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第一話:いざ、人間界へ
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普段から途切れぬ歩行の波で色褪せた、乱形に石張りされた暖色の石畳も、檸檬《れもん》色の壁や丹色の屋根で統一された街並みも、どこもかしこも、色が雪に喰われていた。
そんな街外れの、木々生い茂る道と井戸を通り抜けた丘の上。鼻先に蝶が止まった、矢尻の向きへと大きく伸びをする猫の姿を模る風変わりな風見鶏が一際目立つ、石の煙突を携えた木骨造の家が一軒。
その色は街の家々と同様の色合いではあるが、石造りのアーチ天井と玄関ポーチは崩れかけており、所々外壁の塗装が剥がれて隙間風が吹き込む…そんな場所に住む少年が一人。十三歳のアウレールは埃っぽいベッドを軋ませ起き上がっては、黒い短髪をもそもそと掻き。
「…あったまイテェ…。…また夢、か。あの神々しい爺さん…なんだったんだ?まぁいっか…」
アウレールは、高頻度で可笑しな夢を見る。自分にとっては当たり前の日常であるのでそうは思わないのだが──雑談の話題にしても、大半は嘘だと友達に茶化されてしまう。故にそうそう夢の事は人には話さずに居る。
昨晩見た神のお告げじみた夢も、雑多な記憶として忘却の塵箱へと放り投げては、起き抜けでまだ靄がかかった頭のまま部屋の窓を開け、肌を刺す冷風に嚔を一つ。そして眼下に映る一面の雪景色にげんなりと肩を落としていた。
粗食ではあるがパンのみオーブンで温め直して適当に机上に置く中、遅刻に痺れを切らした友達が家まで迎えに来た。窓の外から声が聞こえる──
「おーい!寝坊助!!もう雪合戦始まっちまうぞ~!早く来いよ!」
──一方その頃、天界では雪見習い一年目の氷の粒達を集めた、全体集会が行われていた。その中で、長い話に耐え切れずうたた寝をしている粒が一粒。それを見かねた雪の神の呆れ声が響く。
「──…ネー。…シュネー。起きよ、シュネー。話を聞いておったのか?」
「…!ぉ、おきてますのんっおじいちゃま…っ!勿論きいてたのんっ、んと…人間ちゃまには…んとっ…」
シュネーはふがっと鼻を鳴らしながら目覚め、慌てて涎を啜って取り繕おうとするも口籠ってしまえば、雪の神はその言葉の続きを補完するように開口し。
「人間には友好的に、じゃ。まったく…これでは先々が不安じゃのぉ…。だが、ずっとワシが付きっ切りではおれん。可愛い子には旅をさせよ…ついにこの日が来たのじゃ。人間界は見て学ぶに尽きる。大いに学んでくるがよい。」
「はいっおじいちゃまっ、しゅねー、うんっとうーんと頑張ってきますのん。」
「──開門と同時に出発じゃ!あぁ、シュネーはこっちから行きなさい。それと行き先は──」
解散と共に他の氷達は、雲の床扉が開くや否や我先にと空へと飛び込んで行く中、シュネーは雪の神の指示に耳を傾けフスフスとやる気に鼻息を荒く頷いた後、ある方角に続く別の雲の床穴へとダイブした。
「あぁ…あの子が心配じゃ。そうじゃ。……ふぅーー。…グラキエース。あの子を頼むぞ。」
雪の神が両手の器に吹雪のような息吹を吹き掛け、渦巻くそこに召喚されたのは、一匹の丸々としたシマエナガ。シマエナガが雪界の天使、もとい雪の妖精と呼ばれるのには理由がある。雪に成る氷には、シマエナガがパートナーとして付く事があるからだ。
シュネーのパートナー、グラキエースがチーチーチュチュンッとひと鳴きした後、シュネーの後を追って行った。
そんな街外れの、木々生い茂る道と井戸を通り抜けた丘の上。鼻先に蝶が止まった、矢尻の向きへと大きく伸びをする猫の姿を模る風変わりな風見鶏が一際目立つ、石の煙突を携えた木骨造の家が一軒。
その色は街の家々と同様の色合いではあるが、石造りのアーチ天井と玄関ポーチは崩れかけており、所々外壁の塗装が剥がれて隙間風が吹き込む…そんな場所に住む少年が一人。十三歳のアウレールは埃っぽいベッドを軋ませ起き上がっては、黒い短髪をもそもそと掻き。
「…あったまイテェ…。…また夢、か。あの神々しい爺さん…なんだったんだ?まぁいっか…」
アウレールは、高頻度で可笑しな夢を見る。自分にとっては当たり前の日常であるのでそうは思わないのだが──雑談の話題にしても、大半は嘘だと友達に茶化されてしまう。故にそうそう夢の事は人には話さずに居る。
昨晩見た神のお告げじみた夢も、雑多な記憶として忘却の塵箱へと放り投げては、起き抜けでまだ靄がかかった頭のまま部屋の窓を開け、肌を刺す冷風に嚔を一つ。そして眼下に映る一面の雪景色にげんなりと肩を落としていた。
粗食ではあるがパンのみオーブンで温め直して適当に机上に置く中、遅刻に痺れを切らした友達が家まで迎えに来た。窓の外から声が聞こえる──
「おーい!寝坊助!!もう雪合戦始まっちまうぞ~!早く来いよ!」
──一方その頃、天界では雪見習い一年目の氷の粒達を集めた、全体集会が行われていた。その中で、長い話に耐え切れずうたた寝をしている粒が一粒。それを見かねた雪の神の呆れ声が響く。
「──…ネー。…シュネー。起きよ、シュネー。話を聞いておったのか?」
「…!ぉ、おきてますのんっおじいちゃま…っ!勿論きいてたのんっ、んと…人間ちゃまには…んとっ…」
シュネーはふがっと鼻を鳴らしながら目覚め、慌てて涎を啜って取り繕おうとするも口籠ってしまえば、雪の神はその言葉の続きを補完するように開口し。
「人間には友好的に、じゃ。まったく…これでは先々が不安じゃのぉ…。だが、ずっとワシが付きっ切りではおれん。可愛い子には旅をさせよ…ついにこの日が来たのじゃ。人間界は見て学ぶに尽きる。大いに学んでくるがよい。」
「はいっおじいちゃまっ、しゅねー、うんっとうーんと頑張ってきますのん。」
「──開門と同時に出発じゃ!あぁ、シュネーはこっちから行きなさい。それと行き先は──」
解散と共に他の氷達は、雲の床扉が開くや否や我先にと空へと飛び込んで行く中、シュネーは雪の神の指示に耳を傾けフスフスとやる気に鼻息を荒く頷いた後、ある方角に続く別の雲の床穴へとダイブした。
「あぁ…あの子が心配じゃ。そうじゃ。……ふぅーー。…グラキエース。あの子を頼むぞ。」
雪の神が両手の器に吹雪のような息吹を吹き掛け、渦巻くそこに召喚されたのは、一匹の丸々としたシマエナガ。シマエナガが雪界の天使、もとい雪の妖精と呼ばれるのには理由がある。雪に成る氷には、シマエナガがパートナーとして付く事があるからだ。
シュネーのパートナー、グラキエースがチーチーチュチュンッとひと鳴きした後、シュネーの後を追って行った。
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