49 / 155
本編
45 じゃあ恋人になろうって「じゃあ」って何だこのやろう ※R15
シュクラは先ほどまた奉納品だという魚の干物をおすそ分けに来てくれて、今日はスイの家で晩酌するのを遠慮する旨を伝えてきた。
「明日、それを使って何かアテを作っておくれ」
「わ、わかったけど……今日はお家で飲むの? ビール持ってく?」
「いや、今日は葬儀があったのでな。吾輩は葬儀の日は断酒するのじゃ」
「あ、そうなんだ」
「ビールは明日までのお楽しみにとっておくぞい」
「あ、はーい」
「あ、そうそうスイよ。ドラゴネッティ卿じゃがのう」
「うん?」
「何か今日は落ち込み気味のようであるから、くれぐれも優しく接してやれ」
「エミさんが……まあ、そっか。わかった」
「うむ。ではの」
そう言ってシュクラは帰っていったのだが、入れ違いに戻ってきたエミリオは、シュクラが言っていた通り明らかに元気がなかった。
まあ、昨日のサルベージ作業で仲間の亡骸や遺品を回収して、そしてその葬儀と二日続いて、仲間だった者たちの死を改めて実感したのだからそりゃあ悲しみもするだろうなとスイは思った。
「エミさんお疲れ様。お風呂湧いてるし、ご飯もできてるよ」
「ああ……ありがとう」
――どうしたのって聞くのも野暮か。知り合いの死っていくら慰められたところで悲しいものは悲しいもんね。
とりあえず再び魔力枯渇に陥ってしまったエミリオには栄養をしっかり取って休んでもらわないといけないので、おなかに優しくて栄養たっぷりの、野菜中心の和食の夕飯にしてみた。
初めてここに来たときも魔力枯渇だったけれど、そのときよりも格段に食欲が落ちてしまっているエミリオ。
結局、出された分はしっかり食べてくれたけれども、お替りまではしてくれなかったので、本当に心の底から落ち込んでいるのだなあと思った。
けれども、こう言っては何だがスイの持論としては「死んだ人間のことよりも、生きている人間の生活のほうが大事」というのがある。
亡くなられた人のことを思うと確かに悲しくなるけれど、いつまでも落ち込んでいては先に進むことはできないのだから、それはそれとしてしっかり食べて寝て、生きることを忘れないで欲しいものだ。
何か気分が上がるといいんだけどと思って、今日クローゼットから出したエミリオの寝間着替わりのTシャツは、スイが前の世界に居たころに好きだったロックバンドのライブTシャツだ。
仕事が忙しくて行けなかったので、公式サイトでライブ時のTシャツを購入したのだが、そのTシャツはいつもより大人気だったらしく、スイがサイトを見たときはもうXLしかサイズが無かった。
それでも「大は小を兼ねる」と思って着る用と保管用に二枚購入したものだ。サイズが大きいためエミリオに丁度いいと思って、お風呂用にバスタオルと一緒に手渡した。
いつものように一緒に入りたいと言うと思ったが、エミリオはバスタオルとTシャツを受け取ると「ありがとう」と微笑みながら受け取って一人でバスルームへ行ってしまった。
大丈夫かいなと思っていたら、既に勝手知ったるシャワーの音がちゃんと聞こえてきたので、なぜかひとまず安心した。
食事のあとを片付けて、明日の朝食の準備をしていたら、エミリオが脱衣所からほかほかしながら出てきたので、冷蔵庫から麦茶をグラスに注いで手渡してやると、エミリオはごくごくと飲んでいた。
「エミさん疲れたでしょ。先にベッドに行って寝てていいからね」
「ああ……すまないな」
――今日も昨日と同じできちんとゆっくり休ませたほうがいいかもね。それでなくても魔力一割切ってて体力まで消耗してるのに。それに今日はエミさん「スイと一緒じゃないと嫌だ」とかわがまま言わないし。やっぱ変かも。相当疲れてるんだなあ……。
いつもなら一緒に風呂に入って一緒のベッドに入り、そのまま疑似的な行為が始まるわけだが、今日は精神的に参っているように見えるエミリオにそんなことさせられない気がした。
エミリオが寝室へ向かった後ろ姿を見送ってから、スイも用意していた部屋着がわりのライブTシャツと短パン、バスタオルを持って風呂に入りに行った。
風呂から上がって身体を拭いて、髪を乾かしたりしてから、今日ギルドからもらってきた次のダンジョンのマッピング作業の依頼書を、寝る前にもう一度見ておこうかと思い、自室(寝室)に置きっぱなしだった仕事用のバッグを取りに行くことにしたスイ。
