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Mission:白の慟哭
第176話:卒業 ~褒められたとて嬉しくない~
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「ん? 待てよ、その計画、一人じゃ成り立たないんじゃないか?」
章の鋭い言葉に、春日は心の中でどきりとしたが、役者根性で隠し通した。
「その計画って、女医の?」
「うん。だって、彼女はさすがに春日の手腕だけじゃ落とし込めないだろ。経費もかかるし、違法な薬の伝手も必要だ」
そこまで言って、章はくるりと振り向いた。
「三嶋、お前全部知ってたな?」
章に詰められた三嶋はおとなしく両手を上げて降参する。
「なんで止めなかった?」
「最初にどんな手段でも使っていいと言ってしまったのでね」
三嶋に報告したとき、当然彼は春日を止めた。しかし春日は頑として聞き入れなかった。あの手この手で三嶋を言いくるめようとした。最終的に、三嶋は春日の口のうまさを認めさせられることになった。
「私の関知しないところで暴走されるよりはマシでしょ」
あの時春日に言われた口説き文句を、三嶋は反芻しながら章に言った。自分に言い聞かせているようにも見えた。
「春日……。お前、ほんと厄介な人間になったな」
章は悔しそうに呟く。
「僕でも思ったよ。そこまでやるか、って」
「章さんを真似させてもらったんですよ」
「嘘つけ、僕よりよほど厄介じゃないか」
章は苦笑で返す。
「僕が好奇心って言葉に弱いの、知ってて言ってるだろ?」
「まあ、そうですね。でも、事実ですよ」
澄ました顔をしている春日だったが、内心ではほっとしているのも確かだった。章の言葉の一つ一つは正しかった。そして章がそれを真剣に言っているのも分かっていた。
「好奇心がすべてに勝つという意味では、お前と同類だもんな」
好奇心がすべてに勝つ兄を持っているせいで苦労させられている裕が、わざとらしくため息をつく。
「あの、僕には違いが分からないんですけど。好奇心があったら身を滅ぼしてもいいってことですか?」
多賀がそばに座っていた諏訪に耳打ちをする。
「俺もわからん」
ギャンブル嫌いな堅実派の諏訪も頷く。
「……もしかして、章さんが言ってた『守ってくれる人間がいない状況で自分を守ろうとしない人間は嫌い』って言葉、章さんの自戒ですか?」
「ああ」
諏訪が頷く。
「あと、章さんなりの心配かな」
あの時、なぜ反論したのが自分だけだったのかに多賀は気づいた。自分以外は、章の言葉の意味に気付いていたからなのだと。
好奇心から危ない橋を渡りがちな章は、その恐ろしさとリスクを十分に知っている。だから仲間が危ない橋を渡ることに強く反発する。章は過剰なくらい、仲間の抱えるリスクには慎重だ。諏訪も情報課に来たばかりの頃はよく心配されていた。過保護だと思ったことすらある。
しかし、慎重な一方で、好奇心になら身を滅ぼされても本望、心の奥底で章はこうも思っている。章だって、口では否定しているものの、実際にローリスクで覚醒剤を使ってみませんかと言われたらおそらく手に取るのだろう。そういう人間である。
それを自覚しているから、章は強く自分を律し、同時に周囲もを制御しようとしている。心配、というのはそういうことだ。
「心配、ですか」
「章さんって、遺されるのは嫌だけど遺すのは平気ってタイプだからな」
「ということは、章さんは春日さんを見捨てようとしてたわけじゃなかったんですね」
「だといいんだがなぁ」
裕は歯切れ悪く答え、ゆっくり首を傾げた。
「気分によっては見捨てるかも……」
「…………」
見捨てない、で終わっていたらいい話だったのに。
「章さんって、ヤバい人ですね……」
自分は好き放題に危ない橋を渡るが、他人には渡らせようとせず、もし渡って失敗したら怒る。面倒な男だ。
「それに気づきましたか。そろそろ、多賀くんも新米卒業ですね」
静かに傍観していた三嶋が、微笑みながら多賀の元にやってきて肩を優しくぽんぽんと叩いた。
新米を卒業できたという喜びと、章との喧嘩が徒労だったと知った落胆、春日の荒唐無稽ぶりへの呆れ、そして章の理解不能の信念を前にした混乱がないまぜになった複雑な気持ちを抱え、多賀は屈託なく笑い合う章や春日の方をぼんやりと見ていた。
