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Mission:白の慟哭
第164話:離別 ~主義が違うと相入れない~
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「捜査の過程で、どうしても打たざるを得んくてなぁ」
空気が凍った。それと同時に、誰かが息を呑んだ。いや、誰もが息を呑んでいた。
「知ってる? 覚醒剤って、一度でも使ったらそれだけでアウトなんだってこと」
章は冷たい声だった。章がここまで真面目な表情になるのを、春日は初めて見る。普段へらへらしている人間だからこそ、気圧されるものがあった。
「章さん、それは法的にって意味ですか? それとも……」
「もちろん、倫理的な意味でに決まってるだろ」
「ああ、覚醒剤って一度でも使ったら依存になるって言いますもんねぇ」
春日はあくまで呑気な声だった。章に対してこれだけの態度を取れる男は、いったいどれだけ強心臓なのだろう。
「僕は薬物中毒者と一緒に仕事をするつもりはないよ」
章はぴしゃりと言ってのける。
多賀は震えていた。章の声は自分に向けられたものではない。ただただ冷たいだけの声を聞いて、ここまで恐怖を感じるのは初めてだ。警察学校で怒鳴られる恐怖とは種類が違う。
「章さん、捜査の過程だったら仕方ないのでは……?」
「ま、量も少なかったし、運よく俺はまだ白い粉を見て目の色が変わる段階とはちゃいますけど?」
「春日、多賀を揺さぶるな」
低い声で章は春日を黙らせる。春日は小さく肩をすくめて口を閉じた。
「運が良かったら中毒者にならない、その程度のリスク管理で仕事をしようって人間が僕は嫌いなんだ」
「でも、代わりの人間がいない捜査ですよ。身の危険に陥ることだってあります。僕たちは、そのリスクを知って情報課にいるわけで……」
「代わりがいないからこそ、だろ。我が身を犠牲にして捜査するのは、一見美談に見えるけど、トータルで考えたら最悪の手段だ」
多賀は押し負けた。言葉を探す多賀に、章は追い討ちをかける。
「いくら状況的に逃げられなかったとしても、薬に手を伸ばすという解決手段だけはあり得ない。リスクは避けられるだけ避けろ。甘く見るな。前に言ったよな。春日がやったのは、ただの自殺行為だ」
「自ら身を滅ぼす行動を取るやつは、それなりの報いを受けて当然だね」
章の様子を、裕は横から黙って見ていた。裕に章を止めるつもりはなかった細部は違えど、章と同じ意見だったからである。
章は怒っている。裕は傍観している。三嶋は我関せず、諏訪は遠巻きに眺めている。多賀は絶望した。
「報いってなんです?」
「お前と縁を切る」
「へぇ」
春日は穏やかに対応し続けていた。当事者じゃないのにぶるぶる震えている多賀には、春日のその強靭な精神が全く理解できない。
「土壇場で自分の身すら守れない人間に事件が解決できるとは思えないね。ま、個人的な意見だし、皆は好きにしたらいいけど、僕は今日を以てサヨナラだ」
「でも章さん、春日さんは同じ課の仲間ですよ」
こんな言葉、章には響かないことなど百も承知である。しかし多賀は章に訴え続けた。多賀もまた、自分の中に信念がある。
「もうええよ、多賀」
春日は後ろから多賀の肩をそっと叩いた。
「俺が覚醒剤をこの身に打った、それは事実や」
「春日さん……」
「章さん、俺は情報課に来るのやめます。俺のせいで喧嘩されるんは嫌やから」
無言を背中に受け、春日は鞄に私物を手早く詰め、微笑んでから扉を開けた。無言で見送られた春日は後ろ手で扉を閉め、後には静かな情報課が残される。
「おい」
沈黙に耐えられないのはいつだって裕だ。
「春日が本当に来なくなったらどうするつもりだ?」
怒りを章に直接ぶつけるのも、いつだって裕だ。
「知るかよ」
章は冷たく言い捨てる。こうなっては意地の張り合いだ。章は折れない。
