僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】

本庄照

文字の大きさ
10 / 185
Mission:インサイダー・パーティー

第10話:仕事 ~あいつは時間を守らない~

しおりを挟む
 多賀が情報課に配属されてから一ヶ月になる。

 その間、様々な押し問答、あるいは口論が繰り広げられたが、意外にも多賀は情報課が気に入ったらしく、まんざらでもなさそうに日々登庁していた。

 馬鹿正直に定評のある多賀は、指示されているわけでもないのに、毎日始業の一時間前から登庁して清掃や文書整理をしている。
「おはようございます」
 多賀の次に来るのは、だいたい諏訪である。

 元スポーツ選手なだけあって、雑な性格に似合わず時間には細かい方らしい。
「おはよう多賀。今日も早いな」
 多賀は褒められると伸びるタイプだ。

「今日は、春日さんが非番でしたっけ」
「そう。俺は午後から交通課。三嶋さんと裕さんは通常通り。
 章さんは、伊勢自動車の本社で仕事だから、今日はいない」
 言いながら、諏訪は制服に着替えはじめた。その間に三嶋がやってきて、同じく着替えはじめる。
 童顔である三嶋の着替えは、高校の体育を彷彿とさせるが、多賀は黙っていた。

 情報課には、女性が全くいない。入れるつもりも現時点では無いらしい。
 その理由のひとつは、女性を情報課に入れるとこの部屋で着替えができなくなることだと、多賀は先々週あたりに気づいた。
 机や荷物や資料やデスクトップが並ぶ情報課の会議室では、更衣場所を作るスペースさえ無いのである。

 ……他にもバカみたいな理由があるのだが、それは別の話だ。

「多賀くんも、かなり情報課に慣れてきたみたいですねぇ」
「おかげさまで」
「でも、情報課の仕事はまだでしょ。そんな多賀くんに、初仕事があるんですけど」

 まじっすか、と顔を輝かせたのは諏訪だった。一方、多賀は浮かない顔である。
「僕に、初仕事ですか?」
 この一ヶ月、過去の事件例ばかり伊勢兄弟や春日から聞いただけの多賀は、いまいちピンとこないようだった。

 無理もない。多賀のぽかんとした顔を見て諏訪は苦笑する。
 情報課での仕事はジャンルも規模も内容もバラバラで、
 話に聞いただけで仕事内容を把握できることの方がおかしい。

「企業系の事件をお願いしようと思います。
 なので、基本的には企業出身の伊勢兄弟に任せるつもりなんですが、
 多賀くんは秘書として補佐してもらいましょうか」
「承知しました」
 多賀は真面目くさった顔でうなずいた。

「どんな事件っすか?」
 諏訪が好奇心丸出しの顔で聞く。

「私は、あまり詳しく無い業界なんですが、ひろ服飾株式会社ってご存知ですか?
 ブランド名は、確かNEIGEネージュ、仏語で雲という意味です」
 三嶋は素晴らしく流暢な発音で言った。

「そういうのに一番詳しいのは春日だと思いますけど、名前は聞き覚えあるっす。
 男物のブランドだったはずっすよ」
「僕も知ってます。友達がよく着てました。結構高級なブランドのはずです」
 三嶋は興味深そうに頷きつつ、鞄から資料の束を取り出した。
 多賀が資料を受け取って眺めていると、裕が登庁してきた。始業を五分ほど過ぎている。

「重役出勤ですね、裕くん」
「俺は本社じゃ一応重役だ。問題はないだろ」
 眼鏡をさっと押し上げながら、裕は三嶋の嫌味をさらりと流し、三嶋の諸々の説明を受け、多賀と同じく資料を眺めた。

「裕さんは、『ねーじゅ』ってブランド、知ってるっすか?」
「知ってるもなにも、俺の今のスーツ、ネージュで仕立てたよ」
 裕は背広の上着を脱ぎ、タグを見せる。確かに、廣田服飾・ネージュと記載されている。
 多賀には一生縁のなさそうな高級品だ。オーダーかもしれない。

「廣田服飾の次男と知り合いなんで、たまに買ってるんだよ。付き合い程度だけど。
 で、ネージュがどうかしたの?」
 三嶋は完璧な愛想笑いを崩さずに、資料を読み上げた。
「廣田服飾の子会社・アライヴの代表取締役社長、ひろりゅうへいにインサイダー取引の疑いがあります。
 証拠を押さえてください」

 裕は口笛を小さく鳴らした。

「廣田龍平か。俺の知り合いだ」 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...