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Mission:消えるカジノ
第114話:紹介 ~勝負はやらなきゃ始まらない~
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カジノヨコハマの表の顔である不知火貴金属商会は、諏訪の予想よりもこぢんまりとした店だった。閉店直前だからか、客もいない。
「いらっしゃいませ」
ドアが開いた音に反応して、店員が丁寧に声を掛ける。誰に声を掛けろとは言われていない。ということはこの店員でもいいはずだ。
「あの、飯田さんに紹介された諏訪なんですが」
不知火貴金属商会は、貴金属の買取店だ。「紹介」などあるはずもない。商会に紹介、三嶋に冷たい視線を食らいそうな寒いギャグを諏訪はこらえる。
店員はすぐに勘付いたらしく奥へ引っ込んでいった。入れ替わるように出てきたのが三十代後半といった年頃の女性だった。アジアンビューティーを意識させる顔だちの女性で、年齢を感じさせないというよりは年齢を魅力に変化させた美しさを感じる。
単にスタッフルームから出てきただけの人間かと思ったが、彼女はまっすぐこちらに近づいてきた。
「飯田様から、お話を伺っております。私、支配人の玉村えなと申します」
女性は諏訪にそう言って頭を下げる。
「諏訪様、いくつかお聞きしたいことが」
さっそくカジノに案内されるかと思ったが違った。玉村は職業や年齢、経歴を尋ねる。職業の方は公務員だと誤魔化したが、すんなり通った。ガバガバじゃないか。
「お客様、オリンピックに出場されていたんですね」
諏訪の過去を聞いた玉村は驚いた。諏訪は頷いた。
「存じ上げず申し訳ありませんでした」
「マイナー競技っすから……」
むしろマイナー競技でよかったと諏訪は思う。街で声を掛けられることもないし、自分が特別な人間としてちやほやされるのは落ち着かない性分だ。現に、玉村があれやこれやと褒め称えてくるのを、諏訪はわざと聞き流していた。
「それでは、当店にご案内いたします。お客様は、今までに一度も遊ばれたことがないとのことですので、詳しい説明からさせていただいてもよろしいでしょうか」
過去の功績を褒められるのが一通り終わって諏訪が頷くと、玉村はスタッフルームのさらに奥の扉を指した。
玉村が扉を開けた先に広がっていたカジノはバーのような場所だった。そういえば、バーも併設しているのだと玉村が言っていた気がする。カウンターの中にはバーテンダーらしき男性もいた。諏訪が思っていたより狭くて暗く人の多い場所だったが、雑踏と呼ぶべき心地よいざわめきに満ちていた。
上品ではあるが、豪華な内装ではない。これが消えるカジノの「消える」ためのなのだろう。
カジノはルーレットやポーカーなどのテーブルゲーム、特にトランプゲームが多いのだと玉村は言った。代わりに、スロットマシンのようなゲームマシンはほとんどなかった。カジノを消すときに移動させにくいからだろうか。
「えなさん、噂のお客様ですか」
独特の雰囲気に呑まれ、ただきょろきょろと周囲を見るだけの諏訪に、一人の美女が話しかけてきた。いや、美女というよりは可愛らしいという方が正しいが、妙齢でとにかく美形の女だ。
「ええ。諏訪様とおっしゃる方よ」
「諏訪です。こんばんは」
「初めまして。ディーラーの白里りさ子です。お気軽に、りさ子って呼んでくださいませ」
白里りさ子は諏訪に微笑みかけた。
「お遊びになられる際には、ぜひ、ディーラーに私をご指名くださいね」
「……指名なんてできるんですか」
「当店では、そのようなシステムを採用しております」
玉村が涼やかに答える。だが、こんな美人を直接指名なんて諏訪には気が引ける。慣れてきたらできるのだろうか。
「今日はどうされます?」
飯田のことが頭をよぎる。わずか二回の遊戯で数百万を失うようなことにはなりたくない。初回は様子見といきたい。
