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第4部:ゆるふわスローライフに最大の危機!? ~公爵夫人の『天使様』お持ち帰り計画と、王都からの刺客(美食家ぞろい)~
第77話:『天使』と『女帝』、運命の初対面! 試すような眼差しに、ルーク様の無自覚カウンター炸裂!?
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クライネル邸の最も豪華な客間に通されたイザベラ公爵夫人は、長旅の疲れを癒やすため、まずは母セレスティーナが心を込めて淹れたハーブティーでもてなされていた。
もちろん、そのハーブティーは、僕の『祝福オーラ』が染み込んだ特製の茶葉を使い、さらに母様が淹れる際に僕が「おいしくなぁれ~」と念を込めた(というより、ただそばにいただけの)逸品である。
銀のポットから注がれた琥珀色の液体は、ふわりと芳醇な香りを漂わせ、それだけで部屋全体の空気を優しく浄化していくかのようだ。
イザベラは、そのハーブティーを一口、音もなく含む。
そして、その紫水晶の瞳が、ほんの僅かに見開かれたのを、侍立していたゲルハルトは見逃さなかった。
その味は、彼女がこれまでに味わったどんな高級茶とも比較にならないほど、深く、複雑で、そして何よりも魂を慰撫するような温かさに満ちていたのだ。長年彼女を蝕んでいた、あの「何を味わっても味がしない」という感覚が、この一杯で薄らいでいくのを感じる。
(……これは……素晴らしい……。ただのハーブティーではない……。まるで、飲む者の心に直接語りかけてくるような……『生命の雫』とでも言うべきものね……)
内心では二度目の衝撃を受けていたイザベラだったが、その表情は完璧なまでに平静を装い、ただ静かにカップを置いた。
そして、いよいよ、彼女がこのアスターテ領を訪れた最大の目的――僕、ルーク・クライネルとの対面の時がやってきた。
「アラン、ルークをこちらへ。公爵夫人にご挨拶を」
父様の少し緊張した声に促され、アラン兄様に手を引かれた僕が、客間へと入っていく。
もちろん、僕の肩にはモルが、そして足元にはクロが、まるで小さな護衛騎士のように付き従っている。
客間の中央には、大きな肘掛け椅子に深く腰掛けた、それはもう息をのむほど美しい女性が座っていた。
キラキラした銀色の髪、宝石みたいな紫色の瞳、真っ白な肌。まるでおとぎ話に出てくるお姫様……いや、もっと威厳があるから、女王様かな?
「わー、きれいなひとだー。かみが、おほしさまみたいにキラキラしてるー」
僕は、思わず見たままの感想を口にしてしまう。
その瞬間、部屋の空気が一瞬だけ凍りついたような気がした。アラン兄様が、僕の口をそっと押さえようとするのが分かる。
しかし、イザベラ公爵夫人は、僕の言葉に何の反応も見せず、ただ、その鋭い紫水晶の瞳で、僕の頭のてっぺんから足の先までを、まるで獲物を品定めするかのように、じっと見つめていた。
(これが……報告にあった『天使』……。確かに、子供らしい無邪気さはあるけれど……それだけではない……何か、底知れないものを感じるわ……)
「あなたが、ルーク・クライネル……。噂に名高い『アスターテの天使様』かしら?」
イザベラの声は、美しくも冷たい鈴の音のように響いた。その声には、明らかに僕の反応を試すような、挑発的な響きが含まれている。
普通の子なら、その威圧感に泣き出してしまうかもしれない。
しかし、僕はきょとんとした顔で、彼女を見上げた。
「てんしさま? ううん、ぼく、ルークだよぉ。おねえさんは、だあれ? お名前はなぁに?」
僕の、あまりにも無邪気で、そして全く物怖じしない『無自覚カウンター』。
その瞬間、イザベラ公爵夫人の、完璧なまでに整えられた鉄仮面のような表情に、ほんの僅かではあったが、確かに亀裂が入ったように見えた。
まさか、こんなにもストレートに、子供扱いされるとは夢にも思っていなかったのだろう。
「……わたくしは、イザベラ・フォン・エルムガルドと申します。以後、お見知りおきを、ルーク様」
ほんの少しだけ、声のトーンが人間味を帯びたような気がした。
その時だった。
僕の足元にいたモルとクロが、まるで僕を守るかのように、イザベラ公爵夫人の前に進み出て、彼女をじっと見据えたのだ。
モルは、その大きな黒い瞳でイザベラを観察するように見つめ、クロは、まだ幼いながらも、その金色の瞳に警戒の色を浮かべ、低く「グルル……」と喉を鳴らしている。
「まあ……可愛らしい番犬たちね。特に、そちらの黒銀の子は……どこかで見たことがあるような、不思議な雰囲気を持っているわね……」
イザベラは、モルとクロを興味深そうに見つめる。
特にクロの首筋に微かに見える『月影の狼王家』の紋章の気配を、彼女の慧眼が見逃すはずもなかった。
(この子供……そして、この獣たち……。やはり、ただ者ではない……。面白い……実に、面白いわ……!)