既に眠っているだろうエミリオを起こさないように、そーっとドアを開けたのだが、飛び込んできたのはまだベッド脇のテーブルに置いたライトが付いていて、ベッドの脇に腰かけて考え事をしていたらしいエミリオの姿だった。今日はお揃いのライブTシャツを着ていてなんだか可笑しい。
「あれっ、エミさんまだ起きてたの?」
「ああ……スイは?」
「あたしは……もうちょっと、その、今日もらってきた仕事の資料とか読んでおこうかと思って取りに来たんだ。エミさんはもう休んだほうがいいよ」
そう言いつつ仕事用のバッグをごそごそと漁って依頼書の入ったバインダーを取り出したスイだったが、立ち上がったときにすぐそばにエミリオが立っていたので一瞬驚いて後ずさった。
「ちょ、……いきなり後ろに立たないでよエミさん。びっくりするでしょ」
「ごめん、驚かすつもりはなかった。その……ちょっといいか、スイ」
「うん?」
「…………」
スイがバインダーをとりあえず鞄に戻して改めてエミリオに向かい合うと、エミリオはスイの手をそっと取って引き寄せ、そのままぎゅっと抱きしめてきた。
「わぷ。……エミさん? ど、どうしたの?」
「…………」
何も言わないエミリオ。もしかして昼間の葬儀のことで悲しみがぶり返してきて人肌が恋しいのかなと思って、スイもそのまま彼の背中に腕を回した。
しばらくそうしていたら、エミリオは何度も言いかけては止めを繰り返して、長い沈黙のあと、ようやっと口を開いた。
「……ごめん、スイ。俺の事、あとで引っ叩いたり蹴り倒したり、思う存分殴り飛ばしてくれていいから……」
「えっ」
「今日は……その、抱かせてくれないか? その、最後、まで……」
「…………えっ」
最後まで? 最後までってどういうことだ?
抱かせてくれって? 抱くって今のこういうハグのことじゃないっけ。
ちょっと待って、今彼って魔力枯渇リバイバル状態だから、言ってみれば発情してるわけだよね。だから、その、ニャンニャンを、いつものヤツを所望しているのであって。
でも何? 最後まで? 殴っても蹴ってもいいからって何?
それって、それって。
――いわゆる本番行為ってやつじゃないの。
スイはそこまで思い当たって、ふと彼の背に回していた腕を解いてエミリオの胸を押しどけた。そのまま数歩下がって疑問符がいっぱいの顔でエミリオを見た。
「え、あの、や、無理無理無理。あたしそれは無理だって……」
それは最初から無理だとエミリオには言っておいたはずなのだ。
エミリオとスイは身体から始まった関係だが交際などはしていない。そんな話お互いの間で一切出ていないから当たり前だ。
スイは恋人でも配偶者でもない男と妊娠の可能性を伴う行為をするのは考えられない。百歩譲った結果が、これまでのオーラルセックスだ。それでも少しずつだが確実に魔力回復ができることを発見して、この数日間二人で頑張ってきたわけじゃないか。
それなのに、何故今日になってエミリオはそんなことを言いだすのか。
「……その、何か、あったの? エミさん……」
エミリオは悲痛な顔になって、おずおずとスイの足元に跪いた。まるで、女王に謁見する騎士のごとく、懇願するようにスイを見つめたまま。
エミリオのターコイズブルーの瞳がどうしようもない焦燥感で涙に濡れていた。
「……頼む、頼むから……。俺は一分一秒でも早く王都に帰らなければならないんだ……力を貸してくれ、スイ、お願いだ……!」
エミリオはその体勢からスイの足にしがみつくようにして涙混じりの懇願をしている。彼から感じるのは焦燥感、何故だろう、何故エミリオはそんなに焦っているのか。
そんなすぐに帰らなければいけない用事ができたの? 帰るにしても、馬車で帰るんじゃなくて、転移魔法で一気に帰らないといけないほど急いでいるのだろうか。
エミリオに以前聞いたところ、一級魔法の転移魔法の魔法陣を、このシャガ地方から王都までの長距離を移動するために作り上げるのは、大体エミリオの魔力が四割ほど削られてしまうらしい。
彼と同じ大きさの魔力を持つスイとのオーラルセックスで回復するのは三日で二割。六日と大事を取ってもう一日、一週間ほど続ければ転移魔法一回分は回復するのではないか?
