18 / 34
第十八夜 明乃 -前編-
しおりを挟む
一条は誘とともに、待ち合わせ場所となった上野駅の喫茶店を訪れた。
そこでは和泉と綾人だけでなく、すでに正樹も席についていた。
一条が来たときには和泉たちのテーブルには飲み物以外にも、ベーグルやパニーニ、長楕円形のサンドイッチが置かれていた。昼時ということもあり、一条も腹越しらえのため珈琲以外にカレーパンを注文した。食事をしながら正樹の話を聞き、それが終わる頃には彼の話も終わりを迎えていた。一条はパンを包んでいた紙袋をくしゃくしゃと丸めながら要点を纏めた。
「なら、俺達に立花の捜索を依頼したのは、助けを求めてのことだったんだな」
「はい、そうなります」
いつもの軽い調子を潜め、正樹は神妙な態度で頷いた。
正樹が曼荼羅について調べ出したのは一ヶ月ほど前のことだ。
探偵としての仕事をしている最中、とある夫婦の依頼で見つけた家出少女に、正樹は違和感を抱いたらしい。それは一般人にも関わらず、その少女が屍法曼荼羅に繋がる縁を持っていたからだ。あらゆる縁を視覚的に視れる正樹だからこそ気づけたことだった。
死相持ちでない少女に屍法曼荼羅との縁があることを正樹は疑問に思った。
そこで助手の立花明乃と協力して、その縁が何を意味するのか調べ始めた。
だが調べていく内に、本人たちも知らぬ間に、正樹たちは追い込まれていった。
調べれば調べるほど、曼荼羅が改変されたという事実に近づいたが、同時に彼ら自身、改変された五法曼荼羅の干渉を受けることになったのだ。そのことに気付いたときにはすでに手遅れとなり、今の一条たちと同じく、正樹は他人に助けを求める手段を失っていた。
後戻り出来ないところに来た正樹たちは、犯人を自分たちの手で倒す以外、助かる道がなくなっていた。しかし明乃は呪術師の助手をしているとはいえ一般人。正樹自身、呪術師としての腕は三流も良い所だ。勝利は絶望的だった。
暗澹とした思いのまま、調査を続けている内、遂に相手の方が動き出した。あの鼠の怪異に正樹たちは襲われたのだ。正樹にはあれだけの物量を相手取る手段はなく、逃げるしか方法はなかった。正樹自身はなんとか逃げることに成功したが、途中、立花とははぐれてしまったうえ、すでに死相持ちとはいえ岸本杏という被害者を出してしまった。彼女に繋がる縁は敵の手によって完全に断たれ、正樹ですら捜すのが難しい状況に追い込まれた。
このままでは立花が殺されるかもしれない。自分の身すらも危うい。そんな状況で考え抜き、正樹は一条に助けを求めた。ただし、曼荼羅の干渉により、直接助けを求めることは出来ない。岸本杏や立花明乃の事件に関わらせることで、正樹自身の行動に疑問を持たせ、気付いてもらおうとしたのだ。だがそれよりも先に、一条たちの方が後戻り出来ない所に来てしまった。
だから正樹はこうして接触してきたのだ。
そうした事情からか、正樹は少し驚いたように言った。
「まさか、先輩たちも死相のない屍鬼と出会っているとは思わなかったすよ」
「けど正樹、お前が出会った女の子ってのは、お前が死相持ちとして認識出来なかっただけで、屍法曼荼羅に繋がる屍鬼だったんだよな」
「はい、そこはちゃんと確認しましたから」
曼荼羅からの干渉は、成瀬家のことを誰かに伝えようとしたときにもあった。
ということは、成瀬啓も、正樹が出会ったという少女と同じく、曼荼羅と繋がりのある屍鬼だった可能性がある。神祇省の認可がないにも関わらず、屍法曼荼羅の力で生まれた屍鬼。
彼らが死相持ちとして認識されないのは、犯人がそれを他の呪術師に知られたくないから。
なら、件の少女や成瀬啓は、他の死相持ちとは明確な違いがあるということだ。
それはいったい何なのだろうか。
もふもふとあんパンを食べていた誘が、それを飲み込んでから言った。
「立花さんが行方不明になったのは残念ですけど、考えようによっては彼女が今最も手に入りやすい手がかりでもあります。居場所がわかれば、蓮司君や犯人に繋がる情報も得られるかもしれません。綾人君、蓮司君の眼で立花さんの行動範囲をある程度調べられたんですよね」
「うん。正樹さんの情報とも合わせれば、もっと絞れると思うよ」
「早く見つけてあげなきゃね。明乃ちゃん、無事だと良いんだけど」
すでに縁が切られてから、それなりの時間が経過している。
彼女の安否が心配だ。蓮司のこともある。早く見つけなければならない。
