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第1章 異世界へ、そしてダンジョンへ

9.帰ろうか

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 俺たちは、今20階層まできている。

 20階層からはトラップが仕掛けられていた。

 気づいたのは20階層に差し掛かったときに、俺の結界に触れた地面が爆発を起こしたときだ。

 まともに喰らえば重症となりダンジョンはそこまでだろう。
 後遺症が残ったり、最悪死に至るだろう。

 ダンジョンは人為的に造られたものなのだろうか?

 取り敢えず訓練とはいえカリスに魔物を狩りながらトラップまで探せというのは苦だろうから、トラップは発動しないように魔法を俺が施していく。

 そこまで悪質なものではなく、案外単純で分かりやすいところにある。

 20階層からはカリスが魔物を狩っていき、俺がトラップを処理していく。

 たまにポーションが活躍した。

 無論、変わったのはトラップだけではない。

 魔物の強さも最初のところに比べて格段に強くなっていた。カリスにとっては倒せないという程では無いものの、苦戦を強いられることがある。



「カリス、トラップは俺が処理しているから気にしなくても大丈夫だ」

「セシリアちゃん!何か魔物が集まって来て不味いよ!!」

 23階層でのことだった。
 カリスの周りには魔物が10匹程度四方から集まっていた。
 一体当たりでは問題は無いが、数は苦手のようだ。

 この場合|風刃の渦 上__ハイカッターストーム__#を使っても一点ではなく、四方なので自分の周りをぐるっと蹴散らすのは無理だろう。

 ここは俺が殺ってやるしかないか。

「分かった。確かにちっとばかし不味いな」

 魔物を一掃できる|漆黒之雷__エンドオブサンダー__#で台風のように中心には、空洞がありその周りに雲が発生した。

 流石に中心から見るのは怖すぎると思うので俺の隣に|記憶転移__メモリアルテレポート__#の応用で来てもらった。

「見てろよ」

「う、うん」

 カリスに見るように伝えると瞬く間に雲は漆黒に染まり、幾多の雷が魔物に抵抗する余地を与えず、 地面さえも消滅させてしまった。

 カリスを居たところを中心に半径3メートル当たりから地面は谷の様に深さ数十メートル幅5メートル程消滅していた。

 リング状の谷は地面が余りの高熱で気化してしまい、周りはガラス化していた。

 自然界に存在する雷なんて、これと比べれば静電気程度くらいだな。

「ねぇ……。私あの中にいたら死んでたよね」

 俺としたことが、ついうっかりやり過ぎてしまった……。
 あのときこちらにカリスに来てもらってなければ、良くて大火傷だろう。

 ゲームのときは効果がそのリング状のところにしか及ばない仕様だったがここはゲームではない。それは気にかけておき他の魔法で良かったと後悔する。

「雷のことしか考えてなくて、熱とか諸々考えてなかった。ちょっと見栄を張ろうとして頑張り過ぎました。ごめん!」

「もう、見栄何かわざわざ張らなくても普通にしてるだけでも十分。少し、冷静になって加減ぐらい出来るようにして欲しいよ。気を付けてね?本当に」

 前も、魔法で怖がらせてしまったのに再び同じ過ちを犯してまった。

 俺の常識からは大分手加減をしないと駄目らしいな。
 使おうとする魔法のツーランク下くらいを使うとするか。


「なぁ、カリス」

「ん?どうしたの?」

「剣使わないか?」

 俺は剣を使うことを提案した。
 折角あるのに、使わないというのは勿体無いからな。

「放出系魔法?ばかりで剣は殆ど使ってなかった」

「剣に|魔法強化__マジック・アップ__#を纏わせながら放出魔法を放てるようにする。これがいつでも出来れば、一人前といってもいいだろう」

「見本を見せるから見ていてくれ」

 剣に|魔法強化__マジック・アップ__#の魔法を纏わせると、蒼白く薄い光を纏った。
 その剣を振り下ろすと同時に両サイドから剣の斬撃効果が有効となる前方に、剣が振り下ろし斬られた、直後に縦に1メートル程の風の刃が交差した。

