チートキャラで閉鎖されたVRMMOゲームにログインしたら神の代行者でした

トキオ

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アダマイト鉱山ダンジョン

1 ダンジョン内

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「あ?」

 まだ陽が上りはじめたばかりの、空が薄紫がかりはじめた時間帯。起きるにはまだ早い。
 しかし、ベッドがいつもより狭くなっている。そしてわき腹辺りに大きな塊りを感じて、顔だけ起こし塊りの正体を知る。

「え?シエル!?何で俺のベッドで寝てんだ!?」

 条件反射でガバッと身を起こす。一瞬間違って自分がシエルの部屋と間違えたのかと思ったが、部屋を見渡せば自分の置いた私物の荷物もある。間違ってはいないはずだ。そして肝心のシエルは大声に目を覚ましても、寝ぼけ眼で目元を擦り、ユラユラと体が船をこいでいる。

「朝から大声出さないでよ……。頭に響…く……」

「どうして俺のベッ、ドに……、そういえば……」

 何故シエルが自分のベッドで一緒に寝ているのか、昨夜の出来事を思い出しはじめて、ぼりぼりと前髪を掻きあげた。

 シャワーを浴びて夕食を食堂で食べているとき、突然カインが魅了のデバフにかかってシエルを襲うとした原因は、シエル自身の飛びぬけたステータスの高さが問題だった。

 そのステータスが高すぎると基礎耐性が低い者を無意識に魅了し、さらに悪化すると魅了デバフ になる。
 それなりに冒険者として経験を積んできたヴィルフリートも初めての経験だった。

(モンスターを従える調教士にも、人によってモンスターに好かれやすさがあるとは聞いたことはある。美しさだったり人柄だったり、人を引き付けるカリスマ が高い者はいるが、デバフにまでなるとは)

 信者から信仰を集める教会の神父のようだ。
 人が神に魅了され崇めるというのなら、神の代行者レヴィ・スーン であるシエルも人を惹きつける力があっても当然と言える。

 ユスティア曰く、旅の間はシエルはずっとフードを被っていて顔を隠していたことで、魅了が抑えられていた。しかし、鉱山に到着し、シャワーを浴びてシャンプーの甘い香りを嗅いだことが決め手になったのだろう、というのがユスティアの推察だった。

 (思い出した……。事の次第を大まかだが理解して、部屋に戻ろうとすれば、シエルの部屋に赤い丸が4ついて、仕方ないから俺の部屋にシエルは来たんだっけか)

 気絶したカインを部屋に運び終えたあと、鍵がかかっているはずのシエルの部屋に、マップが赤い丸が4つ点滅してるのを見つけたときは、もう面倒事に巻き込まれたくなくて、ヴィルフリート自ら、自分の部屋に来いとシエルを招き入れたのだ。

 恐らく男やもめで溜まっていたところに、見目の良いシエルを見て、こちら鉱山夫たち も魅了されたのだろう。
 勝手に誰かの部屋に侵入して襲うのは勿論ダメだが、カインの例があるだけに彼らにも同情の余地はある。
 仮に彼らを追い払ったとしても、次がこないとは限らない。

 『赤いマーカーは自分たち(PT)に敵意を持ったモンスター=敵』

 マップの見方をシエルに教えてもらったとき、マーカーの色に違いについて、そう説明を受けたが、敵はモンスターだけではなかったらしい。人であっても襲ってくる盗賊や海賊は敵ということなのだろう。

(鍛えられた鉱山夫だろうと、流石にSランク冒険者な部屋に強襲には来ないだろ)

 ではなぜヴィルフリートがカインのように魅了に陥らないのかというと、同じPTメンバーであるせいかもしれない、とはシエルの予測だ。

 PTを組むとステータスボーナスが仲間に付与される。
 魅了はされども、シエルと同じPTであるが故に、耐性も同時に強化されて、ヴィルフリートは魅了デバフにかからずに済んだらしい。

(あとはどっちがベッドで寝るかで揉めて、結局2人ベッドで寝るってなったんだっけか、シエルがまだ男じゃないが女でもないってことで。あほらしい)

