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第2章
第82話
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結局のところ、オレの心配は杞憂に過ぎず、兄も妻も笑って許してくれたばかりか、むしろオレの機転を誉めてさえくれた。
もちろん、今後の分配でスクロール(魔)の割り当ては減らして貰うことにはしたが、差し当たり問題にはされなかったことには、素直にホッとさせられる。
既に夜も遅い。
ドーピングアイテムの分配を決めて、とりあえず今夜はお開きとすることにした。
ポテンシャルオーブは7つ有ったので、オレ以外の3人に2つずつ。
オレが1つ。
幸運向上剤は、オレと兄が1つずつ。
反対に持久力向上剤は、父と妻が1つずつ使用することに。
腕力向上剤は、妻が2つ。
他の3人は1つずつ服用。
敏捷向上剤は父と兄に1つずつ……という割り当てが決まった。
お菓子系の成長促進アイテムは、いつもと同じバランス……父の持久力、妻の腕力強化を重視する配分だ。
◆ ◆
その夜は、特にモンスターが近くに出現したような気配も無く、無事に明ける。
しかし……あくまで何事も無かったのはウチの周りの話で、世間では激動の一夜になったようだ。
この日の朝は、もう3月だというのに、酷く冷え込むと思ったが、カーテンを開けると小雪が舞い降りて来ていた。
道理で寒いハズ……布団にもう一度、潜り込みたい衝動に駆られるが、今からダンジョンに向かう妻達のことを思うと、そうもいっていられない。
まだ、可愛らしい寝息を立て続けている息子を起こさないように、再びカーテンを閉じ、静かに部屋を出た。
まずトイレを済ませて、洗面所で顔を洗い、妻の分のおにぎりを握ろうと台所に向かうが、途中の居間のテレビに思わず意識を奪われる。
朝イチで見せられるには、非常にキツい映像が、そんな配慮は一切無しに画面に映し出されていた。
ゾンビ、ゾンビ、ゾンビの群れ……テレビ局内の一室なのだろうか、この状況を撮影しているカメラマン以外に、もはや生存者は居ないのかもしれない。
机や椅子、撮影機材などを乱雑に積んだ即席のバリケードを、叩き、引っ掻き、噛み付き、乱暴に崩しながら迫り来るゾンビ達……悲鳴を上げながらも、ひたすら撮影を続けている、若い女性らしきカメラマン。
息絶えるその時まで、彼女はジャーナリストであることを選んだのだろうか?
それとも、完全に逃げ道を断たれ、戦う力も無いがために仕方なくそうしているのか……ここに至るまでの途中経過が分からないオレには、すぐに判断はつかなかった。
まるで画面を睨むかのように、厳しい表情を浮かべて凝視している父と兄とに、これまでの経緯を尋ねたくはあるが、そのあまりに緊迫した空気がオレを躊躇させる。
そんなところに、まだ眠そうな顔をしたまま、上の甥っ子が起きてきた。
母がすかさずテレビの音を消し、そのまま甥っ子を洗面所へと誘導する。
オレが視線を戻した時には、最期までカメラを構え続けた勇敢な女性は、既に鮮血に染まって地に倒れ、その上にゾンビが群がっていた。
……無言のまま、父がチャンネルを変える。
東京に限らず、どこも都市部は似たような状況に陥りつつあるようだ。
ついには地方局さえもやられて、避難した先の僻地から放送をしている局もある。
このままいくと近いうちに、全く映らなくなるチャンネルも出て来そうな気配すらし始めていた。
逆に言えば、そうまでして報道を続けている人々には、本当に頭が下がる思いだ。
ゾンビはどうやら、世代を重ねるごとに、感染力を上げているようで、どんどんと数を増やしている。
もちろん、ゾンビ程度に遅れは取らない探索者の方が多いとは思うが、数の暴力というのはやはり恐ろしいものだ。
たとえ負けずとも、怪我一つ無く勝たなくてはならないとなると、途端に難易度は増すだろう。
