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第4章
第176話
オレの魔力は今以上に増えていくだろう。
妻の実家が有る東京までの距離は、概ね350Kmといったところ。
今でこそ、到底そこまで飛べるイメージすら湧かないが、いずれは可能になることだろう。
問題は、それがいつになるのかだ。
かなりのハイペースで強化を進めて来たつもりだが、それでようやく50Km……。
かなりの時間が掛かりそうだが、だからといって今以上の強敵を求めて、ドラゴンすら確認されている青葉城址のダンジョンや、仙台駅東口ダンジョンを目指すのは、今のオレでも自殺行為だろう。
難易度の上昇が極端なのだ。
「お義母さん、喜んでたよ? ヒデちゃん良かったね」
自分から話そうと言っておきながら、妻に先に口を開かせてしまった。
「うん。亜衣、あのな……」
「パパもママも、まだまだ大丈夫。昔から用意周到だからね。そんなに買ってどうするの? ……っていうぐらい、いつも非常食とか買い込んでるし。ダンジョンが出来はじめてからは尚更、ね」
「そっか……」
「うん、そうだよ。だから大丈夫。お話って、そのこと?」
「うん、そうなんだけど……オレ、頑張るからさ。もう少しだけ待っててくれよ」
「うーん……ヒデちゃんは頑張ってるよ? もうね、これ以上は無理しないで……っていうぐらい、頑張ってる」
妻はオレに泣き顔は見せまいと頑張っているが、目は潤みはじめていた。
「亜衣……」
「パパ、言ってたよ? ヒデちゃんみたいな優しい人の奥さんになれて良かったなって。ママもね、何か迷うことが有ったらヒデちゃんの言うこと聞きなさい……だって。娘の私より、ヒデちゃんの方が信用あるんだよね~」
堪えきれず溢れた涙が妻の頬を伝い落ちていくが、それでも妻の顔は笑っていた。
妻も分かっているのだ。
今が大丈夫でも、いつまでも大丈夫では無いということを。
気まぐれに変わっていく世界の『ルール』に、いつ覆されるか分からない安全だということを、妻もしっかりと理解している。
それでも妻は笑うのだ。
オレに無理をさせたくない一心で……。
「だから、ね。焦らずにいこうよ。でさ、この辺りが、もう完全に安全だね~ってなったら、そのうち助けてあげてよ。無理しなくたって、ヒデちゃんなら大丈夫……うん、大丈夫だよ」
今にも崩れそうな妻の笑顔。
妻が見せたくない顔を見ないために、オレは無言で妻を抱き寄せることしか出来なかった。
◆ ◆
「じゃあ、そろそろ行こっか」
「「はい!」」
すっかり柏木兄妹を手懐けてしまった妻の号令で、車に乗り込む面々。
父とマチルダは苦笑しながらも後に続く。
前衛を父とマチルダ。
中衛を妻と沙奈良ちゃん。
後衛に右京君……という手筈だったのに、あの勢いでは妻が前衛ワントップになりそうだ。
まぁ、ド田舎ダンジョンなら、最初は誰が前衛でも苦労はしない筈だし、車の中で打ち合わせした内容を思い出すだろう。
今回は父もマチルダも一緒だから、そんなに心配はいらないだろう。
マチルダはマチェットとかいう山刀の扱いも得意らしい。
鉈の大型化したようなもので、平時は狩人だったというマチルダにとっては、弓とともに日常的に使っていた得物なのだという話だ。
いざとなったら人狼と化して戦うことも出来るし、実は簡単な魔法なら幾つか使えるというのだから心強い。
妻や沙奈良ちゃんともウマが合うようで、道中にぎやかなダンジョン探索になりそうだ。
星野さんらも次々に車に乗り込み、ド田舎ダンジョンへと向かっていく。
思ったより人数が少ないが、その分だけ精鋭化したとも言えるかもしれなかった。
「……じゃあ、そろそろオレ達も行こうか?」
「うん」
オレと兄だけは別行動。
最寄りのダンジョンへと車を走らせていく。
◆
低層階のモンスターの間引きを担当してくれることになった兄とはダンジョンの入り口を入ってすぐに別れ、オレは【転移魔法】で、元マチルダの部屋の前まで飛ぶ。
