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無自覚な神の代行者
6 甲冑ジェネラル
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ピコン!
ピコン!
ピコン!
(何の音ぉ?もぅ、うるさいなぁ~)
眠くてたまらないのに、一定間隔で鳴る電子音に、シエルは無理やり起こされる。
音は聞き覚えがあった。懐かしい。けれど今は煩わしい。
重い瞼を無理やり開くと視界の右端に赤い『!』マークアイコンが表示され点滅している。近くにレアモンスターが湧いたことを知らせる警告音だ。
『!』マークが表示対象のレアモンスターは滅多に出現せず、そしてレベルが相応に高いモンスターなので、低レベルプレイヤーでは歯が立たず殺されるだけなので、急ぎ遠くに逃げなければならない。
しかし高レベルプレイヤーであれば、我先に駆けつけて戦う。無事倒すことができれば大量の経験値が貰えるほか、運が良ければレアドロップのアイテムを手に入れられるからだ。
とはいえ、戦闘に興味のないプレイヤー、主に街中で装備や武器、回復薬を作ったりする生産職と呼ばれるプレイヤーにはあまり関係がない。なので、アデルクライシスはコマンド画面で設定すれば、アイコンが表示されても警告音が出ないようにすることができる。
ただし、初期設定では音が鳴る仕様だった。
(まさか、この『シエル』ってシステム面の方は全部初期設定だったりするの?やめてよ?)
そうあってほしくないけれど、十分ありえる想定に気持ちが減なりする。アラート音を消そうと、億劫な体を起こす。そしてシステムコマンド画面を開き、設定項目をチェックするが、設定項目が大量にあって目的の項目がどこにあるのか見つけられない。
「えっと、アラートの消音ってどこで設定するんだったっけ……、あー!そんなの覚えてるわけないじゃない!」
閉鎖されているとはいえ、アデルクライシスにログインしたこと自体が一年以上ぶりなのだ。 そんな一度設定してしまえば終わりのやり方なんて、覚えているわけがない。
早めに休んだお陰で吐き気はだいぶ落ち着いだけれど、体のだるさや、これまでの疲れまで完全回復はしていない。一秒でも早くこの煩いアラート音を消したい苛立ちだけが増していく。
「もういい……」
一向に見つからないアラート音設定項目に、なげやりにコマンドウィンドウをシエルは閉じる。その間もアラート音は規則正しくレアモンスターの出現を知らせてくる。
(要は近くに現れたレアモンスターがいなくなればいいのよ!そうしたらこの煩い音も止まるもの!)
苛立ちのまま、閉じていた窓をバンッと開き、そこからシエルは宿の屋根上に飛び出た。
眼下に広がるのは、街灯一つない暗闇のヴェニカの街である。
夜もすっかり更けて、人々は寝静まり、明かりはほとんどない。街の中央にある広場や、要所と思われる場所に、お情け程度に松明が灯されている程度だ。
眠る前に脱ぎ捨てたケープは羽織らずに外に出たせいで、ノースリーブの腕に夜風が気持ちいいが、だからと屋根上で悠長にしている気分ではなかった。
開いたマップにはアラート音の元凶であるモンスターの、赤マーカーが点滅している。距離にして街から約10km弱。随分と街から近いところにレアモンスターが湧いたものだと頭の角で思う。
正常なゲームだったころであれば、街に居合わせた戦闘専門プレイヤーたちは歓喜し、こぞって討伐に向かっただろう。
モンスターの赤マーカーをターゲットし、詳細を確認する。
「甲冑ジェネラル?また変なのが湧いたわね」
時間や気候などで定期的に湧くレアモンスターではなく、誰かが意図的に出現条件を満たさない限り湧かないレアモンスターに、シエルは眉間をぴくりとさせる。
「誰が湧かせたのか知らないけれど、迷惑この上ないからさっさと倒しちゃおっと」
言うなり何も持っていなかったシエルの右手の平に黒呪士専用武器『インペリアル・エクス』がフッと出現する。
黒呪士は遠距離からの魔法攻撃を得意とする戦闘職の1つである。
シエルが魔力を込めると、S10武器である『インペリアル・エクス』が反応し、杖先にはめ込まれた赤水晶が魔力に呼応して、発光し始める。
黒呪士は敵との距離がどんなに遠く離れていても魔法攻撃を打つことはできた。
ただ、プレイヤーのレベルや黒呪士の熟練度、魔力、武器のランクによって、その魔法攻撃は距離に反比例して威力は小さくなるし、最悪魔法そのものが届かない。
だが、『シエル・レヴィンソン』のステータスは全てがでたらめなチートで、武器装備も最強のものが備わっている。だから、例え敵と10km離れていても、攻撃がきっと届くだろうと漠然と考えて、無理やり起こされた苛立ちのままにその魔法を放つ。
甲冑ジェネラルはゾンビ系のモンスターだ。炎や氷の魔法は耐性を持っていて通じにくい。単純な剣や槍などの物理的な攻撃は硬い装備が邪魔をして通りにくい。耐性が弱いのは、光属性、または雷属性の魔法。
甲冑ジェネラルにターゲットを合わせ、シエルは雷系魔法を小さく唱える。
【マルバアル】
それは、偶然にもルノール遺跡の先の森で、ヴィルフリートがグリーンドラゴンにトドメを刺すときに使ったのと同じ魔法だったが、威力は比べ物にならなかった。
ーードドドドドォオンン!!!
