74 / 155
本編
70 湯気のむこうのシュクラ
全く意味はないのだけれど、足をクロスさせて「うぬぬぬ……」と唸りつつ下半身に力を入れているスイを横で片腕枕してこちらを見ているエミリオが呆れた顔をしていた。
「……何してるんだスイ」
「いや、何か……少しでも長く子種を留めておこうと、膣締めてる」
「……不要な分が流れてくるわけだから、それ意味ないよ」
「わかってんだよそんなこたあ」
「諦めて出しなさい。ほら」
「くっそ」
「女性がくそとか言わない」
聞き分けのない子を諭す兄のような優し気な口調で、やおら起き上がってやたらと見栄えのする筋肉質な裸をさらしながら、エミリオが魔法文言を唱えた。諦めて弛緩したスイの股の間からドロリと白いものが溢れてきたのを洗浄魔法で消し去ってしまった。
身も心も結ばれて、結婚はまだだけれど、遠距離恋愛が寂しいゆえの妊活しているスイとエミリオ。
来るときに魔法移動で結構な魔力消費の状態のエミリオであるから、妊活のつもりが普通に魔力交換している状態である。身体をつなげるようになってまだひと月も経っていないから、妊娠したかどうかの兆候なんてさっぱりわからない。
元の世界で妊娠検査薬でも買っておけばよかったと、スイは今更ながら後悔した。いくら元彼の悟とはすっかりご無沙汰であっても嗜みとしては買っておいても良かったのではないかと思う。
この慣れ親しんだマンションの一室を丸ごと持ってきたような部屋は、この地に来て強大な魔力を発現したスイの力で電化製品は普通に動いたり、消耗品は買い足したいと思ったら所持金と引き換えに補充される不思議な部屋だ。
けれど新規の現代日本の物はどんなに欲しいなと思っても魔法では手に入らないので、どうやら今この部屋の中にある物以外の新規の物が手に入ることはないようだ。
孫はまだかと急かされる嫁でもあるまいし、この世界的な結婚適齢期は知らないけれど、現代日本でいうところでスイの二十五歳という年齢は特に焦る必要はないのだが、エミリオと普通に身体を重ねるたびに思ってしまうのだ。この男の子供を産みたいと。
とりあえず先月の月経がいつ来たかを思い出して、遅れていないかカレンダーとにらめっこするしかない。シュクラにまたあの診察もどきのエロ・グロ・ナンセンスな行為をされるのは、もう金輪際御免被りたいわけだし。
そんなシュクラに、スイがシャガを離れて王都へ旅行してもいいか許可を取らなければいけない。
イチャイチャしてたのでろくに寝てもいないふわふわした頭を朝食の濃い目のコーヒーでシャキッとさせてから、スイとエミリオはシュクラ神殿にシュクラを訪ねることにした。
いつもなら王都の門が開く時間にはエミリオは王都へ帰るのだが、今日は昼までに行けばいいようになっているそうで、一緒に居られる時間が多くてスイは嬉しかった。
シュクラ神殿の敷地内にあるスイの家からは、神殿は徒歩一分だ。神殿前を朝の掃き掃除をしている聖人のおっちゃんらが、スイたちを見て挨拶をしてきた。
「おはようございます、スイ様。今日はドラゴネッティ卿もご一緒ですか」
「おはようございまーす」
「おはようございます。今日は午後出仕でして」
「そうでしたか。シュクラ様に御用ですか?」
「はい、起きてます?」
「どうでしょう、朝がお弱いお方でして」
まああれだけ毎晩ビールをガブガブ飲んでいればそうだろうなと、スイとエミリオは顔を見合わせて苦笑した。
「どうする? エミさん、やっぱり日を改めるか、夜にあたしからシュクラ様に言おうか」
「そうだな……お休みになられているところを起こすのも失礼だし」
「ああ、大丈夫ですよお二方。そろそろ朝のお勤めの時間ですから、起きてもらわないと困りますので」
好々爺な聖人のおっちゃんが二人をちょいちょいと手招きして神殿に招き入れた。応接室にでも連れていかれて待たされるのかと思いきや、おっちゃんにバトンタッチをされた聖女のおばちゃんに、こちらへどうぞと随分と奥まった部屋の前に通された。
何事かと思っておばちゃんを見ると、ニコニコしながら「よろしくおねがいします、お二方」と言われてドアを開けられたので、何が何だかわからないが入るしかなかった。