 誰かと同じベッドで寝るなんていつぶりだろう。ヴェニカの街でも仕方なく同じベッドで寝たが、少なくともここ数年、ヴィルフリートは特定の誰かと一緒に寝た記憶はない。

 経緯を思い出してしまえば、なんてことはない。
 シエルと出会ってから、良くも悪くも驚かされることばかりだ。

 再び二度寝に入って、すやすや眠るシエルのほっぺを指先でぷにぷにつつく。無防備極まりない。

 「正体は別にして、顔は確かにいいもんな……。もう少し俺も寝るか……」

 俗に言う子供体温とでもいうのだろうか。このまま早起きしてもいいが、すぐ傍で眠るシエルの体温が心地いい。
 シエルの首下に腕を差し入れて抱き寄せても、眠るシエルは全く抵抗せず、胸に顔をうずめてすやすや眠っている。
 まだ残る甘いシャンプーの香りとともに

(ベッド半分貸してるんだし、ちょっとくらい役得あってもいいよな?というか、これはこれでいいな。いい匂いだし、あったけー)

 他人の体温が心地良い。腕のに中にすっぽり収まる大きさも申し分ない。
 その心地よさに、寝坊気味に起きて、急ぎ食堂に向えば、部屋の角で忌々しそうにヴィルフリートを睨みつける男たち4人が目に入り、心の中だけで『ご愁傷様』と溜息をついた。











『ダンジョンっていきなり現れるの?』

『そうだ。どこに現れるかは分からねぇ。街のど真ん中に現れたダンジョンもある。階層も潜ってみないことにはさっぱりだ』

『つまり中に出てくる魔物の種類も情報はないってことね』

『どのダンジョンでも共通なのは進めば進むだけ高LVの魔物が出てくるってことだな』

 目的のダンジョンの調査に入り、地下4階にまで進んでいた。遭遇した魔物は1、2階層は小型のミル・ラビットやモス・ビートルといったLV20くらいの低LV魔物ばかりで、3、4階はLV20~35。

 最下層がよほど深くない限り高LVの敵は出てこないだろう。

 シエルが覚えている高LVプレイヤー向けダンジョンは、1階からLV100のモンスターとギミックに溢れていて、最速攻略PTでさえ実装から2週間かかっていた。

 基本的にダンジョンモンスターには知性がなく、冒険者を見つけると襲ってくる。距離は関係ない。ただし、柱や壁といった障害物が魔物との間にあった場合のみ、モンスターとの遭遇エンカウントは発生しない。

「セイッ!!」

 拳闘士のスキル<正拳突き>が決まりLV30のレッサーデーモンが倒される。ここまでほとんどカインが魔物を1人で倒し、他3人は魔物の数が単体ではなく複数だったときに少し手伝うだけで済んでいる。

 カインのLVは142であり、元Aランク冒険者は伊達ではないということだろう。

(というか、泊まった鉱山夫の食堂で、デバフにかかって自分を襲いかけたこと、すっごく謝ってきたしね。ふがいないとか申し訳ないとか平謝りで、汚名返上しようと頑張ってるんだろうな)

 やったことは仕方ない。幸いにもユスティアが一発でカインを気絶させてくれたので、実質的な被害はなかった。
 が、本人は顔を真っ青にしていて、汚名返上しなければと意気込んでいるので、好きにさせることにした。

―ボンッ―

 小さな爆発音を立てて、レッサーデーモンが霧散し、地面に<悪魔の皮>が落ちた。
 <悪魔の皮>はLVの低い悪魔系魔物を倒すと手に入る素材だ。そしてLVの低いプレイヤーにとっては、同レベル帯の装備を造る素材にもなるので、ゴミ素材とポイ捨てされず一定の需要がある。

 だが、今回の目的はモンスター討伐でもダンジョン攻略でもない。あくまでダンジョン調査が目的だ。後続のユスティアがこれまで遭遇した魔物の種類とドロップした素材を、メモ帳に手早く記入していく。

 ダンジョンの入り口には不測の事態のために、簡易転移拠点を設置しておいた。ここに転移アイテム<パレアの羽>を使い、一瞬で戻ってくることが出来る。

「ここまでの感じですが、最下層でもそこまでLVの高い魔物は出てこなさそうな感じですね。各階の広さもそこまでありませんし、低LV冒険者でも大丈夫そうです」

「ハムストレムからも近いし、低ランク冒険者の素材集めにちょうどいい」

 メモの内容を確認して意見を言うユスティアに、カインも頷く。冒険者のランクに合わせて依頼レベルを決めるギルドスタッフとして、しっかり情報を集めていく。

 何も情報がない新しいダンジョンというのは、得てして全てが未知数だ。高VLの魔物しかおらず、高ランク冒険者でも手こずるダンジョンもあれば、珍しいダンジョンでは魔物は1匹も出現せずギミックだけのものもある。

