チートキャラで閉鎖されたVRMMOゲームにログインしたら神の代行者でした

トキオ

文字の大きさ
42 / 60
神との駆け引き

1 誘惑

しおりを挟む
 狭い。1人用のベッドに2人寝るのだからそりゃあ狭くなる。
 しかしそれもだいぶ慣れた。

 本当なら宿で一番高い部屋の、広くて寝心地のいいベッドで寝ているはずなのだが、こうして寝ているのはお情け程度のマットが敷かれただけの硬いベッド。しかも場末の小さな酒場の仮眠室。

 それでも気に入っているのは、誰かとくっついて寝る心地良さがーーーナイ。いつも脇下あたりにくっついて寝ているイイ匂いの抱き枕がない。どこいった?

 まさか狭くてベッドから落ちたのか?と半分寝ぼけた頭のまま、軽く右腕であたりを探ると、ベッドから落ちるギリギリに枕を見つけた。

「シエル?オイ、こっち寄れ。落ちるぞ?」

 声をかけたところで起きるわけがない。
 落ちそうになっているシエルの脇に、勝手に腕を差し込み、中央へと引っ張り寄せる。

――むにっ

(むに?)

 大きくはない。しかし、男にはない独特の胸の柔らかさ。

「えっ!?女!?」

 一瞬で目が覚めた。パチリと目を見開き、がばっと起き上がり身を起こした。

 中にひっぱりこんだ反動で、ごろりと寝返りを打ったシエルが、上から覆いかぶさる形になっている自分の下で、無防備にすやすや寝ている。
 いつも寝巻として着ているシャツワンピースではない。ツヴァングの酒場で手伝いをしていた時に着ていた白シャツを、襟のボタンを数個外し寛がせている。

(シエル、だよな?いま、胸が柔らかくなかったか?)

 寝る前は確かにシエルの体は男だった。腕枕してやって、くっついた体は骨が節張っていてぺらかった。なのに、恐る恐る胸の上に手を置くと、シャツ一枚隔てて柔らかな感触が手の平に収まる。

(胸がある!こ、こいつ、体が女になってやがる!?なんでいきなり!?)

 男にも女にもなれる中性体なのは知っている。事実、シェルは意図的に男の体になってみせた。
 が、今度は何があって急に体が男から女になったのか。

(いや、確か男の体になったとき『5日限定』って言ってたはず……。今日で6日目だ、だとしたら元の中性体に戻って当たり前で、でもなんで元に戻らないで次は女になっているんだ!?)

 頭が混乱している。混乱している自覚がある。けれど、どうしてもシャツの隙間から覗く谷間に視線が落ちてしまう。

 ラドゴビス討伐に行く途中で一度だけ想像した、シエルの体が女になった姿が脳裏を過って、ごくりと生唾を飲み込んだ。
 男の時より細く、柔らかく、腕の中で無防備にされるがままになった体。深く閉ざされた瞳。
 
 いつもの香しい匂いが、さらに甘く感じる。

「シエル……」

 ダメだと分かっているのに自分を止められない。
 薄っすらと開いた赤い唇に口づけようとして、

「こんな時に限ってなんで起きる?」

 触れる直前でパチリと目を開いたシエルと視線が合った。金色の大きな瞳に、マヌケな自分の顔が映っている。
 普段はあんなに寝汚いし、起こしても起きないくせに、起きてほしくないときに限って目を覚ます。
 これはマズイ。寝込みを襲ってキスしようとしたのを見られてしまった。

「いや、こんなに胸揉まれてたら誰でも起きるよ。ていうか、なんで自分に乳があるの?」

「俺に聞くな。俺の方が知りたい。それに目の前に乳があったら揉むのが男だ」

 問われても分かるわけがない。
 しかも寝込みを襲うとした言い訳が、自分でも呆れるような言い訳になってしまった。

(何言ってんだよ、俺……。目の前に乳があったら揉むってツヴァングかよ……)

 自身の言葉で落ち込んでいると、いきなりシエルが顔を掴んで腕を突っ張ったせいで、顔を横に向けられた。
 首がぐきと鈍い音がした気がする。

「イデッ!」

「ちょっと向こう向いてて!絶対こっち見ないで!確認するから!」

 なんだよ、とは思いつつも、視界の端にシエルが恒例になった『黒の書』を取り出したのが見えた。それから書を持っている手がぶるぶる震え始めると、すっと書が消える。
 アイテムボックスの中に『黒の書』を戻したのだろう。

 読み終えると、仰向けだった体を横向きにして、顔を両手で覆った。見るからに落ち込んでいる。この様子なら、急に女の体になった理由も判明したのだろう。

「原因わかったのか?」

「分かった……。5日限定で好きな性別になれるけど、その反動で直後の5日間は逆の性別になるそう……。そんなの5日前には書いてなかったのにぃ~……」

「何事も自分に都合のいいことばかりじゃないって事だな」
 
 <レヴィ・スーン>は何でも叶える力を持つというが、自分の体の性もままならないとは。しかし、『黒の書』とは本当にシエルの体について、事細かに説明が書かれているのだろう。本人ですら知らないことを、何でも書かれてある。

「ところで、原因がそれなら今日から5日限定で今度は女になったってことだよな?」

「そういうことになるね……」

「乳、揉んでもいいか?せっかくあるんだし」

「………報酬であげた槍使ってくれるならいいよ」

「………」

 どさくさに紛れてと思ったのに、嫌なところを突いてくる。
 グングニルの槍にシエルが施した細工。修理に出したつもりが、とんでもないサービスがついてきたことに気づいた時は、開いた口が塞がらなかった。
 シエルは強化しただけと簡単にいうが、この世で最高ランクの武器が秘められては、強化どころではない。

 ルシフェルのダンジョンでシエルが戦った時の武器『インペリアル・エクス』と同等のS10武器。それが自分のグングニルの中に秘められている。

 強さを求める者にとっては、逆らい難いほど甘美な報酬。喉から手が出るほどほしい。手を伸ばすだけで最強の強さが手に入る。

 しかし、冒険者になって自分の力だけで強くなると決めた信条とは相容れない強さ。その信条を胸に、これまでどんな苦しいときも、辛いことも乗り越えてきた。
 武器は欲しいが、与えられた強さには頼りたくない。

 けれど、だけど―――それとは別に―――

(だが、乳は揉みたい……)

 顔を覆った指と指の隙間から、シエルの目がこちらを見ている。
 誘惑に堕ちるかどうか、まさしく試されていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

処理中です...