そこでは和泉と綾人だけでなく、すでに正樹も席についていた。
一条が来たときには和泉たちのテーブルには飲み物以外にも、ベーグルやパニーニ、長楕円形のサンドイッチが置かれていた。昼時ということもあり、一条も腹越しらえのため珈琲以外にカレーパンを注文した。食事をしながら正樹の話を聞き、それが終わる頃には彼の話も終わりを迎えていた。一条はパンを包んでいた紙袋をくしゃくしゃと丸めながら要点を纏めた。
「なら、俺達に立花の捜索を依頼したのは、助けを求めてのことだったんだな」
「はい、そうなります」
いつもの軽い調子を潜め、正樹は神妙な態度で頷いた。
正樹が曼荼羅について調べ出したのは一ヶ月ほど前のことだ。
探偵としての仕事をしている最中、とある夫婦の依頼で見つけた家出少女に、正樹は違和感を抱いたらしい。それは一般人にも関わらず、その少女が屍法曼荼羅に繋がる縁を持っていたからだ。あらゆる縁を視覚的に視れる正樹だからこそ気づけたことだった。
死相持ちでない少女に屍法曼荼羅との縁があることを正樹は疑問に思った。
そこで助手の立花明乃と協力して、その縁が何を意味するのか調べ始めた。
だが調べていく内に、本人たちも知らぬ間に、正樹たちは追い込まれていった。
調べれば調べるほど、曼荼羅が改変されたという事実に近づいたが、同時に彼ら自身、改変された五法曼荼羅の干渉を受けることになったのだ。そのことに気付いたときにはすでに手遅れとなり、今の一条たちと同じく、正樹は他人に助けを求める手段を失っていた。
後戻り出来ないところに来た正樹たちは、犯人を自分たちの手で倒す以外、助かる道がなくなっていた。しかし明乃は呪術師の助手をしているとはいえ一般人。正樹自身、呪術師としての腕は三流も良い所だ。勝利は絶望的だった。
暗澹とした思いのまま、調査を続けている内、遂に相手の方が動き出した。あの鼠の怪異に正樹たちは襲われたのだ。正樹にはあれだけの物量を相手取る手段はなく、逃げるしか方法はなかった。正樹自身はなんとか逃げることに成功したが、途中、立花とははぐれてしまったうえ、すでに死相持ちとはいえ岸本杏という被害者を出してしまった。彼女に繋がる縁は敵の手によって完全に断たれ、正樹ですら捜すのが難しい状況に追い込まれた。
このままでは立花が殺されるかもしれない。自分の身すらも危うい。そんな状況で考え抜き、正樹は一条に助けを求めた。ただし、曼荼羅の干渉により、直接助けを求めることは出来ない。岸本杏や立花明乃の事件に関わらせることで、正樹自身の行動に疑問を持たせ、気付いてもらおうとしたのだ。だがそれよりも先に、一条たちの方が後戻り出来ない所に来てしまった。
だから正樹はこうして接触してきたのだ。
そうした事情からか、正樹は少し驚いたように言った。
「まさか、先輩たちも死相のない屍鬼と出会っているとは思わなかったすよ」
「けど正樹、お前が出会った女の子ってのは、お前が死相持ちとして認識出来なかっただけで、屍法曼荼羅に繋がる屍鬼だったんだよな」
「はい、そこはちゃんと確認しましたから」
曼荼羅からの干渉は、成瀬家のことを誰かに伝えようとしたときにもあった。
ということは、成瀬啓も、正樹が出会ったという少女と同じく、曼荼羅と繋がりのある屍鬼だった可能性がある。神祇省の認可がないにも関わらず、屍法曼荼羅の力で生まれた屍鬼。
彼らが死相持ちとして認識されないのは、犯人がそれを他の呪術師に知られたくないから。
なら、件の少女や成瀬啓は、他の死相持ちとは明確な違いがあるということだ。
それはいったい何なのだろうか。
もふもふとあんパンを食べていた誘が、それを飲み込んでから言った。
「立花さんが行方不明になったのは残念ですけど、考えようによっては彼女が今最も手に入りやすい手がかりでもあります。居場所がわかれば、蓮司君や犯人に繋がる情報も得られるかもしれません。綾人君、蓮司君の眼で立花さんの行動範囲をある程度調べられたんですよね」
「うん。正樹さんの情報とも合わせれば、もっと絞れると思うよ」
「早く見つけてあげなきゃね。明乃ちゃん、無事だと良いんだけど」
すでに縁が切られてから、それなりの時間が経過している。
彼女の安否が心配だ。蓮司のこともある。早く見つけなければならない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる