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第3章
第149話
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『スキル【指揮】を自力習得しました』
『スキル【直感】を自力習得しました』
『スキル【風魔法】のレベルが上がりしました』
『スキル【敏捷強化】のレベルが上がりました』
『スキル【勇敢なる心】のレベルが上がりました』
無機質な【解析者】のアナウンスが脳内に連続して響き、連続しての強敵の到来に心が折れかけていたオレを、どうにか現実に引き戻す。
神々しいほど純白に輝く翼で悠然と羽ばたきながら、しかしそうした態度に見合わないほど異常な高速でこちらに接近してくるそのモンスターは、ダンジョン探索者の間では長年悪夢の象徴として語られ続けているモンスターだ。
もはや目前と言って良いほど間近にまで迫って来たコレが本物だとは、さすがのオレも思わない。
思わないが……ダンジョンの中で遭遇したなら、それは間違いなく敵なのだ。
慌ててポーション類を取り出し、噎せそうになりながらもなんとか飲み込み、各種フィジカルエンチャントなど、可能な限りの準備を整えたところで、モーザ・ドゥーの遺した宝箱の上に次なる強敵は着陸した。
肉体的な疲労はともかく、精神的な疲労はピークに達している。
撤退すら脳裏を過ったが、それは既に遅きに失していた。
モーザ・ドゥーの力を喰らい尽くしてなお、目の前の敵は強大な威圧感を放っている。
パッと見では全く敵意を感じない。
美というものを究極的に突き詰めていくとこのような姿になるのでは無いかといった造形。
男性か女性か判然とせず、しかしその美しさを否定し得る者はこの世には存在しないだろう。
まさにこの世ならざる美しさだ。
その美は目鼻の造形にとどまらず、耳や手指の形一つ取っても、完璧な美しさと言わざるを得ない。
表情は絶えず微笑。
それも、どんな者の心でも溶かしてしまいそうな完璧な表情。
その美しい姿に完全な調和をもって加えられた、神々しく輝く翼……そして特徴的な頭上の『環』。
目にした誰もが息を呑むほど美しい天使が、目の前に降臨している。
敬虔なる者は膝を折るだろう。
そして殺される。
暴虐なる者は悔い改め、滂沱の涙を流すだろう。
そして引き裂かれる。
中庸なる者は、ただただ驚き見とれ立ち尽くすだろう。
そして何も為せぬまま命を落とす。
抗えるのは抗う意思の有る者だけだろう。
そして……絶望して息絶えるのか、それとも生き延びるのか?
それはやってみなくては分からないことだった。
曰く、銃弾が通用しない。
曰く、剣も槍も通用しない。
曰く、為す術なく裁かれる。
それが天使というモンスターだ。
かつて世界で最も攻略が進んでいたダンジョンが有った。
さる高名な建築家が設計し、彼の死後も建設が続けられていた、独創的なデザインの塔がそのダンジョンの素になった建築物だ。
今から20年前……ダンジョンは住む者の居ない建築物を突如として、次々と乗っとっていった。
中には城跡など、かつて建築物が有った跡地がダンジョン化した例も有るが、そちらは少数派と言える。
ダンジョン化した例が多いのは、廃校、廃墟、スポーツ会場、そして観光名所になっていた建築物。
その塔も気付いた時にはダンジョン化していたという。
難易度は非常に高かったらしいが、塔という構造上あまり階層ごとの広さは無かったらしく、ダンジョン化当初は多くの犠牲者を出したものの、ポーション類をはじめ戦利品の質も非常に高く、世界中から腕に覚えの有る者達が集って攻略を進めていた。
その塔の攻略がピタっと止まったのは、11年前のある日。
当時最強と目されていた探索者達を次々に殺戮してのけた階層ボスが現れてからだ。
それこそが……天使。
剣や槍はおろか、矢、銃弾、砲弾、手榴弾、火炎放射器から発せられる炎、改造された高出力スタンガンの電撃、果ては携行式ミサイルまで、全ての武器や兵器が通用しないモンスターが、世界で初めて現れたのだ。
魔法が人類にも使用可能になった今でこそ分かることだろう。
天使に実体が無く、あらゆる物理的な攻撃が通用しないなどということは……。
閑話休題……
目の前の敵は、数少ないながらも残された資料映像や画像にある天使とは、存在としての格が違うようだ。
悪魔にレッサーデーモン、デーモン、アークデーモン……といったランクがあるように、天使にも位階とでも言うべき格の高低はある。
今までに発見されたことが公になっている天使の位階が、天使や大天使とするなら、目の前に存在する天使は少なくとも権天使……あるいは能天使や、力天使と言われる位階に居るのだろう。
世界がこうなる前は、オレが天使と敵対することなど夢にも思わなかった。
武器に付与する属性は……敢えての闇。
これでは端から見た時に、どちらが正義に見えることやら……。
槍を黒色の魔法光で染め上げ、自嘲気味に笑みを浮かべたオレを見て、初めて天使が表情を変えた。
──ニタァ
そんな擬音が似合いそうな笑みだ。
そうした天使の笑みは、その美しい容姿が災いしてか、酷く邪悪なものに見えた。
正邪いずれにせよ、こうして利害を違えて対峙したからには、天使だろうが悪魔だろうが、それはもう単なる倒すべき敵だ。
そう肚を決めたオレも、笑みを浮かべていたと思う。