「本人がああ言ったんだぞ。来ないだろ」
章の予想通り、また本人の宣言通り、春日は情報課に姿を見せなくなった。
空気が凍った。それと同時に、誰かが息を呑んだ。いや、誰もが息を呑んでいた。
「知ってる? 覚醒剤って、一度でも使ったらそれだけでアウトなんだってこと」
章は冷たい声だった。章がここまで真面目な表情になるのを、春日は初めて見る。普段へらへらしている人間だからこそ、気圧されるものがあった。
「章さん、それは法的にって意味ですか? それとも……」
「もちろん、倫理的な意味でに決まってるだろ」
「ああ、覚醒剤って一度でも使ったら依存になるって言いますもんねぇ」
春日はあくまで呑気な声だった。章に対してこれだけの態度を取れる男は、いったいどれだけ強心臓なのだろう。
「僕は薬物中毒者と一緒に仕事をするつもりはないよ」
章はぴしゃりと言ってのける。
多賀は震えていた。章の声は自分に向けられたものではない。ただただ冷たいだけの声を聞いて、ここまで恐怖を感じるのは初めてだ。警察学校で怒鳴られる恐怖とは種類が違う。
「章さん、捜査の過程だったら仕方ないのでは……?」
「ま、量も少なかったし、運よく俺はまだ白い粉を見て目の色が変わる段階とはちゃいますけど?」
「春日、多賀を揺さぶるな」
低い声で章は春日を黙らせる。春日は小さく肩をすくめて口を閉じた。
「運が良かったら中毒者にならない、その程度のリスク管理で仕事をしようって人間が僕は嫌いなんだ」
「でも、代わりの人間がいない捜査ですよ。身の危険に陥ることだってあります。僕たちは、そのリスクを知って情報課にいるわけで……」
「代わりがいないからこそ、だろ。我が身を犠牲にして捜査するのは、一見美談に見えるけど、トータルで考えたら最悪の手段だ」
多賀は押し負けた。言葉を探す多賀に、章は追い討ちをかける。
「いくら状況的に逃げられなかったとしても、薬に手を伸ばすという解決手段だけはあり得ない。リスクは避けられるだけ避けろ。甘く見るな。前に言ったよな。春日がやったのは、ただの自殺行為だ」
「自ら身を滅ぼす行動を取るやつは、それなりの報いを受けて当然だね」
章の様子を、裕は横から黙って見ていた。裕に章を止めるつもりはなかった細部は違えど、章と同じ意見だったからである。
章は怒っている。裕は傍観している。三嶋は我関せず、諏訪は遠巻きに眺めている。多賀は絶望した。
「報いってなんです?」
「お前と縁を切る」
「へぇ」
春日は穏やかに対応し続けていた。当事者じゃないのにぶるぶる震えている多賀には、春日のその強靭な精神が全く理解できない。
「土壇場で自分の身すら守れない人間に事件が解決できるとは思えないね。ま、個人的な意見だし、皆は好きにしたらいいけど、僕は今日を以てサヨナラだ」
「でも章さん、春日さんは同じ課の仲間ですよ」
こんな言葉、章には響かないことなど百も承知である。しかし多賀は章に訴え続けた。多賀もまた、自分の中に信念がある。
「もうええよ、多賀」
春日は後ろから多賀の肩をそっと叩いた。
「俺が覚醒剤をこの身に打った、それは事実や」
「春日さん……」
「章さん、俺は情報課に来るのやめます。俺のせいで喧嘩されるんは嫌やから」
無言を背中に受け、春日は鞄に私物を手早く詰め、微笑んでから扉を開けた。無言で見送られた春日は後ろ手で扉を閉め、後には静かな情報課が残される。
「おい」
沈黙に耐えられないのはいつだって裕だ。
「春日が本当に来なくなったらどうするつもりだ?」
怒りを章に直接ぶつけるのも、いつだって裕だ。
「知るかよ」
章は冷たく言い捨てる。こうなっては意地の張り合いだ。章は折れない。
「本人がああ言ったんだぞ。来ないだろ」
章の予想通り、また本人の宣言通り、春日は情報課に姿を見せなくなった。
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