雲一つなかった空が一瞬で闇に閉ざされ、光の柱と見まがうような巨大な雷が轟音をたてて、甲冑ジェネラルを貫く。
その刹那、夜の大地を昼間より明るい光が照らした。巨大な雷が落ちたことで、大地は轟き、寝静まっていた街にまで地響きが伝達し、空の闇が消えても上空には静電気が小さく走る。
甲冑ジェネラルの位置を示していた赤マーカーはマップ上から消滅した。
甲冑ジェネラルはシエルの放ったマルバアル一発で倒されたのだ。
突然の轟音に、寝静まって暗闇だったヴェニカの街に、部屋の明かりがポツポツと灯っていき、何事かと家の外に恐る恐る住人が様子を確認しにでてきはじめた。
「思ってた通り、魔法は届いたわね。このチート過ぎる魔力ならそれも当然かもだけど、ほんと何考えてこんなステータスにしたんだろ、兄さんってば。でもこれでやっと静かに寝れるわ」
呆れて物も言えないが、とりあえず甲冑ジェネラルを倒したことで煩かったアラート音は消えた。『インペリアル・エクス』をアイテムボックスの中に戻し、シエルはさっと音も立てず窓から部屋に戻る。
そこでふとシエルは気づく。
(あれ?ヴィルがまだ戻ってきてない?)
外へ行くと聞いてからだいぶ時間は経っている。まだ戻っていないのかと思ったが、寝る直前に、朝までに戻らないかもしれないとかなんとか言っていたような気もする。
昼間は気持ち悪さで早く横になりたくて、深く考えなかったけれど、そんなに時間のかかる用事があったのだろうか?
とはいえ、こんな夜もふけた時間まで戻れないくらい忙しいのに、わざわざ連絡して余計な手間を取らせるのも申し訳ない。
とりあえず朝起きてから考えようと、シエルはまたベッドに潜り込んだ。
▼
<甲冑ジェネラルの強さは、出現条件に左右される>
甲冑ジェネラルと戦ったことのある者や、ある程度LVの高い者であれば、周知の知識だ。例えばモンスターに襲われて殺された村人の数や、召喚魔法を行使した召喚者のLVや力量、これらによって甲冑ジェネラルの強さは天と地の差が出る。
だからと言って、そこらへんのモンスターと甲冑ジェネラルが同程度の強さということは決してなく、最低限でもAランク以上でなければ応戦が難しい。これが甲冑ジェネラルが多くの冒険者たちから『面倒』と言われる所以だ。
そしてヴェニカの街近くに現れた甲冑ジェネラルは、悪い意味で強かった。
「くそっ!でかい図体のくせになんて速さだ!」
紙一重で甲冑ジェネラルの一振りを身をひるがえし避けたヴィルフリートが、片膝を地面について悪態をつく。
ましてや、本来であれば複数人で戦うところを、まともに甲冑ジェネラルと戦える者がヴィルフリート1人しかおらず、苦戦を強いられていた。
(前に何度か戦った甲冑ジェネラルと比べ物にならねぞ!?この強さ、どうなってんだ!)
魔物が村を襲っただけで、こんなに強い甲冑ジェネラルが召喚されたとは考えにくい。となれば力のある召喚者たちが複数で呼び出したのだろか?
こんな場所に召喚した目的はさっぱりだが。
「攻撃魔法放て!」
ヴィルフリートの背後から号令がかかり、遠距離から攻撃魔法の仕える黒呪士たちが一斉に氷系の魔法を放つ。冒険者ランクはAには届かないが、中ランク冒険者ともなればそれなりに戦闘経験を積んでいる者たちだ。
そして一人が放った魔法では全く歯が立たなくても、複数で一斉に放てば甲冑ジェネラルの気をヴィルフリートから一瞬でも反らすことは出来る。もちろん魔法使用者たちは防御力が低いので、盾を持った戦士たちが前に立ち、剣を振るい飛んでくる剣圧から背後を守る。
ヴィルフリートが駆けつけるまで、討伐に向かっていた冒険者たちでは甲冑ジェネラルの足を止めることすらできなかった。
せめて倒せないにしても、どうにかして進行方向をヴェニカの街の方角から反らせるために、先ほどの様に一斉魔法で攻撃して気を引こうとしたが、ヴィルフリートが駆けつける前はそれこそ甲冑ジェネラルの攻撃が届かないよう距離をとっての攻撃であるため、当然魔法の威力が低くなり、進行方向を変えるまでには至らなかった。
とはいえ、じりじりと街の方へ後退しているのが現状で、ヴィルフィートの中で焦りが増していく。
(こんな夜中に街の住人を叩き起こして避難なんて出来るわけがねぇ。しかし進行方向もずっと街の方へ向かってるし、街になにか甲冑ジェネラルを呼び寄せるものがあるのか?だが、そいつがあるにしろ無いにしろ、結局倒さなきゃならねぇことに変わりないんだが)
陽が落ちる前に甲冑ジェネラルの元にヴィルフリートはたどり着き、それからずっと戦い続けている。ヴィルフリートの体力も限界がある。治癒士たちも懸命にヴィルフリートに治癒魔法をかけてくれているが、ずっと戦えるわけではない。
「ヴィルフリート殿!大丈夫ですか!?しばらく我らで」
「下がってろ!来るぞ!」
背後で剣を構えていた一人が声をかけている途中で、甲冑ジェネラルが攻撃してくる気配を察してヴィルフリートが叫ぶ。
間髪置かず、剣呑な光を瞳に灯した甲冑ジェネラルが咆哮をあげた。
ーグゥオオオォォーー!!
雄叫び一つで周囲の空気がビリビリと震える。
そして甲冑ジェネラルの剣が黒いオーラを帯びて、横真一文字に薙ぎ払った。
(マズイ!この攻撃は!)
【トランセル】
装備武器のランクに応じた防御結界を自身に張るスキル。
危険を察知して咄嗟にビルフリートは防御スキル『トランセル』を発動した。
連続使用は出来ない。1時間に1回使用できる結界スキルで、S5ランクの『グングニル・アド』を装備しているヴィルフリートは、かなり強力な結界を自身に張ることができた。
ただし結界が守ってくれるのは装備者一人だけで、背後まで結界が守ることはない。
「ぐあっ!!」
「きゃあぁあ!!」
ヴィルフリートの後ろで陣形を組んで戦っていた冒険者たちが、放たれた黒いオーラの一撃を受けて周囲の木々ごと吹き飛ばされた。それぞれに周囲を確認しながら立ち上がろうとしているが、無傷な者は一人もいないだろう。
後ろを振り返らなくてもわかる。
たった一撃でこちら側は瀕死だ。
「後退しろ!!動ける者は怪我をした者たちを運べ!それまで俺がコイツの気を引く!」
ヴィルフリートが命令すれば、自分もこの場に留まり戦うと言い出す者は一人もおらず、倒れた者たちに肩を貸し、急いで後ろへ退く。
完全に甲冑ジェネラルと1対1の状況で、後方支援は期待できなくなった。
(こりゃあいよいよ正念場か……くそったれ……。だがどうしたんだ?いきなりコイツの気配が変わったぞ?)
それまでも進路を邪魔するヴィルフリートたちを追い払うように攻撃を向けてきたが、急に瞳に鈍い光が宿り、体中からまがまがしいオーラが溢れ雰囲気が変わった。
確固たる攻撃性を持って攻撃してきた。なにより、戦っている最中だというのに、甲冑ジェネラルは目の前のヴィルフリートではなく、街の方を睨みつけている。
「やはり街に何かあるのか?ってまたさっきのヤツか!?」
再び甲冑ジェネラルの剣が黒いオーラを帯び始め、身を守るべくヴィルフリートが身を構えた瞬間、空が一瞬で闇に染まり、巨大な雷が甲冑ジェネラルに落ちた。
ーードドドドドォオンン!!!