ちなみに、シエルは道中と変わらず武器は持たず、後ろから付いてくるだけで特に何もしていない。

(地道にとことこ歩きながら、雑魚一匹一匹倒していくってこんなに時間かかるもんなんだな~)

 マップは進んでいけばグレーアウトからどんどん表示されていき、基本タンクを戦闘にダッシュでどんどん攻略していっていたから、これほどのんびり時間をかけて攻略していくのは新鮮そのものだ。

 それに擬似リアル化しているからこそ地下ダンジョンの洞窟感に圧倒されていた。

 ぐるりと周囲を見渡す。

 横幅20m足らずに、天井も30mはあるだろうか。地下を四角にくり貫いた通路がどこまでも続いていく。

 定間隔にランプが設置され、近づくと自動で明かりがつき、離れると自動で消える。壁を触れば冷たく、少しカビた湿った臭い、天井から水滴が滴り落ち、床に水溜りを作る。

 遭遇する魔物との戦いよりも、そっちの方に夢中になってしまう。20万人ものプレイヤーが意識を囚われているゲームへログインしているというのに、不謹慎かもしれないが、洞窟探索している気分になる。

(こんな大規模な洞窟が一瞬で出来るなんて、現実じゃ絶対にありえない。でもこんな洞窟が現実にあるなら、行ってみたいな)

 無事に啓一郎を見つけて現実に戻れたなら、洞窟旅行に行ってみたいなと思いを巡らせる。

「シエル殿、そんなにキョロキョロして何か気になることがありましたか?」

「ううん。こんなダンジョン潜ったの初めてだからすごいなって」

「ダンジョン初めてなんですか?」

「意外?」

「いえ!ダンジョンは冒険者ギルドに所属している冒険者か、その同行者でなければ入れませんので、てっきり何度か入ったことがあるのかと思ってました!すいません!」

 ピクリと。さらっと聞き流しそうになったが、さりげなくカインは重要なことを言っていた気がして、聞き返す。

「今回のようなダンジョン調査じゃなくて正規のダンジョンでも、冒険者と一緒なら同行者で入れるの?」

「他のギルドとの兼ね合いで冒険者ギルドにどうしても入れない方はいらっしゃるので、そういった方のために、同行者という形でダンジョン攻略の許可は下りますよ。でもギルドに申請する冒険者ランクが依頼のレベルを決めますので、腕の立つ同行者に手伝って貰ったとしても評価は微妙なところですね」

「ふ~ん、同行者でも入れるのか~」

 なら自分が冒険者になる必要は全くなくなった。正規のダンジョンもヴィルフリートに申請してもらって同行者としてダンジョンに入ればいい。
 冒険者ランクが依頼ランクを決めるというのなら、Sランク冒険者のヴィルフリートであれば受けれない依頼はない。

 すでに冒険者ギルドの情報は横流ししてくれる約束は取り付けてあるが、一緒に同行の約束はまだだった。

 これは是非ともお願いしておかなくてはならないだろうとPTチャットウィンドウを開く。
相手はもちろん、カインと自分の会話を聞いていながら、こっちを絶対見ようとしないヴィルフリートだ。

『ヴィルフリートさん、今後とも同行宜しくお願いしてもいいでしょうか?』

『その変な言葉遣いやめたらいいぜ………』

『やった!ありがとー!』

 言質は取った。
 これで今後もヴィルフリートの同行者としてダンジョンに入れる。
 そうして内心喜ぶも、朝の光景がフラッシュバックして、つい視線をあさっての方向にそらした。

 朝が嫌いなのには理由がある。低血圧と低体温のせいで、朝は血圧が特に下がっていて頭痛がするからだ。
 なのに、今朝はその頭痛を感じず、さらに身を包む温かさで目がさめた。

 (あれはびびったわ。目を開けたらヴィルフリートに腕枕されて寝てたんだもん。心臓に悪いったら)