もしゾンビ化の要因が毒の類いならば、解毒ポーションが効くだろうし、呪いの類いなら、耐呪効果のあるアクセサリーを身に付けるなど、まだ対処のしようはあるのだ。
しかし肝心の原因が不明な今、何が有効で何が無効か、いまだ不明瞭なまま、ただただ被害を拡大し続けているというのが現状なのだと思われる。
ただでさえ魔素が原因で、アンデッド以外にもモンスターが出現し続けているのだから、このままでは都市部以外にも喰らうべき生者を求めて、アンデッドモンスターが洪水のように押し寄せて来かねない。
アンデッドモンスターの最も厄介な点は、ダンジョンに戻ることを優先せず、生者を殺すことを……いや、正確には、生きた者を自らと同じく、アンデッドの仲間入りをさせるために、屋内にも侵入してくるということだ。
今までは、モンスターが屋内には発生しないのを良いことに、籠城さえすれば安全と考えている人が多かった。
それは、屋内に侵入してくるアンデッドモンスターの発生以降も、ほとんどの人にとっては同じだったのだと思う。
どこか他人事と思っている人は、非常に多かったのでは無いだろうか。
しかし……今や十全に機能しているとは言えない報道の中でも、タワーマンションがゾンビの大群に攻め落とされたというニュースや、これ以上無いくらい堅牢な造りのハズの刑務所が、壁を通り抜けられるゴーストの前に陥落し、ヤツらの住み処に変わっているというニュースが、当たり前のように世間を騒がせている。
最早、この世に安全地帯などは無いのではないだろうか?
すっかり暗澹としたムードに変わった居間に戻って来た甥っ子は、好きなアニメの続きを見たがって、父を困らせている。
いつになったら、続きをやるのか……それは今や誰にも分からないのだ。
『ピンポーン』
そんな時だった。
まだ早朝と言っても良い時間であるにも関わらず、来客を告げるチャイムの音が鳴り響いたのは…………
もちろん、今後の分配でスクロール(魔)の割り当ては減らして貰うことにはしたが、差し当たり問題にはされなかったことには、素直にホッとさせられる。
既に夜も遅い。
ドーピングアイテムの分配を決めて、とりあえず今夜はお開きとすることにした。
ポテンシャルオーブは7つ有ったので、オレ以外の3人に2つずつ。
オレが1つ。
幸運向上剤は、オレと兄が1つずつ。
反対に持久力向上剤は、父と妻が1つずつ使用することに。
腕力向上剤は、妻が2つ。
他の3人は1つずつ服用。
敏捷向上剤は父と兄に1つずつ……という割り当てが決まった。
お菓子系の成長促進アイテムは、いつもと同じバランス……父の持久力、妻の腕力強化を重視する配分だ。
◆ ◆
その夜は、特にモンスターが近くに出現したような気配も無く、無事に明ける。
しかし……あくまで何事も無かったのはウチの周りの話で、世間では激動の一夜になったようだ。
この日の朝は、もう3月だというのに、酷く冷え込むと思ったが、カーテンを開けると小雪が舞い降りて来ていた。
道理で寒いハズ……布団にもう一度、潜り込みたい衝動に駆られるが、今からダンジョンに向かう妻達のことを思うと、そうもいっていられない。
まだ、可愛らしい寝息を立て続けている息子を起こさないように、再びカーテンを閉じ、静かに部屋を出た。
まずトイレを済ませて、洗面所で顔を洗い、妻の分のおにぎりを握ろうと台所に向かうが、途中の居間のテレビに思わず意識を奪われる。
朝イチで見せられるには、非常にキツい映像が、そんな配慮は一切無しに画面に映し出されていた。
ゾンビ、ゾンビ、ゾンビの群れ……テレビ局内の一室なのだろうか、この状況を撮影しているカメラマン以外に、もはや生存者は居ないのかもしれない。
机や椅子、撮影機材などを乱雑に積んだ即席のバリケードを、叩き、引っ掻き、噛み付き、乱暴に崩しながら迫り来るゾンビ達……悲鳴を上げながらも、ひたすら撮影を続けている、若い女性らしきカメラマン。
息絶えるその時まで、彼女はジャーナリストであることを選んだのだろうか?
