異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第1部:ゆるふわスローライフの幕開け ~元社畜、もふもふと家族に溺愛される最高の異世界生活、始めました~

第20話:さよならドラゴンくん。優しい僕?いえ、面倒事は回避するだけです

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 俺の特製野菜スティック(『魔法』で超絶美味しくなったやつ)に胃袋を掴まれたミニチュアダックスドラゴンは、すっかり俺に懐いてしまった。
 俺が歩けば後をついてくるし、俺が座れば膝の上に乗ろうとする。
 その姿は、まあ、確かに可愛い。
 モルとはまた違った、ちょっとおマヌケな感じの愛嬌がある。

 だがしかし、だ。
 可愛いからといって、ホイホイとペットを増やすわけにはいかない。
 俺の『ゆるふわニートライフ』の基本は、『何もしない』ことなのだ。
 モルのお世話だけでも、俺にとっては結構な重労働(主に精神的な)なのである。
 これ以上、お世話対象が増えるのは、断固として避けたい。

 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、家族たちは、この新しい珍客に興味津々だった。
 特に、母セレスティーナと姉セシルは、

「まあ、なんて珍しくて可愛らしいドラゴンなんでしょう!」
「ルークちゃん、この子にもお名前をつけてあげましょうよ!」

 と、すっかり飼う気満々である。
 父ライオネルも、

「うむ、ルークが気に入ったのなら、我が家で保護するのもよかろう。珍しい生き物だから、学者にでも見せてみるか?」

 などと、若干ズレたことを言い出す始末だ。
 長兄アランだけは、少しだけ冷静に「野生の生き物を屋敷で飼うのは、色々と問題があるのでは……」と懸念を示していたが、それも母と姉の「でも可愛いじゃないですか!」という鶴の一声(?)で、あっさり押し切られそうになっていた。

(まずい……このままでは、なし崩し的にドラゴンまでお世話する羽目になる……!)

 俺は、内心で焦りつつも、表面上は穏やかな笑みを崩さない。
 そして、膝の上で気持ちよさそうにしているミニチュアダックスドラゴン(まだ名前はない)の頭を撫でながら、優しく、しかし断固たる意志を込めて言った。

「この子はね、きっと森に家族がいるんだよ。だから、おうちに帰してあげないと可哀想だよ」

 その言葉に、母と姉は「まあ……」と少しだけ残念そうな顔をする。
 だが、俺は畳み掛ける。

「それにね、この子、母様の大事なトマトを食べちゃったんだ。悪い子じゃないけど、お庭のお野菜が全部なくなっちゃったら、僕たち、美味しいご飯が食べられなくなっちゃうよ?」

 食いしん坊の俺が言うと、妙な説得力があったらしい。
 母は「そ、そうね……菜園が心配だわ……」と、ようやく現実的な問題に思い至ったようだ。

 俺は、よし、と心の中でガッツポーズをする。
 そして、ミニチュアダックスドラゴンに向き直り、真剣な(つもり)の表情で語りかけた。

「ねえ、ドラゴンくん(仮)。君のおうちは森なんでしょ? お母さんや兄弟が心配してるかもしれないから、もう帰った方がいいよ。トマトのお詫びに、これ、お土産に持っていってね」

 そう言って、俺はバスケットに残っていた最後の野菜スティック(もちろん『魔法』で美味しくなっている)をドラゴンに差し出した。
 ドラゴンは、俺の言葉が分かったのかどうかは不明だが、野菜スティックを嬉しそうに受け取ると、名残惜しそうに俺の手に一度だけ頬をすり寄せた。
 そして、くるりと向きを変えると、茂みの中へと消えていった。
 その背中は、どこか寂しそうにも見えたが……まあ、野生の生き物は野生で暮らすのが一番だ。

(ふぅ……これで一件落着……かな?)

 俺が安堵のため息をついていると、父が感心したように言った。

「ルークは優しい子だな。そして、賢い。確かに、野生の生き物は自然に帰すのが一番だ」

 母も、

「本当に、ルークちゃんは心が綺麗だわ……ドラゴンさんも、きっと感謝していることでしょう」

 と、涙ぐんでいる。
 兄たちも姉も、口々に俺の判断を褒め称えてくれた。

(いや……俺はただ、これ以上お世話対象を増やしたくなかっただけなんだが……まあ、結果オーライか)

 こうして、ミニチュアダックスドラゴン騒動は、俺の機転(という名の面倒くさがり)によって、平和的に解決した。
 そして、俺の『動物を懐かせる不思議な力』と『優しい心(大嘘)』は、家族の間で改めて認識され、俺の『愛され末っ子』としての地位は、さらに強固なものとなったのだった。

 めでたし、めでたし。
 ……のはずなのだが、俺の足元では、モルが何やら「きゅいきゅい!(僕だけを見てればいいんだ!)」とでも言いたげに、俺のズボンの裾を引っ張っているのであった。
 どうやら、小さな相棒は、ちょっとだけヤキモチを妬いていたらしい。
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