「……エミさんエミさん、あたし言ったよね? 本番ありの割りきった関係はガラじゃないから持たないって。あと一週間も休めば転移魔法使えるくらいまでは魔力も回復するだろうし、そのあとゆっくり王都で回復すれば……だからここは我慢してさあ、ベッドに戻って戻って」
その言葉を聞いたエミリオは一度きっと顔を上げてスイの顔を見上げると、ゆらりと立ち上がってからスイの目の前に立ち、そのまま上半身をスイのほうに前傾させてきた。顔が近すぎる。無理矢理迫るつもりか。
「……って、わあああ近い近い! いくらエミさんがイケメンでも、ダメ!」
「いけめん?」
エミリオが首をかしげているけれどそれどころじゃない。
すぐに急いで魔力回復が必要になって王都へ一分一秒も早く帰らねばならないというなら、なおさらスイにはそんな本番行為をしても「そんなこともあったねえ」なんて割り切ることなんて絶対にできない。ヤリ逃げされるようなものじゃないか。
スイは何度も自分に言う。自分はエミリオとは恋人でも配偶者でもないのだから。エミリオのことは好きだし、色んなことをしちゃったりもあったけれど、そこだけは現実。
「あー……ていうか、あたしはかなり未練がましいほうだから……最後までしといて割り切った身体の関係とか、ホ、ホント無理だもん」
「……割りきった関係じゃなければいいんだな?」
「は?」
「じゃあ恋人になろう、スイ。それなら良いだろう?」
「あの、ちょっと何言ってるかわかんない」
――恋人じゃないから無理と言ったら、じゃあ恋人になろうなんて軽すぎませんか。確かにそれを言ったらオッケーってことになっちゃうだろうけども。
「スイだって恋人はいないと言っていたじゃないか」
「今はね!? 確かにそうだけども! だからってこんな……」
「俺ではダメか? スイ……俺の恋人に……いや、俺を、スイの恋人にしてくれないか? ダメか?」
「だ、だめっていうんじゃないけども……」
「はあ……ん、もう、スイが欲しい……っ」
――も、もう発情しておる! はあはあって……アナタ。
同じ大きさかそれ以上の魔力を持つ者同士、本番行為を行えば、魔力枯渇症状は一気に全回復するという。
それは「魔力交換」という行為にあたる。もちろんお互いの粘膜同士の触れ合いなので、疑似ではいけない。基本、「生」で「膣内射精」なのだ。
いわゆる、本格的な子づくり行為に及ぶこと。それが真の「魔力交換」だと聞いている。
確かに短期間でエミリオの莫大な魔力を満タンに回復させるには現時点ではそれしか方法はない。
――だけど、だけどもね! その目的のために恋人になろうってそんなのおかしくないか?
