ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる

文字の大きさ
266 / 312
第5章

第263話

しおりを挟む
『ウニャ? 主様、あそこ。あそこに印が有るのですニャー』

「印? あぁ、例のヤツか」

 印、例のヤツとはつまり『ケット・シーの爪跡』のことだ。
 トム曰く、ケット・シーの爪がいくら鋭くとも、迷宮の壁に傷を残すことは決して出来ないのだから、隠し部屋の印のことを『ケットシーの爪跡』とは呼ばないで欲しいということらしい。
 なんだか妙に気恥ずかしい気持ちになってしまうのだという。

「トムちゃん、えらいね~」

 亜衣がトムの頭を撫でくり回している。
 ……出遅れた。
 公然とトムをナデゴロするチャンスだったというのに。

「それにしても……随分と変なところに有るわね。天井だなんて」

 トリアが呆れたように呟く。
 確かに隠し部屋の入り口が天井に有ったことは今までに無かった。
 それを言ったら階層ボスの部屋に『ケット・シーの爪跡』が有ったことも、これまでには無かったことなのだが……。

「でもさ……あれ、どうやって開けるの? まさか空を飛ぶわけにもいかないし」

 亜衣の懸念は尤もなところだ。
 このダンジョンの天井は今までで最も高い位置にある。
 もちろんド田舎ダンジョンや、スーパー跡のダンジョンのような、天井そのものが視認すら出来ない造りのダンジョンを除けば……だが。
 さすがにドラゴンが自在に飛び回れるほど高くは無いが、低空飛行しながら移動するぐらいは造作も無いぐらいには高い。
 トムも、よく見つけることが出来たものだ。

「うーん、中身がハズレだったら魔力が勿体ない気もするけど、あそこまで階段状に防壁の魔法を伸ばすことは可能だと思うわよ? 私、やろうか?」

「なるほど、確かに……。じゃあ、オレが先に【遠隔視】で中身を見てみるよ」

「そうね、それなら無駄が無いわね」

『我輩が思うに、きっと素晴らしい物が見つかる筈なのですニャ』

「トムちゃん、分かるの?」

『ニャニャ。勘なのですニャー』

 ちなみにトムの勘は、あまり当たらない。
 いわゆるの時でも、大当たりの時でも、大抵いつもこんな感じだ。
 そのため、過度の期待はしないように心掛けているが……見つかった場所が場所だけに、いやが上にも期待が高まる。

 そして……今回は、どうやら大当たり中の大当たりだったようだ。

 非常に見覚えの有る光沢。
 形状こそ違うが、オレが切り札にしているアダマントの杭剣と、恐らくは素材を同じくしている武具だ。
 しかもサイズは特大クラス。
 タワーシールド。
 そう呼ぶべき形状の盾だった。

「トム、お手柄だぞ。【鑑定】する必要は有るけど、多分アダマント製のタワーシールドだ」

『それみたことかーなのですニャ』

 目の前に、後ろ脚で立ち上がって得意げに胸をそびやかすネコがいる。
 たまらずアゴと腹とを盛大にワシャワシャしてやると、何やら悶えながら堪えきれずノドを鳴らし始めるトム。
 途中から亜衣も参戦して、揉みくちゃにされたトムは、僅かに毛を逆立たせてテンパりながらも、いまだにノドをゴロゴロ鳴らしている。

「……そろそろ良い? 壁、出すわよ?」

 独り冷静なトリアの声で我に返ったオレは、トリアの出してくれた数段の防壁魔法の上を、跳び跳ねながら天井に肉薄していく。
 トムが指し示し、オレが【遠隔視】で事前に中身を確認しているため、到達さえ出来れば回収は容易い。
 首尾よく重厚な造りのタワーシールドを手に入れたオレは、引き返そうと下を見て思わず絶句した。

 ……下から見上げていたより遥かに高く感じる。

 何度もパラシュート無しのスカイダイビングみたいな真似をしておいて、何を今さら……と思われるかもしれないが、戦闘中に必要に迫られてしたことだ。
 その時は戦闘の高揚感が上回り、恐怖感など殆ど正常に機能していない。
 怖がっているのを気付かれないように、出来るだけ登って来た時と同じペースで降りていったが、トリアには勘づかれたようだった。
 意味ありげな美女の微笑み。
 こんな状況でも無ければ見とれてしまうかもしれないが、さすがに今はそんな気分にはなれない。

「しかし……盾、か。このまま使うには少し大きいし、どうしたもんかな」

 だいたい皆、両手持ちの武器が得物だったり、カタリナに至っては二刀流だったりする。
 唯一の例外はマチェット(山刀)を得物にしているマチルダだが、マチルダにしてもスピードで翻弄するタイプだし、盾とは無縁だ。
 しかも強敵相手にはマチェットより、むしろ弓矢をメインに戦っている。
 性能的には申し分無いのだろうが……少しばかり扱いに困りそうだ。

「思い切って柏木さんに解体して貰う? このサイズの盾なら、皆の武器を強くする素材としては十分なんじゃない?」

 少しばかり惜しい気もするが……それしか無い、か。

「問題は加工が間に合うかどうか、かな。オリハルコン以上に扱いが難しいらしいし……」

『それでも、あの御仁ならば、やり遂げてくれる筈なのですニャー』

 トムの柏木さんに対する信頼度は異常に高い。
 グリフォンの変異種を倒す際に失ったトムの変わり種の武器の数々(鎖鎌のような武器や、ソードブレイカーなど)を、柏木さんが事も無げに作成してのけた一件が理由なのだろう。

 もちろん、オレにしても亜衣にしても、柏木さんの腕前には深い信頼を寄せている。
 せっかくの完成品の盾だが、ここはベクトルを180度変えて、オレ達の武器の素材になって貰うとしよう。
 肝の冷える思いをして手に入れたのだし、使うか使わないか不明瞭なタワーシールドの状態のまま、オレの『空間庫』の肥やしにしておくよりはよほど有意義な筈だ。

 トリアも、先ほどの意味ありげな微笑みを引っ込めて頷いてくれていた。
しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

勤続5年。1日15時間勤務。業務内容:戦闘ログ解析の俺。気づけばダンジョン配信界のスターになってました

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
ダンジョン出現から六年。攻略をライブ配信し投げ銭を稼ぐストリーマーは、いまや新時代のヒーローだ。その舞台裏、ひたすらモンスターの戦闘映像を解析する男が一人。百万件を超える戦闘ログを叩き込んだ頭脳は、彼が偶然カメラを握った瞬間に覚醒する。 敵の挙動を完全に読み切る彼の視点は、まさに戦場の未来を映す神の映像。 配信は熱狂の渦に包まれ、世界のトップストリーマーから専属オファーが殺到する。 常人離れした読みを手にした無名の裏方は、再びダンジョンへ舞い戻る。 誰も死なせないために。 そして、封じた過去の記憶と向き合うために。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。 人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。 それからおよそ20年。 ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。 ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。 そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。 ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。 次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。 そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。 ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。 採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。 しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。 そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。 そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。 しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。 そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。 本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。 そうして始まった少女による蹂躙劇。 明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。 こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような…… ※カクヨムにて先行公開しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

処理中です...