とりあえず、シュクラはちゃんと起きていた。だが朝の支度をしながら話をしてもいいかと言ってきたので、スイとエミリオはそれに応じているのだが。
「おはよう、スイ、ドラゴネッティ卿」
「おはよう、シュクラ様」
「おはようございます、シュクラ様。お邪魔して申し訳ありません」
「ってか、いいの? あたしらがこんな裏方のほうまで入り込んじゃって」
「かまわぬよー。他ならぬそなたらじゃしの」
かぽーん。
西シャガ村の温泉を思い出す、広いシュクラの浴室で水蒸気にしっとりしながら、スイとエミリオは風呂椅子に座ってシュクラと話すことになったのだ。服が濡れるだろうが、あとでエミリオが魔法で乾かしてくれると言っていた。
「すまぬな二人とも。夜なら吾輩も時間がとれたのじゃが、ドラゴネッティ卿の都合もあろうし、こんな姿で申し訳ないのう」
シュクラはかけ流しの大理石の浴槽にゆったりと浸かりながら、風呂係らしい聖人のおっちゃんに白い長い髪を洗ってもらっている。朝の支度に忙しいと言っていたくせに、とてもそうは見えない。ちなみに今日はちゃんと男性のシュクラだ。
湯の華なのか、乳白色の湯に胸まで浸かっているから裸の上半身が見えるだけだが、風呂なので一応全裸なシュクラ、その姿を見られることは全く恥ずかしがっていない。生粋のお貴族的な人(神だが)というのは下の世話まで召使い任せ、身体を見られたところで別段恥ずかしいとは思わないらしい。
貴族出身のエミリオは割と平然としているので、この世界でのお貴族様の朝のお仕度ってこういうのが普通なのかとスイは思った。
忙しいシュクラに手短に伝えるため、とりあえず本題に入ることにしたスイとエミリオは、今度スイが王都のエミリオの家族に会いに行くために、一時シャガを離れてもいいかを聞いてみた。
シャガから離れれば、シュクラから与えられた神の愛し子チートから外れると、シュクラからも聖人聖女たちからも口酸っぱく言われてきたので、こういったことはちゃんと聞いておかないといけない。
「ん~~~~~~、結論から言うとの」
「うん?」
「原則的には却下する」
「えええええええ」
「吾輩の力が及ばぬところへスイを行かせることはできぬ」
「ちょっと離れるだけだよ、ほんの数日」
「付与された力が全て無くなるのじゃぞ。どうなるかわかっとるのかスイ?」
「えっと……」
それはわかっているけれども、とブツブツ言い淀むスイに、シュクラは呆れた顔でスイに与えられた愛し子としてもチート能力をなぞって説明する。
「空間把握スキルとオートマッピングスキル剥奪で方向音痴」
「ぐは」
「自動書記スキル剥奪で手書き以外何もできん」
「現代人には辛い」
「モンスター遭遇率ゼロスキル剥奪で危険マシマシ。ちなみに、このスキルが働かない場合の神の愛し子はモンスターに狙われやすいぞ。奴らにとっては旨そうな匂いがするらしいからのう」
「なにそれ怖い」
「体力アップと病気罹患率ゼロスキル剥奪で様々な身体症状が出る。王都は空気悪いぞ。スギ多いし」
「うえ、花粉症再発? 忘れてたのに!」
「クリティカル率アップスキル剥奪で今までうまくいってたことがうまくいかなくなる」
「…………」
要するに今まで普通に暮らしてこれたことが、全てシュクラの恩恵によるものだと改めて知らされることになったスイ。
まあ、現代日本に居た一年前、仕事はブラック企業だったし、元彼の悟には浮気されるし、花粉症や季節の変わり目に必ず風邪をひいたりがあったけれど、このパブロ王国シャガ地方に異世界転移してから、まったくそういったことがなくて、のほほんと暮らしていたのも事実。確かに自分はシュクラのチートにおんぶにだっこ状態だったと思う。
一度恵まれた生活を手に入れると、それらが一切なくなったあとの生活に戻ることは人間には難しい。一年前の生活に戻るだけだというのに、頭では大丈夫と思っていても、いざそうなったときのことを考えるとじわじわと不安がもたげてくる。
「……やはり、難しいのですね。モンスターは俺が何とかできると思ったんですが」