べつにロマンチックな恋愛に憧れているわけじゃないし、これでも男女の付き合いの現実というものは嫌というほど見た。
でも、恋人になるっていうのは、魔力交換のためじゃなくて、好きだからなるものじゃないの? なんか、前提が違い過ぎる。
そのままぐいぐいとベッドに向かって押されて、膝裏がベッドに当たった次の瞬間、上背のあるエミリオに、スイは軽く押し倒されていた。
「明日、それを使って何かアテを作っておくれ」
「わ、わかったけど……今日はお家で飲むの? ビール持ってく?」
「いや、今日は葬儀があったのでな。吾輩は葬儀の日は断酒するのじゃ」
「あ、そうなんだ」
「ビールは明日までのお楽しみにとっておくぞい」
「あ、はーい」
「あ、そうそうスイよ。ドラゴネッティ卿じゃがのう」
「うん?」
「何か今日は落ち込み気味のようであるから、くれぐれも優しく接してやれ」
「エミさんが……まあ、そっか。わかった」
「うむ。ではの」
そう言ってシュクラは帰っていったのだが、入れ違いに戻ってきたエミリオは、シュクラが言っていた通り明らかに元気がなかった。
まあ、昨日のサルベージ作業で仲間の亡骸や遺品を回収して、そしてその葬儀と二日続いて、仲間だった者たちの死を改めて実感したのだからそりゃあ悲しみもするだろうなとスイは思った。
「エミさんお疲れ様。お風呂湧いてるし、ご飯もできてるよ」
「ああ……ありがとう」
――どうしたのって聞くのも野暮か。知り合いの死っていくら慰められたところで悲しいものは悲しいもんね。
とりあえず再び魔力枯渇に陥ってしまったエミリオには栄養をしっかり取って休んでもらわないといけないので、おなかに優しくて栄養たっぷりの、野菜中心の和食の夕飯にしてみた。
初めてここに来たときも魔力枯渇だったけれど、そのときよりも格段に食欲が落ちてしまっているエミリオ。
結局、出された分はしっかり食べてくれたけれども、お替りまではしてくれなかったので、本当に心の底から落ち込んでいるのだなあと思った。
けれども、こう言っては何だがスイの持論としては「死んだ人間のことよりも、生きている人間の生活のほうが大事」というのがある。
亡くなられた人のことを思うと確かに悲しくなるけれど、いつまでも落ち込んでいては先に進むことはできないのだから、それはそれとしてしっかり食べて寝て、生きることを忘れないで欲しいものだ。
何か気分が上がるといいんだけどと思って、今日クローゼットから出したエミリオの寝間着替わりのTシャツは、スイが前の世界に居たころに好きだったロックバンドのライブTシャツだ。
仕事が忙しくて行けなかったので、公式サイトでライブ時のTシャツを購入したのだが、そのTシャツはいつもより大人気だったらしく、スイがサイトを見たときはもうXLしかサイズが無かった。
それでも「大は小を兼ねる」と思って着る用と保管用に二枚購入したものだ。サイズが大きいためエミリオに丁度いいと思って、お風呂用にバスタオルと一緒に手渡した。
いつものように一緒に入りたいと言うと思ったが、エミリオはバスタオルとTシャツを受け取ると「ありがとう」と微笑みながら受け取って一人でバスルームへ行ってしまった。
大丈夫かいなと思っていたら、既に勝手知ったるシャワーの音がちゃんと聞こえてきたので、なぜかひとまず安心した。
食事のあとを片付けて、明日の朝食の準備をしていたら、エミリオが脱衣所からほかほかしながら出てきたので、冷蔵庫から麦茶をグラスに注いで手渡してやると、エミリオはごくごくと飲んでいた。
「エミさん疲れたでしょ。先にベッドに行って寝てていいからね」
「ああ……すまないな」
――今日も昨日と同じできちんとゆっくり休ませたほうがいいかもね。それでなくても魔力一割切ってて体力まで消耗してるのに。それに今日はエミさん「スイと一緒じゃないと嫌だ」とかわがまま言わないし。やっぱ変かも。相当疲れてるんだなあ……。
いつもなら一緒に風呂に入って一緒のベッドに入り、そのまま疑似的な行為が始まるわけだが、今日は精神的に参っているように見えるエミリオにそんなことさせられない気がした。
エミリオが寝室へ向かった後ろ姿を見送ってから、スイも用意していた部屋着がわりのライブTシャツと短パン、バスタオルを持って風呂に入りに行った。
