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1.プロローグ

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 俺の名は鈴木浩司。地元ではそこそこ大きい中小企業に勤める会社員であり、今年で25歳になる。

 2年程短大で俺なりに真面目に勉強をして、二十歳から本格的に就職活動をし始めた。ただ、俺は基本的に人とのコミュニケーションが苦手なので書類が通っていざ面接となっても、言葉がすぐに出てこなくて幾度となく落とされ3年の月日が過ぎていた。流石の俺も少し改善したようでやっと今の会社に就職出来たというわけだ。

 そんな日々の中でも家に帰ってきてはゲームして、気がつくと寝落ちして、会社に大急ぎで出勤する。毎日こんなことの繰り返しだった。16歳くらいの頃から依存とも言えるゲームが中心となりつつある日々を過ごしていた。
 というのはこういう時間に費やしたおかげでこんな歳になっちゃったなーという意味だ。別にゲームは好きだから後悔はしていない。


 話は変わるが最近、新しいタイプのVRMMOが発売された。

 今までのものは、ものの複雑な仕組みや人の細かな動きまでは再現できないということで無かったが、今回のは違った。バージョンアップされ、新たな機能が追加され革新的とも言えるゲーム界に衝撃を走らせた。

 その機能とは簡潔に纏めて言えばリアリティー性が増した生活を可能にするものである。
 どういうことか具体的に説明すると、まるで異世界で過ごしているようなリアリティーがあり、街を歩けば、NPCが臨機応変に―――とまではいかないが様々な人と人とのやり取りが実際にあるかのように食べ物を売っていたり、鍛冶屋に行って店主と仲良くなったからこその特典のようなものもあったりする。
 そして、憧れの魔法が多種多様に存在し、地を駆ける魔物相手に剣のみで戦うと言った現実では出来ないこともし得る戦闘ができるということで大ヒットしたそのゲームに追加された機能。

 今までにも戦闘は確かにあったが今回の違いを生んだのは、より現実味を帯びた感覚だ。五感の中では視覚、聴覚しか無かったので、どうしても現実味が感じられない。しかし、新たにアップデートされた機能の中には触覚と味覚があり、更にリアリティー性を増しているということだった。

 戦闘だけで無く味覚が加わったことでゲームの中に新たに食事という楽しみも加わった。ゲームの中で食事ができるせいでか、自然とリアルの食事は質素になり、美味しいものやたくさん食べたいと言った食欲はそっちで満たすようになった。
 それに、プレイヤー同士で闘うということも出来た。それは、森や遺跡とか限定で普通に買い物とかをして過ごす街やギルド内では出来ないものとなっていた。だから、これはどっちが狙っていたとかで揉めて話し合いでも上手く纏まらずどうしようも無くなってしまったときはよくこのようなプレイヤー同士で殺し合う何てこともたまにある。
 基本的には、社会人としてリアルでは生活をしている人も多いのだから和解出来ることが多い。そのようなことになるのは、リアルで嫌なことがあってその怒りをぶつけるためとか、ゲームのなかでは兎に角誰でもいいから倒したいとかいう人もいるからである。

 閑話休題、このようなハマる要素があり過ぎて前代未聞の大規模な社会現象を引き起こすもとともなった。

 無論、俺もそのゲームにハマった一人である。



 このゲームではギルドで登録するとき職業を選べる。
【武道家】【剣士】【魔術師】の3つだ。

【武闘家】は己の肉体のみで戦う。単純なようだが、高度な技術と日々の練習、そして、実戦のときにすぐ動けるようにしなくてはならない危機察知能力などや敵の予備動作から予測をできるようにしておく必要がある職業だ。

【剣士】は自分にあった剣を見つけてまずは基本となる動きを覚え、さらに好きな流派を選び腕を磨くというものだ。そこから自分の流派を作ってしまう人も少なくない。

【魔術師】は魔法の仕組みをしっかり覚えないと発動ができない。その為、常に冷静でいなければ魔法は確実に発動できない。そして、何より大切なのは魔法の効果を如何に脳内でイメージできるかが必須となる。