甲冑ジェネラルの断末魔すらない。あまりの突然の雷と轟音、そのまぶしさにヴィルフリートは腕で顔を隠し、目を顰める。雷が落ちた後も、空には余韻のような帯電した電気が周囲へと光りながら広がっていく。
「な、何が起こったんだ……?」
ヴィルフリートは呆然と呟く。だが目の前には巨大な雷の直撃を受けて、黒炭になった甲冑ジェネラルがボロりと崩れ倒れた。
あまりにも巨大な雷だった。それを雷と呼んでいいものかも分からない。
「ヴィ、ヴィルフリート殿、先ほどの雷は何が起こったのですか…?まさかおひとりで甲冑ジェネラルを倒されたのですか?」
「い、いや俺じゃない……。だが俺たちはどうやら、助かったようだ……」
空を覆っていた闇はもうどこにもない。残っているのは炭になって崩れた甲冑ジェネラルだけだ。自分たちがあれほど何時間も戦っていたのに、決着は一瞬だった。たった一発の雷が甲冑ジェネラルを倒す。
後退しようとしていた者たちも、突然の結末に呆然としながら、倒れた甲冑ジェネラルの周りに集まってきた。
あれほどの威力の雷魔法は見たことがない。
偶然、落ちたのか?と考えそうになって首を横にふった。
(あれは自然の雷じゃない。雷が落ちる直前、一瞬空が闇に染まったのが見えた。あれは魔法だ)
どんな者であれば、あんな馬鹿げた威力の雷を放つことができるのか検討もつかない。なによりこうして炭になった甲冑ジェネラルを見下ろしている今ですら、その魔法をどこから放ったのか見つけることすらできなかった。
魔法は距離で威力が落ちていく。雷魔法を使った者はどれほど離れた距離ではなったのか分からないが、正直知りたくないというのが本音だった。
▼
街に戻ってギルド支部長のバルブに一連の出来事を状況報告し、宿に戻ってこれたのは夜半を過ぎた時間だった。 巨大な雷が落ちた衝撃音に一時、街の者たちが起きだし騒然となったが、それも落ち着きを取り戻し、再び寝静まっていた。
ヴィルフリートが疲れているのは本当だった。
回復魔法をかけてもらい怪我は治癒したものの、何時間も甲冑ジェネラルと戦い続けて、疲労で早く横になりたい。
しかし、何とも言えない『しこり』の残る戦いだった。
(誰だ?あんなデタラメな魔法を使えるような奴が存在するのか?そもそもどうしてこんなところに甲冑ジェネラルが湧いた?最後、甲冑ジェネラルの様子がおかしかったのは、やはり何かを狙っていたのか?)
分からないことが多すぎて体の疲労とは正反対に、頭は非常に冴えている。
既に宿の宿泊客は眠っているので、起こさないよう極力足音に気をつけながら、部屋に入る。
真っ暗だろうと思っていた部屋は、窓が半開きになっているせいで外の月明りが入ってきて、薄っすら部屋を照らしていた。
部屋のベッドにはこんもり小さな山が出来ていて、僅かに上下している。それがシエルが眠っているのだと分かる。
「ん……。ヴィル?」
ヴィルフリートが軽く腰掛けたベッドの軋みでシエルは目が覚めてしまったらしい。寝ぼけた声はまだ子供っぽい幼さが残っている。
「起こしたか、わるい」
「お帰り…遅かった、ね……」
ごろりとシエルはこちら方に寝返りをうった。自分がさっきまで街の方を狙っていた甲冑ジェネラルと戦っていたことなど全く知らず、ぐっすり寝ていたのだろう。
それが呑気だと思いつつも、街に被害が出なくてよかったと思う。
「なぁ、シエル。街で何かおかしいことはなかったか?さっきデカい音が街まで届いただろう?」
「ん~…雷、落ちたねぇ……でも、特に他は何もなかったと思うけど……」
「そうか」
そうしているうちにシエルはまた規則正しい呼吸音で眠り始めてしまった。眠っていたなら音に気づいても、外で何があったかなんて知る由もないだろう。
分からないものは、何をあがいたところで分からない。早く横になって体を休めることが先決だ。明日はシエルを連れてハムストレムに行き、今回あった出来事をあちらのギルド支部長にも詳細を聞かれることだろう。
半開きの窓を閉じ、半分空いたベッドのスペースに、背中をシエルに向けてごろりと横たわる。
そして眠くはないけれど、少しでも体を休めようと瞼を閉じようとして、
(待て、俺は『雷』なんて一言も言ってないぞ?)
ふと気づいた会話の違和感に、ヴィルフリートは閉じかけた瞼をパッと開く。
(何でデカい音の原因が『雷』だって知ってるんだ?いくら雷でもあんな轟音は普通しないのに。それに音が雷だって知っているのは甲冑ジェネラルと直接戦っていた者たちぐらいで、音だけで何の爆発音か分かるはずがないのに)
現にバルドは街まで届いた轟音の原因が雷だと聞いてひどく驚いていた。ヴィルフリートから話を聞くまでは、爆音が伴う炎系の魔法かと思っていたらしい。
雷を甲冑ジェネラルに落とした使用者は不明なままだ。誰が、何処から、あれほどの威力の魔法を使ったのか特定できていない。
ただ、理由は不明だが甲冑ジェネラルはヴェニカの街をたしかに狙っていた。
ヴィルフリートの心臓がドクンと跳ねる。
自分のすぐ後ろから聞こえる静かな呼吸音。当てずっぽうに雷と言った可能性はある。疲れて寝ていたのなら、なおさら曖昧になるはずだ。
しかしすぐにでもシエルを起こして、雷を落としたのがお前なのかと確かめたい衝動が湧き上がったが、その欲求をぐっと堪える。
(シエルなのか?まさか、しかし……)
そういえば、半開きになっていた窓も、思い返せば、ヴィルフリートが閉じてから出かけた。だから、シエルは一度起きて窓を開けたのだ。
ヴィルフリートの脳裏に、凶悪なモンスターで溢れる森で初めて会ったときの、フードを目深にかぶったシエルの姿が思い浮かんだ。
ピコン!
