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ピピ・コリン
6 紹介状
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言った後で後悔に駆られたけれど、地面に尻をついて見上げたツヴァングと、ばっちり目が合ってしまった。
「あれ~?俺のこと知ってんの?」
パンパンと尻についた土を払い、ツヴァングは立ち上がる。真昼間から酒を飲んでいたらしく、アルコール独特の臭いが漂っている。
(くさっ……この距離でこんだけ匂うってどれだけ飲んでるのよ。ゲーム時代の知り合いがどういう風に生活しているのだろうか、実際に自分の目で見るのが不安で、この二日悶々と悩んでいたのが馬鹿らしく思えてきたわ)
アルコール独特の、それも数種の酒の匂いが混ざっている。
思わず顔をしかめた。
「いえ、全く知らないです。会ったこともないです。ではサヨウナラ」
「やっだなぁ~、さっき俺の名前言い当てたばっかりじゃん」
けれども、踵を返し立ち去ろうとしたシエルの肩を、へらへら笑いながら、ツヴァングがマントの上からがっちり掴んで逃がさない。
ツヴァングは十分ツヴァングらしく、リアルの記憶をなくしていてもアデルクライシスの世界を楽しく生きているようだ。現実世界で働きたくない、出勤したくない、ニートになりたいと言っていたツヴァングにとって、好きな酒を好きなだけ飲み、女性の家に転がり込み、『今』は夢が叶ったも同然だろう。
【黒の断片】の鑑定はあるが、楽しく幸せに生きているようだし、変に関わらずそっとしておこうと身を引いたのに、今度はツヴァングが離してくれない。
一瞬、軽く手をひねって立ち去ろうかとも考えたが、久しぶりに会えたせいで、躊躇われてしまわれた。
「お詫びに一杯酒奢るよ?」
「昼間からお酒は飲まないんで結構」
「おかたいねー。酒はいいよ~。嫌なこと全部忘れさせてくれる」
にんまりと意味深にニヤリと笑む。
「でも、こんなところで長話もあれだし、俺の店に来なよ。ちょっとここから歩くんだけど、酒ならいくらでも出すぜ?俺 に用があったんじゃないの?デバフ装飾なんかつけちゃって、面白いなアンタ」
ぺらぺらと口が饒舌なのは、酒が入っている所為として、酔っていても見るべきところは見逃さない。
装備をすぐに見抜くとは聞いていたけれど、すすめられた酒を断るために、マントから手を出して振った手首のブレスレットを見逃さなかったらしい。
(抜け目ないなぁ。頼んでもいないのに相手の装備を見ているのは、鑑定士としての癖ってことかな)
鑑定士としての腕は聞いていた通り確からしい。一度は関わるまいと考えたが、すでに装備を見抜かれてしまっているのなら、ここで下手に意地を張って立ち去っても、ツヴァングには余計に怪しまれるかもしれない。
「自分にはこれが必要だからつけてるんだよ。デバフじゃない」
「どんな理由があれば、そんなんが必要になるんだ?」
「色々あってね。自作だよ」
我が兄が用意したキャラではあるが、ステータスが高すぎると自らに害が出るとは、キャラそのものがデバフだ。
「へぇ?商売柄、つい誰でも鑑定しちまうクセついてんだけど、デバフは別としていい装飾具だ」
ほぅ、と目を見張り、素直に褒めてきた。お世辞を言う性格には見えないし、趣味で鑑定しているというなら、見え透いた世事を言う必要もない。
元生産職として、知り合い兼鑑定士に褒められるとどうにも嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになった。
「……セセルティーがいい」
「セセルティーの茶っ葉って、ウチにあったっけかな。基本酒しか置いてないからさ、店行く途中に寄っていい?」
「どうぞ」
旅の間に寄った宿や食事が出来る小さな店ですらセセルティーは置いていたというのに、ツヴァングの店は本当に酒しか置いてないらしいと内心呆れる。
ツヴァングの数歩後ろをついていくが、足取りに迷いはない。それだけでこの辺りの地理を熟知していると分かる。
年季の入ったシルクハットに、モノクル、貴族が着てそうな襟付きのコート。後ろ姿だけならゲーム時代のツヴァングそのものだ。
