異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第1部:ゆるふわスローライフの幕開け ~元社畜、もふもふと家族に溺愛される最高の異世界生活、始めました~

第1話:悪夢は終わらない!社畜、異世界で目覚めたら絶望スタート!?

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 ガタン、と何かが大きく揺れる感覚。
 不快な浮遊感と共に、頭の奥で鈍い痛みが爆ぜた。

(なんだ……? いま、おれは……確か……)

 靄がかかったような思考の中で、必死に意識の糸をたぐり寄せようとする。
 そうだ、今日は半期に一度の全体会議の日で……。またしても上司の無茶振りプロジェクトの責任を押し付けられて……。

(ああ、またか……いつものことだ……)

 諦めにも似た感情が胸をよぎった、その瞬間。
 視界が真っ白に染まった。

 いや、違う。これは真っ白じゃない。
 これは——前世の記憶だ。

(前世……?)

 頭の中にざらついた違和感が広がっていく。
 現実感のない浮遊した思考の中で、「橘悠人」という名前がふと浮かぶ。
 三十代半ば。しがないシステムエンジニアだった、俺。

 何かが崩れていくような感覚。
 どこかで切れたはずの過去の記憶が、唐突に、しかし確かな輪郭を伴って立ち上がろうとしていた。

 そうだ、俺は——橘悠人たちばなゆうと。三十代半ば、しがないシステムエンジニアだった。
 毎日毎日、終わらない残業。休日出勤は当たり前のように組み込まれていて、家には寝に帰るだけの生活。

 鳴り響く上司の怒声。
 鳴り止まないクライアントからの無茶な要求。
 ろくに上がらない給料。六畳一間の狭いアパート。
 友達と呼べるのは、栄養ドリンクとコンビニ弁当くらいだった。

(ああ、思い出したくもない……あの地獄のような日々を……!)

 頭の中で、過去の映像が嵐のように駆け巡る。
 蛍光灯がちらつく、薄暗いオフィス。積み上げられた書類の山。
 誰も喋らず、ただキーボードを叩く音だけが響く深夜の静寂。
 そして、何度も見た——終電後の、誰もいない駅のホーム。

(俺は……どうしてこんな記憶を……?)

 混乱、恐怖、そして何よりも——強烈な絶望感。
 それらが、心をじわじわと黒く塗りつぶしていく。
 そうだ。俺は、あの地獄から逃げ出したかった。何度も、何度も思った。

 けれど結局、逃げられなかった。
 そして——多分、力尽きたんだ。限界を超えて、心も体も、もう保てなかったんだ。

(夢か……? これは、悪夢なのか……?)

 そうであってくれ、と強く願った。
 だが——あまりにも鮮明すぎる記憶の奔流は、それが紛れもない現実だったことを、無慈悲に突きつけてきた。

 ふと、自分の手が視界に入った。
 小さい。

 まるで、子供のような、白くて柔らかな手。
 俺の——橘悠人の——節くれだった指とは、似ても似つかない。

(……は?)

 ゆっくりと、重い瞼を押し上げる。

 最初に目に飛び込んできたのは、見たこともない豪奢な天蓋付きのベッドだった。
 繊細な刺繍が施されたカーテン。磨き上げられた木製の家具。
 壁には美しい絵画が飾られ、窓からは柔らかな陽光が差し込んでいる。

(なんだ、ここは……? 俺の部屋じゃない……こんな、まるで……お姫様の部屋みたいな……)

 混乱は頂点に達していた。
 頭の中では、橘悠人としての過酷な記憶が渦巻き、目の前には理解不能な光景が広がっている。

(まさか……俺は、死んで……どこか変な場所にでも転生したっていうのか……? いや、そんな馬鹿な……)

 だが——この小さな手も、この豪華すぎる部屋も、夢とは思えなかった。
 すべてが、あまりにも生々しく、手触りすら感じられるほどだった。

 ならば、これは。

(悪夢の……続き、なのか……?)

 もう、何も考えたくなかった。
 ただ、この訳の分からない状況から、逃げ出したかった。

 しかし、体は鉛のように重く、指一本動かすことすら億劫だった。
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