ピコン!
(何の音ぉ?もぅ、うるさいなぁ~)
眠くてたまらないのに、一定間隔で鳴る電子音に、シエルは無理やり起こされる。
音は聞き覚えがあった。懐かしい。けれど今は煩わしい。
重い瞼を無理やり開くと視界の右端に赤い『!』マークアイコンが表示され点滅している。近くにレアモンスターが湧いたことを知らせる警告音だ。
『!』マークが表示対象のレアモンスターは滅多に出現せず、そしてレベルが相応に高いモンスターなので、低レベルプレイヤーでは歯が立たず殺されるだけなので、急ぎ遠くに逃げなければならない。
しかし高レベルプレイヤーであれば、我先に駆けつけて戦う。無事倒すことができれば大量の経験値が貰えるほか、運が良ければレアドロップのアイテムを手に入れられるからだ。
とはいえ、戦闘に興味のないプレイヤー、主に街中で装備や武器、回復薬を作ったりする生産職と呼ばれるプレイヤーにはあまり関係がない。なので、アデルクライシスはコマンド画面で設定すれば、アイコンが表示されても警告音が出ないようにすることができる。
ただし、初期設定では音が鳴る仕様だった。
(まさか、この『シエル』ってシステム面の方は全部初期設定だったりするの?やめてよ?)
そうあってほしくないけれど、十分ありえる想定に気持ちが減なりする。アラート音を消そうと、億劫な体を起こす。そしてシステムコマンド画面を開き、設定項目をチェックするが、設定項目が大量にあって目的の項目がどこにあるのか見つけられない。
「えっと、アラートの消音ってどこで設定するんだったっけ……、あー!そんなの覚えてるわけないじゃない!」
閉鎖されているとはいえ、アデルクライシスにログインしたこと自体が一年以上ぶりなのだ。 そんな一度設定してしまえば終わりのやり方なんて、覚えているわけがない。
早めに休んだお陰で吐き気はだいぶ落ち着いだけれど、体のだるさや、これまでの疲れまで完全回復はしていない。一秒でも早くこの煩いアラート音を消したい苛立ちだけが増していく。
「もういい……」
一向に見つからないアラート音設定項目に、なげやりにコマンドウィンドウをシエルは閉じる。その間もアラート音は規則正しくレアモンスターの出現を知らせてくる。
(要は近くに現れたレアモンスターがいなくなればいいのよ!そうしたらこの煩い音も止まるもの!)
苛立ちのまま、閉じていた窓をバンッと開き、そこからシエルは宿の屋根上に飛び出た。
眼下に広がるのは、街灯一つない暗闇のヴェニカの街である。
夜もすっかり更けて、人々は寝静まり、明かりはほとんどない。街の中央にある広場や、要所と思われる場所に、お情け程度に松明が灯されている程度だ。
眠る前に脱ぎ捨てたケープは羽織らずに外に出たせいで、ノースリーブの腕に夜風が気持ちいいが、だからと屋根上で悠長にしている気分ではなかった。
開いたマップにはアラート音の元凶であるモンスターの、赤マーカーが点滅している。距離にして街から約10km弱。随分と街から近いところにレアモンスターが湧いたものだと頭の角で思う。
正常なゲームだったころであれば、街に居合わせた戦闘専門プレイヤーたちは歓喜し、こぞって討伐に向かっただろう。
モンスターの赤マーカーをターゲットし、詳細を確認する。
「甲冑ジェネラル?また変なのが湧いたわね」
時間や気候などで定期的に湧くレアモンスターではなく、誰かが意図的に出現条件を満たさない限り湧かないレアモンスターに、シエルは眉間をぴくりとさせる。
「誰が湧かせたのか知らないけれど、迷惑この上ないからさっさと倒しちゃおっと」
言うなり何も持っていなかったシエルの右手の平に黒呪士専用武器『インペリアル・エクス』がフッと出現する。
黒呪士は遠距離からの魔法攻撃を得意とする戦闘職の1つである。
シエルが魔力を込めると、S10武器である『インペリアル・エクス』が反応し、杖先にはめ込まれた赤水晶が魔力に呼応して、発光し始める。
黒呪士は敵との距離がどんなに遠く離れていても魔法攻撃を打つことはできた。
ただ、プレイヤーのレベルや黒呪士の熟練度、魔力、武器のランクによって、その魔法攻撃は距離に反比例して威力は小さくなるし、最悪魔法そのものが届かない。
だが、『シエル・レヴィンソン』のステータスは全てがでたらめなチートで、武器装備も最強のものが備わっている。だから、例え敵と10km離れていても、攻撃がきっと届くだろうと漠然と考えて、無理やり起こされた苛立ちのままにその魔法を放つ。
甲冑ジェネラルはゾンビ系のモンスターだ。炎や氷の魔法は耐性を持っていて通じにくい。単純な剣や槍などの物理的な攻撃は硬い装備が邪魔をして通りにくい。耐性が弱いのは、光属性、または雷属性の魔法。
甲冑ジェネラルにターゲットを合わせ、シエルは雷系魔法を小さく唱える。
【マルバアル】
それは、偶然にもルノール遺跡の先の森で、ヴィルフリートがグリーンドラゴンにトドメを刺すときに使ったのと同じ魔法だったが、威力は比べ物にならなかった。
ーードドドドドォオンン!!!
