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【幕間】緊急会議
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白い大理石のようなもので出来た直径10メートルくらいある大きな円卓を囲むようにして、10人の神々が顔を合わせている。
そして、それぞれの神には従者が付き添って来ているのだろうか。部屋の隅にはそのような姿が見える。
「この度の緊急招集の通知を出したのは非常に大きな発見があったとの報告がテミスさんから入ったからです。それについての詳しい情報、今後の方針についての話し合いをするために集まってもらいました」
1人の若い男性が全員が座ったのを確認すると、席を立ち話し出す。一同は静かにその人物に視線を向け耳を傾ける。
どうやら、今回の神の集まりはテミスという者が提案したようだ。神の集まりは、定期的に行われるタイプと今回のような誰かが臨時で急遽行いたいことを軽い説明と共に3人以上の神の承認が得られると行われるタイプがある。これについては全員の承認が得られたそうだ。そして、話し合いの進行は第三者がすることに決まっている。
「既に軽く説明をしましたが、今回は神の資格を持つ知的生命体が無の惑星で誕生しました。自我が無いまま連れてきても困るので、神歴で言うところの3ヶ月後に実行をお願いします。発見者のテミスさんに任せようと思いますが、異論があるものは挙手をしてください」
10秒ほどの沈黙が神々が集まるこの場を流れ、より一層厳かな雰囲気を醸し出す。
「いないようですので話を進めます。テミスさんは昔……数百年前に勇者の資格を持つ者を混沌なる惑星に送り、戦争に明け暮れる人々を平和の道に導かせましたよね?」
「私はただ勇者になれるようにしただけですけれども、結果としてはそうなりましたね」
男性の問いに軽い感じの返答をする。
「その勇者と今回の神の資格を持つものが実は同じ国出身だったのですよ」
その言葉で神々がザワつく。テミスもそこまで把握は出来ていなかったようで若干の驚きを見せる。
従者はそれに対し空気の如く眉一つ動くことなく、直立する。そう、この場で声を発するが許されるのは神のみなのだ。
実はここにいる神全員が資格の惑星と呼ばれる惑星の住民全員が何らかの資格を持つという惑星出身なのだ。しかし、今回は無の惑星。本来は、資格も魔法もスキルもないはずのところだったのだが、前回初めて勇者の資格を持つものが現れたのだ。それは常識を翻すような出来事であった。
最初で最後。そう思われていたが、こんなにも早く再び資格を持つものが現れ、しかも前回の者と同郷で神の資格を有する。これは神を動揺させるに十分だったのだ。
「つまり『再び混沌なる惑星に送る』という認識でいいのですか?」
話が再び進み出したことで粛然とする。切り替えがスムーズである。神の名は伊達に得た訳ではないと推察する。
「そうです。常識なども前の世界のものが通用したり、文化も似ていると思われるのでテミスさんの負担も減るのでは無いのでしょうか?」
「ヘルメスさんは調査がいつも綿密故に毎度助かってます」
テミスは軽く頭を下げお礼の言葉を述べる。
「その気持ちはとても嬉しい限りで素直に受け取らせていただかせてもらいますね。しかし、神がそう易易と頭を下げるのは相手が誰であろうとあまりいただけませんよ」
「そうでしたね。今後気を付けるとしましょう。1つ確認をしたいのですがいいですか?」
神々は無論、構わないという様子である。
「その確認したいこととはなんでしょうか?」
その意志を代表して進行であるヘルメスが先に進める。
「その神の資格を持つ者はどのようにして、神にするのでしょうか?」
「それはテミスさんに任せた方がいいと私は思いますが、皆さんはどう思っていらっしゃいますか?」
その問いに対して各々がその意見を肯定する意見を口にする。
つまり、神の資格を持つ者についてはテミスに任されたということである。
「今回の招集目的を達成出来たため、これにて解散とします。本日はお集まりいただき感謝します」
そして、後ろに控える従者も一緒に一礼をする。従者の方は出る際も深々と頭を下げって行ったようだ。
今回は話す内容も少なく途中で反論も出ること無くすぐ終わってしまった。
そこに残ったのはヘルメスとテミスだけとなった。
「話しを円滑に進めていただきありがとうございます」
「いえいえ、テミスさんが提案を受け入れていただけたことの方が大きいですよ」
どちらも謙遜して互いを評価し合うが、今回はその両者に加えこの件のような神の資格を持つ者は前例があったからという条件が揃ったからだろう。
「私はおもちゃに乗って遊んでいるだけだと思っていましたが、しっかりと神の資格を持つ者について調べることが出来たことに驚きましたよ?」
