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Mission:大地に光を
第73話:計画 ~スパイを知らないわけがない~
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「まあ、教団も前ほどお金ないし、経費削減でもあるけどな」
金がない? この教団に? 信者から金をむさぼり、薬理部の面々に病院経営までさせておいて金がない、だなんてはずはない。
「実際に会計見たらわかるで。火の車とは言わんけど、計画が始まる前よりは確実に厳しいわな」
「計画?」
教団が今まで練り上げてきた政治方面への構想を動かし始めたのはつい最近のことである。それ以外に教団には何か計画がある、ということだ。
「Y計画って俺らは陰で呼んでるんやけどな」
坂上弥恵本人および富士本人に聞かれたらマズいのでこう呼んでいるらしい。
「富士さんがそのY計画にたくさんお金使ってるねんで。知らんかったん?」
薫の言葉に三嶋は首を振る。
「弥恵さんの脊髄損傷を治療するために、いろんな大学に寄付してるらしい」
それは三嶋の全く知らないところであった。
「脊損って治るの?」
「いや、俺も実際に脊損かは知らんけどな。でも治らんから必死で寄付してるんやろ? 神経細胞再生の研究を進めるために」
「そんな教団に金がなくなるほど寄付してるってこと?」
税金の支払いから警察が見立てたところでは、教団には相当額の金が集まっているはずだ。一方で幹部の生活は質素で、浪費している様子もない。多額の金を持つ新興宗教団体、しかも信者が複数死んでいる。危険性が高いと判断されるのも当然で、だから三嶋がここに送り込まれたのである。
「寄付って言っても限度があるでしょ……?」
「なんでも、治験の順番を弥恵さんに回すためには必要なんやって」
つまり、金をたくさん寄付する代わりに、坂上弥恵を優先的に治療しろと圧力をかけているということらしい。
薫は遠い目になる。坂上に知られないように、経理をうまく処理するのに苦労してきたのだろう。薫とも仲の良い彼女は、教団の経理について非常に厳しいとも聞いている。三嶋は眉間に親指の腹を当てる。
「それ、弥恵さんは知ってるの?」
「まさか。教団の金はどこに消えてるんだろうって不思議に思ってるやろうけど、俺がいる以上、絶対に謎は解けへんよ」
それでいいのだろうか。弥恵が希望しているかを確かめもせず、先走って治療を用意しようとしても、あとで後悔する結果になりそうだが。
坂上弥恵が教団に入ったのは今から三年前だが、彼女と富士が出会ったのはもっと前である。五年ほど前だろうか。坂上の妹の友人が信者で、妹がお話の会に姉の相談をし、そこから富士と坂上が出会うことになったのだそうだ。
「もしかして、そのY計画ってのはずっと前からあったの……?」
「さあ、俺が入る前は別の人が経理してたからなぁ。でも、付属病院の規模が大きくなったのも弥恵さんが教団に入ってからやしな」
薫は断言しないが、三嶋には答えが伝わった。
「薫くんがここに来る前も教団は金を集めてたんだろ」
それは信者が過労死するほどに金を集めていたというところからほぼ確実視されている。その理由が政治関係ということは公安警察から聞いて分かっているが、詳細は不明である。
「俺が入る前の経理はもうおらんしなぁ。わからんわ」
三嶋は耳を疑った。各部の部長を務められるのは幹部だけだ。幹部候補生が教団を抜けた例は過去にない。亮成のように使えない幹部候補生がいたとしても、重大な情報を握っている以上は教団の外に出すわけがない。
「おらん、ってどういうこと?」
「スパイやったんや」
薫は険しい顔で耳打ちする。
「博実は知らんやろけど、前に教団にスパイがおってん」
知らないわけはない。だが三嶋は驚きにつばを飲み込む演技をした。
金がない? この教団に? 信者から金をむさぼり、薬理部の面々に病院経営までさせておいて金がない、だなんてはずはない。
「実際に会計見たらわかるで。火の車とは言わんけど、計画が始まる前よりは確実に厳しいわな」
「計画?」
教団が今まで練り上げてきた政治方面への構想を動かし始めたのはつい最近のことである。それ以外に教団には何か計画がある、ということだ。
「Y計画って俺らは陰で呼んでるんやけどな」
坂上弥恵本人および富士本人に聞かれたらマズいのでこう呼んでいるらしい。
「富士さんがそのY計画にたくさんお金使ってるねんで。知らんかったん?」
薫の言葉に三嶋は首を振る。
「弥恵さんの脊髄損傷を治療するために、いろんな大学に寄付してるらしい」
それは三嶋の全く知らないところであった。
「脊損って治るの?」
「いや、俺も実際に脊損かは知らんけどな。でも治らんから必死で寄付してるんやろ? 神経細胞再生の研究を進めるために」
「そんな教団に金がなくなるほど寄付してるってこと?」
税金の支払いから警察が見立てたところでは、教団には相当額の金が集まっているはずだ。一方で幹部の生活は質素で、浪費している様子もない。多額の金を持つ新興宗教団体、しかも信者が複数死んでいる。危険性が高いと判断されるのも当然で、だから三嶋がここに送り込まれたのである。
「寄付って言っても限度があるでしょ……?」
「なんでも、治験の順番を弥恵さんに回すためには必要なんやって」
つまり、金をたくさん寄付する代わりに、坂上弥恵を優先的に治療しろと圧力をかけているということらしい。
薫は遠い目になる。坂上に知られないように、経理をうまく処理するのに苦労してきたのだろう。薫とも仲の良い彼女は、教団の経理について非常に厳しいとも聞いている。三嶋は眉間に親指の腹を当てる。
「それ、弥恵さんは知ってるの?」
「まさか。教団の金はどこに消えてるんだろうって不思議に思ってるやろうけど、俺がいる以上、絶対に謎は解けへんよ」
それでいいのだろうか。弥恵が希望しているかを確かめもせず、先走って治療を用意しようとしても、あとで後悔する結果になりそうだが。
坂上弥恵が教団に入ったのは今から三年前だが、彼女と富士が出会ったのはもっと前である。五年ほど前だろうか。坂上の妹の友人が信者で、妹がお話の会に姉の相談をし、そこから富士と坂上が出会うことになったのだそうだ。
「もしかして、そのY計画ってのはずっと前からあったの……?」
「さあ、俺が入る前は別の人が経理してたからなぁ。でも、付属病院の規模が大きくなったのも弥恵さんが教団に入ってからやしな」
薫は断言しないが、三嶋には答えが伝わった。
「薫くんがここに来る前も教団は金を集めてたんだろ」
それは信者が過労死するほどに金を集めていたというところからほぼ確実視されている。その理由が政治関係ということは公安警察から聞いて分かっているが、詳細は不明である。
「俺が入る前の経理はもうおらんしなぁ。わからんわ」
三嶋は耳を疑った。各部の部長を務められるのは幹部だけだ。幹部候補生が教団を抜けた例は過去にない。亮成のように使えない幹部候補生がいたとしても、重大な情報を握っている以上は教団の外に出すわけがない。
「おらん、ってどういうこと?」
「スパイやったんや」
薫は険しい顔で耳打ちする。
「博実は知らんやろけど、前に教団にスパイがおってん」
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