「理想はここまでだがいきなりこのレベルでできるかと言えば難しいだろう。次にやるのが今回の目標だ」

「良かった、あれは幾らなんでも無理だよ」

「いつかはできて欲しいがな」

 再び俺は剣を構える。
 剣には赤い火を纏っている。その剣を俺は振り下ろす。

 今度は剣の先から火球ファイアーボールが出てきて、地面に叩きつけた。

「これなら出来そうか?剣に火を纏わせその火を剣先に集めるイメージをする、と。そうすれば今のように火球ファイアーボールが出来る」

「いや、無理だよ。イメージ沸かないし、幾ら感覚がつかめても慣れそうにない」

 どうやら本気で言っているようだ。
 そもそも今まで魔法すら知らない世界で魔法を使えるものが居ただけも凄いのに、期待しすぎたか。

 カリスは魔法強化マジック・アップの魔法は得意ではないだろうし。

「最近、全然休んでないしちょっと休憩がしたいかな」

「カリス、大変なことに付き合わせて申し訳ない。ボクがどんどん話を進めてしまい意思を全然聞いていなかった」

「少しは、私の意見は訊いて欲しかったけど魔法が嫌いというわけでもないよ。唯、少し休みたいというか最近忙しくて大変というか………。ダンジョン以外で過ごしたくなったかな?」

 そうか、まだカリスは幼い。
 そんな彼女にずっとこんな環境はよくない、か。
 それにしてもさっきの膨れっ面可愛すぎです。

 っとそんな巫山戯たことを考えるのをやめて、機嫌を直してもらわないと。

「宿に戻るか。帰ったらボクがまた料理を頑張って振る舞おう」

「本当に?!楽しみ、今度は何かな?」

「お楽しみだ」

「えー、何それ」

 やはり、カリスは子供だな。

 前よりもっと頑張るとするか。
 魔法の扱いに気を付けるということは忘れてない。

「宿に帰る、忘れ物はないか?」

「大丈夫よ」

 カリスが準備が出来ると俺は記憶転移メモリアルテレポートで宿へ一瞬で戻る。

 最近、実感してきたが……転移魔法便利!

 俺たちはこうして宿に戻ってきた。


 ◇

「カリスはそこのソファーで休んでいてくれ」

「ありがとう、休ませてもらう」

 カリスにはソファーで休んでもらった。

 因みにそのソファーは俺の魔法、材質操作マテリアル・コントロールによって見た目以上に身体を優しく包み込み空中にいるかのように思えるほどフカフカのソファーに改造した。

 それはさておき俺はあることを考えた。

 今日の夕飯だ。

 元日本人の俺としては寿司や拉麺、鍋料理など拘りたい。

 今回は、寿司を作ろうと思う。
 まだ夕飯までには時間に余裕があるため買い出しに行ってこようと思う。

「カリス、ちょっと買い出しに行ってくる」

「あ、それなら私も手伝うよ!」

 カリスはこんなときまで気を使うのか。
 優しいやつだな。

「大丈夫だ。疲れただろうからゆっくり休んでいてくれていいんだ」

「大丈夫ならいいけど。気を付けて行ってね」

「分かったよ」

 俺は宿を出て商業街に向かう。

 店にはいろいろなものがある。その中から目的の一つである米を探す。

 店を眺めながら歩いていると――

「お嬢ちゃん、一人で家のおつかいなんて小さいのに偉いなあ。何かお探しかい?」

 お店の人から声を掛けられた。
 一瞬自分に、という自覚が無かったがすぐに察した俺は米について尋ねることにした。

「はい、麦を取り扱っているお店はどこ?」

 頑張って女に寄せて喋っているがいつまで続くかわからない。
 会話はなるべく手短に終わらせたい。

「そう言われてもなぁ~、どんな麦だ?」

 まさか、蛋白質が多い麦といっても伝わるわけがない。
 というかあるかすらも分からないため、慎重に怪しまれないように

「えーと、少し縦に長くて淡褐色の麦です」

 俺は玄米をイメージした。あと、なぜを付けた?自分でやったことに対して言うのもあれだけどさ。

「それなら、ここをまっすぐに5軒進んだところにあるぞ」

 を付けたことに関してはツッコまれなかった。さり気なかったからだな。良かった良かった。

「ありがとうございます」

 俺は軽く頭を下げて、店の人が指を指した方向に向かって歩いた。

 そろそろ空も徐々に茜色に染まり始めて来ているので、少し急ぐ。


 言われた店には、確かにいろいろな麦があった。

 探していると、以外に簡単に見つかった。
 この世界でも、俺みたいに米が好きな人がいるのか?