そして、ついた店は以外にも金持ちがひいきにしてそうな上品な店で、逆に酒の臭いがするツヴァングは場違い感半端無い。店員がすぐにツヴァングを見つけるものの、怪訝な顔は見せず、親しそうな笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。
「ツヴァングさん、また昼間っから酒飲んでるんですか?あんまり酒飲んでばっかりだと、また女の人に家から放り出されますよ?」
「さっき放り出されたばっかだ」
「そうなんですか?いい歳なんだからそろそろ女遊びが落ち着けば、お父上も少しは安心されると思うんですけどねぇ~」
「親父の話ならいらねぇぜ。人生はゲームなんだから楽しまなきゃ損だろ。これは俺の客。そんで客に出すセセル茶の葉っぱくれ」
「ええええ!?こんな時間からツヴァングさんが鑑定のお仕事ですか!?」
「んだよ、わりぃか?」
「全然!いいことだと思います!セセル茶でしたね!一緒に焼き菓子もサービスしておきますよ!」
若い男の店員が嬉々として店の棚からセセル茶の葉が入っているらしい箱を開ける。会話から察するに、この店はシエルの予想通り、貴族や豪商がひいきにしている店で、ツヴァングの親と取引がある関係で知り合いなのだろう。
普通の店なら、昼っぱらからいきなり酒の臭いをぷんぷんさせた男が入ってきたら、訝しがられて、最悪商売の邪魔だと店員に店の外へ放り出される。
「お代はいつも通り、伯爵様の方につけておきますね」
「おう、頼む」
鷹揚に茶葉と焼き菓子が入っているらしい紙袋を受け取ると、お金を払うことなく店を出る。店員の慣れた対応といい、この調子では親の方へツケ払いは一度や二度ではないのだろう。
完全なニートではないようだけれど、齧れる脛(すね)はしっかり齧っているらしい
逆に不労のニートらしい。
「ここだ。店のヤツラもまだ来てないだろうから、適当に座っててくれ」
大通りから小道に入り、また少し歩いたところで、小さな看板1つ出した店だった。看板と言っても傾いたグラスのイラストしか描かれておらず店の名前はどこにもない。
けれど店内の内装はセンスがいいとシエルも認めざるを終えなかった。
(そういえばゲームのときの個人宅も、ツヴァングの部屋は内装オシャレだったから当然か)
壁の高い位置に小窓が何箇所かついているが、人はとても通れない小さなサイズだ。当然家の中は暗くなるが、この家が飲み屋ということを考えれば、全く差し支えないだろう。
大勢がおしかけて飲む店ではない。
ソファなんて場所を取るものは1つもなく、1人、2人、多くて3人くらいがゆっくりとグラスを傾けるようなテーブルの大きさと椅子。
各机に小さなランプが置かれ、それが夜になると明かりとなって店の中を幻想的に照らすのだろう。カウンター後ろには多種の酒が並べられていた、その角に店の裏に通じていると思われる扉が1つ。
本当に個人が趣味で経営してると言って過言ではない店だ。だが、酒をほとんど飲まないシエルでも、酒をゆっくり飲みたい者にとってこの店はとても居心地いいように思えた。
「えっと、お茶淹れるやつどこだっけ……。適当すわってて。この菓子もせっかくだから食べてって。俺、甘いやつ苦手でさ」
言われるままシエルは空いている席に座る。テーブルや椅子はちゃんと昨晩のうちに拭きあげられているのだろう。こぼれたお酒やおつまみのカスはどこにも見当たらない。いい店員を雇っているらしい。
しかし他人の家の台所を勝手に弄るのは、どうしても気が引けるため、自分は大人しく待つに限る。
「わるいね。店のことは任せっぱなしでどこに何があるやらさっぱりでさ。そうか!茶なんてここで淹れたことないから、ポットなんてあるわけないのか」
乾いた笑いのツヴァングに、溜息1つこぼしてアイテムボックスの中から、アイスセセルティーを二つ取り出す。
(あんまりこういうのは誰の前では見せたくないんだけど、これじゃいつまでも本題に入れないし……)
そしてセセルティーを出したついでに、被っていたフードを下ろした。
「………こりゃあ驚いた」
薄暗い部屋の中で、ツヴァングが息を呑んだのが伝わってくるが、すでに慣れたもので構うことなくヴィルフリートからもらった紹介状を差し出しす。
「コレ、紹介状」
「ご丁寧にどうも」
ぺり、とノリで張られた封を切り、紹介状の中身を確めると、くっと喉の奥でツヴァングは笑う。
「随分と俺のこと警戒されてるみたいで。それともそっちが大事にされてるのかね?」
開いた紹介状の中身をシエルにも読めるようにひっくり返す。
―――――――――――――――――――――
