シマエナガの飛ぶ先に。

猫月ロア

文字の大きさ
2 / 6

第一話:いざ、人間界へ

しおりを挟む
 普段から途切れぬ歩行の波で色褪せた、乱形に石張りされた暖色の石畳も、檸檬《れもん》色の壁や丹色にいろの屋根で統一された街並みも、どこもかしこも、色が雪に喰われていた。

 そんな街外れの、木々生い茂る道と井戸を通り抜けた丘の上。鼻先に蝶が止まった、矢尻の向きへと大きく伸びをする猫の姿を模る風変わりな風見鶏が一際目立つ、石の煙突を携えた木骨造の家が一軒。

 その色は街の家々と同様の色合いではあるが、石造りのアーチ天井と玄関ポーチは崩れかけており、所々外壁の塗装が剥がれて隙間風が吹き込む…そんな場所に住む少年が一人。十三歳のアウレールは埃っぽいベッドを軋ませ起き上がっては、黒い短髪をもそもそと掻き。

「…あったまイテェ…。…また夢、か。あの神々しい爺さん…なんだったんだ?まぁいっか…」

 アウレールは、高頻度で可笑しな夢を見る。自分にとっては当たり前の日常であるのでそうは思わないのだが──雑談の話題にしても、大半は嘘だと友達に茶化されてしまう。故にそうそう夢の事は人には話さずに居る。

 昨晩見た神のお告げじみた夢も、雑多な記憶として忘却の塵箱へと放り投げては、起き抜けでまだもやがかかった頭のまま部屋の窓を開け、肌を刺す冷風にくしゃみを一つ。そして眼下に映る一面の雪景色にげんなりと肩を落としていた。

 粗食ではあるがパンのみオーブンで温め直して適当に机上に置く中、遅刻に痺れを切らした友達が家まで迎えに来た。窓の外から声が聞こえる──

「おーい!寝坊助!!もう雪合戦始まっちまうぞ~!早く来いよ!」

 ──一方その頃、天界では雪見習い一年目の氷の粒達を集めた、全体集会が行われていた。その中で、長い話に耐え切れずうたた寝をしている粒が一粒。それを見かねた雪の神の呆れ声が響く。

「──…ネー。…シュネー。起きよ、シュネー。話を聞いておったのか?」

「…!ぉ、おきてますのんっおじいちゃま…っ!勿論きいてたのんっ、んと…人間ちゃまには…んとっ…」

 シュネーはふがっと鼻を鳴らしながら目覚め、慌てて涎を啜って取り繕おうとするも口籠ってしまえば、雪の神はその言葉の続きを補完するように開口し。

「人間には友好的に、じゃ。まったく…これでは先々が不安じゃのぉ…。だが、ずっとワシが付きっ切りではおれん。可愛い子には旅をさせよ…ついにこの日が来たのじゃ。人間界は見て学ぶに尽きる。大いに学んでくるがよい。」

「はいっおじいちゃまっ、しゅねー、うんっとうーんと頑張ってきますのん。」

「──開門と同時に出発じゃ!あぁ、シュネーはこっちから行きなさい。それと行き先は──」

 解散と共に他の氷達は、雲の床扉が開くや否や我先にと空へと飛び込んで行く中、シュネーは雪の神の指示に耳を傾けフスフスとやる気に鼻息を荒く頷いた後、ある方角に続く別の雲の床穴へとダイブした。

「あぁ…あの子が心配じゃ。そうじゃ。……ふぅーー。…グラキエース。あの子を頼むぞ。」

 雪の神が両手の器に吹雪のような息吹を吹き掛け、渦巻くそこに召喚されたのは、一匹の丸々としたシマエナガ。シマエナガが雪界の天使、もとい雪の妖精と呼ばれるのには理由がある。雪に成る氷には、シマエナガがパートナーとして付く事があるからだ。

 シュネーのパートナー、グラキエースがチーチーチュチュンッとひと鳴きした後、シュネーの後を追って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?

無色
恋愛
 子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。  身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。予約投稿済みです。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

処理中です...