「すいません、これ10キロください」

 いつでも食べれるよう買いだめをしておく。

「10キロ、分かった。お嬢ちゃん結構思いが大丈夫か?」

 少し買いすぎてしまったか?
 空間収納エア・ボックスがあるから人の目が少ない路地裏にでも行ってそこで仕舞うか。

「いつものことだから、心配はしなくても大丈夫」

 若干、怪しまれたもの米を買えた。



 次は魚か。
 生で食べる文化は無いから自分で採るか。


 近くにあった魚屋の人に訊く。

「海ってここからどこら辺にありますか?」
  
「海か、遠いぞ。北西に30キロくらい進んだところだ」

「ありがとうございます!」

 理由を訊かれると面倒なので、早々にお辞儀をし、路地裏へ向かった。


 普通に道を歩いているだけでもそういう目で見てくる輩がいるくらいだ。

 更に、こういう路地裏は危険だから、あまり行きたくないが転移魔法を大通りで大胆にするわけにもいかないので入った。


 道の幅は人と人がすれ違える程度で、薄暗い。

 俺が米を収納にするのを後回しにして転移しようとしたとき。

「おいおい、こんなところに女の子一人ですか~?」

「もうすぐ、日も沈むってのになぁ?」

「ははは、お前ら。今日は楽しくなりそうだな」

「嬢ちゃん、今日はもう遅いしこっちにおいで。心配は要らないよ」

 最悪だ、5人も半端者と会うなんて。

「そっちに行くから10キニだけ向こう向いててくれる?」

 とっとと、転移したいからあっちを向いて欲しい。

「こっちも時間が無いんだ。あっちを向いてくれないか?」

 このままここにいたら何をするかは大体把握してる。そう言った面倒事は俺は嫌いだ。

「逃げられるとでも思ったか」

 こっちに5人揃って向かってきた。
 本当に面倒臭い奴等だ。

 転移しますか。確か、北西に30キロくらいだから、海の上にいきなり出るのは嫌なので25キロくらいにする。

「皆、バイバーイ」

 俺は半端者を何となく挑発させてから、座標転移テレポートを使った。
 前世ではとてもできなかったが今は魔法という特権があるからできることだ。少し、皮肉だな。


 着いた、ところでは森の中だったが北西の方にぼんやりだが海が見える。

 大体4キロくらいだろうか。
 再び座標転移テレポートを使う。

 今度はあと数百メートルと、歩いていける距離だ。


 着くとそこには綺麗に茜色に染まっていた海が広がっていた。   


 だが俺は景色を見に来た訳でもないので早速釣りを始めた。
 唯し、俺の釣りは少し普通のとは違い、魚型の罠を投げて捕まえる。

 罠は自動で毒がなく生で食べられるものが触ると、こちらの専用の鮮度を保てるクーラーボックスの様なところに転移する仕組みだ。

 実に楽だ。

 そんな罠を10個程投げる。
 数分後には、15匹も集まり罠をクーラーボックスに付いているボタンを押して回収した。

 山葵も欲しかったが今日は我慢してもらおう。

 記憶転移メモリアルテレポートで宿へ戻る。

「カリス、ただいま」

「おかえり、セシリアちゃん」

「今から、魔法で作るからまだ休んでいてくれ」

「なら、しょうがないね。でも、何か気づかない?部屋を見て」

 部屋をよく見ると、床に塵はなく、ものなども整理されていた。

「凄いな、すぐに気づけないですまなかった。綺麗になってるぞ」

「ありがと、料理任せるね」

 俺が気付き、カリスは満足げに言うと再びソファーでゴロゴロしていた。

 食材を出していく。

 米は、魔法で早送りしながら作るので数分だ。

 魚は、骨を取り除く。
 そして、内臓なども取り捌いていく。
 ネタとして丁度いい大きさにカットを全てし終えるまで数分だ。

 次に、カットした魚を空間収納エア・ボックスに仕舞い鮮度が落ちないようにする。

 酢飯を作っていく。
 特異魔法オリジナルで一瞬で完成する。
 さらに、醤油までも、出来た。

 この辺はしっかりゲームで開発した。
 頑張るところが違う?したいことをしただけだ、結局こうやって今、役に立っている。

 勿論、ここからも俺の特異魔法オリジナルの出番がある。

 何と握り寿司になるまで自動だ。

 ネタの大きさに合わせてシャリを作り握る。

 何も自分でやってないって?
 この魔法は俺の努力の結晶だ。

 寿司は60貫程作った。
 作り過ぎたかもしれない。

「カリス、ご飯が出来たぞ」

 ソファーから勢いよく立ち上がり、とても楽しそうな声で

「やった!もう出来たの?早いね、今向かうよ」

 俺は寿司を食卓に並べ席につく。