風呂から上がって身体を拭いて、髪を乾かしたりしてから、今日ギルドからもらってきた次のダンジョンのマッピング作業の依頼書を、寝る前にもう一度見ておこうかと思い、自室(寝室)に置きっぱなしだった仕事用のバッグを取りに行くことにしたスイ。
既に眠っているだろうエミリオを起こさないように、そーっとドアを開けたのだが、飛び込んできたのはまだベッド脇のテーブルに置いたライトが付いていて、ベッドの脇に腰かけて考え事をしていたらしいエミリオの姿だった。今日はお揃いのライブTシャツを着ていてなんだか可笑しい。
「あれっ、エミさんまだ起きてたの?」
「ああ……スイは?」
「あたしは……もうちょっと、その、今日もらってきた仕事の資料とか読んでおこうかと思って取りに来たんだ。エミさんはもう休んだほうがいいよ」
そう言いつつ仕事用のバッグをごそごそと漁って依頼書の入ったバインダーを取り出したスイだったが、立ち上がったときにすぐそばにエミリオが立っていたので一瞬驚いて後ずさった。
「ちょ、……いきなり後ろに立たないでよエミさん。びっくりするでしょ」
「ごめん、驚かすつもりはなかった。その……ちょっといいか、スイ」
「うん?」
「…………」
スイがバインダーをとりあえず鞄に戻して改めてエミリオに向かい合うと、エミリオはスイの手をそっと取って引き寄せ、そのままぎゅっと抱きしめてきた。
「わぷ。……エミさん? ど、どうしたの?」
「…………」
何も言わないエミリオ。もしかして昼間の葬儀のことで悲しみがぶり返してきて人肌が恋しいのかなと思って、スイもそのまま彼の背中に腕を回した。
しばらくそうしていたら、エミリオは何度も言いかけては止めを繰り返して、長い沈黙のあと、ようやっと口を開いた。
「……ごめん、スイ。俺の事、あとで引っ叩いたり蹴り倒したり、思う存分殴り飛ばしてくれていいから……」
「えっ」
「今日は……その、抱かせてくれないか? その、最後、まで……」
「…………えっ」
最後まで? 最後までってどういうことだ?
抱かせてくれって? 抱くって今のこういうハグのことじゃないっけ。
ちょっと待って、今彼って魔力枯渇リバイバル状態だから、言ってみれば発情してるわけだよね。だから、その、ニャンニャンを、いつものヤツを所望しているのであって。
でも何? 最後まで? 殴っても蹴ってもいいからって何?
それって、それって。
――いわゆる本番行為ってやつじゃないの。
スイはそこまで思い当たって、ふと彼の背に回していた腕を解いてエミリオの胸を押しどけた。そのまま数歩下がって疑問符がいっぱいの顔でエミリオを見た。
「え、あの、や、無理無理無理。あたしそれは無理だって……」
それは最初から無理だとエミリオには言っておいたはずなのだ。
エミリオとスイは身体から始まった関係だが交際などはしていない。そんな話お互いの間で一切出ていないから当たり前だ。
スイは恋人でも配偶者でもない男と妊娠の可能性を伴う行為をするのは考えられない。百歩譲った結果が、これまでのオーラルセックスだ。それでも少しずつだが確実に魔力回復ができることを発見して、この数日間二人で頑張ってきたわけじゃないか。
それなのに、何故今日になってエミリオはそんなことを言いだすのか。
「……その、何か、あったの? エミさん……」
エミリオは悲痛な顔になって、おずおずとスイの足元に跪いた。まるで、女王に謁見する騎士のごとく、懇願するようにスイを見つめたまま。
エミリオのターコイズブルーの瞳がどうしようもない焦燥感で涙に濡れていた。
「……頼む、頼むから……。俺は一分一秒でも早く王都に帰らなければならないんだ……力を貸してくれ、スイ、お願いだ……!」
エミリオはその体勢からスイの足にしがみつくようにして涙混じりの懇願をしている。彼から感じるのは焦燥感、何故だろう、何故エミリオはそんなに焦っているのか。
そんなすぐに帰らなければいけない用事ができたの? 帰るにしても、馬車で帰るんじゃなくて、転移魔法で一気に帰らないといけないほど急いでいるのだろうか。
エミリオに以前聞いたところ、一級魔法の転移魔法の魔法陣を、このシャガ地方から王都までの長距離を移動するために作り上げるのは、大体エミリオの魔力が四割ほど削られてしまうらしい。
彼と同じ大きさの魔力を持つスイとのオーラルセックスで回復するのは三日で二割。六日と大事を取ってもう一日、一週間ほど続ければ転移魔法一回分は回復するのではないか?
