動石というのは安くはないだろう。
 まあ安かろうが髙かろうが、無一文には変わりはないので買えないことに変わりはないのだが。

「あ、ああ、そうだったな。いや、お金がなくて移動石を持ってなかったから言ったんだ」

「え、そうなの? 移動石持ってないのに冒険にでるとか危ないよ。もしもの時のために持っとかないと」

「お金を稼いで移動石も買うつもりだったんだ」

「ふぅん……。ま、移動石も安くはないもんね。はい、これ」

 と言って渡してくれたのは、水色で薄っすらと光を透かす水晶のような物。
 使い方は手に握り魔力を込めればプレートがあらわれ、周辺で飛べる範囲の石柱の場所が表示されるようだ。

 長距離の移動は何個も使用して石柱を経由する必要があるらしい。
 が、ユニブ街道脇の丘に近い場所には一つでいけるんだとか。一つ2000ゴルドの移動石。高いのか安いのか何とも分からない。
 まずは物価を知らないくてはお話にならないと思えた。

 移動石を使いプレートを操作して移動する。
 体が水色の光と浮遊感に包まれる。

 気付けば森そばから街道と草原が広がる場所に立っていた。

 周りには篠宮も湊川の姿もない。
 ユウマは周囲を確認すると「付いてきて」と小さく声をかけてきた後先導してくれる。

 最初に会った時の印象は、とてもか弱そうに見えたのだが今その小さな背中はからは頼もしい気配が伝わってくる。
 子供とは言え命の危険と隣り合わせの冒険者。そして生まれてきたときからこの環境に慣れている。

 だが、だからといって俺たちもただ手をこまねいているわけにはいかない。
 前に進むためにはこの世界に順応しなくてはいけない。

 しかし、今頭をよぎったのは別の事。

 今日の俺はあまりにも幸運が過ぎるということだ。
 ステータスで確認しても俺の幸運値が上がっていると言ったことはない。
 他のステータスより高めではあるが、常識の範疇に収まっているんじゃなかろうかと思う。

 なのに、

(試練では無傷だったし、八百屋のおじさんからは野菜やら果物を貰えた。
 クエストショップでは剣は貸してもらえたし、雨は俺が望んだ通りに止んでくれた。
 さらには助けを求めたら本当に助けがきてくれた)

 全ては偶然なのかもしれない。
 けれど、偶然で片づけるにはあまりにも幸運が重なり過ぎているような気がする
 不可解な現象に首を傾げつつ、ユウマの後に続いて草原を歩んでいく。
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