「これは寿司というものだ。さっき海で採ったばかりで鮮度抜群だから、生だけど問題はない」

「心配は要らないよ、だって普通に売ってる魚をたまに生で食べるし」

 大丈夫か?よく今まで食中毒にならなかったな、寄生虫とか細菌とか危ないのに。

「それはカリス、危ないからやめてくれ。食べたいときは俺に言ってくれれば生でも食べれる魚を採ってくるから」

「何度かお腹壊したことあるよ。やっぱり危なかったんだ。気をつけるね、これから」

 やはり、食中毒起こしてるじゃないか。
 気を付けて欲しいものだ。

「では、食べるとするか」

 俺たちは寿司を頬張る。

「「美味しい!」」

 自然と俺たちは言葉が出た。

 俺にとって懐かしの寿司。
 カリスにとって初めての寿司。

 既にもう、誰にも食べる手を止められないくらい夢中になって口に寿司を頬張っている。

 何故かカリスは目が潤んでいた。

「どうした、カリス?なんかあったのか泣いて」

「だってセシリアちゃんが食事のためにここまで頑張ってくれて嬉しいし、美味しいこれ」


 夕飯のために頑張ったかいがあったな。

 また、余裕があれば作ってやろう。

 ◇

 寿司は時間が余りなく、赤身、サーモン、タイのようなものがほとんどで貝やタコなどは用意できなかった。

 しかし、今はその60貫くらいあった寿司は全て食べてしまった。

 お腹一杯で横になると危ないので椅子に座りながらトランプをやっているところだ。

 こっちにもトランプという文化はあるようだ。

 何故かこの世界。意外に地球と同じところが多いところがある。
 単位、基準、生活は中世の終わり頃くらいといったところだろうか?大きく違う点はほとんどなく、カルチャーショックを受けることも無かった。もしも、主食が芋虫で、蜘蛛やゴ〇ブリを食べているとか言ってたら相当なダメージを心に負っただろう。
 これは、結構ありがたいことだ。


 今、カリスとババ抜きをしている。
 こちらでもトランプのババ抜きは定番のようだ。

「どれにしようかな~。これだ!」

「残念だな。ジョーカーだぞ」

「もう!」

 3回戦目でカリスは全敗だ。
 俺でも驚くくらい弱いこれで最後にしてあげよう。

「あがりだ」

「また、負けた。なんで?さては魔法でも使ったのかな?それって私は狡だと思うよ。私使えないからそれ相応のペナルティーが必要になるね。………私だけジョーカーが来たらセシリアちゃんに返してもう一回引き直せるとか?」

「それ全然ペナルティーになってないし、それだと俺の勝算皆無じゃん。しかも魔法使ってないし。じゃあそろそろ他のトランプの遊びをやるか」

「それがいいと思うよ」

 2人で遊べるものは………。これはどうだろうか。

「神経衰弱は知ってるか?」

「私、神経衰弱割りと強いけどいいの?本当にセシリアちゃんは大丈夫なの?負けちゃうかもしれないよ?」

 わざとらしいな。
 これ以上負けさせるのは可哀想過ぎるから、勝たせてやろうか。

 バラバラに散らさずに綺麗に並べるパターンにした。

 これで少しは簡単になったと思う。

「じゃんけんで先攻後攻を決めようか」

「それでいいよ」

 俺が先攻で、カリスが後攻という形になった。

「じゃあ、引くぞ」

 俺は敢えて、記憶に残りやすいように端の2つを引いた。

「私の番ね」


 そんなことが暫く続いた。

 カリスは俺の予想以上に強くて途中から本気を出したのに負けてしまった。(魔法は使っていません)

「凄いでしょ、始める前のあのハッタリ感を敢えて出したら完全に嵌まったね!最初から真面目にやってれば勝算があったかもしれないのにね」

 まさか、最初のあれが演技とはカリスなかなかに侮れなくなっている。
 謀られていたとは、気づかなかった。

「神経衰弱強いな。俺は強い方だけど勝つとは流石だ」

 本当は記憶力いい方でもないし、ろくに友達もいないような俺はそんなにやった経験もないので強くはない。だが、弱いというわけでもないので、まあ普通と言ったところだろう。

「流石でしょ?トランプの中では一番得意だからね」

「また今度リベンジして、そのときは負かしてやるからな」

「もちろんいいよ。まさかとは思うけど魔法なんて使わないでしょ?」

「使わないから心配しなくてもいいぞ。それより、もう遅いな。そろそろ寝るか」

「そうね、もうこんな時間、早いね」


 部屋の明かりを消して俺たちは寝床へと就く。
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