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Mission:消えるカジノ
第110話:女心 ~女心は分からない~
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午後七時。アルバイト先であるファミレスを出た飯田は、原付に乗って帰路につく。アパートの方角ではないから、おそらくスーパーにでも寄ってから帰るのだろう。それなりの距離を保ちながら諏訪は車で追いかける。
飯田はスーパーをくまなく見て回る。偶然を装って声を掛けねばならない。演技に自信のない諏訪は、手に汗握りながら飯田の横から近づいてゆく。
「あの……。スキーの、飯田さんっすよね?」
声を掛けると飯田は振り向いた。初めて飯田の顔を真正面から見る。本人だとみて間違いはないが、やはり現役時代のころとは違い、老けて見えるし、いくらかやつれている。
「スキー? ……もしかして、アルペンの諏訪くん?」
よし。向こうはこちらのことを知っている。話が早い。軽く自己紹介をし、飯田のファンだと話すと、飯田の顔が綻ぶ。やはりそう言われるのは嬉しいのだろう。諏訪は気づいていないが、自分が一方的に知っているだけだと思っていた人間が自分のことを知っていて、あまつさえファンだと言われた時の飯田の喜びは計り知れないものだ。
諏訪の方も、文明に教えられて飯田の存在を初めて知ったとはいえ、飯田のファンだというのはあながち嘘ではなかった。飯田もまた、幼いころからコツコツと努力を積み重ね、実績を出し、プロの厳しい世界で生き残ってきた男である。端からプロになる気がさらさらなかった諏訪にとっては、プロというだけで尊敬の対象だ。
飯田の方は文明のようにコーチ業を掛け持ちするために、Be-Tailに入社したのではなかった。フリーのスキーヤーとして活動し、会社員の方を副業として掛け持ちするために入社した男だった。諏訪にとっては眩しいほどの熱意である。
だからこそ、飯田の経歴を調べれば調べるほど、諏訪の落胆は大きくなった。失望とはまた違い、何故か悔しい気持ちすら湧きあがった。なぜ、これほどまでにストイックな男が、違法ギャンブルに嵌って多重債務者になってしまうのか。おそらく事情があるのだろうと諏訪は思うが、それでもやりきれない。
「初めまして。俺のことをご存じなんすね。すごく嬉しいです」
「そりゃ知ってるよ。有名人なんだから」
有名人。諏訪は頭を下げながら、その言葉の意味を考えていた。それは文明にも言われたことだった。多賀だって自分の名前を知っていた。サインを求められたことだってある。自覚はあるが、未だに実感していない。
「飯田さん、北海道に戻られてたんすね」
「君は確か長野だろ。北海道には、旅行かな?」
「いえ、仕事っす」
「仕事か。……今は何の仕事を?」
「公務員っす」
嘘はついていない。いずれ、彼には自分の職をバラさなければならないのだから、嘘をつくわけにはいかないのである。実際、警察官の中には自分の職を公務員だと誤魔化す者は山のようにいる。
「飯田さん、折角の縁ですし、よかったら連絡先でも交換しませんか」
「俺は良いけど……。君は良いのかい」
「勿論っすよ。また連絡させてさい」
『今日はありがとうございました。また、お会いしましょう』
諏訪は小さな携帯電話の画面に文字を打ち込んでいく。相手は飯田だ。相手と別れた後にも丁寧にメッセージを送る、まるでやっていることが春日だ。
「こういうのはな、アフターケアの方が大事なんやで。次の機会に誘いやすくなるもん。だいたい、連絡先を交換していきなり誘われたら誰だって警戒するしな」
連絡というものはしたいときにすればいいのに、無用なやり取りに何の意味があるのだ、と思ってしまう諏訪には女心など一生分からないのだろう。
飯田はスーパーをくまなく見て回る。偶然を装って声を掛けねばならない。演技に自信のない諏訪は、手に汗握りながら飯田の横から近づいてゆく。
「あの……。スキーの、飯田さんっすよね?」
声を掛けると飯田は振り向いた。初めて飯田の顔を真正面から見る。本人だとみて間違いはないが、やはり現役時代のころとは違い、老けて見えるし、いくらかやつれている。
「スキー? ……もしかして、アルペンの諏訪くん?」
よし。向こうはこちらのことを知っている。話が早い。軽く自己紹介をし、飯田のファンだと話すと、飯田の顔が綻ぶ。やはりそう言われるのは嬉しいのだろう。諏訪は気づいていないが、自分が一方的に知っているだけだと思っていた人間が自分のことを知っていて、あまつさえファンだと言われた時の飯田の喜びは計り知れないものだ。
諏訪の方も、文明に教えられて飯田の存在を初めて知ったとはいえ、飯田のファンだというのはあながち嘘ではなかった。飯田もまた、幼いころからコツコツと努力を積み重ね、実績を出し、プロの厳しい世界で生き残ってきた男である。端からプロになる気がさらさらなかった諏訪にとっては、プロというだけで尊敬の対象だ。
飯田の方は文明のようにコーチ業を掛け持ちするために、Be-Tailに入社したのではなかった。フリーのスキーヤーとして活動し、会社員の方を副業として掛け持ちするために入社した男だった。諏訪にとっては眩しいほどの熱意である。
だからこそ、飯田の経歴を調べれば調べるほど、諏訪の落胆は大きくなった。失望とはまた違い、何故か悔しい気持ちすら湧きあがった。なぜ、これほどまでにストイックな男が、違法ギャンブルに嵌って多重債務者になってしまうのか。おそらく事情があるのだろうと諏訪は思うが、それでもやりきれない。
「初めまして。俺のことをご存じなんすね。すごく嬉しいです」
「そりゃ知ってるよ。有名人なんだから」
有名人。諏訪は頭を下げながら、その言葉の意味を考えていた。それは文明にも言われたことだった。多賀だって自分の名前を知っていた。サインを求められたことだってある。自覚はあるが、未だに実感していない。
「飯田さん、北海道に戻られてたんすね」
「君は確か長野だろ。北海道には、旅行かな?」
「いえ、仕事っす」
「仕事か。……今は何の仕事を?」
「公務員っす」
嘘はついていない。いずれ、彼には自分の職をバラさなければならないのだから、嘘をつくわけにはいかないのである。実際、警察官の中には自分の職を公務員だと誤魔化す者は山のようにいる。
「飯田さん、折角の縁ですし、よかったら連絡先でも交換しませんか」
「俺は良いけど……。君は良いのかい」
「勿論っすよ。また連絡させてさい」
『今日はありがとうございました。また、お会いしましょう』
諏訪は小さな携帯電話の画面に文字を打ち込んでいく。相手は飯田だ。相手と別れた後にも丁寧にメッセージを送る、まるでやっていることが春日だ。
「こういうのはな、アフターケアの方が大事なんやで。次の機会に誘いやすくなるもん。だいたい、連絡先を交換していきなり誘われたら誰だって警戒するしな」
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