騎士団の魔術師で、シャガの魔物討伐にも参加していたエミリオであるから、スイをモンスターの物理的な攻撃からは守れても、身体の病的な症状までは門外漢だ。スイの事を愛しているから、同じようにスイを大事に思っているシュクラの気持ちも良くわかるつもりだった。
しかし、スイはエミリオと今後一緒になるとして、そのご両親への挨拶もしないでいるのはちょっと考えられない。誠意のない人間関係なんて社会人としてはちょっと罪悪感も咎める。
それに……エミリオと今一緒に妊活しているなら尚更だ。もし無事に妊娠したら、生まれてくる子は親族みんなに祝福されて生まれてきて欲しい。
だからこそ、今回の挨拶は必要になると思うのだ。向こうから来てもらうというのは、エミリオをこちらに引っ越させる手前、あんまりやりたくない。エミリオの兄嫁は臨月だというし、無事出産できてもしばらくは子育てでシャガに来ることなんてできないに決まっている。
――愛し子チートもいいことばかりじゃないんだなあ。
八方塞がりだと思って、スイはわかりやすくがくりと頭を垂れた。エミリオが慰めるみたいに背中をさすってくれるのがなんだか申し訳ない。
そんなスイを見て、シュクラはふうと一息ついてから、ざばっと湯から立ち上がる。白い濁り湯と湯気であまり見えなかったシュクラの裸体があらわになり、スイは慌てて目を反らした。女神なシュクラとはエミリオと一緒にあーんなこーんなをやらかした間柄だけれど、男性の体つきをしたシュクラの全裸はさすがに見てはいけない物だと思った。
湯から上がったシュクラに、わらわらと寄ってきた風呂係の聖人がいそいそと大きなタオル的なもので身体や髪を拭き始める。
甲斐甲斐しく世話を焼かれながらシュクラはこちらに話しかけてきた。
「スイ、吾輩は原則的には、と言ったのじゃ」
「うん……?」
「原則があるということは、例外があるということじゃろ?」
「え?」
「え?」
長い白い髪を頭のタオルでまとめて、シルクのバスローブのようなものを纏ったシュクラは、うなだれるスイとエミリオに向かって、悪戯好きみたいなニカッとした笑みを浮かべた。
「特別に、吾輩もついて行ってやろうぞ。何、二、三日程度なら、神殿を留守にしても問題はないからの」
「……何してるんだスイ」
「いや、何か……少しでも長く子種を留めておこうと、膣締めてる」
「……不要な分が流れてくるわけだから、それ意味ないよ」
「わかってんだよそんなこたあ」
「諦めて出しなさい。ほら」
「くっそ」
「女性がくそとか言わない」
聞き分けのない子を諭す兄のような優し気な口調で、やおら起き上がってやたらと見栄えのする筋肉質な裸をさらしながら、エミリオが魔法文言を唱えた。諦めて弛緩したスイの股の間からドロリと白いものが溢れてきたのを洗浄魔法で消し去ってしまった。
身も心も結ばれて、結婚はまだだけれど、遠距離恋愛が寂しいゆえの妊活しているスイとエミリオ。
来るときに魔法移動で結構な魔力消費の状態のエミリオであるから、妊活のつもりが普通に魔力交換している状態である。身体をつなげるようになってまだひと月も経っていないから、妊娠したかどうかの兆候なんてさっぱりわからない。
元の世界で妊娠検査薬でも買っておけばよかったと、スイは今更ながら後悔した。いくら元彼の悟とはすっかりご無沙汰であっても嗜みとしては買っておいても良かったのではないかと思う。
この慣れ親しんだマンションの一室を丸ごと持ってきたような部屋は、この地に来て強大な魔力を発現したスイの力で電化製品は普通に動いたり、消耗品は買い足したいと思ったら所持金と引き換えに補充される不思議な部屋だ。
けれど新規の現代日本の物はどんなに欲しいなと思っても魔法では手に入らないので、どうやら今この部屋の中にある物以外の新規の物が手に入ることはないようだ。
孫はまだかと急かされる嫁でもあるまいし、この世界的な結婚適齢期は知らないけれど、現代日本でいうところでスイの二十五歳という年齢は特に焦る必要はないのだが、エミリオと普通に身体を重ねるたびに思ってしまうのだ。この男の子供を産みたいと。
とりあえず先月の月経がいつ来たかを思い出して、遅れていないかカレンダーとにらめっこするしかない。シュクラにまたあの診察もどきのエロ・グロ・ナンセンスな行為をされるのは、もう金輪際御免被りたいわけだし。