「……エミさんエミさん、あたし言ったよね? 本番ありの割りきった関係はガラじゃないから持たないって。あと一週間も休めば転移魔法使えるくらいまでは魔力も回復するだろうし、そのあとゆっくり王都で回復すれば……だからここは我慢してさあ、ベッドに戻って戻って」
その言葉を聞いたエミリオは一度きっと顔を上げてスイの顔を見上げると、ゆらりと立ち上がってからスイの目の前に立ち、そのまま上半身をスイのほうに前傾させてきた。顔が近すぎる。無理矢理迫るつもりか。
「……って、わあああ近い近い! いくらエミさんがイケメンでも、ダメ!」
「いけめん?」
エミリオが首をかしげているけれどそれどころじゃない。
すぐに急いで魔力回復が必要になって王都へ一分一秒も早く帰らねばならないというなら、なおさらスイにはそんな本番行為をしても「そんなこともあったねえ」なんて割り切ることなんて絶対にできない。ヤリ逃げされるようなものじゃないか。
スイは何度も自分に言う。自分はエミリオとは恋人でも配偶者でもないのだから。エミリオのことは好きだし、色んなことをしちゃったりもあったけれど、そこだけは現実。
「あー……ていうか、あたしはかなり未練がましいほうだから……最後までしといて割り切った身体の関係とか、ホ、ホント無理だもん」
「……割りきった関係じゃなければいいんだな?」
「は?」
「じゃあ恋人になろう、スイ。それなら良いだろう?」
「あの、ちょっと何言ってるかわかんない」
――恋人じゃないから無理と言ったら、じゃあ恋人になろうなんて軽すぎませんか。確かにそれを言ったらオッケーってことになっちゃうだろうけども。
「スイだって恋人はいないと言っていたじゃないか」
「今はね!? 確かにそうだけども! だからってこんな……」
「俺ではダメか? スイ……俺の恋人に……いや、俺を、スイの恋人にしてくれないか? ダメか?」
「だ、だめっていうんじゃないけども……」
「はあ……ん、もう、スイが欲しい……っ」
――も、もう発情しておる! はあはあって……アナタ。
同じ大きさかそれ以上の魔力を持つ者同士、本番行為を行えば、魔力枯渇症状は一気に全回復するという。
それは「魔力交換」という行為にあたる。もちろんお互いの粘膜同士の触れ合いなので、疑似ではいけない。基本、「生」で「膣内射精」なのだ。
いわゆる、本格的な子づくり行為に及ぶこと。それが真の「魔力交換」だと聞いている。
確かに短期間でエミリオの莫大な魔力を満タンに回復させるには現時点ではそれしか方法はない。
――だけど、だけどもね! その目的のために恋人になろうってそんなのおかしくないか?
べつにロマンチックな恋愛に憧れているわけじゃないし、これでも男女の付き合いの現実というものは嫌というほど見た。
でも、恋人になるっていうのは、魔力交換のためじゃなくて、好きだからなるものじゃないの? なんか、前提が違い過ぎる。
そのままぐいぐいとベッドに向かって押されて、膝裏がベッドに当たった次の瞬間、上背のあるエミリオに、スイは軽く押し倒されていた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。