その笑みを見た者がどう思うのかは、目の前のボスモンスター以外には知る者とて居なかった。
『スキル【直感】を自力習得しました』
『スキル【風魔法】のレベルが上がりしました』
『スキル【敏捷強化】のレベルが上がりました』
『スキル【勇敢なる心】のレベルが上がりました』
無機質な【解析者】のアナウンスが脳内に連続して響き、連続しての強敵の到来に心が折れかけていたオレを、どうにか現実に引き戻す。
神々しいほど純白に輝く翼で悠然と羽ばたきながら、しかしそうした態度に見合わないほど異常な高速でこちらに接近してくるそのモンスターは、ダンジョン探索者の間では長年悪夢の象徴として語られ続けているモンスターだ。
もはや目前と言って良いほど間近にまで迫って来たコレが本物だとは、さすがのオレも思わない。
思わないが……ダンジョンの中で遭遇したなら、それは間違いなく敵なのだ。
慌ててポーション類を取り出し、噎せそうになりながらもなんとか飲み込み、各種フィジカルエンチャントなど、可能な限りの準備を整えたところで、モーザ・ドゥーの遺した宝箱の上に次なる強敵は着陸した。
肉体的な疲労はともかく、精神的な疲労はピークに達している。
撤退すら脳裏を過ったが、それは既に遅きに失していた。
モーザ・ドゥーの力を喰らい尽くしてなお、目の前の敵は強大な威圧感を放っている。
パッと見では全く敵意を感じない。
美というものを究極的に突き詰めていくとこのような姿になるのでは無いかといった造形。
男性か女性か判然とせず、しかしその美しさを否定し得る者はこの世には存在しないだろう。
まさにこの世ならざる美しさだ。
その美は目鼻の造形にとどまらず、耳や手指の形一つ取っても、完璧な美しさと言わざるを得ない。
表情は絶えず微笑。
それも、どんな者の心でも溶かしてしまいそうな完璧な表情。
その美しい姿に完全な調和をもって加えられた、神々しく輝く翼……そして特徴的な頭上の『環』。
目にした誰もが息を呑むほど美しい天使が、目の前に降臨している。
敬虔なる者は膝を折るだろう。
そして殺される。
暴虐なる者は悔い改め、滂沱の涙を流すだろう。
そして引き裂かれる。
中庸なる者は、ただただ驚き見とれ立ち尽くすだろう。
そして何も為せぬまま命を落とす。
抗えるのは抗う意思の有る者だけだろう。
そして……絶望して息絶えるのか、それとも生き延びるのか?
それはやってみなくては分からないことだった。
曰く、銃弾が通用しない。
曰く、剣も槍も通用しない。
曰く、為す術なく裁かれる。
それが天使というモンスターだ。
かつて世界で最も攻略が進んでいたダンジョンが有った。
さる高名な建築家が設計し、彼の死後も建設が続けられていた、独創的なデザインの塔がそのダンジョンの素になった建築物だ。
今から20年前……ダンジョンは住む者の居ない建築物を突如として、次々と乗っとっていった。
中には城跡など、かつて建築物が有った跡地がダンジョン化した例も有るが、そちらは少数派と言える。
ダンジョン化した例が多いのは、廃校、廃墟、スポーツ会場、そして観光名所になっていた建築物。
その塔も気付いた時にはダンジョン化していたという。
難易度は非常に高かったらしいが、塔という構造上あまり階層ごとの広さは無かったらしく、ダンジョン化当初は多くの犠牲者を出したものの、ポーション類をはじめ戦利品の質も非常に高く、世界中から腕に覚えの有る者達が集って攻略を進めていた。
その塔の攻略がピタっと止まったのは、11年前のある日。
当時最強と目されていた探索者達を次々に殺戮してのけた階層ボスが現れてからだ。
それこそが……天使。
剣や槍はおろか、矢、銃弾、砲弾、手榴弾、火炎放射器から発せられる炎、改造された高出力スタンガンの電撃、果ては携行式ミサイルまで、全ての武器や兵器が通用しないモンスターが、世界で初めて現れたのだ。
魔法が人類にも使用可能になった今でこそ分かることだろう。
天使に実体が無く、あらゆる物理的な攻撃が通用しないなどということは……。
閑話休題……
目の前の敵は、数少ないながらも残された資料映像や画像にある天使とは、存在としての格が違うようだ。
悪魔にレッサーデーモン、デーモン、アークデーモン……といったランクがあるように、天使にも位階とでも言うべき格の高低はある。
今までに発見されたことが公になっている天使の位階が、天使や大天使とするなら、目の前に存在する天使は少なくとも権天使……あるいは能天使や、力天使と言われる位階に居るのだろう。
世界がこうなる前は、オレが天使と敵対することなど夢にも思わなかった。
武器に付与する属性は……敢えての闇。
これでは端から見た時に、どちらが正義に見えることやら……。
槍を黒色の魔法光で染め上げ、自嘲気味に笑みを浮かべたオレを見て、初めて天使が表情を変えた。
──ニタァ
そんな擬音が似合いそうな笑みだ。
そうした天使の笑みは、その美しい容姿が災いしてか、酷く邪悪なものに見えた。
正邪いずれにせよ、こうして利害を違えて対峙したからには、天使だろうが悪魔だろうが、それはもう単なる倒すべき敵だ。
そう肚を決めたオレも、笑みを浮かべていたと思う。
その笑みを見た者がどう思うのかは、目の前のボスモンスター以外には知る者とて居なかった。
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