そして、自分の担当する第7層と第8層とを、じっくり丁寧に間引きしていった。
今日はファハンもモーザ・ドゥーもリザードマンロードも無事にリポップしていたが、取り巻きのモンスターや、道中を遮るモンスターの数は少ない。
以前は苦戦したモンスターも、その時とは違い鎧袖一触に葬りさっていく。
その途中で【解析者】の声が何度か脳内に響き、習得済みスキルのレベルが上がった。
確か……【腕力強化】・【投擲】・【魔力回復速度上昇】・【水魔法】・【長柄武器の心得】・【パリィ】の順で上がったと思う。
もう、どれが自力で熟練度を上げたもので、どれがモンスターから奪ったものかは判然としない。
新しく得たスキルは、たったの1つ。
【石化耐性】だ。
ちょうどコッカトライスを倒したタイミングだったから、これは完全に強奪したものだろう。
石化の特殊能力を持つコッカトライスが、自身も石化への耐性も併せ持っているのか、石化の特殊能力がオレの中に吸収された後に耐性スキルに変化したのかまでは分からない。
分からないが、何となく後者なのだろうなぁ……という気はする。
結局、第8層の階層ボスである劣化バンパイアも難なく倒し、オレは自分の作業を終えた。
今回は【恐慌耐性】を新しく得ることが出来たのだが、これもコッカトライスの時と同じ現象かもしれない。
例の腐れバンパイアから得られたスキルのうち【魅了耐性】も同じ理屈だろう。
腐れバンパイアから得たスキルと言えば、使い道が無いのが【眷属強化】だ。
バンパイアなら、自分の手足として使うための眷属たる下位のバンパイアや、眷属バンパイアがさらに手下として扱うレッサーバンパイアが強化されるのだろうが、当然ながらオレには眷属などは存在しない。
これ、どうにかならないかなぁ……などと思った矢先のことだった。
聞き慣れた【解析者】の声が脳内に響いたのは……。
そして、それは今までに聞き覚えの無い質問だった。
妻の実家が有る東京までの距離は、概ね350Kmといったところ。
今でこそ、到底そこまで飛べるイメージすら湧かないが、いずれは可能になることだろう。
問題は、それがいつになるのかだ。
かなりのハイペースで強化を進めて来たつもりだが、それでようやく50Km……。
かなりの時間が掛かりそうだが、だからといって今以上の強敵を求めて、ドラゴンすら確認されている青葉城址のダンジョンや、仙台駅東口ダンジョンを目指すのは、今のオレでも自殺行為だろう。
難易度の上昇が極端なのだ。
「お義母さん、喜んでたよ? ヒデちゃん良かったね」
自分から話そうと言っておきながら、妻に先に口を開かせてしまった。
「うん。亜衣、あのな……」
「パパもママも、まだまだ大丈夫。昔から用意周到だからね。そんなに買ってどうするの? ……っていうぐらい、いつも非常食とか買い込んでるし。ダンジョンが出来はじめてからは尚更、ね」
「そっか……」
「うん、そうだよ。だから大丈夫。お話って、そのこと?」
「うん、そうなんだけど……オレ、頑張るからさ。もう少しだけ待っててくれよ」
「うーん……ヒデちゃんは頑張ってるよ? もうね、これ以上は無理しないで……っていうぐらい、頑張ってる」
妻はオレに泣き顔は見せまいと頑張っているが、目は潤みはじめていた。
「亜衣……」
「パパ、言ってたよ? ヒデちゃんみたいな優しい人の奥さんになれて良かったなって。ママもね、何か迷うことが有ったらヒデちゃんの言うこと聞きなさい……だって。娘の私より、ヒデちゃんの方が信用あるんだよね~」
堪えきれず溢れた涙が妻の頬を伝い落ちていくが、それでも妻の顔は笑っていた。
妻も分かっているのだ。
今が大丈夫でも、いつまでも大丈夫では無いということを。
気まぐれに変わっていく世界の『ルール』に、いつ覆されるか分からない安全だということを、妻もしっかりと理解している。
それでも妻は笑うのだ。