イザベラ公爵夫人の紫水晶の瞳が、獲物を見つけた獣のように、妖しい輝きを増す。
『鉄の女帝』と『ゆるふわ天使』、そしてその小さな護衛たち。
運命の初対面は、こうして、静かな緊張と、そしてほんの少しのユーモアを孕みながら、幕を開けたのだった。
この出会いが、これからどんな物語を紡ぎ出すのか、まだ誰も知らない。
もちろん、そのハーブティーは、僕の『祝福オーラ』が染み込んだ特製の茶葉を使い、さらに母様が淹れる際に僕が「おいしくなぁれ~」と念を込めた(というより、ただそばにいただけの)逸品である。
銀のポットから注がれた琥珀色の液体は、ふわりと芳醇な香りを漂わせ、それだけで部屋全体の空気を優しく浄化していくかのようだ。
イザベラは、そのハーブティーを一口、音もなく含む。
そして、その紫水晶の瞳が、ほんの僅かに見開かれたのを、侍立していたゲルハルトは見逃さなかった。
その味は、彼女がこれまでに味わったどんな高級茶とも比較にならないほど、深く、複雑で、そして何よりも魂を慰撫するような温かさに満ちていたのだ。長年彼女を蝕んでいた、あの「何を味わっても味がしない」という感覚が、この一杯で薄らいでいくのを感じる。
(……これは……素晴らしい……。ただのハーブティーではない……。まるで、飲む者の心に直接語りかけてくるような……『生命の雫』とでも言うべきものね……)
内心では二度目の衝撃を受けていたイザベラだったが、その表情は完璧なまでに平静を装い、ただ静かにカップを置いた。
そして、いよいよ、彼女がこのアスターテ領を訪れた最大の目的――僕、ルーク・クライネルとの対面の時がやってきた。
「アラン、ルークをこちらへ。公爵夫人にご挨拶を」
父様の少し緊張した声に促され、アラン兄様に手を引かれた僕が、客間へと入っていく。
もちろん、僕の肩にはモルが、そして足元にはクロが、まるで小さな護衛騎士のように付き従っている。
客間の中央には、大きな肘掛け椅子に深く腰掛けた、それはもう息をのむほど美しい女性が座っていた。
キラキラした銀色の髪、宝石みたいな紫色の瞳、真っ白な肌。まるでおとぎ話に出てくるお姫様……いや、もっと威厳があるから、女王様かな?
「わー、きれいなひとだー。かみが、おほしさまみたいにキラキラしてるー」
僕は、思わず見たままの感想を口にしてしまう。
その瞬間、部屋の空気が一瞬だけ凍りついたような気がした。アラン兄様が、僕の口をそっと押さえようとするのが分かる。
しかし、イザベラ公爵夫人は、僕の言葉に何の反応も見せず、ただ、その鋭い紫水晶の瞳で、僕の頭のてっぺんから足の先までを、まるで獲物を品定めするかのように、じっと見つめていた。
(これが……報告にあった『天使』……。確かに、子供らしい無邪気さはあるけれど……それだけではない……何か、底知れないものを感じるわ……)
「あなたが、ルーク・クライネル……。噂に名高い『アスターテの天使様』かしら?」
イザベラの声は、美しくも冷たい鈴の音のように響いた。その声には、明らかに僕の反応を試すような、挑発的な響きが含まれている。
普通の子なら、その威圧感に泣き出してしまうかもしれない。
しかし、僕はきょとんとした顔で、彼女を見上げた。
「てんしさま? ううん、ぼく、ルークだよぉ。おねえさんは、だあれ? お名前はなぁに?」
僕の、あまりにも無邪気で、そして全く物怖じしない『無自覚カウンター』。
その瞬間、イザベラ公爵夫人の、完璧なまでに整えられた鉄仮面のような表情に、ほんの僅かではあったが、確かに亀裂が入ったように見えた。
まさか、こんなにもストレートに、子供扱いされるとは夢にも思っていなかったのだろう。
「……わたくしは、イザベラ・フォン・エルムガルドと申します。以後、お見知りおきを、ルーク様」
ほんの少しだけ、声のトーンが人間味を帯びたような気がした。
その時だった。
僕の足元にいたモルとクロが、まるで僕を守るかのように、イザベラ公爵夫人の前に進み出て、彼女をじっと見据えたのだ。
モルは、その大きな黒い瞳でイザベラを観察するように見つめ、クロは、まだ幼いながらも、その金色の瞳に警戒の色を浮かべ、低く「グルル……」と喉を鳴らしている。
「まあ……可愛らしい番犬たちね。特に、そちらの黒銀の子は……どこかで見たことがあるような、不思議な雰囲気を持っているわね……」
イザベラは、モルとクロを興味深そうに見つめる。
特にクロの首筋に微かに見える『月影の狼王家』の紋章の気配を、彼女の慧眼が見逃すはずもなかった。
(この子供……そして、この獣たち……。やはり、ただ者ではない……。面白い……実に、面白いわ……!)
イザベラ公爵夫人の紫水晶の瞳が、獲物を見つけた獣のように、妖しい輝きを増す。
『鉄の女帝』と『ゆるふわ天使』、そしてその小さな護衛たち。
運命の初対面は、こうして、静かな緊張と、そしてほんの少しのユーモアを孕みながら、幕を開けたのだった。
この出会いが、これからどんな物語を紡ぎ出すのか、まだ誰も知らない。
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