それとも、完全に逃げ道を断たれ、戦う力も無いがために仕方なくそうしているのか……ここに至るまでの途中経過が分からないオレには、すぐに判断はつかなかった。
まるで画面を睨むかのように、厳しい表情を浮かべて凝視している父と兄とに、これまでの経緯を尋ねたくはあるが、そのあまりに緊迫した空気がオレを躊躇させる。
そんなところに、まだ眠そうな顔をしたまま、上の甥っ子が起きてきた。
母がすかさずテレビの音を消し、そのまま甥っ子を洗面所へと誘導する。
オレが視線を戻した時には、最期までカメラを構え続けた勇敢な女性は、既に鮮血に染まって地に倒れ、その上にゾンビが群がっていた。
……無言のまま、父がチャンネルを変える。
東京に限らず、どこも都市部は似たような状況に陥りつつあるようだ。
ついには地方局さえもやられて、避難した先の僻地から放送をしている局もある。
このままいくと近いうちに、全く映らなくなるチャンネルも出て来そうな気配すらし始めていた。
逆に言えば、そうまでして報道を続けている人々には、本当に頭が下がる思いだ。
ゾンビはどうやら、世代を重ねるごとに、感染力を上げているようで、どんどんと数を増やしている。
もちろん、ゾンビ程度に遅れは取らない探索者の方が多いとは思うが、数の暴力というのはやはり恐ろしいものだ。
たとえ負けずとも、怪我一つ無く勝たなくてはならないとなると、途端に難易度は増すだろう。
もしゾンビ化の要因が毒の類いならば、解毒ポーションが効くだろうし、呪いの類いなら、耐呪効果のあるアクセサリーを身に付けるなど、まだ対処のしようはあるのだ。
しかし肝心の原因が不明な今、何が有効で何が無効か、いまだ不明瞭なまま、ただただ被害を拡大し続けているというのが現状なのだと思われる。
ただでさえ魔素が原因で、アンデッド以外にもモンスターが出現し続けているのだから、このままでは都市部以外にも喰らうべき生者を求めて、アンデッドモンスターが洪水のように押し寄せて来かねない。
アンデッドモンスターの最も厄介な点は、ダンジョンに戻ることを優先せず、生者を殺すことを……いや、正確には、生きた者を自らと同じく、アンデッドの仲間入りをさせるために、屋内にも侵入してくるということだ。
今までは、モンスターが屋内には発生しないのを良いことに、籠城さえすれば安全と考えている人が多かった。
それは、屋内に侵入してくるアンデッドモンスターの発生以降も、ほとんどの人にとっては同じだったのだと思う。
どこか他人事と思っている人は、非常に多かったのでは無いだろうか。
しかし……今や十全に機能しているとは言えない報道の中でも、タワーマンションがゾンビの大群に攻め落とされたというニュースや、これ以上無いくらい堅牢な造りのハズの刑務所が、壁を通り抜けられるゴーストの前に陥落し、ヤツらの住み処に変わっているというニュースが、当たり前のように世間を騒がせている。
最早、この世に安全地帯などは無いのではないだろうか?
すっかり暗澹としたムードに変わった居間に戻って来た甥っ子は、好きなアニメの続きを見たがって、父を困らせている。
いつになったら、続きをやるのか……それは今や誰にも分からないのだ。
『ピンポーン』
そんな時だった。
まだ早朝と言っても良い時間であるにも関わらず、来客を告げるチャイムの音が鳴り響いたのは…………
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