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Mission:インサイダー・パーティー
第35話:行末 ~きっと僕はまだハゲない~
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「裏帳簿の件はかなり片付いてきたけど、ナオ関連の件は、まだ分からないところが多いんだよなぁ……」
章はまた酒をかたむけて小さくため息をつく。
「まあ、粉飾の件も全部が解明したとは言えないけどね。
奴がどうして利益やら売上を低く記録していたかは全然分からないし」
「確かに、基本的に不利な事ばかりだもんな、下向き粉飾決算なんて……」
会場に数多くいるという知り合いにちょくちょく挨拶をする合間に、伊勢兄弟は言葉を交わす。
愛想よく世間話をする裏で、事件のことを考察出来るというのが多賀にとっては驚きである。
「全く考えられないことはないけどね。脱税目的とか」
「……そういうタイプか? 売上をあげたくてしょうがないタイプだと思うけど」
章より廣田と仲の良いはずの裕の方が随分と辛辣である。
「さあ、それ以上のメリットがあるとすれば粉飾するだろ」
「……業務上横領罪?」
ふと、多賀の脳裏に単語が浮かんだ。
大学を出て警察官として就職してからは、とんと縁のなかった言葉である。
「そう、それそれ!」
章が微笑む。
「僕はあの男が横領してるんじゃないかって思うわけだ」
「……社長が横領なんて話ある?
俺としては流石に、龍平はそこまでクズでアホじゃないと思うけど」
「山尾が唆した可能性はあるな。
僕らがあの男を粉飾決算の始末のためにウチを追い出したのが五年前、粉飾決算が始まったのが四年前。
クビになってすぐアライヴに再就職したとすれば、辻褄が合わないとは言えないよ。
表向きには、犯罪がきっかけでクビになったわけじゃないし」
イセによる事件の「揉み消し」が裏目に出たということらしい。
「正直言うと……山尾はウチに入れるほどの学歴と実力はあるわけだから、アライヴからすれば、まあ中途採用というのを差し引いても魅力的だろうなぁ」
自分で言うのもどうかと思ったのか、裕は歯切れ悪く言いながら落ち着かない様子で眼鏡を拭いた。
「まあ、あの男の欠点らしい欠点は、悪人要素の強さとハゲくらいだからなぁ」
「ハゲをディスるなよ。章の未来だぞ」
章の無責任な言葉に、眼鏡をかけ直した裕は半笑いでたしなめる。
しかし章は少しムッとした顔になった。
「裕だって行く末は同じだろ、僕の弟なんだから」
「章は俺より年上だろうが」
裕は負けじと章に言い返す。
「一歳じゃ変わんないだろ」
「やめてください、そんな不毛な喧嘩なんて」
裕がさらに言葉を返そうと、息を吸った瞬間に、多賀が割って入った。
ちなみに、多賀に他意はない。
ギャグを言ったつもりも、兄弟の神経を逆なでするつもりもない。
「……なんか、多賀に負けた気がする」
「俺も」
伊勢兄弟は神妙な表情で顔を見合わせる。
この兄弟、半ば、いやかなり本気で危機感を抱いているらしい。
「……山尾がハゲって話に持っていくのはやめよう、章」
「うん、仕事の話しよう」
「……あのさ、龍平が横領してるとしたら、仮にも社長なんだから目立つ。
おまけに調べたらすぐ分かっちゃうんじゃないの?」
その程度で証拠が掴める案件なら、そもそも情報課に回ってこない。
「そうだよ。うちに回ってくる前に、奴本人の金銭の動向はちゃんと調べたはずだけど証拠はなかった」
「じゃあどうやって調べるんだよ。そんなのコネで掴める類の証拠じゃないだろ」
「まぁ、そう焦るなよ」
章は鷹揚に答える。つい先刻まで、ハゲの話題に焦っていたのは章じゃないかと、裕はとても言えない。
章はまた酒をかたむけて小さくため息をつく。
「まあ、粉飾の件も全部が解明したとは言えないけどね。
奴がどうして利益やら売上を低く記録していたかは全然分からないし」
「確かに、基本的に不利な事ばかりだもんな、下向き粉飾決算なんて……」
会場に数多くいるという知り合いにちょくちょく挨拶をする合間に、伊勢兄弟は言葉を交わす。
愛想よく世間話をする裏で、事件のことを考察出来るというのが多賀にとっては驚きである。
「全く考えられないことはないけどね。脱税目的とか」
「……そういうタイプか? 売上をあげたくてしょうがないタイプだと思うけど」
章より廣田と仲の良いはずの裕の方が随分と辛辣である。
「さあ、それ以上のメリットがあるとすれば粉飾するだろ」
「……業務上横領罪?」
ふと、多賀の脳裏に単語が浮かんだ。
大学を出て警察官として就職してからは、とんと縁のなかった言葉である。
「そう、それそれ!」
章が微笑む。
「僕はあの男が横領してるんじゃないかって思うわけだ」
「……社長が横領なんて話ある?
俺としては流石に、龍平はそこまでクズでアホじゃないと思うけど」
「山尾が唆した可能性はあるな。
僕らがあの男を粉飾決算の始末のためにウチを追い出したのが五年前、粉飾決算が始まったのが四年前。
クビになってすぐアライヴに再就職したとすれば、辻褄が合わないとは言えないよ。
表向きには、犯罪がきっかけでクビになったわけじゃないし」
イセによる事件の「揉み消し」が裏目に出たということらしい。
「正直言うと……山尾はウチに入れるほどの学歴と実力はあるわけだから、アライヴからすれば、まあ中途採用というのを差し引いても魅力的だろうなぁ」
自分で言うのもどうかと思ったのか、裕は歯切れ悪く言いながら落ち着かない様子で眼鏡を拭いた。
「まあ、あの男の欠点らしい欠点は、悪人要素の強さとハゲくらいだからなぁ」
「ハゲをディスるなよ。章の未来だぞ」
章の無責任な言葉に、眼鏡をかけ直した裕は半笑いでたしなめる。
しかし章は少しムッとした顔になった。
「裕だって行く末は同じだろ、僕の弟なんだから」
「章は俺より年上だろうが」
裕は負けじと章に言い返す。
「一歳じゃ変わんないだろ」
「やめてください、そんな不毛な喧嘩なんて」
裕がさらに言葉を返そうと、息を吸った瞬間に、多賀が割って入った。
ちなみに、多賀に他意はない。
ギャグを言ったつもりも、兄弟の神経を逆なでするつもりもない。
「……なんか、多賀に負けた気がする」
「俺も」
伊勢兄弟は神妙な表情で顔を見合わせる。
この兄弟、半ば、いやかなり本気で危機感を抱いているらしい。
「……山尾がハゲって話に持っていくのはやめよう、章」
「うん、仕事の話しよう」
「……あのさ、龍平が横領してるとしたら、仮にも社長なんだから目立つ。
おまけに調べたらすぐ分かっちゃうんじゃないの?」
その程度で証拠が掴める案件なら、そもそも情報課に回ってこない。
「そうだよ。うちに回ってくる前に、奴本人の金銭の動向はちゃんと調べたはずだけど証拠はなかった」
「じゃあどうやって調べるんだよ。そんなのコネで掴める類の証拠じゃないだろ」
「まぁ、そう焦るなよ」
章は鷹揚に答える。つい先刻まで、ハゲの話題に焦っていたのは章じゃないかと、裕はとても言えない。
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