そんなシュクラに、スイがシャガを離れて王都へ旅行してもいいか許可を取らなければいけない。
イチャイチャしてたのでろくに寝てもいないふわふわした頭を朝食の濃い目のコーヒーでシャキッとさせてから、スイとエミリオはシュクラ神殿にシュクラを訪ねることにした。
いつもなら王都の門が開く時間にはエミリオは王都へ帰るのだが、今日は昼までに行けばいいようになっているそうで、一緒に居られる時間が多くてスイは嬉しかった。
シュクラ神殿の敷地内にあるスイの家からは、神殿は徒歩一分だ。神殿前を朝の掃き掃除をしている聖人のおっちゃんらが、スイたちを見て挨拶をしてきた。
「おはようございます、スイ様。今日はドラゴネッティ卿もご一緒ですか」
「おはようございまーす」
「おはようございます。今日は午後出仕でして」
「そうでしたか。シュクラ様に御用ですか?」
「はい、起きてます?」
「どうでしょう、朝がお弱いお方でして」
まああれだけ毎晩ビールをガブガブ飲んでいればそうだろうなと、スイとエミリオは顔を見合わせて苦笑した。
「どうする? エミさん、やっぱり日を改めるか、夜にあたしからシュクラ様に言おうか」
「そうだな……お休みになられているところを起こすのも失礼だし」
「ああ、大丈夫ですよお二方。そろそろ朝のお勤めの時間ですから、起きてもらわないと困りますので」
好々爺な聖人のおっちゃんが二人をちょいちょいと手招きして神殿に招き入れた。応接室にでも連れていかれて待たされるのかと思いきや、おっちゃんにバトンタッチをされた聖女のおばちゃんに、こちらへどうぞと随分と奥まった部屋の前に通された。
何事かと思っておばちゃんを見ると、ニコニコしながら「よろしくおねがいします、お二方」と言われてドアを開けられたので、何が何だかわからないが入るしかなかった。
とりあえず、シュクラはちゃんと起きていた。だが朝の支度をしながら話をしてもいいかと言ってきたので、スイとエミリオはそれに応じているのだが。
「おはよう、スイ、ドラゴネッティ卿」
「おはよう、シュクラ様」
「おはようございます、シュクラ様。お邪魔して申し訳ありません」
「ってか、いいの? あたしらがこんな裏方のほうまで入り込んじゃって」
「かまわぬよー。他ならぬそなたらじゃしの」
かぽーん。
西シャガ村の温泉を思い出す、広いシュクラの浴室で水蒸気にしっとりしながら、スイとエミリオは風呂椅子に座ってシュクラと話すことになったのだ。服が濡れるだろうが、あとでエミリオが魔法で乾かしてくれると言っていた。
「すまぬな二人とも。夜なら吾輩も時間がとれたのじゃが、ドラゴネッティ卿の都合もあろうし、こんな姿で申し訳ないのう」
シュクラはかけ流しの大理石の浴槽にゆったりと浸かりながら、風呂係らしい聖人のおっちゃんに白い長い髪を洗ってもらっている。朝の支度に忙しいと言っていたくせに、とてもそうは見えない。ちなみに今日はちゃんと男性のシュクラだ。
湯の華なのか、乳白色の湯に胸まで浸かっているから裸の上半身が見えるだけだが、風呂なので一応全裸なシュクラ、その姿を見られることは全く恥ずかしがっていない。生粋のお貴族的な人(神だが)というのは下の世話まで召使い任せ、身体を見られたところで別段恥ずかしいとは思わないらしい。
貴族出身のエミリオは割と平然としているので、この世界でのお貴族様の朝のお仕度ってこういうのが普通なのかとスイは思った。
忙しいシュクラに手短に伝えるため、とりあえず本題に入ることにしたスイとエミリオは、今度スイが王都のエミリオの家族に会いに行くために、一時シャガを離れてもいいかを聞いてみた。
シャガから離れれば、シュクラから与えられた神の愛し子チートから外れると、シュクラからも聖人聖女たちからも口酸っぱく言われてきたので、こういったことはちゃんと聞いておかないといけない。
「ん~~~~~~、結論から言うとの」
「うん?」
「原則的には却下する」
「えええええええ」
「吾輩の力が及ばぬところへスイを行かせることはできぬ」
「ちょっと離れるだけだよ、ほんの数日」
