異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

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第2部:ゆるふわスローライフに新たな風? ~噂の真相と小さな来訪者たち~

第27話:王都からの旅人!噂を聞きつけた魔法研究者がアスターテ領へ!

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 アスターテ領に春風が心地よく吹き抜けるようになった頃。
 領都へと続く街道を、一台の立派な辻馬車がゆっくりと進んでいた。
 飾り気は少ないものの、その造りは堅牢で、長旅にも耐えうるしっかりとしたものだ。
 馬車の窓から外を眺めているのは、一人の若い男だった。

 年の頃は二十代前半といったところか。
 落ち着いた色合いの上質な旅装に身を包み、縁なしの眼鏡の奥の瞳は、知的な探究心に満ちている。
 彼の名は、エリオット・アシュフォード。
 王都にある国内最高峰の魔法アカデミーに籍を置く、若き魔法研究者である。

(ようやく……アスターテ領の入り口か……思ったよりも長旅だったな)

 エリオットは、馬車の揺れに身を任せながら、手にした羊皮紙のメモに目を落とした。
 そこには、彼がここ数ヶ月で集めた、アスターテ領に関する様々な噂や情報が書き留められている。

 ――東の辺境、アスターテの地は、近年稀に見る豊穣に恵まれている。
 ――その地では、病が癒え、心が満たされるという、奇跡のような食べ物があるらしい。
 ――アスターテ産の小麦で焼いたパンは、他とは比べ物にならないほど風味豊かだという。
 ――収穫祭では、一口食べると幸せになれるという、不思議な焼き菓子が出品されたとか。

 どれもこれも、おとぎ話のような、にわかには信じがたい話ばかりだ。
 だが、これらの情報を複数の異なる情報源――旅の商人、吟遊詩人、果ては王宮に出入りする一部の貴族――から得たことで、エリオットの学術的興味は強く刺激された。

(通常ではありえないほどの豊穣……『祝福』の力でも働いているというのか?あるいは、失われた古代の『地脈活性化魔法』の痕跡か……?あの『奇跡の食べ物』とやらは、特殊な錬金術の産物か、それとも未知の魔法薬草でも使われているのか……?)

 考えれば考えるほど、疑問は尽きない。
 アカデミーでの研究に行き詰まりを感じていたエリオットにとって、これらの噂は、まさに天啓のようにも思えたのだ。
 彼は、教授に研究休暇を申請し、自らの目でその真相を確かめるべく、このアスターテの地へとやって来たのである。

 やがて馬車は、アスターテ領の領都へと続く門をくぐった。
 エリオットが窓から見た領都の第一印象は、「穏やかで、活気があり、そして何よりも……空気が澄んでいる」というものだった。
 王都の喧騒とは無縁の、のどかな田舎町といった風情だが、道行く人々の表情は明るく、市場には新鮮な産物が溢れている。
 そして何より、空気が違う。
 まるで、雨上がりの森の中にいるかのような、清浄で、心が洗われるような空気だ。

(これは……ただの田舎町ではないな……確かに、何か特別なものを感じる……)

 エリオットは、ゴクリと喉を鳴らした。
 長旅の疲れも忘れ、彼の研究者としての血が騒ぎ始めているのを感じる。

 彼は、事前に手配しておいた宿屋に荷を解くと、まずは身なりを整え、クライネル子爵家への訪問の準備を始めた。
 この地の領主であるクライネル子爵に面会し、領内の調査許可を得ることが、彼の最初の目的だった。
 幸い、アカデミーからの紹介状もある。そう無下には扱われまい。

(さて……どんな発見が待っていることやら……)

 エリオットは、眼鏡の位置を直し、期待と、ほんの少しの緊張を胸に、クライネル子爵の屋敷へと向かうべく、宿屋の扉を開けた。
 その先で、彼の魔法学の常識を覆すような、とんでもない『奇跡』との出会いが待っていることなど、彼はまだ知る由もなかった。
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