雲一つなかった空が一瞬で闇に閉ざされ、光の柱と見まがうような巨大な雷が轟音をたてて、甲冑ジェネラルを貫く。
その刹那、夜の大地を昼間より明るい光が照らした。巨大な雷が落ちたことで、大地は轟き、寝静まっていた街にまで地響きが伝達し、空の闇が消えても上空には静電気が小さく走る。
甲冑ジェネラルの位置を示していた赤マーカーはマップ上から消滅した。
甲冑ジェネラルはシエルの放ったマルバアル一発で倒されたのだ。
突然の轟音に、寝静まって暗闇だったヴェニカの街に、部屋の明かりがポツポツと灯っていき、何事かと家の外に恐る恐る住人が様子を確認しにでてきはじめた。
「思ってた通り、魔法は届いたわね。このチート過ぎる魔力ならそれも当然かもだけど、ほんと何考えてこんなステータスにしたんだろ、兄さんってば。でもこれでやっと静かに寝れるわ」
呆れて物も言えないが、とりあえず甲冑ジェネラルを倒したことで煩かったアラート音は消えた。『インペリアル・エクス』をアイテムボックスの中に戻し、シエルはさっと音も立てず窓から部屋に戻る。
そこでふとシエルは気づく。
(あれ?ヴィルがまだ戻ってきてない?)
外へ行くと聞いてからだいぶ時間は経っている。まだ戻っていないのかと思ったが、寝る直前に、朝までに戻らないかもしれないとかなんとか言っていたような気もする。
昼間は気持ち悪さで早く横になりたくて、深く考えなかったけれど、そんなに時間のかかる用事があったのだろうか?
とはいえ、こんな夜もふけた時間まで戻れないくらい忙しいのに、わざわざ連絡して余計な手間を取らせるのも申し訳ない。
とりあえず朝起きてから考えようと、シエルはまたベッドに潜り込んだ。
▼
<甲冑ジェネラルの強さは、出現条件に左右される>
甲冑ジェネラルと戦ったことのある者や、ある程度LVの高い者であれば、周知の知識だ。例えばモンスターに襲われて殺された村人の数や、召喚魔法を行使した召喚者のLVや力量、これらによって甲冑ジェネラルの強さは天と地の差が出る。
だからと言って、そこらへんのモンスターと甲冑ジェネラルが同程度の強さということは決してなく、最低限でもAランク以上でなければ応戦が難しい。これが甲冑ジェネラルが多くの冒険者たちから『面倒』と言われる所以だ。
そしてヴェニカの街近くに現れた甲冑ジェネラルは、悪い意味で強かった。
「くそっ!でかい図体のくせになんて速さだ!」
紙一重で甲冑ジェネラルの一振りを身をひるがえし避けたヴィルフリートが、片膝を地面について悪態をつく。
ましてや、本来であれば複数人で戦うところを、まともに甲冑ジェネラルと戦える者がヴィルフリート1人しかおらず、苦戦を強いられていた。
(前に何度か戦った甲冑ジェネラルと比べ物にならねぞ!?この強さ、どうなってんだ!)
魔物が村を襲っただけで、こんなに強い甲冑ジェネラルが召喚されたとは考えにくい。となれば力のある召喚者たちが複数で呼び出したのだろか?
