異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

文字の大きさ
21 / 87
第1部:ゆるふわスローライフの幕開け ~元社畜、もふもふと家族に溺愛される最高の異世界生活、始めました~

第21話:収穫祭と『幸せ運ぶ奇跡のクッキー』!僕、何も知りませんけど何か?

しおりを挟む
 ミニチュアダックスドラゴンとのちょっとした遭遇戦(?)からしばらく経ち、アスターテ領は収穫の秋を迎えていた。
 黄金色に輝く小麦畑、たわわに実った果樹、そして領民たちの喜びに満ちた笑顔。
 一年で最も活気にあふれるこの季節、領都アスターテでは盛大な『収穫祭』が開催されるのが習わしだ。

「ルークちゃん、明日は収穫祭よ!一緒に行きましょうね!」

 姉のセシルが、目を輝かせながら俺を誘ってきた。
 収穫祭と聞いても、前世の記憶を持つ俺には、あまりピンとこない。
 せいぜい、デパ地下の物産展くらいしか思い浮かばないのだ。

(まあ、でも、美味しいものがたくさん食べられるなら、行ってもいいかな……)

 俺の主な関心事は、もちろんそっちである。
 モルも、何か楽しい予感がするのか、俺の足元で「きゅい!きゅい!」と期待に満ちた声を上げていた。

 そして収穫祭当日。
 俺は、父と母、そして兄たちと姉に連れられて、領都アスターテへと向かった。
 いつもは比較的静かな領都も、今日ばかりは人でごった返しており、様々な出店が軒を連ね、陽気な音楽が鳴り響いている。
 焼きたてのパンの香ばしい匂い、果実酒の甘酸っぱい香り、そして領民たちの楽しそうな笑い声。
 その活気に、俺もモルも、自然と心が浮き立つのを感じた。

「ルーク、あれを見てごらん。見事なカボチャだろう?今年の出来は特に良いそうだ」

 父が、山のように積まれた巨大なカボチャを指さして言う。

「まあ、美味しそうなお肉!ベルトラン、後であれを買いましょう!」

 母は、豪快に焼かれている猪の丸焼きに目を奪われている。
 兄たちと姉も、それぞれ興味のある店を覗いたり、旧知の領民と挨拶を交わしたりと、思い思いに祭りを楽しんでいるようだった。

 俺はといえば、もちろん食べ歩きに夢中だ。
 蜂蜜をたっぷりかけた焼きリンゴ、香ばしい木の実のパイ、採れたてのブドウで作ったジュース……。
 どれもこれも、素材の味が活きていて、とんでもなく美味しい。
 モルも、俺がこっそりおすそ分けするお菓子を、小さな口で幸せそうに頬張っている。

 そんな中、ふと、一角に人だかりができているのが目に入った。
 何だろうと近づいてみると、そこはチャリティーの出店で、手作りの工芸品やお菓子などが並べられている。
 その一角に、見覚えのあるクッキーが置かれていた。
 確かあれは……先日、俺が厨房でメイド長マーサと一緒に(というより、ほとんどマーサが作り、俺は味見と『魔法』で風味付けをしただけだが)作った、焼きりんごのクッキーだ。

 そのクッキーの隣には、やけに達筆な文字で書かれた立て札が。

『クライネル家の坊ちゃま秘伝! 幸せ運ぶ 焼きりんごクッキー(数量限定・お一人様三個まで)』

(…………は?)

 なんだその大層なネーミングは。
 というか、いつの間にこんなものが出品されていたんだ?
 俺が呆気に取られていると、ちょうどクッキーを買い求めたらしい貴婦人が、感激した様子で隣の友人に話しかけているのが聞こえてきた。

「まあ、奥様!このクッキー、本当に素晴らしいですわ!一口食べたら、なんだか体が軽くなって、幸せな気持ちになるんですもの!」
「ええ、本当に。まるで奇跡のようですわね。さすがはクライネル家の坊ちゃまの秘伝……」

(いやいやいや、秘伝も何も……俺はただ、リンゴが余ってたから適当に……)

 どうやら、俺の『生活魔法:至福の日常』で強化されたクッキーは、食べた人に多幸感を与える効果まで付与されていたらしい。
 もちろん、俺自身はそんな大層な効果があるとは露知らず、ただ「美味しくなーれ」と念じただけなのだが。

「ルーク、何を見ているんだい?」

 後ろから声をかけられ、振り返ると、姉のセシルが不思議そうな顔で立っていた。

「ううん、なんでもないよ、姉様! それより、あっちの綿あめみたいなの、美味しそうだなぁ!」

 俺は慌てて話題を逸らし、セシル姉様の手を引いてその場を離れた。
 自分の作った(ことになっている)クッキーが、まさか『奇跡のクッキー』として評判になっているとは、夢にも思わなかった。
 まあ、俺自身は全く関知していないところで勝手に盛り上がっているだけだし、別に実害もないからいいか。
 それよりも、今は目の前の綿あめ(この世界にもあるのか!)の方が重要だ。

 その頃、遠く離れた王都では。
 旅の商人や、稀にアスターテ領を訪れた学者たちの間で、ある噂が囁かれ始めていた。
「東の辺境、アスターテの地は、近年稀に見る豊穣に恵まれているらしい」
「聞けば、その地では、病が癒え、心が満たされるという、奇跡のような食べ物があるとか……」
 その噂は、まだごく一部の、知的好奇心の強い者たちの間で交わされる、小さな囁きに過ぎなかった。
 だが、その囁きは、やがて一人の若き魔法研究者の耳へと届くことになるのだが……それはまた、少し先の話である。

 ルークは、そんなこととは露知らず、収穫祭の賑わいの中で、今日も今日とて、美味しいものを探し求め、モルとのゆるふわな時間を満喫するのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

処理中です...