*Mission5:白の慟哭・完*
章の鋭い言葉に、春日は心の中でどきりとしたが、役者根性で隠し通した。
「その計画って、女医の?」
「うん。だって、彼女はさすがに春日の手腕だけじゃ落とし込めないだろ。経費もかかるし、違法な薬の伝手も必要だ」
そこまで言って、章はくるりと振り向いた。
「三嶋、お前全部知ってたな?」
章に詰められた三嶋はおとなしく両手を上げて降参する。
「なんで止めなかった?」
「最初にどんな手段でも使っていいと言ってしまったのでね」
三嶋に報告したとき、当然彼は春日を止めた。しかし春日は頑として聞き入れなかった。あの手この手で三嶋を言いくるめようとした。最終的に、三嶋は春日の口のうまさを認めさせられることになった。
「私の関知しないところで暴走されるよりはマシでしょ」
あの時春日に言われた口説き文句を、三嶋は反芻しながら章に言った。自分に言い聞かせているようにも見えた。
「春日……。お前、ほんと厄介な人間になったな」
章は悔しそうに呟く。
「僕でも思ったよ。そこまでやるか、って」
「章さんを真似させてもらったんですよ」
「嘘つけ、僕よりよほど厄介じゃないか」
章は苦笑で返す。
「僕が好奇心って言葉に弱いの、知ってて言ってるだろ?」
「まあ、そうですね。でも、事実ですよ」
澄ました顔をしている春日だったが、内心ではほっとしているのも確かだった。章の言葉の一つ一つは正しかった。そして章がそれを真剣に言っているのも分かっていた。
「好奇心がすべてに勝つという意味では、お前と同類だもんな」
好奇心がすべてに勝つ兄を持っているせいで苦労させられている裕が、わざとらしくため息をつく。
「あの、僕には違いが分からないんですけど。好奇心があったら身を滅ぼしてもいいってことですか?」
多賀がそばに座っていた諏訪に耳打ちをする。
「俺もわからん」
ギャンブル嫌いな堅実派の諏訪も頷く。
「……もしかして、章さんが言ってた『守ってくれる人間がいない状況で自分を守ろうとしない人間は嫌い』って言葉、章さんの自戒ですか?」
「ああ」
諏訪が頷く。
「あと、章さんなりの心配かな」
あの時、なぜ反論したのが自分だけだったのかに多賀は気づいた。自分以外は、章の言葉の意味に気付いていたからなのだと。
好奇心から危ない橋を渡りがちな章は、その恐ろしさとリスクを十分に知っている。だから仲間が危ない橋を渡ることに強く反発する。章は過剰なくらい、仲間の抱えるリスクには慎重だ。諏訪も情報課に来たばかりの頃はよく心配されていた。過保護だと思ったことすらある。
しかし、慎重な一方で、好奇心になら身を滅ぼされても本望、心の奥底で章はこうも思っている。章だって、口では否定しているものの、実際にローリスクで覚醒剤を使ってみませんかと言われたらおそらく手に取るのだろう。そういう人間である。
それを自覚しているから、章は強く自分を律し、同時に周囲もを制御しようとしている。心配、というのはそういうことだ。
「心配、ですか」
「章さんって、遺されるのは嫌だけど遺すのは平気ってタイプだからな」
「ということは、章さんは春日さんを見捨てようとしてたわけじゃなかったんですね」
「だといいんだがなぁ」
裕は歯切れ悪く答え、ゆっくり首を傾げた。
「気分によっては見捨てるかも……」
「…………」
見捨てない、で終わっていたらいい話だったのに。
「章さんって、ヤバい人ですね……」
自分は好き放題に危ない橋を渡るが、他人には渡らせようとせず、もし渡って失敗したら怒る。面倒な男だ。
「それに気づきましたか。そろそろ、多賀くんも新米卒業ですね」
静かに傍観していた三嶋が、微笑みながら多賀の元にやってきて肩を優しくぽんぽんと叩いた。
新米を卒業できたという喜びと、章との喧嘩が徒労だったと知った落胆、春日の荒唐無稽ぶりへの呆れ、そして章の理解不能の信念を前にした混乱がないまぜになった複雑な気持ちを抱え、多賀は屈託なく笑い合う章や春日の方をぼんやりと見ていた。
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