シエルに何かしやがったらぶっ殺す
ヴィルフリート・バーバリア
―――――――――――――――――――――
思わず関心するくらい見事な紹介状だ。
前にハッキリと嫌いだと明言していた通り、ヴィルフリートはツヴァングを嫌っているらしい。
そっちから会いに来たのに、殺すなんて随分な紹介状だとツヴァングは目線で理不尽を訴えてくるので、肩を竦めてスルーする。
「自分で紹介しておきながら殺すとか物騒すぎだろ。そんなに心配なら一緒に来ればよかったのに」
「ヴィルは別に用事があったし、着いてこようかって言ってくれたけど、自分が断ったんだよ」
「ヴィルねぇ?酒もほどほど、女にのめりこむこともねぇ、つまんねぇクソ堅物と思っていたが、よりにもよってこんなおっかねぇのに手を出す根性あったんだなあの冒険者」
「おっかない?」
「そうだろ?さっきどっかからセセルティー出したこともそうだが、そのブレスレット、裏を返せばランクの高いデバフ装飾具が必要なほど、ステータスが異常に高いってことじゃねえのか?」
身に着けているブレスレットを指摘し、違うのか?と再度問われて苦笑する。
その通りだ。これでずっと着ていたS10装備を着ていたなら、本当に見抜かれていたかもしれないと頭の隅で思う。
そして、紹介状を一応持ってきたというのに随分と警戒されている。
「お前、何者?」
「シエル・レヴィンソン」
「レヴィンソン?それがお前の名前か」
ファミリーネームにツヴァングの片眉がピクリと反応する。ヴィルフリートも<レヴィンソン>から<レヴィ・スーン>を連想付けたが、どうやらツヴァングも同じらしい。
(ヴィル曰く、ファミリーネームのレヴィンソン が神の子 って意味になるんだっけ。世界設定にもそんな設定無かったと思うけど、やっぱりこのシエルってプレイヤーっていうよりシステム側のNPCキャラに近い気がする)
けれども、未だにレヴィ・スーンがどれだけのものか、曖昧でよく分かっていないのが自分の本音なのだ。
ヴィルフリートが啓一郎を探したいなら騒ぎになるから決して話すな、厄介ごとに巻き込まれたくないなら逃げろというから逃げているだけで。
「レヴィ・スーンらしいね。自覚はないし、証拠求められたら困るんだけれど」
「マジで言ってるのか?」
ツヴァングの表情から一切の笑みが消えた。
「あれ~?俺のこと知ってんの?」
パンパンと尻についた土を払い、ツヴァングは立ち上がる。真昼間から酒を飲んでいたらしく、アルコール独特の臭いが漂っている。
(くさっ……この距離でこんだけ匂うってどれだけ飲んでるのよ。ゲーム時代の知り合いがどういう風に生活しているのだろうか、実際に自分の目で見るのが不安で、この二日悶々と悩んでいたのが馬鹿らしく思えてきたわ)
アルコール独特の、それも数種の酒の匂いが混ざっている。
思わず顔をしかめた。
「いえ、全く知らないです。会ったこともないです。ではサヨウナラ」
「やっだなぁ~、さっき俺の名前言い当てたばっかりじゃん」
けれども、踵を返し立ち去ろうとしたシエルの肩を、へらへら笑いながら、ツヴァングがマントの上からがっちり掴んで逃がさない。
ツヴァングは十分ツヴァングらしく、リアルの記憶をなくしていてもアデルクライシスの世界を楽しく生きているようだ。現実世界で働きたくない、出勤したくない、ニートになりたいと言っていたツヴァングにとって、好きな酒を好きなだけ飲み、女性の家に転がり込み、『今』は夢が叶ったも同然だろう。
【黒の断片】の鑑定はあるが、楽しく幸せに生きているようだし、変に関わらずそっとしておこうと身を引いたのに、今度はツヴァングが離してくれない。
一瞬、軽く手をひねって立ち去ろうかとも考えたが、久しぶりに会えたせいで、躊躇われてしまわれた。
「お詫びに一杯酒奢るよ?」
「昼間からお酒は飲まないんで結構」
「おかたいねー。酒はいいよ~。嫌なこと全部忘れさせてくれる」
にんまりと意味深にニヤリと笑む。
「でも、こんなところで長話もあれだし、俺の店に来なよ。ちょっとここから歩くんだけど、酒ならいくらでも出すぜ?俺 に用があったんじゃないの?デバフ装飾なんかつけちゃって、面白いなアンタ」
ぺらぺらと口が饒舌なのは、酒が入っている所為として、酔っていても見るべきところは見逃さない。
装備をすぐに見抜くとは聞いていたけれど、すすめられた酒を断るために、マントから手を出して振った手首のブレスレットを見逃さなかったらしい。