 そしてこの中から、俺は憧れの魔法を使える【魔術師】を選んだ。

 最初はファイアーボールやアクアジェットなど簡単なものから徐々に覚えていった。
 まだこれらは実戦に用いる程の攻撃力は無いが、基礎としてしっかり使いこなせなければならない。

 まあ、これもガチ勢だからか物覚えがいいのか分からないが魔法の〈風〉〈水〉〈火〉〈土〉と4つの属性があるのだがこれらを全て使えるようになるには数ヵ月後になるようだが、僅か3日で使えるようになってしまった。

 多分、これほどの早さで習得できたのもゲーム漬けの日々を過ごしてきたガチ勢だからであろう。徹夜で頑張り過ぎて昼夜逆転しかけたし。
 実際、物覚えがよかったら昨日のご飯ぐらいは思い出せるし、会社でも少なくとも今より活躍できるので評価ももう少し上にあっただろう。


 そんなこんなでギルドの依頼をこなしていった。

 いつしかゲームの中では、俺はいつしか名を馳せるプレイヤーとなっていた。
 ただその一方でそれをよく思わないものもいて、俺を狙ってくるプレイヤーが出てきたり、俺を倒したという称号を得たいとかいう変わり者がいたりで少し大変でもある。


 さて、依頼の中には薬草の採集等もあったが、俺は探査や討伐中心。

 採集は指定した薬草を採らないと依頼を達成できず違約金を取られてしまう。
 このゲームを始めたばかりの頃、試しにやってみたのだが違う薬草を採ったということで依頼を達成出来ず、違約金を取られた上に依頼でその間違えて採ってきてしまった薬草を採ってくるよりも大分格安で買い取られてしまった。

 それが、俺にとって最初で最後の採集の依頼だった。


 探査の依頼は基本的に安全だが、稀に素人にはとても手に負えないくらいのモンスターが出てくることがある。
 探査は、未開の地ということが多いから推奨されている基準をたとえ越えていたとしてもなのだから出てくるモンスターも定かでは無いのである意味運でその依頼の難度が決まっているようなものだ。

 俺の中で1番ヤバかったのは、古代遺跡で初めての探査だったと思う。
 まさか床にもトラップが仕掛けてあるとは思わず、何も気にせず歩いていたところ、沢山の小型竜ワイバーンが待ち伏せして出てきたのだ。

 基本1人でプレイの俺にとって最も恐れるべきは強さよりも数。
 小型竜ワイバーンは強さは俺の相手として問題は皆無。だが、どうにも数が多すぎた。
 なんと500匹程出てきたのだから。

 今までどこに居たんだよ!っとツッコミたくなるがゲームなので、細かいことを気にするとキリがない。

 取り敢えず円型防衛結界ブロックドームを使い身の安全を確保する。

 それを発動しながら、大型殲滅魔法を放ち続ける。俺の魔力が尽きるのが先か、小型竜ワイバーンを殲滅するのが先かということだ。

 それから、数分後に俺が何とか勝てた。
 記憶のなかでは1番長い数分だった筈だ。



 討伐は相手が明確なので対策が出来るので探査程の危険はない。

 数が多ければ討伐組として編成が行われてからの出発となるから数も気にしなくていい。実にいいシステムだ。

 こんな感じで討伐依頼を暇さえあればこなしていく日々を過ごす。


 そして、ゲームを始めて1年が経とうとしていた頃、俺は遂に公開されていた全ての魔法を使えるようになっていた。

 全部で、使った魔法は1000種を越えていたが実際は、アップデートされる度にどんなものか自分の眼で確かめるためで主要となる魔法に比べ性能が劣る場合が多く、魔法の練習というより移動などの退屈を紛らわせるためによるものだった。転移魔法を使えば一発だけど、高難度の討伐依頼場所は魔力が乱れすぎていて転移魔法は危ないので、使わないのが常識でもあった。

