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第12話 四葉のクローバーの欠片
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ユウマは小さい体であるが、隣から確かな気配を感じさせている。
高校生活をただただ送っていた俺とはまるで違う。
しかし、そんなことよりも今は別れた三人に対して頭にきているのが大きい。
(何だよ、結局俺はハブられてぼっちになるわけかよ)
ふてくされたように地面に落ちている小石を軽く蹴とばすと、ユウマが恐る恐る尋ねかけてきた。
「……お兄さん、本当は魔法とかスキルあるんでしょ?」
「……ん。いや、だからないよ。本当にない」
子供に嘘をつくのには流石に気が引けるが、それでも俺はこの答えを貫き通した。
勘違いというスキル。進化というスキル。そして、希望という魔法。
はっきり言ってどれも詳細不明の謎ステータス。けれど、普通じゃないということだけは分かる。
「でもさっき、レベルが1上がったって言っていたよね? 最初のうちのレベルアップは、ステータスにかなりの変化が見られると思うんだ」
「……そういうもんなのか?」
「というより、まずお兄さんの職業って?」
「…………」
質問攻めしてくるユウマに、俺は何も言えなくなり口を噤んでしまう。
なんでこんな人に言うのが恥ずかしい職業とスキルを与えられてんだ俺は。
(この子になら言ってもいいのか……? 馬鹿にはしないような気がする。
だが、流石に進化というのはなんとなくやばい匂いがする。となると言うわけには……)
自分の中で葛藤していると、ふと隣からユウマの気配が感じなくなった。
「……ユウマくんどこいったんだ?」
ユウマを探して辺りを見回すと、俺より数メートル後ろにいるのが目に入る。
立ち止まって訝しむように目を向けてきていたのはユウマのほうだった。
「お兄さん、街に行くんでしょ? 街はこっちだよ」
そう言ってユウマは、苦笑しながら右手にある一本道を指差した。
道もよく分かっておらず今のところ良いところ無しの自分に、少し呆れ乾いた笑いが漏れる。
だがいずれはあの進化や希望というスキルが、凄まじい効果を示すのだと俺は信じている。
今情けなくてもいい。未来のために俺は今を耐えてみせる。
「……まぁ、言いたくないのなら無理に言わなくてもいいよ。 色々事情があると思うからね」
歩きながら少し俯いて、そう口にしたユウマ。
人の気持ちを察しようとするなんて、落ち着いているし大人びていると思う。
あいつらに爪の垢を煎じて飲ましてやりたい。
「そーいやさ、ユウマくんってヒールしか使えないんだよな? でも剣はちゃんと使いこなすんだな、普通はヒーラーはヒールばっかのイメージだったけど」
気まずい空気を振り払うように、俺は先刻目にしたことを直接彼に尋ねた。
「剣はミラノに教えてもらったんだ。いつも冒険をする時はミラノと組んで行動しているんだけど、ちゃんと役割があって。
ミラノは攻撃が強いからミラノには攻撃に集中してもらって、僕はその間に敵から落ちるアイテムやお金を拾って集めているんだ。
そしてミラノが怪我をしたら、それは僕が治す。いつも協力して冒険しているんだ。すごく楽しいよ。ミラノはすごく強くて、頼りになる。
でもたまには敵が強過ぎて僕を守れない時もあるから、せめて自分の身でも守れるようにって剣の使い方を教えてくれた」
「なるほど、ミラノくんの事を信頼してるんだな」
そう言ってユウマは、温かい表情をしながら腰に付けている剣にそっと触れた。
二人の仲は俺たちと対照的。いや、俺だけがはみだし者状態だ。
子供にこんなことを聞くのもあれだが、この先のことをユウマに相談しようとした。
いや、相談というには大袈裟か。別にこのままでも構わない。だが、なんだかもやもやしている自分がいる。
「なぁ……ユウマくん。俺さ……これから、どうしたらいいと思う?」