となると、ルールを知る数少ないポーカーでもちまちまやりながら酒で誤魔化すしかない。
いざ、出陣である。勝負はやらなきゃ始まらない。
「いらっしゃいませ」
ドアが開いた音に反応して、店員が丁寧に声を掛ける。誰に声を掛けろとは言われていない。ということはこの店員でもいいはずだ。
「あの、飯田さんに紹介された諏訪なんですが」
不知火貴金属商会は、貴金属の買取店だ。「紹介」などあるはずもない。商会に紹介、三嶋に冷たい視線を食らいそうな寒いギャグを諏訪はこらえる。
店員はすぐに勘付いたらしく奥へ引っ込んでいった。入れ替わるように出てきたのが三十代後半といった年頃の女性だった。アジアンビューティーを意識させる顔だちの女性で、年齢を感じさせないというよりは年齢を魅力に変化させた美しさを感じる。
単にスタッフルームから出てきただけの人間かと思ったが、彼女はまっすぐこちらに近づいてきた。
「飯田様から、お話を伺っております。私、支配人の玉村えなと申します」
女性は諏訪にそう言って頭を下げる。
「諏訪様、いくつかお聞きしたいことが」
さっそくカジノに案内されるかと思ったが違った。玉村は職業や年齢、経歴を尋ねる。職業の方は公務員だと誤魔化したが、すんなり通った。ガバガバじゃないか。
「お客様、オリンピックに出場されていたんですね」
諏訪の過去を聞いた玉村は驚いた。諏訪は頷いた。
「存じ上げず申し訳ありませんでした」
「マイナー競技っすから……」
むしろマイナー競技でよかったと諏訪は思う。街で声を掛けられることもないし、自分が特別な人間としてちやほやされるのは落ち着かない性分だ。現に、玉村があれやこれやと褒め称えてくるのを、諏訪はわざと聞き流していた。
「それでは、当店にご案内いたします。お客様は、今までに一度も遊ばれたことがないとのことですので、詳しい説明からさせていただいてもよろしいでしょうか」
過去の功績を褒められるのが一通り終わって諏訪が頷くと、玉村はスタッフルームのさらに奥の扉を指した。
玉村が扉を開けた先に広がっていたカジノはバーのような場所だった。そういえば、バーも併設しているのだと玉村が言っていた気がする。カウンターの中にはバーテンダーらしき男性もいた。諏訪が思っていたより狭くて暗く人の多い場所だったが、雑踏と呼ぶべき心地よいざわめきに満ちていた。
上品ではあるが、豪華な内装ではない。これが消えるカジノの「消える」ためのなのだろう。
カジノはルーレットやポーカーなどのテーブルゲーム、特にトランプゲームが多いのだと玉村は言った。代わりに、スロットマシンのようなゲームマシンはほとんどなかった。カジノを消すときに移動させにくいからだろうか。
「えなさん、噂のお客様ですか」
独特の雰囲気に呑まれ、ただきょろきょろと周囲を見るだけの諏訪に、一人の美女が話しかけてきた。いや、美女というよりは可愛らしいという方が正しいが、妙齢でとにかく美形の女だ。
「ええ。諏訪様とおっしゃる方よ」
「諏訪です。こんばんは」
「初めまして。ディーラーの白里りさ子です。お気軽に、りさ子って呼んでくださいませ」
白里りさ子は諏訪に微笑みかけた。
「お遊びになられる際には、ぜひ、ディーラーに私をご指名くださいね」
「……指名なんてできるんですか」
「当店では、そのようなシステムを採用しております」
玉村が涼やかに答える。だが、こんな美人を直接指名なんて諏訪には気が引ける。慣れてきたらできるのだろうか。
「今日はどうされます?」
飯田のことが頭をよぎる。わずか二回の遊戯で数百万を失うようなことにはなりたくない。初回は様子見といきたい。
となると、ルールを知る数少ないポーカーでもちまちまやりながら酒で誤魔化すしかない。
いざ、出陣である。勝負はやらなきゃ始まらない。
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