その言葉には先程のような堅苦しい雰囲気は無く、まるで揶揄うようなものだった。
「私のこの宇宙要塞艇が……おもちゃ!? ――などとテミスさんに揶揄われて感情的になったのはずっと昔のことですよ? 本当にあなたという方はそういったことがお好きですよね……」
ヘルメスは呆れたような顔をするがそれはどこか楽しそうでもあった。これはいつも恒例の挨拶代わりのようなものだったからだ。
「君と初めて会った時は随分元気があったのに、神になってからは比較的大人しくなってしまってつまらないではないか」
またしてもテミスはヘルメスを揶揄う。
「もともとテミスさんを楽しませるためにそのようにしていた訳ではありませんし、先程のものもそうですがその揶揄いは私が否定されているようですからやめてくださいよ」
毎回テミスに揶揄われるとこういっているのだが、正直今となっては当たり前と化すこのやり取りを楽しめる自分がいるので、本当にやめて欲しいとは思っていない。このように言ったところで何も変わらないのだから今も言うだけなのだ。
「以後気をつけるとしよう」
いつもこのように返されるがその言葉が実行されたことは無い。
「では、私は調整などの準備もあるからこれにて失礼させてもらうよ。それにしても成長したよ」
そういいテミスはヘルメスの方をポンッと軽く叩いて、従者を連れて出口まで歩いて行く。
テミスは滅多にこのように自分を素直に褒めてくれることが少ないので一瞬戸惑ってしまう。
「あ、ありがとうございます! いつでも遊びに来てくださいよ?」
「もちろんまた来るよ。そのときは泊まりで来ようかな?」
テミスはそうヘルメスへ優しい笑顔を向けながら言った。
「はい、楽しみに待ってます!」
テミスの従者も深々と扉の前で足を止め頭を下げる。
そして、この場にはヘルメスとその従者のみとなった。
◇
この世界には、3つ生命が住まう惑星がある。
資格の惑星、混沌なる惑星、無の惑星。
資格の惑星は、その名の通り資格を持つ者で構成されている。
混沌なる惑星は、あの勇者を送るまでは人々同士の争いが絶えなかった。
無の惑星は、その名の通り特別な力を持つ者がいなかった。
これが、大まかな説明だ。
また、自身の惑星以外に行くと力が削がれるということも分かっている。しかし、無の惑星出身のあの勇者はそれが確認できなかったらしい。
だから、ほぼ神は他の惑星には無干渉なのだそうだが、前回の勇者のように異例の干渉を加えることもある。今回は一体どうなるのだろうか……。
まさに神のみぞ知っているのだろう。
そして、それぞれの神には従者が付き添って来ているのだろうか。部屋の隅にはそのような姿が見える。
「この度の緊急招集の通知を出したのは非常に大きな発見があったとの報告がテミスさんから入ったからです。それについての詳しい情報、今後の方針についての話し合いをするために集まってもらいました」
1人の若い男性が全員が座ったのを確認すると、席を立ち話し出す。一同は静かにその人物に視線を向け耳を傾ける。
どうやら、今回の神の集まりはテミスという者が提案したようだ。神の集まりは、定期的に行われるタイプと今回のような誰かが臨時で急遽行いたいことを軽い説明と共に3人以上の神の承認が得られると行われるタイプがある。これについては全員の承認が得られたそうだ。そして、話し合いの進行は第三者がすることに決まっている。
「既に軽く説明をしましたが、今回は神の資格を持つ知的生命体が無の惑星で誕生しました。自我が無いまま連れてきても困るので、神歴で言うところの3ヶ月後に実行をお願いします。発見者のテミスさんに任せようと思いますが、異論があるものは挙手をしてください」
10秒ほどの沈黙が神々が集まるこの場を流れ、より一層厳かな雰囲気を醸し出す。
「いないようですので話を進めます。テミスさんは昔……数百年前に勇者の資格を持つ者を混沌なる惑星に送り、戦争に明け暮れる人々を平和の道に導かせましたよね?」
「私はただ勇者になれるようにしただけですけれども、結果としてはそうなりましたね」
男性の問いに軽い感じの返答をする。
「その勇者と今回の神の資格を持つものが実は同じ国出身だったのですよ」
その言葉で神々がザワつく。テミスもそこまで把握は出来ていなかったようで若干の驚きを見せる。
従者はそれに対し空気の如く眉一つ動くことなく、直立する。そう、この場で声を発するが許されるのは神のみなのだ。
実はここにいる神全員が資格の惑星と呼ばれる惑星の住民全員が何らかの資格を持つという惑星出身なのだ。しかし、今回は無の惑星。本来は、資格も魔法もスキルもないはずのところだったのだが、前回初めて勇者の資格を持つものが現れたのだ。それは常識を翻すような出来事であった。
最初で最後。そう思われていたが、こんなにも早く再び資格を持つものが現れ、しかも前回の者と同郷で神の資格を有する。これは神を動揺させるに十分だったのだ。