と、口にした瞬間、ぐぅぅと俺の腹の虫が鳴いた。間の悪いタイミングに自嘲気味の笑みがこぼれた。
「あ、はは……」
「ふふっ」
恥ずかしい音を聞かれたと思ったが子供だし男だし対して問題じゃない。
笑ってくれたから和んだしな。
「その話は置いておいてまずは昼食にする? 僕の家においでよ。ミラノもいると思うからさ」
その言葉に甘えユウマの家へ向かっていると、突然遠くの方から大きな声が聞こえてきた。
「ユウマァァァァァ! ユウマ、一人で勝手にどこへ行っていたんだよ! 心配過ぎて捜索願い出すところだったわ! ……って、お兄さんさっきぶりだね。どうしたの?」
ミラノはユウマの姿を見るなり大声を上げながら思い切り走ってきた。
俺に対しての最後の言葉はコロッと態度を変えて尋ねかけてきたのだが。
その問いに対しどう答えようかと考えていると、ユウマが話を繋げてくれる。
「ちょっと、色々あってね。また後で話すよ。お昼を食べに戻ってきたんだけど、お兄さんもいい?」
「あぁ、もちろん」
ミラノは快く俺を受け入れてくれ、家まで案内された。
思えば今日貰った果物や野菜たちは本田が持っているため、俺には食料がない状態だったから非常に助かる。
(魔法やスキルがないからってはみにして、さらに食いもんも渡さないとかありえねーよな)
二人の家はとても綺麗に整頓されていた。というより、余計な物があまり置かれていないというべきなのかもしれない。
ま、現代人としての感覚に慣れてるからこの世界ではこれが普通なのかもしれんけど。
(しかし二人は仲良さげだが一緒に住んでんのかな? 家でけーし、他の家族は見当たらないし)
といってもプライベートに土足で踏み入るわけにはいかない。
俺だって身元は言えないし、職業も言えない。言えない尽くしなのだ。人に尋ねる資格はない。
そんなことを考えているとあるモノが視界に入る。
キラキラと輝く光に導かれるように、俺はそのモノがあるところへと足を進めた。
そこにあったのは、真っ赤に染まった綺麗なハート型の宝石だった。
しばらくの間はその輝きに見とれていたが、ここで俺はあることをふと思い出す。
それはひさじぃの言葉であり、四葉のクローバーは4つの宝石でできている、ということ。
つまりクローバーの形の一片はハート型をしているんじゃないかということだ。
こんなに簡単に見つかって良いのかとも思うし、これが本物かは分からない。
だが、あまりにもタイミングが良すぎる。
「お兄さん、それ綺麗でしょ?」
宝石に目が釘づけになっていると、背後からユウマが近付いてきておりそう声をかけてきていた。
「あぁ……そうだな。これ、どうやって見つけたんだ?」
ユウマに尋ねたつもりだったのだが、料理場にいるミラノがその問いに答えてくれる。
ちゃんと手を動かしつつだ。小さいのに二人とも本当にしっかりしている。
「それは見つけたんじゃなくて、拾ったんだよ。なぁユウマ?」
「うん、そうだね」
拾った。
ということは、強い敵が落とすアイテムではないのということか?
いや、分からない。強い敵が持っているなんてのはゲームのような話だ。だが落ちていたというのも……。
だが、関係ない。
必要なのは過程ではなく結果。
この宝石なんとかしてもらうことができないだろうか?
(そういや今日の俺、幸運なことが起きているよな。
この宝石をくれ! って頼んだら、譲ってもらえるんじゃねーの……?)
今日起きた事柄を考えながら彼らに交渉してみることにした。
とはいえくれと言うのはあまりにもひどいし、交換する材料もない。
ダメ元……、ダメ元で言ってみるかぁ。
「あのー、もしよかったらなんだけど、この宝石を俺にくれな……」
「いーや、流石にお兄さんにでも渡せないなぁ」
「ははは、だよな……」
ミラノに即答され、苦笑いがもれる。
何でもかんでもうまくいくわけじゃない。
それとも俺が幸運だと思ったのはただの勘違いだったのか?