こんな場所に召喚した目的はさっぱりだが。
「攻撃魔法放て!」
ヴィルフリートの背後から号令がかかり、遠距離から攻撃魔法の仕える黒呪士たちが一斉に氷系の魔法を放つ。冒険者ランクはAには届かないが、中ランク冒険者ともなればそれなりに戦闘経験を積んでいる者たちだ。
そして一人が放った魔法では全く歯が立たなくても、複数で一斉に放てば甲冑ジェネラルの気をヴィルフリートから一瞬でも反らすことは出来る。もちろん魔法使用者たちは防御力が低いので、盾を持った戦士たちが前に立ち、剣を振るい飛んでくる剣圧から背後を守る。
ヴィルフリートが駆けつけるまで、討伐に向かっていた冒険者たちでは甲冑ジェネラルの足を止めることすらできなかった。
せめて倒せないにしても、どうにかして進行方向をヴェニカの街の方角から反らせるために、先ほどの様に一斉魔法で攻撃して気を引こうとしたが、ヴィルフリートが駆けつける前はそれこそ甲冑ジェネラルの攻撃が届かないよう距離をとっての攻撃であるため、当然魔法の威力が低くなり、進行方向を変えるまでには至らなかった。
とはいえ、じりじりと街の方へ後退しているのが現状で、ヴィルフィートの中で焦りが増していく。
(こんな夜中に街の住人を叩き起こして避難なんて出来るわけがねぇ。しかし進行方向もずっと街の方へ向かってるし、街になにか甲冑ジェネラルを呼び寄せるものがあるのか?だが、そいつがあるにしろ無いにしろ、結局倒さなきゃならねぇことに変わりないんだが)
陽が落ちる前に甲冑ジェネラルの元にヴィルフリートはたどり着き、それからずっと戦い続けている。ヴィルフリートの体力も限界がある。治癒士たちも懸命にヴィルフリートに治癒魔法をかけてくれているが、ずっと戦えるわけではない。
「ヴィルフリート殿!大丈夫ですか!?しばらく我らで」
「下がってろ!来るぞ!」
背後で剣を構えていた一人が声をかけている途中で、甲冑ジェネラルが攻撃してくる気配を察してヴィルフリートが叫ぶ。
間髪置かず、剣呑な光を瞳に灯した甲冑ジェネラルが咆哮をあげた。
ーグゥオオオォォーー!!
雄叫び一つで周囲の空気がビリビリと震える。
そして甲冑ジェネラルの剣が黒いオーラを帯びて、横真一文字に薙ぎ払った。
(マズイ!この攻撃は!)
【トランセル】
装備武器のランクに応じた防御結界を自身に張るスキル。
危険を察知して咄嗟にビルフリートは防御スキル『トランセル』を発動した。
連続使用は出来ない。1時間に1回使用できる結界スキルで、S5ランクの『グングニル・アド』を装備しているヴィルフリートは、かなり強力な結界を自身に張ることができた。
ただし結界が守ってくれるのは装備者一人だけで、背後まで結界が守ることはない。
「ぐあっ!!」
「きゃあぁあ!!」
ヴィルフリートの後ろで陣形を組んで戦っていた冒険者たちが、放たれた黒いオーラの一撃を受けて周囲の木々ごと吹き飛ばされた。それぞれに周囲を確認しながら立ち上がろうとしているが、無傷な者は一人もいないだろう。
後ろを振り返らなくてもわかる。
たった一撃でこちら側は瀕死だ。
「後退しろ!!動ける者は怪我をした者たちを運べ!それまで俺がコイツの気を引く!」
ヴィルフリートが命令すれば、自分もこの場に留まり戦うと言い出す者は一人もおらず、倒れた者たちに肩を貸し、急いで後ろへ退く。
完全に甲冑ジェネラルと1対1の状況で、後方支援は期待できなくなった。
(こりゃあいよいよ正念場か……くそったれ……。だがどうしたんだ?いきなりコイツの気配が変わったぞ?)
それまでも進路を邪魔するヴィルフリートたちを追い払うように攻撃を向けてきたが、急に瞳に鈍い光が宿り、体中からまがまがしいオーラが溢れ雰囲気が変わった。
確固たる攻撃性を持って攻撃してきた。なにより、戦っている最中だというのに、甲冑ジェネラルは目の前のヴィルフリートではなく、街の方を睨みつけている。
「やはり街に何かあるのか?ってまたさっきのヤツか!?」
再び甲冑ジェネラルの剣が黒いオーラを帯び始め、身を守るべくヴィルフリートが身を構えた瞬間、空が一瞬で闇に染まり、巨大な雷が甲冑ジェネラルに落ちた。
ーードドドドドォオンン!!!