(抜け目ないなぁ。頼んでもいないのに相手の装備を見ているのは、鑑定士としての癖ってことかな)
鑑定士としての腕は聞いていた通り確からしい。一度は関わるまいと考えたが、すでに装備を見抜かれてしまっているのなら、ここで下手に意地を張って立ち去っても、ツヴァングには余計に怪しまれるかもしれない。
「自分にはこれが必要だからつけてるんだよ。デバフじゃない」
「どんな理由があれば、そんなんが必要になるんだ?」
「色々あってね。自作だよ」
我が兄が用意したキャラではあるが、ステータスが高すぎると自らに害が出るとは、キャラそのものがデバフだ。
「へぇ?商売柄、つい誰でも鑑定しちまうクセついてんだけど、デバフは別としていい装飾具だ」
ほぅ、と目を見張り、素直に褒めてきた。お世辞を言う性格には見えないし、趣味で鑑定しているというなら、見え透いた世事を言う必要もない。
元生産職として、知り合い兼鑑定士に褒められるとどうにも嬉しいような、恥ずかしいような気持ちになった。
「……セセルティーがいい」
「セセルティーの茶っ葉って、ウチにあったっけかな。基本酒しか置いてないからさ、店行く途中に寄っていい?」
「どうぞ」
旅の間に寄った宿や食事が出来る小さな店ですらセセルティーは置いていたというのに、ツヴァングの店は本当に酒しか置いてないらしいと内心呆れる。
ツヴァングの数歩後ろをついていくが、足取りに迷いはない。それだけでこの辺りの地理を熟知していると分かる。
年季の入ったシルクハットに、モノクル、貴族が着てそうな襟付きのコート。後ろ姿だけならゲーム時代のツヴァングそのものだ。
そして、ついた店は以外にも金持ちがひいきにしてそうな上品な店で、逆に酒の臭いがするツヴァングは場違い感半端無い。店員がすぐにツヴァングを見つけるものの、怪訝な顔は見せず、親しそうな笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。
「ツヴァングさん、また昼間っから酒飲んでるんですか?あんまり酒飲んでばっかりだと、また女の人に家から放り出されますよ?」
「さっき放り出されたばっかだ」
「そうなんですか?いい歳なんだからそろそろ女遊びが落ち着けば、お父上も少しは安心されると思うんですけどねぇ~」
「親父の話ならいらねぇぜ。人生はゲームなんだから楽しまなきゃ損だろ。これは俺の客。そんで客に出すセセル茶の葉っぱくれ」
「ええええ!?こんな時間からツヴァングさんが鑑定のお仕事ですか!?」
「んだよ、わりぃか?」
「全然!いいことだと思います!セセル茶でしたね!一緒に焼き菓子もサービスしておきますよ!」
若い男の店員が嬉々として店の棚からセセル茶の葉が入っているらしい箱を開ける。会話から察するに、この店はシエルの予想通り、貴族や豪商がひいきにしている店で、ツヴァングの親と取引がある関係で知り合いなのだろう。
普通の店なら、昼っぱらからいきなり酒の臭いをぷんぷんさせた男が入ってきたら、訝しがられて、最悪商売の邪魔だと店員に店の外へ放り出される。
「お代はいつも通り、伯爵様の方につけておきますね」
「おう、頼む」
鷹揚に茶葉と焼き菓子が入っているらしい紙袋を受け取ると、お金を払うことなく店を出る。店員の慣れた対応といい、この調子では親の方へツケ払いは一度や二度ではないのだろう。
完全なニートではないようだけれど、齧れる脛(すね)はしっかり齧っているらしい
逆に不労のニートらしい。
「ここだ。店のヤツラもまだ来てないだろうから、適当に座っててくれ」
大通りから小道に入り、また少し歩いたところで、小さな看板1つ出した店だった。看板と言っても傾いたグラスのイラストしか描かれておらず店の名前はどこにもない。
けれど店内の内装はセンスがいいとシエルも認めざるを終えなかった。
(そういえばゲームのときの個人宅も、ツヴァングの部屋は内装オシャレだったから当然か)
壁の高い位置に小窓が何箇所かついているが、人はとても通れない小さなサイズだ。当然家の中は暗くなるが、この家が飲み屋ということを考えれば、全く差し支えないだろう。
大勢がおしかけて飲む店ではない。
ソファなんて場所を取るものは1つもなく、1人、2人、多くて3人くらいがゆっくりとグラスを傾けるようなテーブルの大きさと椅子。
