異世界でも働きたくないので、辺境貴族の末っ子としてもふもふと昼寝します

おまる

文字の大きさ
77 / 87
第4部:ゆるふわスローライフに最大の危機!? ~公爵夫人の『天使様』お持ち帰り計画と、王都からの刺客(美食家ぞろい)~

第77話:『天使』と『女帝』、運命の初対面! 試すような眼差しに、ルーク様の無自覚カウンター炸裂!?

しおりを挟む
 クライネル邸の最も豪華な客間に通されたイザベラ公爵夫人は、長旅の疲れを癒やすため、まずは母セレスティーナが心を込めて淹れたハーブティーでもてなされていた。
 もちろん、そのハーブティーは、僕の『祝福オーラ』が染み込んだ特製の茶葉を使い、さらに母様が淹れる際に僕が「おいしくなぁれ~」と念を込めた(というより、ただそばにいただけの)逸品である。
 銀のポットから注がれた琥珀色の液体は、ふわりと芳醇な香りを漂わせ、それだけで部屋全体の空気を優しく浄化していくかのようだ。

 イザベラは、そのハーブティーを一口、音もなく含む。
 そして、その紫水晶の瞳が、ほんの僅かに見開かれたのを、侍立していたゲルハルトは見逃さなかった。
 その味は、彼女がこれまでに味わったどんな高級茶とも比較にならないほど、深く、複雑で、そして何よりも魂を慰撫するような温かさに満ちていたのだ。長年彼女を蝕んでいた、あの「何を味わっても味がしない」という感覚が、この一杯で薄らいでいくのを感じる。

(……これは……素晴らしい……。ただのハーブティーではない……。まるで、飲む者の心に直接語りかけてくるような……『生命の雫』とでも言うべきものね……)

 内心では二度目の衝撃を受けていたイザベラだったが、その表情は完璧なまでに平静を装い、ただ静かにカップを置いた。
 そして、いよいよ、彼女がこのアスターテ領を訪れた最大の目的――僕、ルーク・クライネルとの対面の時がやってきた。

「アラン、ルークをこちらへ。公爵夫人にご挨拶を」

 父様の少し緊張した声に促され、アラン兄様に手を引かれた僕が、客間へと入っていく。
 もちろん、僕の肩にはモルが、そして足元にはクロが、まるで小さな護衛騎士のように付き従っている。

 客間の中央には、大きな肘掛け椅子に深く腰掛けた、それはもう息をのむほど美しい女性が座っていた。
 キラキラした銀色の髪、宝石みたいな紫色の瞳、真っ白な肌。まるでおとぎ話に出てくるお姫様……いや、もっと威厳があるから、女王様かな?

「わー、きれいなひとだー。かみが、おほしさまみたいにキラキラしてるー」

 僕は、思わず見たままの感想を口にしてしまう。
 その瞬間、部屋の空気が一瞬だけ凍りついたような気がした。アラン兄様が、僕の口をそっと押さえようとするのが分かる。
 しかし、イザベラ公爵夫人は、僕の言葉に何の反応も見せず、ただ、その鋭い紫水晶の瞳で、僕の頭のてっぺんから足の先までを、まるで獲物を品定めするかのように、じっと見つめていた。

(これが……報告にあった『天使』……。確かに、子供らしい無邪気さはあるけれど……それだけではない……何か、底知れないものを感じるわ……)

「あなたが、ルーク・クライネル……。噂に名高い『アスターテの天使様』かしら?」

 イザベラの声は、美しくも冷たい鈴の音のように響いた。その声には、明らかに僕の反応を試すような、挑発的な響きが含まれている。
 普通の子なら、その威圧感に泣き出してしまうかもしれない。
 しかし、僕はきょとんとした顔で、彼女を見上げた。

「てんしさま? ううん、ぼく、ルークだよぉ。おねえさんは、だあれ? お名前はなぁに?」

 僕の、あまりにも無邪気で、そして全く物怖じしない『無自覚カウンター』。
 その瞬間、イザベラ公爵夫人の、完璧なまでに整えられた鉄仮面のような表情に、ほんの僅かではあったが、確かに亀裂が入ったように見えた。
 まさか、こんなにもストレートに、子供扱いされるとは夢にも思っていなかったのだろう。

「……わたくしは、イザベラ・フォン・エルムガルドと申します。以後、お見知りおきを、ルーク様」

 ほんの少しだけ、声のトーンが人間味を帯びたような気がした。
 その時だった。
 僕の足元にいたモルとクロが、まるで僕を守るかのように、イザベラ公爵夫人の前に進み出て、彼女をじっと見据えたのだ。
 モルは、その大きな黒い瞳でイザベラを観察するように見つめ、クロは、まだ幼いながらも、その金色の瞳に警戒の色を浮かべ、低く「グルル……」と喉を鳴らしている。

「まあ……可愛らしい番犬たちね。特に、そちらの黒銀の子は……どこかで見たことがあるような、不思議な雰囲気を持っているわね……」

 イザベラは、モルとクロを興味深そうに見つめる。
 特にクロの首筋に微かに見える『月影の狼王家』の紋章の気配を、彼女の慧眼が見逃すはずもなかった。

(この子供……そして、この獣たち……。やはり、ただ者ではない……。面白い……実に、面白いわ……!)

 イザベラ公爵夫人の紫水晶の瞳が、獲物を見つけた獣のように、妖しい輝きを増す。
 『鉄の女帝』と『ゆるふわ天使』、そしてその小さな護衛たち。
 運命の初対面は、こうして、静かな緊張と、そしてほんの少しのユーモアを孕みながら、幕を開けたのだった。
 この出会いが、これからどんな物語を紡ぎ出すのか、まだ誰も知らない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さな貴族は色々最強!?

谷 優
ファンタジー
神様の手違いによって、別の世界の人間として生まれた清水 尊。 本来存在しない世界の異物を排除しようと見えざる者の手が働き、不運にも9歳という若さで息を引き取った。 神様はお詫びとして、記憶を持ったままの転生、そして加護を授けることを約束した。 その結果、異世界の貴族、侯爵家ウィリアム・ヴェスターとして生まれ変ることに。 転生先は優しい両親と、ちょっぴり愛の強い兄のいるとっても幸せな家庭であった。 魔法属性検査の日、ウィリアムは自分の属性に驚愕して__。 ウィリアムは、もふもふな友達と共に神様から貰った加護で皆を癒していく。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。 平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。 どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。

一人、辺境の地に置いていかれたので、迎えが来るまで生き延びたいと思います

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
大きなスタンビートが来るため、領民全てを引き連れ避難する事になった。 しかし、着替えを手伝っていたメイドが別のメイドに駆り出された後、光を避けるためにクローゼットの奥に行き、朝早く起こされ、まだまだ眠かった僕はそのまま寝てしまった。用事を済ませたメイドが部屋に戻ってきた時、目に付く場所に僕が居なかったので先に行ったと思い、開けっ放しだったクローゼットを閉めて、メイドも急いで外へ向かった。 全員が揃ったと思った一行はそのまま領地を後にした。 クローゼットの中に幼い子供が一人、取り残されている事を知らないまま

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...