 驚きつつ、どうして同じベッドで寝ているのか理由を思い出しはじめると、次第に落ち着いてくる。
 もともと一人用のベッドだ。ヴェニカの街で宿に泊まったときは、手違いで同じベッドで寝たけれど、セミダブルベッドだったので2人で寝れないことはなかった。

 しかし、今寝ているベッドはシングル。長身のヴィルフリートと2人で寝れば、どうしてもくっついてしまう。
 ヴィルフリートが静かな寝息を立てて眠ていることを確かめて、そっと体を寄せ、瞳を閉じる。

(あったかい。それに頭も痛くない)

 安眠とは恐らくこういうことを言うのだろうと頭の隅で思う。
 そのぬくもりに体を任せ、再び安らかな眠りにつくのに時間はかからなかった。

 その朝のハプニングを思い出していたシエルに、おそるおそるカインが尋ねてきた。

「シエル殿は、その、もう冒険者ギルドに入られる気は……」

「ない」

 後腐れないようキッパリと断る。曖昧な返事をして後でずるずる引き摺られているところではないと思ったからだ。

「それは自分の対応が気に障ったのでしたら、いくらでも謝りますので!」

「それはもう気にしてないよ、冒険者になる必要がなくなったから、ならないだけで。ごめんね」

 強い者が一人でも冒険者ギルドに入って欲しいという気持ちは分からなくはないが、普通の冒険者と自分とでは目的が全く違うのだ。

 前者は生活や成功のために。自分は啓一郎を探すために。そして出来れば囚われたプレイヤーたちを助けるために。そしてシエルはこの世界で存在そのものが<チート>だ。

 捕囚ゲームになったアデルクライシスにログインし、ヴィルフリートを初めとしてフルールベルのエリシアやカイン、ユスティアと知り合って、時々考えるようになった。
 自分がしていることは、この世界(ゲーム)を終わらせることではないかと。

 啓一郎を見つけ捕囚プレイヤーをもし助けることができ、シエル自身もログアウトしてしまえば、再発を防ぐためにアデルクライシスのサーバーは永久に落とされる。
 それはつまりこの世界の終わりを意味する。

(おかしいね、この世界は偽物なのに、ほとんどの人はリアルのないNPCなのに)

 あまりにもリアル過ぎて、もう情が移り、この世界が終わってしまうことを躊躇い始めている自分に気が付いてしまった。

「下へ降りる階段だぞ」

 ヴィルフリートの指差す先に問題の5階へ下りる階段を見つける。
ダンジョンの位置は最初にヴィルフリートが予測したとおり、鉱山から右側にあった。そして鉱山の5階に試道として東に1本坑道が伸びていた。

 ダンジョンと坑道がぶつかる可能性があるとすればこの地下5階になる。

 これまでの階段もそうだが、各階から下の階へ下りるときの階段は400段ほどあった。鉄筋コンクリートで天井を補強していない自然の山の中に通った壮大で圧倒的な穴。

(突然現れるダンジョン、倒してもまた自然と発生する魔物、勝手に用意される宝箱か)

 カインやヴィルフリートたちは、それが当たり前といった態度でどんどん先に進んでいくのだが、ファンタジー過ぎてシエル的にはそちらに驚いているとは、誰も考えもしないのだろう。

『ヴィル、マクロ流すよ。昨日急ぎで作ったから汚いけど』

『まくろ?』

 マクロとは事前に用意しておく行動アクションだ。

 簡単なものであれば、カインのように正拳突きをしたあとに回し蹴りを入れる一連の動きは、何もなければ【正拳突き】と【回し蹴り】のボタンを1回づつの2回押さなければならない。しかしマクロを組んでいれば、【正拳突き】⇒【回し蹴り】をボタン1つで動かすことが出来る。

 そこからPTチャットでも個性的な挨拶をしようとするプレイヤーが発端で挨拶マクロができ、さらにボス攻略マクロや地図マクロが出来上がっていった。

 初めて聞く単語に疑問符がついているが、実際見たほうが分かり易いと、昨晩急ごしらえで作ったマクロをチャットに流す。

―ぽちっ―




「ぶっ!うおっと!」

 自動で下から上へとせり上がるようにPTチャット欄に簡易マップが表示され、いきなり立ち止まり噴出した拍子に、思わず階段を一段踏み外したヴィルフリートにカインとユスティアが振りむいた。