 全種類使えるようになっていたことに関しては、正直言うといつの間にかそうなっていたという感じだ。

 しかしそんな何と無くこのようなプレイヤーとなっていた。


 そんな俺の二つ名は《賢者》。


 ゲームの中では嬉しかったが、現実世界で友達に呼ばれると、とても恥ずかしい所ではなく顔から火が吹き出る思いになる。


 その後は俺は既存の魔法に飽きたため新しいことを始めた。

 それは、ゲームなかで前代未聞の魔法を自分で作るということだ。
 いや、正確には同時に発動と言った方が適切だろう。
 例えば、風の魔法で竜巻を作りで土の魔法で大量の石を混ぜて石の竜巻を作ってみるなどだ。

 これにより、討伐の効率が格段に上がった。


 日々この練習をやってると2つまで発動が可能だったのが、3つ、4つと出来るようになっていた。

 流石に5つの壁は厚く、乗り越えていない。乗り越えられるのか?そもそも。


 ある日、ゲームでいつものようにギルドの依頼を達成、魔法の開発で新しい組み合わせを試すのも、終えたので寝ることにした。なんの変哲もない日常である。



  ◇

『頑張れよ!俺』

 少し青みがかった銀髪の女の子が俺に直接呼び掛けるような声を掛けて来る。口調は見た目と合っておらず、変わった子という印象も受けた。だが、それ以上に何かを感じた。

 ピピピッ、ピピッ。

「あ、夢か」

 目覚ましを止め、いつもの休日のようにたっぷり昼まで寝た俺は、ベットから起き上がり部屋を出る。今日は仕事もない。一応、休日でも目覚ましは鳴らすようにして同じ時間に起きる習慣をつけている。

ただ、今日は少し変わった夢を見たものだ。頑張れよって何をだよ。

 しかし、夢だったことに変わり無いので深く考えることもなかった。キッチンの横の収納スペースにあるたくさんあるカップ麺から1つ手に取り蓋の一部を開け、ポットからお湯を注ぐ。

 カップ麺の準備が終わるとテレビをつける。

 そして、スマホを開きゲームを始める。これはいつもの流れである。
 俺はVRMMOだけやっているという訳では無い。
 単にゲームが好きなので、今まで頑張って進めて来たスマホゲームも毎日怠らない。最近はVRMMOばかりで、ログイン勢へとなりかけているが。


 気が付けばカップ麺は完成していた。

 カップ麺はいつも1分も経たずに食べ終わる。今回もそうだ。

 そして、ゲームを再開する。



 ふと時計を見るともう夕方だ。

 毎食カップ麺というわけにも行かないので、スーパーに惣菜を買いに出掛ける。

 スーパーは歩いて行けるくらい近所で遠くなくて便利だから、いつもそこに行く。


 歩いていると突然、俺は光に包まれた。

 しかし何事も無かったかのように、再びもとに戻る。

 心臓に悪いな、ていうか何なんだという感じだ。


 その後、若干さっきのことが気になりつつもスーパーに着き、いつも通り惣菜を選んでいる。

 しかし、次第に視界が暗くなっていく。

 ひ、貧血?
 俺はなったこと無い故にこれが貧血というものか、とか最初は呑気なことを思っていたが、徐々に状態は悪化していき立っていられなくなる。

 そして、視界も完全に無くなり次第に意識も徐々に遠退いていった。


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【小説家になろう】からコピペしてきているので、もしかしたらルビ(例、本気まじ)が上手くいっていないところがあるかもしれないので(小説家になろうとアルファポリスのルビの文字列が違うから)  そのときはお手数ですが感想にて教えていただいたり、頭の中で修正して読んでいただけると幸いです。
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