甲冑ジェネラルの断末魔すらない。あまりの突然の雷と轟音、そのまぶしさにヴィルフリートは腕で顔を隠し、目を顰める。雷が落ちた後も、空には余韻のような帯電した電気が周囲へと光りながら広がっていく。
「な、何が起こったんだ……?」
ヴィルフリートは呆然と呟く。だが目の前には巨大な雷の直撃を受けて、黒炭になった甲冑ジェネラルがボロりと崩れ倒れた。
あまりにも巨大な雷だった。それを雷と呼んでいいものかも分からない。
「ヴィ、ヴィルフリート殿、先ほどの雷は何が起こったのですか…?まさかおひとりで甲冑ジェネラルを倒されたのですか?」
「い、いや俺じゃない……。だが俺たちはどうやら、助かったようだ……」
空を覆っていた闇はもうどこにもない。残っているのは炭になって崩れた甲冑ジェネラルだけだ。自分たちがあれほど何時間も戦っていたのに、決着は一瞬だった。たった一発の雷が甲冑ジェネラルを倒す。
後退しようとしていた者たちも、突然の結末に呆然としながら、倒れた甲冑ジェネラルの周りに集まってきた。
あれほどの威力の雷魔法は見たことがない。
偶然、落ちたのか?と考えそうになって首を横にふった。
(あれは自然の雷じゃない。雷が落ちる直前、一瞬空が闇に染まったのが見えた。あれは魔法だ)
どんな者であれば、あんな馬鹿げた威力の雷を放つことができるのか検討もつかない。なによりこうして炭になった甲冑ジェネラルを見下ろしている今ですら、その魔法をどこから放ったのか見つけることすらできなかった。
魔法は距離で威力が落ちていく。雷魔法を使った者はどれほど離れた距離ではなったのか分からないが、正直知りたくないというのが本音だった。
▼
街に戻ってギルド支部長のバルブに一連の出来事を状況報告し、宿に戻ってこれたのは夜半を過ぎた時間だった。 巨大な雷が落ちた衝撃音に一時、街の者たちが起きだし騒然となったが、それも落ち着きを取り戻し、再び寝静まっていた。
ヴィルフリートが疲れているのは本当だった。
回復魔法をかけてもらい怪我は治癒したものの、何時間も甲冑ジェネラルと戦い続けて、疲労で早く横になりたい。
しかし、何とも言えない『しこり』の残る戦いだった。
(誰だ?あんなデタラメな魔法を使えるような奴が存在するのか?そもそもどうしてこんなところに甲冑ジェネラルが湧いた?最後、甲冑ジェネラルの様子がおかしかったのは、やはり何かを狙っていたのか?)
分からないことが多すぎて体の疲労とは正反対に、頭は非常に冴えている。
既に宿の宿泊客は眠っているので、起こさないよう極力足音に気をつけながら、部屋に入る。
真っ暗だろうと思っていた部屋は、窓が半開きになっているせいで外の月明りが入ってきて、薄っすら部屋を照らしていた。
部屋のベッドにはこんもり小さな山が出来ていて、僅かに上下している。それがシエルが眠っているのだと分かる。
「ん……。ヴィル?」
ヴィルフリートが軽く腰掛けたベッドの軋みでシエルは目が覚めてしまったらしい。寝ぼけた声はまだ子供っぽい幼さが残っている。
「起こしたか、わるい」
「お帰り…遅かった、ね……」
ごろりとシエルはこちら方に寝返りをうった。自分がさっきまで街の方を狙っていた甲冑ジェネラルと戦っていたことなど全く知らず、ぐっすり寝ていたのだろう。
それが呑気だと思いつつも、街に被害が出なくてよかったと思う。
「なぁ、シエル。街で何かおかしいことはなかったか?さっきデカい音が街まで届いただろう?」
「ん~…雷、落ちたねぇ……でも、特に他は何もなかったと思うけど……」
「そうか」
そうしているうちにシエルはまた規則正しい呼吸音で眠り始めてしまった。眠っていたなら音に気づいても、外で何があったかなんて知る由もないだろう。
分からないものは、何をあがいたところで分からない。早く横になって体を休めることが先決だ。明日はシエルを連れてハムストレムに行き、今回あった出来事をあちらのギルド支部長にも詳細を聞かれることだろう。
半開きの窓を閉じ、半分空いたベッドのスペースに、背中をシエルに向けてごろりと横たわる。
そして眠くはないけれど、少しでも体を休めようと瞼を閉じようとして、
(待て、俺は『雷』なんて一言も言ってないぞ?)
ふと気づいた会話の違和感に、ヴィルフリートは閉じかけた瞼をパッと開く。
(何でデカい音の原因が『雷』だって知ってるんだ?いくら雷でもあんな轟音は普通しないのに。それに音が雷だって知っているのは甲冑ジェネラルと直接戦っていた者たちぐらいで、音だけで何の爆発音か分かるはずがないのに)
現にバルドは街まで届いた轟音の原因が雷だと聞いてひどく驚いていた。ヴィルフリートから話を聞くまでは、爆音が伴う炎系の魔法かと思っていたらしい。
雷を甲冑ジェネラルに落とした使用者は不明なままだ。誰が、何処から、あれほどの威力の魔法を使ったのか特定できていない。
ただ、理由は不明だが甲冑ジェネラルはヴェニカの街をたしかに狙っていた。
ヴィルフリートの心臓がドクンと跳ねる。
自分のすぐ後ろから聞こえる静かな呼吸音。当てずっぽうに雷と言った可能性はある。疲れて寝ていたのなら、なおさら曖昧になるはずだ。
しかしすぐにでもシエルを起こして、雷を落としたのがお前なのかと確かめたい衝動が湧き上がったが、その欲求をぐっと堪える。
(シエルなのか?まさか、しかし……)
そういえば、半開きになっていた窓も、思い返せば、ヴィルフリートが閉じてから出かけた。だから、シエルは一度起きて窓を開けたのだ。
ヴィルフリートの脳裏に、凶悪なモンスターで溢れる森で初めて会ったときの、フードを目深にかぶったシエルの姿が思い浮かんだ。
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