いや、そんなわけはない。実際にスキルと魔法を取得したのだから。
いやいや待てよ。そもそもそれは最初から確定していたことだったのかもしれん。
うーむ……勘違い。勘違いね……。あぁ腹立つ言葉。
考えていると美味そうな匂いが鼻をくすぐり再度腹の虫が鳴った。
「はーい、できたよー! ユウマもお兄さんもこっちに来てー」
そう言ってミラノは、テーブルに3人分の器とスプーンを置いてくれる。
器とスプーンは木でできており、とても可愛らしい感じだ。レトロ……っていうんかな? 俺にはよく分からん。
器の中には白いスープのようなもの。日本でいう、シチューみたいなものだ。ミラノの手作りらしく、味はとても美味しかった。
この異世界では飯がまずいということはなさそうでほっとした。
「ここで二人だけで住んでいるのか?」
先程気になったことを尋ねてみると、その言葉にミラノは頷く。
「あぁ。俺とユウマの夢はこの街で1番の勇者になることでさ。2年前くらいに家を出て、今はユウマと一緒に暮らしているんだ」
「へぇ、そうなんだ……」
俺よりもしっかりしている年下に、落ち込みそうになる。
「それで、お兄さんは? 他のお兄さんたちはどうしたの?」
子供に言うのもなんだが、俺とユウマはミラノに全ての事情を話すことにした。
「何だよそれ……。 何か、最悪だな」
そう小さく呟いた後、ミラノは器に残っているスープを一気に口の中へとかき込み、バンッと音を立てて器を置いた。
「お兄さん、みんなを見返してやろうぜ!」
「え……見返す?」
聞き返すと、ミラノは椅子から立ち上がり真剣な眼差しを俺に向けてくる。
だが正直俺は内心でガッツポーズをかましていた。
進化の経験値取得のためには俺一人で1000を集めるのは困難だ。
なら協力者が必要不可欠。
「あぁ! このままずっと馬鹿にされたままでいるのも嫌だろ! 俺とユウマも協力するから、お兄さん強くなってみんなを見返そうぜ!」
「いや、別にそこまでは……」
「そうだね、お兄さんも頑張ろう!」
「……そうだな」
半ば強引に話を進められたが、俺的には最高のシナリオだ。
ぶっちゃけあいつら三人はもうどうでもいい。だが、馬鹿にしたのを見返してやるのは悪くはないかもしれん。
「そうと決まれば、早速出発だ! 今からクエストを受けに行こう。普通に敵を倒すより、クエストついでに強くなった方が色々と得だからね。
敵を倒しながらお兄さんの得意な分野とかも見つけていって、そこを強化していくんだ。武器とかは俺のを使ってもいいから、頑張ってれば絶対に強くなれるよ!」
心強い味方である少年たち。
子供に頼ってしまうのも正直複雑だが今はなりふり構っていられない。
ここは素直に少年たちに甘えることにした。
腹を満たしたところで、俺たちは家を後にする。
二人が出た後、再度宝石が気になって目を向けてみた。
輝く赤の宝石。
俺たちの目的物であったもの。
だが……。
、
本当にあれを得て、ひさじぃとかいうじいさんの言うことを聞く必要があるのだろうか。
そんなことを考えながら二人の背中を追った。
高校生活をただただ送っていた俺とはまるで違う。
しかし、そんなことよりも今は別れた三人に対して頭にきているのが大きい。
(何だよ、結局俺はハブられてぼっちになるわけかよ)
ふてくされたように地面に落ちている小石を軽く蹴とばすと、ユウマが恐る恐る尋ねかけてきた。
「……お兄さん、本当は魔法とかスキルあるんでしょ?」
「……ん。いや、だからないよ。本当にない」
子供に嘘をつくのには流石に気が引けるが、それでも俺はこの答えを貫き通した。
勘違いというスキル。進化というスキル。そして、希望という魔法。
はっきり言ってどれも詳細不明の謎ステータス。けれど、普通じゃないということだけは分かる。
「でもさっき、レベルが1上がったって言っていたよね? 最初のうちのレベルアップは、ステータスにかなりの変化が見られると思うんだ」
「……そういうもんなのか?」
「というより、まずお兄さんの職業って?」
「…………」
質問攻めしてくるユウマに、俺は何も言えなくなり口を噤んでしまう。
なんでこんな人に言うのが恥ずかしい職業とスキルを与えられてんだ俺は。
(この子になら言ってもいいのか……? 馬鹿にはしないような気がする。
だが、流石に進化というのはなんとなくやばい匂いがする。となると言うわけには……)
自分の中で葛藤していると、ふと隣からユウマの気配が感じなくなった。
「……ユウマくんどこいったんだ?」
ユウマを探して辺りを見回すと、俺より数メートル後ろにいるのが目に入る。
立ち止まって訝しむように目を向けてきていたのはユウマのほうだった。
「お兄さん、街に行くんでしょ? 街はこっちだよ」
そう言ってユウマは、苦笑しながら右手にある一本道を指差した。
道もよく分かっておらず今のところ良いところ無しの自分に、少し呆れ乾いた笑いが漏れる。