「どうかされましたか?」

「……いや、なんでもない。階段を踏み外しただけだ」

「なら良いのですが、ダンジョンの中は壁のランプしかなく薄暗いですからね」

 2人がヴィルフリートを気遣う中、シエルだけは口元に手をあて、ひくひく引き攣る頬を隠す。

『昨日の夕方、みんながアイテムを整理している中、1人さぼってなんかいないよ?ちゃんとこのマクロ作ってたんだから』

 ダンジョンに入ってしまえば、鉱山のマップは見えなくなってしまう。さすがに10階層ある坑道MAPを全部マクロで作る時間はなく、問題の5階の見取り図だけ地図マクロを作っておいたのだ。

 これまでのフロアは大まかな出現魔物の種類とドロップアイテムの把握がメインで、フロア全体のマップは程ほどで全てあけていなかった。
 これからダンジョンの地下5階なら左方向にダンジョンが伸びていないか、せめて左側だけはマップを全て開いていた方がいい。

(というか地図マクロくらいで階段踏み外して、これでウィスパーモードでVCなんて出来るのかめちゃくちゃ先行き不安なんですけど………)

 実を言うと、VRMMOオンラインゲーム『Adelcrisis』にはテキストをやりとりするPTチャットのほかに、個別ボイスチャット(VC)機能がもちろん搭載されている。

 シエルの本音としては意思疎通だけならVCの方が楽なのだが、特定の相手にだけ声を届けるウィスパーモードを、テキストチャットですら覚えたばかりのヴィルフリートが使いこなせるとは思えず、また今はテキストチャットだけで事が足りているのでまだVC機能については話してはいない。

 いきなり大量の情報を与え、ウィスパーモードを間違えて通常の会話で喋ったら、周囲に丸聞こえしてしまい目も当てられないだろう。

 加えて言うなら、テキストチャットを一昔前の機能と侮り、VC機能の便利さに目を囚われがちになるが、この後で見直し確認できるテキスト機能の便利さは、ボスとの戦闘中でも助かった。

 なのでまずはテキストチャットを慣れてもらおうと、PTチャットしかヴィルフリートには話していない。折を見てウィスパーモードについて話すつもりだ。

(いつになるか、先行きは全く見えないけれど。)

 地下5階に到着する。するとこれまで定間隔で壁に取りつけられていたランプは見当たらなくなり、変わりに巨大な鉱石結晶が道はしに形成され、淡い青い光りを放っていた。
 ここからはこの鉱石結晶がランプの変わりなのだろう。

そして急にひんやりと気温が冷え込み、全く視界が見通しきかない程ではないけれど、薄い霧がたちこめている。

 ピッ―と。

 まだ5階フロアの入り口付近しか表示されていないマップ端に、紫のマーカーが出現した。まだ魔物との間には壁があり見えないはずなのに、既に魔物はこちらに気付いておりターゲットを合わせている。

(変だ、あのマーカー。紫色のマーカーなんてあったっけ?でも、レベルが低い魔物じゃない)

 4階までの魔物とは異なる動きに、アイテムボックスから『インペリアル・エクス』を取り出し、紫マーカーの方へ構える。
 いきなり警戒しはじめロッドを構えたシエルに、ヴィルフリートが一番に反応し槍を構えた。そのすぐあとにカインとユスティアも身構える。

「ヘルハウンド?4階まではレベルの低い魔物ばっかりだったのに、どうしていきなりこんなレベルの高い魔物が……」

 ユスティアが呟く中、前衛をカインとヴィルフリート、後方をシエルとユスティアで固める。

 ハッハッ、と犬の息切れそのものだが、吐く息は紫がかっており、あれに当たると毒のデバフが付与された。

 ヘルハウンドはゾンビ系の魔物でLVは100。
 数頭の群れで行動し、外見は犬がそのままゾンビ化したもので、片方の目は既に腐れて飛び出ており目ではなく臭いで獲物の位置を探る。そのため、壁があってもヘルハウンドには関係ない。

「どうやらこの階からが本番らしい」

 すぐ前にまできて先頭のヘルハウンドが立ち止まる。全部で8匹。この狭いダンジョンの通路で8匹の群れに囲まれて長期戦はこちらが不利だ。

一匹のヘルハウンドが獲物がくるのを待ってましたとばかりに飛び掛ってくる。それにヴィルフリートのグングニルが向かえ討った。



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