「付与された力が全て無くなるのじゃぞ。どうなるかわかっとるのかスイ?」
「えっと……」
それはわかっているけれども、とブツブツ言い淀むスイに、シュクラは呆れた顔でスイに与えられた愛し子としてもチート能力をなぞって説明する。
「空間把握スキルとオートマッピングスキル剥奪で方向音痴」
「ぐは」
「自動書記スキル剥奪で手書き以外何もできん」
「現代人には辛い」
「モンスター遭遇率ゼロスキル剥奪で危険マシマシ。ちなみに、このスキルが働かない場合の神の愛し子はモンスターに狙われやすいぞ。奴らにとっては旨そうな匂いがするらしいからのう」
「なにそれ怖い」
「体力アップと病気罹患率ゼロスキル剥奪で様々な身体症状が出る。王都は空気悪いぞ。スギ多いし」
「うえ、花粉症再発? 忘れてたのに!」
「クリティカル率アップスキル剥奪で今までうまくいってたことがうまくいかなくなる」
「…………」
要するに今まで普通に暮らしてこれたことが、全てシュクラの恩恵によるものだと改めて知らされることになったスイ。
まあ、現代日本に居た一年前、仕事はブラック企業だったし、元彼の悟には浮気されるし、花粉症や季節の変わり目に必ず風邪をひいたりがあったけれど、このパブロ王国シャガ地方に異世界転移してから、まったくそういったことがなくて、のほほんと暮らしていたのも事実。確かに自分はシュクラのチートにおんぶにだっこ状態だったと思う。
一度恵まれた生活を手に入れると、それらが一切なくなったあとの生活に戻ることは人間には難しい。一年前の生活に戻るだけだというのに、頭では大丈夫と思っていても、いざそうなったときのことを考えるとじわじわと不安がもたげてくる。
「……やはり、難しいのですね。モンスターは俺が何とかできると思ったんですが」
騎士団の魔術師で、シャガの魔物討伐にも参加していたエミリオであるから、スイをモンスターの物理的な攻撃からは守れても、身体の病的な症状までは門外漢だ。スイの事を愛しているから、同じようにスイを大事に思っているシュクラの気持ちも良くわかるつもりだった。
しかし、スイはエミリオと今後一緒になるとして、そのご両親への挨拶もしないでいるのはちょっと考えられない。誠意のない人間関係なんて社会人としてはちょっと罪悪感も咎める。
それに……エミリオと今一緒に妊活しているなら尚更だ。もし無事に妊娠したら、生まれてくる子は親族みんなに祝福されて生まれてきて欲しい。
だからこそ、今回の挨拶は必要になると思うのだ。向こうから来てもらうというのは、エミリオをこちらに引っ越させる手前、あんまりやりたくない。エミリオの兄嫁は臨月だというし、無事出産できてもしばらくは子育てでシャガに来ることなんてできないに決まっている。
――愛し子チートもいいことばかりじゃないんだなあ。
八方塞がりだと思って、スイはわかりやすくがくりと頭を垂れた。エミリオが慰めるみたいに背中をさすってくれるのがなんだか申し訳ない。
そんなスイを見て、シュクラはふうと一息ついてから、ざばっと湯から立ち上がる。白い濁り湯と湯気であまり見えなかったシュクラの裸体があらわになり、スイは慌てて目を反らした。女神なシュクラとはエミリオと一緒にあーんなこーんなをやらかした間柄だけれど、男性の体つきをしたシュクラの全裸はさすがに見てはいけない物だと思った。
湯から上がったシュクラに、わらわらと寄ってきた風呂係の聖人がいそいそと大きなタオル的なもので身体や髪を拭き始める。
甲斐甲斐しく世話を焼かれながらシュクラはこちらに話しかけてきた。
「スイ、吾輩は原則的には、と言ったのじゃ」
「うん……?」
「原則があるということは、例外があるということじゃろ?」
「え?」
「え?」
長い白い髪を頭のタオルでまとめて、シルクのバスローブのようなものを纏ったシュクラは、うなだれるスイとエミリオに向かって、悪戯好きみたいなニカッとした笑みを浮かべた。
「特別に、吾輩もついて行ってやろうぞ。何、二、三日程度なら、神殿を留守にしても問題はないからの」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。