オレに無理をさせたくない一心で……。
「だから、ね。焦らずにいこうよ。でさ、この辺りが、もう完全に安全だね~ってなったら、そのうち助けてあげてよ。無理しなくたって、ヒデちゃんなら大丈夫……うん、大丈夫だよ」
今にも崩れそうな妻の笑顔。
妻が見せたくない顔を見ないために、オレは無言で妻を抱き寄せることしか出来なかった。
◆ ◆
「じゃあ、そろそろ行こっか」
「「はい!」」
すっかり柏木兄妹を手懐けてしまった妻の号令で、車に乗り込む面々。
父とマチルダは苦笑しながらも後に続く。
前衛を父とマチルダ。
中衛を妻と沙奈良ちゃん。
後衛に右京君……という手筈だったのに、あの勢いでは妻が前衛ワントップになりそうだ。
まぁ、ド田舎ダンジョンなら、最初は誰が前衛でも苦労はしない筈だし、車の中で打ち合わせした内容を思い出すだろう。
今回は父もマチルダも一緒だから、そんなに心配はいらないだろう。
マチルダはマチェットとかいう山刀の扱いも得意らしい。
鉈の大型化したようなもので、平時は狩人だったというマチルダにとっては、弓とともに日常的に使っていた得物なのだという話だ。
いざとなったら人狼と化して戦うことも出来るし、実は簡単な魔法なら幾つか使えるというのだから心強い。
妻や沙奈良ちゃんともウマが合うようで、道中にぎやかなダンジョン探索になりそうだ。
星野さんらも次々に車に乗り込み、ド田舎ダンジョンへと向かっていく。
思ったより人数が少ないが、その分だけ精鋭化したとも言えるかもしれなかった。
「……じゃあ、そろそろオレ達も行こうか?」
「うん」
オレと兄だけは別行動。
最寄りのダンジョンへと車を走らせていく。
◆
低層階のモンスターの間引きを担当してくれることになった兄とはダンジョンの入り口を入ってすぐに別れ、オレは【転移魔法】で、元マチルダの部屋の前まで飛ぶ。
そして、自分の担当する第7層と第8層とを、じっくり丁寧に間引きしていった。
今日はファハンもモーザ・ドゥーもリザードマンロードも無事にリポップしていたが、取り巻きのモンスターや、道中を遮るモンスターの数は少ない。
以前は苦戦したモンスターも、その時とは違い鎧袖一触に葬りさっていく。
その途中で【解析者】の声が何度か脳内に響き、習得済みスキルのレベルが上がった。
確か……【腕力強化】・【投擲】・【魔力回復速度上昇】・【水魔法】・【長柄武器の心得】・【パリィ】の順で上がったと思う。
もう、どれが自力で熟練度を上げたもので、どれがモンスターから奪ったものかは判然としない。
新しく得たスキルは、たったの1つ。
【石化耐性】だ。
ちょうどコッカトライスを倒したタイミングだったから、これは完全に強奪したものだろう。
石化の特殊能力を持つコッカトライスが、自身も石化への耐性も併せ持っているのか、石化の特殊能力がオレの中に吸収された後に耐性スキルに変化したのかまでは分からない。
分からないが、何となく後者なのだろうなぁ……という気はする。
結局、第8層の階層ボスである劣化バンパイアも難なく倒し、オレは自分の作業を終えた。
今回は【恐慌耐性】を新しく得ることが出来たのだが、これもコッカトライスの時と同じ現象かもしれない。
例の腐れバンパイアから得られたスキルのうち【魅了耐性】も同じ理屈だろう。
腐れバンパイアから得たスキルと言えば、使い道が無いのが【眷属強化】だ。
バンパイアなら、自分の手足として使うための眷属たる下位のバンパイアや、眷属バンパイアがさらに手下として扱うレッサーバンパイアが強化されるのだろうが、当然ながらオレには眷属などは存在しない。
これ、どうにかならないかなぁ……などと思った矢先のことだった。
聞き慣れた【解析者】の声が脳内に響いたのは……。
そして、それは今までに聞き覚えの無い質問だった。
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