スイさんの恋人~本番ありの割りきった関係は無理と言ったら恋人になろうと言われました~

樹 史桜(いつき・ふみお)

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本編

97 クローズドサークル クアスとシュクラ1

 件の小さなレディが走っていく後をスイとエミリオが追いかけていくのを、シュクラとクアスも追う。
 ジェイディハウスは新しい場所であるため、観光客には人気スポットらしいので、家族連れの客らをちょっとすいませんと避けながらなんとか入口から入ることに成功した二人。
 しかし玄関に一歩足を踏み入れた瞬間、バシュッという耳に痛いような音がして、一瞬ぐらりと空間が歪んだように見えた。次に瞬きしたあと、それまで大勢いた観光客の姿が誰一人としていなくなってしまったのだ。

 驚いて一旦出ようとしたものの、その玄関フロアにあるドアを全て試しに開けてみたが、何度そこを通り抜けても元の玄関に戻ってきてしまう。

「なっ……! こ、これは……」
「ほう、面白い。来場客を閉鎖空間に閉じ込めるアトラクションか」
「閉鎖空間? そんな悪質なものアトラクションなわけないでしょう! そのような説明一切ありませんでしたよ」
「左様だったか? 王都の人間にしては面白いことを考えるのうと思ったというに」

 ひょうひょうとしているシュクラに、クアスはそういえばこの方は神の一柱だったなと思い出す。人間離れした美貌に圧倒されるけれども、それとは正反対にあっけらかんとしていてつかみどころがないシュクラ、その緊張感のない感じに、堅物のクアスは頭が痛くなってきた。
 そもそも、どうしてこの方と二人で閉じ込められるのだろう。昨日あのような不貞腐れた態度を取った手前、エミリオやスイがいなければかなり気まずい。

 しかしながら、閉鎖空間に人を閉じ込めるなんて、王都を守護する土地神メノルカのおひざ元での悪質な魔法の使用など、術者はなんという罰当たりなことをしでかすのかと怒りが溢れてくるクアス。

 他の皆はどこへ行ったのだろう。シャンテル嬢とスイとエミリオは無事なのか。他の観光客は巻き込まれていないだろうか。
 こんな術を施した者の目的は何だろう。一体何のためにこんなことを……。

「むう。閉鎖空間なぞに閉じ込められたら、スイと連絡が取れぬではないか。なんとかせい、カイラード卿」
「そ、そう言われましても」
「そなたの追っておる初代ジェイディ人形の魔力追跡は、ここにあるのではないのか?」
「そういえば……」

 クアスはメノルカから拝領したという魔力探知の魔道具を懐から取り出した。このバビちゃんキャッスルに来る前まで、方向は示されたが、これと言ってうんともすんともいわなかったというのに、今や魔道具は懐から取り出した瞬間に煌々と光を放ち始めた。
 間違いない、盗まれたという初代ジェイディ人形とは、ここにあるのだろう。

「もしかしたらその初代ジェイディを取り戻そうとするそなたへの妨害かもしれんぞ。そうなると吾輩はそなたの事情に巻き込まれたことになるな~」
「……大変申し訳ございません」

 昨日のことでかなり根に持っているらしいシュクラの厭味ったらしい言葉がぐさりと刺さる。

 だが確かにシュクラの言う通りかもしれない。初代ジェイディ人形を盗んだ犯人がここにいる、もしくは人形をここに隠したというのなら、それを追っているクアスに対しての妨害行動があってもおかしくない。そこまで死守したいものが子供用の人形なんて、クアスには全く理解できないのだが。

「お手数ですがシュクラ様のお力で切り抜けることは可能ですか? 私は残念ながら魔法のことは門外漢なものですから」
「大事なときに役に立たぬのう、騎士とは。ていうか、そなたの仕事じゃろうが」
「…………申しわけありません。そこをなんとか」
「う~~~む」

 生真面目なクアスに不本意極まる感じで頭を下げられて、ちょっといい気味だと思ったシュクラは、しょうがないともったいぶった態度で、とりあえずあたりを見回してみた。

 人間の作った魔法など、シュクラには打ち破るのは簡単だ。だが施した人間が魔法返しで被害を食らう可能性がある。まして神の天罰による魔法返しは倍返しどころの騒ぎではなくなってしまうので、シュクラが直接天罰を下すのは避けたいところだった。
 どのような罪人であっても一度は許さねばならない神の悲しいさがでもある。ここはなるべく穏便に、打ち破るのではなく、解除していくのがいいかもしれない。攻撃ではなく、攻略だ。

「む……」
「どうしました」
「何か来る」
「な……一体」

 シュクラがその金色の瞳に警戒を露わにしながら辺りを見回したのを見て、クアスはシュクラをかばうように背にして腰に帯びた剣の柄に右手を添える。

 くすくす……くすくす……

 かすかに遠くから女性の含み笑いのような声が聞こえてきた気がした。一人や二人ではなかった。そしてそれはどんどん重なって増えていく。
 どんどん増えていくその声が耳にわんわんと響いて痛くなって来た頃、足元に違和感を感じて下を見たクアスは、自分の足元の衝撃的な光景に背筋がぞくりと震えた。
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