「つまり『再び混沌なる惑星に送る』という認識でいいのですか?」
話が再び進み出したことで粛然とする。切り替えがスムーズである。神の名は伊達に得た訳ではないと推察する。
「そうです。常識なども前の世界のものが通用したり、文化も似ていると思われるのでテミスさんの負担も減るのでは無いのでしょうか?」
「ヘルメスさんは調査がいつも綿密故に毎度助かってます」
テミスは軽く頭を下げお礼の言葉を述べる。
「その気持ちはとても嬉しい限りで素直に受け取らせていただかせてもらいますね。しかし、神がそう易易と頭を下げるのは相手が誰であろうとあまりいただけませんよ」
「そうでしたね。今後気を付けるとしましょう。1つ確認をしたいのですがいいですか?」
神々は無論、構わないという様子である。
「その確認したいこととはなんでしょうか?」
その意志を代表して進行であるヘルメスが先に進める。
「その神の資格を持つ者はどのようにして、神にするのでしょうか?」
「それはテミスさんに任せた方がいいと私は思いますが、皆さんはどう思っていらっしゃいますか?」
その問いに対して各々がその意見を肯定する意見を口にする。
つまり、神の資格を持つ者についてはテミスに任されたということである。
「今回の招集目的を達成出来たため、これにて解散とします。本日はお集まりいただき感謝します」
そして、後ろに控える従者も一緒に一礼をする。従者の方は出る際も深々と頭を下げって行ったようだ。
今回は話す内容も少なく途中で反論も出ること無くすぐ終わってしまった。
そこに残ったのはヘルメスとテミスだけとなった。
「話しを円滑に進めていただきありがとうございます」
「いえいえ、テミスさんが提案を受け入れていただけたことの方が大きいですよ」
どちらも謙遜して互いを評価し合うが、今回はその両者に加えこの件のような神の資格を持つ者は前例があったからという条件が揃ったからだろう。
「私はおもちゃに乗って遊んでいるだけだと思っていましたが、しっかりと神の資格を持つ者について調べることが出来たことに驚きましたよ?」
その言葉には先程のような堅苦しい雰囲気は無く、まるで揶揄うようなものだった。
「私のこの宇宙要塞艇が……おもちゃ!? ――などとテミスさんに揶揄われて感情的になったのはずっと昔のことですよ? 本当にあなたという方はそういったことがお好きですよね……」
ヘルメスは呆れたような顔をするがそれはどこか楽しそうでもあった。これはいつも恒例の挨拶代わりのようなものだったからだ。
「君と初めて会った時は随分元気があったのに、神になってからは比較的大人しくなってしまってつまらないではないか」
またしてもテミスはヘルメスを揶揄う。
「もともとテミスさんを楽しませるためにそのようにしていた訳ではありませんし、先程のものもそうですがその揶揄いは私が否定されているようですからやめてくださいよ」
毎回テミスに揶揄われるとこういっているのだが、正直今となっては当たり前と化すこのやり取りを楽しめる自分がいるので、本当にやめて欲しいとは思っていない。このように言ったところで何も変わらないのだから今も言うだけなのだ。
「以後気をつけるとしよう」
いつもこのように返されるがその言葉が実行されたことは無い。
「では、私は調整などの準備もあるからこれにて失礼させてもらうよ。それにしても成長したよ」
そういいテミスはヘルメスの方をポンッと軽く叩いて、従者を連れて出口まで歩いて行く。
テミスは滅多にこのように自分を素直に褒めてくれることが少ないので一瞬戸惑ってしまう。
「あ、ありがとうございます! いつでも遊びに来てくださいよ?」
「もちろんまた来るよ。そのときは泊まりで来ようかな?」
テミスはそうヘルメスへ優しい笑顔を向けながら言った。
「はい、楽しみに待ってます!」
テミスの従者も深々と扉の前で足を止め頭を下げる。
そして、この場にはヘルメスとその従者のみとなった。
◇
この世界には、3つ生命が住まう惑星がある。
資格の惑星、混沌なる惑星、無の惑星。
資格の惑星は、その名の通り資格を持つ者で構成されている。
混沌なる惑星は、あの勇者を送るまでは人々同士の争いが絶えなかった。
無の惑星は、その名の通り特別な力を持つ者がいなかった。
これが、大まかな説明だ。
また、自身の惑星以外に行くと力が削がれるということも分かっている。しかし、無の惑星出身のあの勇者はそれが確認できなかったらしい。
だから、ほぼ神は他の惑星には無干渉なのだそうだが、前回の勇者のように異例の干渉を加えることもある。今回は一体どうなるのだろうか……。
まさに神のみぞ知っているのだろう。
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