122 / 185
Mission:消えるカジノ
第122話:手巻 ~遊ばれたのに気付かない~
しおりを挟む
翌日。
「本当に持ってきたんだ」
裕が半笑いで春日の手巻き煙草セットを手に取る。横から輝いた眼をした章が煙草セットをかっさらった。
「すっげぇ、本物だ」
蛍光灯にかざす姿は、親におもちゃを与えられて喜ぶ昭和の小学生である。裕は情けない。
「金なくて手巻き煙草吸ってた、って……。どれくらい吸ってたんですか?」
「一日に一箱半くらいや」
懐かしそうに春日は遠くを見ながら目を細める。
「ヘビースモーカーじゃん。よく辞められたな」
「それだけ警察学校がヤバいってことですよ」
「なんで煙草なんか吸い始めたわけ?」
章のようなパチンコを趣味としている男に「煙草なんか」などと言われたくはないが、喫煙者は肩身の狭い世の中だ。仕方がない。
「大学の時、えらいストレスが溜まってたもんやから」
「春日がストレスぅ?」
章は半笑いで春日を煽り立てる。
「俺だってそりゃ、ストレスくらい溜まりますよ」
春日は笑って返す。
「彼女が三人いたら、そら別れ話の数も三倍ですやん?」
三本の指を立てる春日に多賀の顔が引きつる。三嶋がいなくてよかった。潔癖な三嶋がいたらまた文句の一つや二つ垂れていることだろう。
「春日の場合、しょっちゅう彼女が変わるから、別れ話の数自体は一般人の五倍だと思った方がいいな」
「別れ話の数が三倍だろうが五倍だろうが、大学の時のストレスに比べたらマシですよ」
「大学の時はずっと芝居やってて、挫折の連続やったんで」
そう言って、春日は煙草を吸う真似をする。そういえば、その頃は春日の兄が俳優として売れ始めていた時期だ。兄と自分を重ねてしまったのだろう。
「ほら、早速やってみようよ。ねえ春日」
思わず春日の地雷を踏んだかと焦る章は話題を無理やり変える。
「はいはい」
春日は苦笑しながら慣れた手つきで情報課に備え付けられた茶の葉を巻いていく。煙草を咥えて火を付け、煙を吸う姿は、流石春日だ。様になる。
「俺も実は興味はあるねん。意外といい香りしたりしてな」
「どう?」
ドキドキしながら章が尋ねた。その瞬間である。
「グヘッ!」
整った顔からは想像つかないうめき声が春日から漏れた。口元を押さえて、ゴホゴホと大きく咳き込む。
素早く煙草の火を消してゴミ箱にガラをぶちこみ、大きく深呼吸してまた咳き込み、時間をかけて呼吸を整えた春日は、くしゃくしゃになった自らの顔を速やかに美麗に戻した。
「ゴミ食べてるんかと思ったわ」
「ご、ゴミ?」
「ああ、ゴミや。生ゴミや」
悟りきった表情で春日は頷く。
「なんで世の中の人間が高い金出して煙草買うんか、よくわかる」
それはニコチン中毒だからじゃないのか?
「へぇ、これ、そんなにヤバいの?」
章が半笑いで尋ねる。
「人間が手を出したらあかん領域や」
美麗な顔はわずかに微笑んでいる。仏像でよく見られる顔、アルカイックスマイルというやつだ。
「やっぱ無理だよねぇ。薄々気づいてたよ」
「じゃあなんでやるんや」
「無理なのはわかりました。では、諏訪さんに何を持たせるか、早くそれを考えましょう」
不満気な春日を見て、空気を読んだ多賀が話題を切り替える。だが、章は不思議そうに首をひねった。
「そんなの、電子煙草でも持たせてたらいいだろ。最近流行ってるよね。ニコチンゼロの電子煙草って」
「じゃあ、最初からそう言わんかーい!」
情報課は県警の最奥にある。当然、春日の咆哮など響くわけもない。
「本当に持ってきたんだ」
裕が半笑いで春日の手巻き煙草セットを手に取る。横から輝いた眼をした章が煙草セットをかっさらった。
「すっげぇ、本物だ」
蛍光灯にかざす姿は、親におもちゃを与えられて喜ぶ昭和の小学生である。裕は情けない。
「金なくて手巻き煙草吸ってた、って……。どれくらい吸ってたんですか?」
「一日に一箱半くらいや」
懐かしそうに春日は遠くを見ながら目を細める。
「ヘビースモーカーじゃん。よく辞められたな」
「それだけ警察学校がヤバいってことですよ」
「なんで煙草なんか吸い始めたわけ?」
章のようなパチンコを趣味としている男に「煙草なんか」などと言われたくはないが、喫煙者は肩身の狭い世の中だ。仕方がない。
「大学の時、えらいストレスが溜まってたもんやから」
「春日がストレスぅ?」
章は半笑いで春日を煽り立てる。
「俺だってそりゃ、ストレスくらい溜まりますよ」
春日は笑って返す。
「彼女が三人いたら、そら別れ話の数も三倍ですやん?」
三本の指を立てる春日に多賀の顔が引きつる。三嶋がいなくてよかった。潔癖な三嶋がいたらまた文句の一つや二つ垂れていることだろう。
「春日の場合、しょっちゅう彼女が変わるから、別れ話の数自体は一般人の五倍だと思った方がいいな」
「別れ話の数が三倍だろうが五倍だろうが、大学の時のストレスに比べたらマシですよ」
「大学の時はずっと芝居やってて、挫折の連続やったんで」
そう言って、春日は煙草を吸う真似をする。そういえば、その頃は春日の兄が俳優として売れ始めていた時期だ。兄と自分を重ねてしまったのだろう。
「ほら、早速やってみようよ。ねえ春日」
思わず春日の地雷を踏んだかと焦る章は話題を無理やり変える。
「はいはい」
春日は苦笑しながら慣れた手つきで情報課に備え付けられた茶の葉を巻いていく。煙草を咥えて火を付け、煙を吸う姿は、流石春日だ。様になる。
「俺も実は興味はあるねん。意外といい香りしたりしてな」
「どう?」
ドキドキしながら章が尋ねた。その瞬間である。
「グヘッ!」
整った顔からは想像つかないうめき声が春日から漏れた。口元を押さえて、ゴホゴホと大きく咳き込む。
素早く煙草の火を消してゴミ箱にガラをぶちこみ、大きく深呼吸してまた咳き込み、時間をかけて呼吸を整えた春日は、くしゃくしゃになった自らの顔を速やかに美麗に戻した。
「ゴミ食べてるんかと思ったわ」
「ご、ゴミ?」
「ああ、ゴミや。生ゴミや」
悟りきった表情で春日は頷く。
「なんで世の中の人間が高い金出して煙草買うんか、よくわかる」
それはニコチン中毒だからじゃないのか?
「へぇ、これ、そんなにヤバいの?」
章が半笑いで尋ねる。
「人間が手を出したらあかん領域や」
美麗な顔はわずかに微笑んでいる。仏像でよく見られる顔、アルカイックスマイルというやつだ。
「やっぱ無理だよねぇ。薄々気づいてたよ」
「じゃあなんでやるんや」
「無理なのはわかりました。では、諏訪さんに何を持たせるか、早くそれを考えましょう」
不満気な春日を見て、空気を読んだ多賀が話題を切り替える。だが、章は不思議そうに首をひねった。
「そんなの、電子煙草でも持たせてたらいいだろ。最近流行ってるよね。ニコチンゼロの電子煙草って」
「じゃあ、最初からそう言わんかーい!」
情報課は県警の最奥にある。当然、春日の咆哮など響くわけもない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる