春の夜はものみな淫らに

樹 史桜(いつき・ふみお)

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#2 ジラしすぎると猫様のツッコミが冴える

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 強引に唇と歯列を舌でこじ開けられて、及び腰になっている舌を絡め捕られる。じゅぼ、ちゅぱ、などと淫らな唾液交換の音が響き渡る。
 相変わらず外から発情期の猫のギャオオオオオという声が聞こえてくるけれどそれどころじゃない。ギャオオオオオじゃないよとアニーは外の野良猫に心の中でツッコミを入れる。

「は、んぅ、ちょ、旦那ひゃま、待っへ、んんっ」
「ダメ」
「んああっ、あふ、んぅっ……!」

 フルカスの舌は執拗に妻の舌に絡みつき、唾液を交換するというより、唾液を奪い取っていくようにじゅるじゅると音を立ててすすり上げてきた。
 舌の裏の動脈のある敏感な部分を舐め擦られて、アニーは息も絶え絶えになってくる。

「はあ……キス、気持ち良いなあ、アニー?」
「だん、は、あ、旦那様、こんな、こんなこと」
「んん……汗も甘いなあアニーは」
「や、やめっ……こらぁ」
「んー、ちゅ、はあ、いい、いい匂いがする」
「嗅ぐなああああっ!」

 風呂には入ったけれど、もう数時間前の話だ。キスから始まって耳、首筋、鎖骨、脇とフルカスの舌がアニーの身体を這いまわる感触に見悶えするけれど、くすぐったさに身を捩っても、夫の意外と強い押さえつける力にその抵抗すら虚しい。

 気付けば涙目になっていたアニーの目尻を目ざとく見つけたフルカスが、くすくす笑いながら、それでも興奮した面持ちでべろりと舐め取って行った。

「た、体液って」
「……ん? ああ……涙、汗、唾液、何でもいいんだけど」

 そう言いながらフルカスの手と頭はアニーの胸付近に降りていき、肌が手に吸い付いてくるようなしっとりとした妻の乳房を両手で包み込んでキスを落としてきた。谷間にじっとりと染み出した汗をべろりと舐める。

「ひゃ……っ」

 大きさと弾力を楽しむように揉みし抱いて先端を指先で擦って愛撫を繰り返す。もう片方へは唇を這わせ、その先端をそっと口に含んだ。
 指先と舌での愛撫により、そこが徐々に固くなっていくのを感じ、フルカスは満足そうに目を細めた。

「んっ……んゥ……は……あ……」

 胸に与えられる愛撫の快感とフルカスの長い黒髪が素肌にあたるのがくすぐったい。いつもなら声を抑えられないアニーだったが、今日は流石に声を出すことはためらわれて、せめて少しでも声を抑える努力とばかりに口元を両手で押さえていた。

 だって何か、いまでもギャオオオオオといつまで鳴いとんねんとと思うほど鳴いてる外の野良猫ちゃんに対抗しているみたいで恥ずかしいじゃないか。
 それでも息使いが荒くなるのはどうしても止められない。

「……アニーどうした? 声を聞かせてくれないの?」
「うっれしそうに言いますね……! 外の猫ちゃんみたいになるじゃないですかっ」
「聞かせてやればいいものを。猫ちゃんとアニーのハーモニー、聞きたいなあ……はあ……」
「変態くさい変態くさい! だ、旦那様、今日はもう……どうか許してくれませんかね……もう遅いし、ね」
「殺生なことを言うね」
「うひゃっ……!」

 今度はわざとチュパチュパと大きな音を立てながら乳首を舐めしゃぶり始める。舌先を尖らせて立ちあがった根元をぐりぐり刺激し、どんな肺活量かと思わせるほど強く啜り上げてくるものだから、ゾクゾクと背筋が震えてくるのが抑えられない。

「はぁ……っ、ん、は、あ、ああ……」

 乳首を舐めしゃぶりながら、手の動きに強弱をつけてふにふにと揉みしだき、もう片方の乳首の先端に指を立てて窪みをコリコリと擦ってくるその動きに、アニーは頭がおかしくなりそうな気分に襲われる。

「あああっ……ダメ、ダメだってば」

 拒否の言葉を口にしたところで、弱弱しく夫の艶のある長い黒髪をせいぜい指を入れて撫でまわすくらいしかできない。
 夫の口での愛撫が軽く歯を立ててきたのに変わった瞬間、アニーは全身に電流が走ったみたいにびくびくと震えて達した。
 それを顔を上げてドヤ顔で覗き込んでくる夫の顔がムカつく。アニーは知らず涙目になっていた緑の大きな瞳をジト目にしてフルカスを睨みつける。

 真っ赤な顔して涙目になりながら睨まれたところでフルカスは妻が可愛くてしょうがない。

「ああ可愛いねアニー。おっぱいだけでイッちゃった?」
「しょ、しょうがないでしょう、旦那様が……おっぱいばっかりそんなに、い、弄りまわすから!」
「そうだね、アニーのおっぱい可愛いからね」
「どういう意味……ちょっ!」

 囁くように言うフルカスの手はするりと下降してアニーの腿なぞり上げ、アニーの太ももの間にすっと入り込んだ。びちゃっという音がして案の定そこはうっすらと湿り気を帯び始めていた。

「ああこっちももうぐっしょぐしょだねえ」
「いっ……いちいち状況説明いらないからぁっ……!」

 フルカスの愛撫での興奮によりひっそりと己を主張していたその部分を、煽るようにそのままなぞり上げて、少し強めに擦るような愛撫を繰り返してやると、アニーの身体はびくびくと震えて、それでも声を上げずに、荒い、それでいて甘い息づかいを始める。それと同時に待ちきれないとでも言うかのようにフルカスの指に絡み付いて来る愛液が淫猥な水音を立たせた。

「ひっ……あっ…………あぁんっ!」

 その指がまるでそこに飲み込まれるようにゆっくりと中へと侵入して来た感覚に、アニーは大きく息を吸い込んで身体を弓なりに仰け反らせ、その時に初めてはっきりと声を上げた。

「(すごい声……!)」

 自分の声に驚きと羞恥で顔を真っ赤にして、またも口を押さえたものの、更に侵入してくる指が数を増やすと、押さえた手の中で小さく喘いだ。

「んっ…………んゥ……ああっ……!」

 フルカスの指がまるでそれ自身生き物のようにゆっくりと動き始めて、滴るような愛液の音と一緒に内壁を擦り、異物の侵入してきた痛みに顔を歪めるアニー。彼女の表情に、フルカスは少し動きを止めて、すぐに指を引き抜いた。

「気持ちいい?」
「は、はあ……そう、ですね……」

 まだ息も荒い中、それでも小さく返事をするアニーだったが、フルカスが身体を上げて、そのまま流れるようにアニーの足を曲げさせて押し開いたので、その表情は驚きのものに変化する。

「あ……! や、やめ……そんなところ……あっ……!」
「さっきの話だけど……必要なのは体液ってくくりで、汗、唾液、血……はやめとくとして、一番陰の属性が強いのって……はあ、やっぱりここだなあ、ん、ちゅ……!」
「ばかばかばかっ…………やっ……は……あぁっ……!」

 アニーの静止もむなしく、フルカスは顔を埋めてそこへ口づけた。
 既に潤っているが、まだ異物の侵入に対しては初々しい反応を見せる部分に、舌で内壁を擦るようにゆっくりと愛撫を加えてやる。
 そのなんとも言えない快感にぞくぞくと身を震わせるアニー、それでもささやかな抵抗のつもりか自身の足の間に臥せているフルカスの頭に片手をそえるも、フルカスの髪がさらさらと肌に触れて更なるくすぐったさに震えが止まらない。喉を鳴らしながらあふれ出す愛液を嚥下している夫を見て、もしかして、件の薬品の成分を取るつもりでそんなものを飲んでいるのかと思ったアニーは、恥ずかしいのと驚いたのとで変な興奮を覚えていく自分に嫌気がさした。

「あぁっ……いや……あ、あ、や、旦那様ってば……!」
「洪水だなあ」

 顔を上げたフルカスは今一度確かめるように指で触れた。フルカスの唾液が呼び水になったか、潤いは最高潮になっていた。白く泡立つほどにねっとりとしたその液体の様子が、フルカスの脳髄の一点を刺激する。
 フルカスはわざと見せつけるように引き抜いた指をペロリと舐めて見せ、暗闇に慣れた目でそれをはっきりと見たアニーは羞恥に顔をそらした。

 そしてたった今引き抜かれた指、何もなくなったその部分にどうしようもない切なさが襲いかかってきてしまう。
 思わずフルカスを見上げれば、「どうしたアニー?」と意地悪そうに聞いて来るので何も言えなくなってしまった。
 フルカスの指がまたも侵入してきて、またぞくぞくとした快感を覚えるも、すぐに引き抜かれてしまう。焦らす様なそんな行為にフルカスを涙目で睨みつけてみても、力も抜けてしまったアニーの表情は全然怖くなかった。怖いというよりも単なるご褒美。
 快感を覚えてもすぐにやめられてしまうもどかしさに、急に惨めになってきて、アニーは思わず涙をこぼした。

 悔しい悔しい。その気にさせといて焦らして愉しんでるとか、先に発情してたのそっちのくせに。

 しかしそんなふうに思ってしまう自分がとても下品な生き物にも思えて、恥ずかしさに消えてしまいたくなる。
 眉を悲しげにひそめて、息も上がって、それでもこのうずきをどうにかして欲しいのに、どうしたらいいのか分からない。
 こんなとき、世間の女性たちはどうするのだろうと頭をよぎるが、そんなこと他人に聞けるはずもない。
 アニーはただフルカスを見つめるしかなかった。

 涙を溜めてきっと睨み上げる、そんなアニーの表情に、フルカスはいささか意地悪そうにクスリと笑って、アニーの耳元でそっとささやいてみる。

「……どうしたの? 何か言いたいんじゃないのかな?」
「……」
「言ってみて。別に恥じることじゃないから」

 フルカスの言葉に羞恥の度合いを強めたアニーは、顔を反らしてしまう。

「ムカつく……そんなこと言えません」
「ここには私しかいない、自分の気持ちに素直になればいい」
「どうしても言わせるつもりですね! 意地悪くさい相変わらず」
「あはは、私の奥さん可愛いからついね」

 夜目にうす青く見えるフルカスの表情は、熱に浮かされたようなトロンとした表情で、その様子にアニーは今までにない色気を感じ取って、音が聞こえるくらいに鼓動が跳ね上がった。アニーの緑の瞳と、フルカスの赤茶色の瞳が視線を絡ませ合った。





『アオオオオオッ!』
『ンギャオオオオオオッ! コッ』





 沈黙を破るみたいにして今までよりひと際大きな猫の雄叫びが聞こえてきて、それまでの淫猥かつ蕩けさせられたみたいなねっとりした二人の空気を一気に一刀両断してしまう。

「ぷっ……」
「ふ、ふふふ……」
「ははは、何今の。最後の『コッ』て何だよ」
「あははは……もう……。ふふふふっ」

 夫婦の営みのピンクな雰囲気がもう台無しである。
 まあでも、仕方ない。こっちもあっちも、春なのだし。

「……くしゃみ、治まりましたね」
「そういえばそうかな……残念だけど」
「え? どうしてですか」
「んー」

 フルカスはアニーの額に自分の額をこつんと触れてから鼻先をすりすりし始める。その流れで一度啄むみたいなキスを落としてから、はあ、と悩ましい声でため息をついた。

「ね、アニー。もうやる気削がれちゃった?」
「ん?」
「花粉症の症状は治まったけど、こっちは治まってないからねえ」

 アニーの手を取って自分の股間に触れさせてきた。もうすっかり臍に付きそうなくらいに元気に背伸びしている分身君がいて、何やらこっちもしっとり濡れている。
 何を触らせてんだと一瞬フルカスを思わず睨みつけたものの、手を引っ込めることなくそこに指先でちょんと触れると、なんだか愛しみがこみ上げてくるから不思議だ。

「これは子宝の神様の言う通りにしないとですかね」
「だよねえ」
「ふふふっ」

 苦笑しつつもフルカスの首に腕を回して後ろで手を組む。

「旦那様……大きいの……ほしいです」

 フルカスをしっかりと見据えて悩ましく呟いたアニー。それを見たフルカスは、まさか本当に言ってもらえるとは思っていなかったために、それまでも早鐘を打っていた鼓動が一度大きくドクリと音を立てるのを聞いて、思わず言葉を失った。

 一度驚いた顔をしてみせたが、すぐに先ほどまでの表情に戻り、フルカスはクスリと笑った。
 フルカスは件の発情症状とアニーの痴態に興奮してすっかり屹立していた己自身をアニーの秘部に押し付けた。

「いいな……」
「…………」

 言葉にならなかったものの、アニーは目を閉じながらゆっくりと頷いた。それを満足げに確認すると、フルカスは少し眉を寄せながら勢いよく根元まで埋めた。
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