だがいずれはあの進化や希望というスキルが、凄まじい効果を示すのだと俺は信じている。
今情けなくてもいい。未来のために俺は今を耐えてみせる。
「……まぁ、言いたくないのなら無理に言わなくてもいいよ。 色々事情があると思うからね」
歩きながら少し俯いて、そう口にしたユウマ。
人の気持ちを察しようとするなんて、落ち着いているし大人びていると思う。
あいつらに爪の垢を煎じて飲ましてやりたい。
「そーいやさ、ユウマくんってヒールしか使えないんだよな? でも剣はちゃんと使いこなすんだな、普通はヒーラーはヒールばっかのイメージだったけど」
気まずい空気を振り払うように、俺は先刻目にしたことを直接彼に尋ねた。
「剣はミラノに教えてもらったんだ。いつも冒険をする時はミラノと組んで行動しているんだけど、ちゃんと役割があって。
ミラノは攻撃が強いからミラノには攻撃に集中してもらって、僕はその間に敵から落ちるアイテムやお金を拾って集めているんだ。
そしてミラノが怪我をしたら、それは僕が治す。いつも協力して冒険しているんだ。すごく楽しいよ。ミラノはすごく強くて、頼りになる。
でもたまには敵が強過ぎて僕を守れない時もあるから、せめて自分の身でも守れるようにって剣の使い方を教えてくれた」
「なるほど、ミラノくんの事を信頼してるんだな」
そう言ってユウマは、温かい表情をしながら腰に付けている剣にそっと触れた。
二人の仲は俺たちと対照的。いや、俺だけがはみだし者状態だ。
子供にこんなことを聞くのもあれだが、この先のことをユウマに相談しようとした。
いや、相談というには大袈裟か。別にこのままでも構わない。だが、なんだかもやもやしている自分がいる。
「なぁ……ユウマくん。俺さ……これから、どうしたらいいと思う?」
と、口にした瞬間、ぐぅぅと俺の腹の虫が鳴いた。間の悪いタイミングに自嘲気味の笑みがこぼれた。
「あ、はは……」
「ふふっ」
恥ずかしい音を聞かれたと思ったが子供だし男だし対して問題じゃない。
笑ってくれたから和んだしな。
「その話は置いておいてまずは昼食にする? 僕の家においでよ。ミラノもいると思うからさ」
その言葉に甘えユウマの家へ向かっていると、突然遠くの方から大きな声が聞こえてきた。
「ユウマァァァァァ! ユウマ、一人で勝手にどこへ行っていたんだよ! 心配過ぎて捜索願い出すところだったわ! ……って、お兄さんさっきぶりだね。どうしたの?」
ミラノはユウマの姿を見るなり大声を上げながら思い切り走ってきた。
俺に対しての最後の言葉はコロッと態度を変えて尋ねかけてきたのだが。
その問いに対しどう答えようかと考えていると、ユウマが話を繋げてくれる。
「ちょっと、色々あってね。また後で話すよ。お昼を食べに戻ってきたんだけど、お兄さんもいい?」
「あぁ、もちろん」
ミラノは快く俺を受け入れてくれ、家まで案内された。
思えば今日貰った果物や野菜たちは本田が持っているため、俺には食料がない状態だったから非常に助かる。
(魔法やスキルがないからってはみにして、さらに食いもんも渡さないとかありえねーよな)
二人の家はとても綺麗に整頓されていた。というより、余計な物があまり置かれていないというべきなのかもしれない。
ま、現代人としての感覚に慣れてるからこの世界ではこれが普通なのかもしれんけど。
(しかし二人は仲良さげだが一緒に住んでんのかな? 家でけーし、他の家族は見当たらないし)
といってもプライベートに土足で踏み入るわけにはいかない。
俺だって身元は言えないし、職業も言えない。言えない尽くしなのだ。人に尋ねる資格はない。
そんなことを考えているとあるモノが視界に入る。
キラキラと輝く光に導かれるように、俺はそのモノがあるところへと足を進めた。
そこにあったのは、真っ赤に染まった綺麗なハート型の宝石だった。
しばらくの間はその輝きに見とれていたが、ここで俺はあることをふと思い出す。
それはひさじぃの言葉であり、四葉のクローバーは4つの宝石でできている、ということ。
つまりクローバーの形の一片はハート型をしているんじゃないかということだ。
こんなに簡単に見つかって良いのかとも思うし、これが本物かは分からない。
だが、あまりにもタイミングが良すぎる。
「お兄さん、それ綺麗でしょ?」
宝石に目が釘づけになっていると、背後からユウマが近付いてきておりそう声をかけてきていた。
「あぁ……そうだな。これ、どうやって見つけたんだ?」
ユウマに尋ねたつもりだったのだが、料理場にいるミラノがその問いに答えてくれる。
ちゃんと手を動かしつつだ。小さいのに二人とも本当にしっかりしている。
「それは見つけたんじゃなくて、拾ったんだよ。なぁユウマ?」
「うん、そうだね」
拾った。
ということは、強い敵が落とすアイテムではないのということか?
