異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第1部:ゆるふわスローライフの幕開け ~元社畜、もふもふと家族に溺愛される最高の異世界生活、始めました~

第19話:魔法のおやつで一発懐柔!?ただしお世話は絶対しませんからね!

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 次兄ベルトランの登場で、現場の空気は一気に緊迫感を増した。
 いや、緊迫しているのは主に兄様と使用人たちだけで、俺はと言えば、

(うわぁ……兄様、やる気満々だなぁ……相手、ちっちゃいトカゲもどきなのに……)

 と、若干引いていた。
 モルも、ベルトラン兄様のただならぬ雰囲気に少しだけ怖気づいたのか、俺の足にぴとっと寄り添っている。

「よし、ルークは下がっていろ!兄様がすぐに退治してやるからな!」

 ベルトラン兄様は、そう言って剣を構え、ミニチュアダックスドラゴンが隠れた茂みへと慎重に近づいていく。
 使用人たちも固唾を飲んでその様子を見守っている。
 まるで、これから世紀の大決戦でも始まるかのようだ。

 茂みの中から、ガサガサという音と、時折「きゅぅ……」という小さな、怯えたような鳴き声が聞こえてくる。
 どうやら、ミニチュアダックスドラゴンは、すっかり追い詰められてパニックになっているらしい。

(可哀想に……ただお腹が空いていただけなんだろうに……)

 そう思った瞬間、俺の頭に一つのアイデアが閃いた。
 確か、バスケットの中に、まだマリーが用意してくれたおやつが残っていたはずだ。
 確か……人参を甘く煮て、クッキー生地で包んだ、特製の野菜スティック。
 あれなら、あの小さなドラゴンも気に入るかもしれない。

 俺は、ベルトラン兄様や使用人たちの注意が茂みに集中している隙に、そっとバスケットから野菜スティックを一本取り出した。
 そして、心の中で念じる。

(もっと美味しくなーれ……お野菜だけど、お肉みたいに満足感があって、ちょっぴりスパイシーで、でも甘くて……とにかく、最高の味になーれ……!)

 指先がジン、と微かに痺れる感覚。
 よし、これで『魔法』はかかったはずだ。

 俺は、茂みの方へゆっくりと近づいていく。

「あっ、ルーク坊ちゃま!危のうございます!」

 マリーが慌てて止めようとするが、俺はそれに構わず、茂みの前にしゃがみ込んだ。

「ねえ、出ておいでよ。怖くないから」

 優しく声をかけると、茂みの奥から、怯えたような黒い瞳がこちらを覗いた。
 俺は、手に持った特製野菜スティックを、そっとドラゴンの鼻先に差し出す。
 甘くて香ばしい、そして何とも食欲をそそる匂いが、ふわりと漂った。

 ミニチュアダックスドラゴンは、最初は警戒していたものの、その抗いがたい匂いに釣られたのか、おそるおそる茂みから顔を出した。
 そして、小さな鼻をひくひくとさせながら、野菜スティックに近づいてくる。

 ぱくっ。

 小さな口で、野菜スティックの端を齧ったドラゴンは、次の瞬間、目をカッと見開いた。
 そして、まるでこの世の物とは思えないほど美味しいものを食べたかのように、夢中で野菜スティックに齧りつき始めたのだ。
 その勢いは凄まじく、あっという間に一本を平らげてしまった。

「きゅいーん!(おかわり!)」

 とでも言いたげに、ドラゴンは俺の足元にすり寄ってきて、キラキラした瞳で見上げてくる。
 その変わり身の速さに、俺も、そして後ろで見守っていた兄様たちも、唖然とするしかなかった。

「な……なんだこいつ……ルークに懐いたのか……?」

 ベルトラン兄様が、剣を構えたまま呆然と呟く。
 俺は、もう一本野菜スティックを取り出し、ドラゴンに与えながら、そのふわふわとした(鱗だけど、なぜか手触りが良い)頭を撫でてやった。

「うん、いい子だねぇ。お腹、空いてたんだねぇ」

 ドラゴンは、気持ちよさそうに目を細めている。
 その姿は、どう見ても凶暴な魔物には見えない。
 むしろ、ちょっと食いしん坊なだけの、可愛いペットだ。

 俺は、そのドラゴンを撫でながら、ふと、ある重大な問題に思い至った。

(……この子、悪い子じゃないけど……お世話、毎日って、なると……うーん……)

 心の声が、だだ漏れになりそうなのを必死でこらえる。
 モル一匹でさえ、俺にとっては十分すぎるお世話対象なのだ。これ以上増えるのは、正直、キャパオーバーだ。

「きゅいっ!(しっかりしなさい!)」

 まるで俺の心を見透かしたかのように、足元のモルが俺の足首を軽く小突いた。
 痛くはないが、その抗議の意思はしっかりと伝わってくる。

 その時、ベルトラン兄様が、目を輝かせて言った。

「お、ルーク!その子も肩に乗せてみるか!モルと両肩にもふもふだ!すごいぞ、それは!」

(……兄様、何も分かってない……!)

 俺は、内心で盛大にツッコミを入れつつ、愛想笑いを浮かべるしかなかった。
 こうして、クライネル家の小さな騒動は、俺の『魔法のおやつ』によって、あっけなく(そして、俺にとっては新たな悩みの種を抱えつつ)幕を閉じたのであった。
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