各机に小さなランプが置かれ、それが夜になると明かりとなって店の中を幻想的に照らすのだろう。カウンター後ろには多種の酒が並べられていた、その角に店の裏に通じていると思われる扉が1つ。
本当に個人が趣味で経営してると言って過言ではない店だ。だが、酒をほとんど飲まないシエルでも、酒をゆっくり飲みたい者にとってこの店はとても居心地いいように思えた。
「えっと、お茶淹れるやつどこだっけ……。適当すわってて。この菓子もせっかくだから食べてって。俺、甘いやつ苦手でさ」
言われるままシエルは空いている席に座る。テーブルや椅子はちゃんと昨晩のうちに拭きあげられているのだろう。こぼれたお酒やおつまみのカスはどこにも見当たらない。いい店員を雇っているらしい。
しかし他人の家の台所を勝手に弄るのは、どうしても気が引けるため、自分は大人しく待つに限る。
「わるいね。店のことは任せっぱなしでどこに何があるやらさっぱりでさ。そうか!茶なんてここで淹れたことないから、ポットなんてあるわけないのか」
乾いた笑いのツヴァングに、溜息1つこぼしてアイテムボックスの中から、アイスセセルティーを二つ取り出す。
(あんまりこういうのは誰の前では見せたくないんだけど、これじゃいつまでも本題に入れないし……)
そしてセセルティーを出したついでに、被っていたフードを下ろした。
「………こりゃあ驚いた」
薄暗い部屋の中で、ツヴァングが息を呑んだのが伝わってくるが、すでに慣れたもので構うことなくヴィルフリートからもらった紹介状を差し出しす。
「コレ、紹介状」
「ご丁寧にどうも」
ぺり、とノリで張られた封を切り、紹介状の中身を確めると、くっと喉の奥でツヴァングは笑う。
「随分と俺のこと警戒されてるみたいで。それともそっちが大事にされてるのかね?」
開いた紹介状の中身をシエルにも読めるようにひっくり返す。
―――――――――――――――――――――
シエルに何かしやがったらぶっ殺す
ヴィルフリート・バーバリア
―――――――――――――――――――――
思わず関心するくらい見事な紹介状だ。
前にハッキリと嫌いだと明言していた通り、ヴィルフリートはツヴァングを嫌っているらしい。
そっちから会いに来たのに、殺すなんて随分な紹介状だとツヴァングは目線で理不尽を訴えてくるので、肩を竦めてスルーする。
「自分で紹介しておきながら殺すとか物騒すぎだろ。そんなに心配なら一緒に来ればよかったのに」
「ヴィルは別に用事があったし、着いてこようかって言ってくれたけど、自分が断ったんだよ」
「ヴィルねぇ?酒もほどほど、女にのめりこむこともねぇ、つまんねぇクソ堅物と思っていたが、よりにもよってこんなおっかねぇのに手を出す根性あったんだなあの冒険者」
「おっかない?」
「そうだろ?さっきどっかからセセルティー出したこともそうだが、そのブレスレット、裏を返せばランクの高いデバフ装飾具が必要なほど、ステータスが異常に高いってことじゃねえのか?」
身に着けているブレスレットを指摘し、違うのか?と再度問われて苦笑する。
その通りだ。これでずっと着ていたS10装備を着ていたなら、本当に見抜かれていたかもしれないと頭の隅で思う。
そして、紹介状を一応持ってきたというのに随分と警戒されている。
「お前、何者?」
「シエル・レヴィンソン」
「レヴィンソン?それがお前の名前か」
ファミリーネームにツヴァングの片眉がピクリと反応する。ヴィルフリートも<レヴィンソン>から<レヴィ・スーン>を連想付けたが、どうやらツヴァングも同じらしい。
(ヴィル曰く、ファミリーネームのレヴィンソン が神の子 って意味になるんだっけ。世界設定にもそんな設定無かったと思うけど、やっぱりこのシエルってプレイヤーっていうよりシステム側のNPCキャラに近い気がする)
けれども、未だにレヴィ・スーンがどれだけのものか、曖昧でよく分かっていないのが自分の本音なのだ。
ヴィルフリートが啓一郎を探したいなら騒ぎになるから決して話すな、厄介ごとに巻き込まれたくないなら逃げろというから逃げているだけで。
「レヴィ・スーンらしいね。自覚はないし、証拠求められたら困るんだけれど」
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ツヴァングの表情から一切の笑みが消えた。
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