いや、分からない。強い敵が持っているなんてのはゲームのような話だ。だが落ちていたというのも……。
だが、関係ない。
必要なのは過程ではなく結果。
この宝石なんとかしてもらうことができないだろうか?
(そういや今日の俺、幸運なことが起きているよな。
この宝石をくれ! って頼んだら、譲ってもらえるんじゃねーの……?)
今日起きた事柄を考えながら彼らに交渉してみることにした。
とはいえくれと言うのはあまりにもひどいし、交換する材料もない。
ダメ元……、ダメ元で言ってみるかぁ。
「あのー、もしよかったらなんだけど、この宝石を俺にくれな……」
「いーや、流石にお兄さんにでも渡せないなぁ」
「ははは、だよな……」
ミラノに即答され、苦笑いがもれる。
何でもかんでもうまくいくわけじゃない。
それとも俺が幸運だと思ったのはただの勘違いだったのか?
いや、そんなわけはない。実際にスキルと魔法を取得したのだから。
いやいや待てよ。そもそもそれは最初から確定していたことだったのかもしれん。
うーむ……勘違い。勘違いね……。あぁ腹立つ言葉。
考えていると美味そうな匂いが鼻をくすぐり再度腹の虫が鳴った。
「はーい、できたよー! ユウマもお兄さんもこっちに来てー」
そう言ってミラノは、テーブルに3人分の器とスプーンを置いてくれる。
器とスプーンは木でできており、とても可愛らしい感じだ。レトロ……っていうんかな? 俺にはよく分からん。
器の中には白いスープのようなもの。日本でいう、シチューみたいなものだ。ミラノの手作りらしく、味はとても美味しかった。
この異世界では飯がまずいということはなさそうでほっとした。
「ここで二人だけで住んでいるのか?」
先程気になったことを尋ねてみると、その言葉にミラノは頷く。
「あぁ。俺とユウマの夢はこの街で1番の勇者になることでさ。2年前くらいに家を出て、今はユウマと一緒に暮らしているんだ」
「へぇ、そうなんだ……」
俺よりもしっかりしている年下に、落ち込みそうになる。
「それで、お兄さんは? 他のお兄さんたちはどうしたの?」
子供に言うのもなんだが、俺とユウマはミラノに全ての事情を話すことにした。
「何だよそれ……。 何か、最悪だな」
そう小さく呟いた後、ミラノは器に残っているスープを一気に口の中へとかき込み、バンッと音を立てて器を置いた。
「お兄さん、みんなを見返してやろうぜ!」
「え……見返す?」
聞き返すと、ミラノは椅子から立ち上がり真剣な眼差しを俺に向けてくる。
だが正直俺は内心でガッツポーズをかましていた。
進化の経験値取得のためには俺一人で1000を集めるのは困難だ。
なら協力者が必要不可欠。
「あぁ! このままずっと馬鹿にされたままでいるのも嫌だろ! 俺とユウマも協力するから、お兄さん強くなってみんなを見返そうぜ!」
「いや、別にそこまでは……」
「そうだね、お兄さんも頑張ろう!」
「……そうだな」
半ば強引に話を進められたが、俺的には最高のシナリオだ。
ぶっちゃけあいつら三人はもうどうでもいい。だが、馬鹿にしたのを見返してやるのは悪くはないかもしれん。
「そうと決まれば、早速出発だ! 今からクエストを受けに行こう。普通に敵を倒すより、クエストついでに強くなった方が色々と得だからね。
敵を倒しながらお兄さんの得意な分野とかも見つけていって、そこを強化していくんだ。武器とかは俺のを使ってもいいから、頑張ってれば絶対に強くなれるよ!」
心強い味方である少年たち。
子供に頼ってしまうのも正直複雑だが今はなりふり構っていられない。
ここは素直に少年たちに甘えることにした。
腹を満たしたところで、俺たちは家を後にする。
二人が出た後、再度宝石が気になって目を向けてみた。
輝く赤の宝石。
俺たちの目的物であったもの。
だが……。
、
本当にあれを得て、ひさじぃとかいうじいさんの言うことを聞く必要があるのだろうか。
そんなことを考えながら二人の背中を追った。
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貴重なご意見ありがとうございます。
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