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終息へむけて
7 星空
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雲一つない満点の星空。
小さな瞬きを何度も繰り返しながら、少しづつ西の空へと移動していく。
こんな空は、リアルならば電車に何時間も乗って田舎の方へ行かなければ、見られない。
「まだ起きていたのか?」
隣で寝ていたヴィルフリートが、自分が起きている気配に気づいたらしい。大き目の寝袋は2人で寝ても、シングルベッドほど狭くない。
ピピ・コリンを出て、徒歩で次の目的地へ向かう途中の野宿。エアーボードはレンタル中としても、UMAに乗るのはナイ。
寝袋の横から顔を少しだけ覗かせて、空をじっと見上げる。
「星、見てた。キレイだね」
「キレイだが、星なんてそう珍しいものじゃないだろ?夜になれば曇ってなきゃいつでも見れる」
「自分がいたところじゃ見れないんだよ」
「……星が見れないのか?ずっと部屋の中にいたとか?」
「それも無くはないんだけれど、自分のいたところはね、夜でも外はすごく明るくて、星の小さい明かりは地上の光に打ち消されてほとんど見えないし、空もこんなに広くなくて」
「夜でもすごく明るい?」
電気の明かりを知らないらしいヴィルフリートが戸惑った気配がして、クスリと笑む。
真っ暗な空を見上げることはほとんどなく、見上げても高いビルや建物で縁どられた空は四角く、小さかった。
(だからここが本当にリアルとは違う世界、ゲームの世界なんだなって……)
思い出したリアルに、急に胸が締め付けられて、寝袋の中に潜り込む。
そうすると真っ暗闇に包まれた。
「シーツの中潜り込んで、息苦しくないか?」
寝袋の上から、少し呆れてるような声がする。
少し息苦しい気はしなくもないけれど、我慢できないほどではない。
「平気」
リアルのベッドで寝ていたころは、ちゃんと顔を布団から出していた。ではいつから布団の中に潜り込んで寝るようになったか?というと、心当たりはあった。
ログインしてすぐに馬酔いし、夜も気持ち悪くて寝込んでいたとき、ふと夜中に目覚めて見上げた星々の輝きに目を奪われた。
頬を撫でる外気の冷たさや周りの木々の葉擦れの音、小さな虫の鳴き声も、自分を取り囲む全てがリアルではないのだと実感した。
その現実離れした光景に、ちっぽけな自分など簡単にゲーム世界に飲み込まれてしまいそうで、怖くなって寝袋の中に潜り込んだ。
そうすると周りの音は小さくなり、リアルと同じ暗闇の中で、気休めでも安堵した。あれ以来、眠るときはシーツや寝袋の中に潜り込むようになってしまった。
そして今は暗闇に包まれるだけでなく、隣にヴィルフリートがいてくれるお陰で温かい。
「なぁ、ピピ・コリンの冒険者ギルドで俺がさ、シエルのモノになるって言ってくれって頼んだの覚えてるか?」
話しながら横を向いたヴィルフリートの腕が首下に回されて、腕枕をされている恰好になった。背中越しに感じるヴィルフリートの体温。不快ではないので好きなようにさせておく。
「言ってたね。せっかくSランクにまでなったのに、あれでギルドから目を付けられただろうね。勿体ない」
「目を付けられたっていうならお前も一緒だぞ。要らない喧嘩まで吹っ掛けたし、これからの行動を探ってくるはずだ」
「別に周りをウロチョロするくらいなら無視するもん。多少不快だけど」
ただし正面切って喧嘩を売ってきたなら、買わざるを得ないだろうとは自分の人生論だ。
相手から言われてばかりでなぁなぁで逃げていると、状況が悪化するだけになる場合があることを知っている。
時にハッキリと此方の意思を示すことはとても大切だ。
「……礼を言うのがだいぶ遅れたけど、槍、ありがとうな」
「でも結局最後まで<制限解除>選ばなかったじゃない。知ってるよ」
離れていてもPTメンバーの戦闘ログは残っている。ヴィルフリートは自分が託した力を選ばなかった。
【カリス・ウォイド】が出現したのは、戦闘による闘魔力ゲージがMAXになったゆえの『自動解除』にすぎない。
元々使っていたグングニル・アドはS5ランクで究極スキルは備わっていないから、 闘魔力の蓄積ゲージも備わっていない。しかしグングニル・アドをベースに【カリス・ウォイド】を組み込んだことで、 闘魔力の蓄積ゲージが備わった。
ゲージがMAXになってもグングニル・アドでは究極スキルを放ち、ゲージを解放できない。だから自動で槍は【カリス・ウォイド】へ移行したにすぎない。
「それでもだ。シエルがグングニルに【カリス・ヴォイド】を組み込んでいたお陰で、俺は死なずにすんだ。そして………ノアンにギルドとシエルのどちらかを取れと迫られたとき、このPTに残る方を選べた」
「【カリス・ヴォイド】のお陰?」
「俺がもしあのとき、ノアンにPTの詳細を話していたら、シエルは話すことを止めはしないだろうが、俺をPTから外していただろう?」
「………そうだね」
「冒険者になったころから、俺の傍にはずっとグングニルが共にあった。でも、俺の相棒はもうグングニル・アドじゃない。シエルにもらった【カリス・ヴォイド】だ」
ヴィルフリートは淡々と話す。
道中、暇なので、アイテムボックスの使い方を教えたけれど、ヴィルフリートはやっぱり槍は背中に背負っている。それが慣れているかららしい。
自分がいつも何もない空間からアイテムを取り出しているのを、他人事のように便利だなと言っていた。
それを自分も使えるようになるとは、考えもしなかったようだ。
とくに目の前のアイテムが消えて、アイテムボックス欄にアイコンとなって表示されるのは、仕組みが理解できず頭を悩ませていたので、考えるだけ無駄とアドバイスした。
(こういうのってプログラミングの領域でしょ?私だって詳しい説明できないもの。考えても分からないことは、そういうものだって受け入れたほうが楽よね)
ただ、【カリス・ウォイド】は外見的に派手な槍なので、不必要に見られて注目を集めないよう、幅のある布を巻いて隠している。
「だから、ノアンに迫られたとき、シエルを選ぶことに迷いはなかった。何より【カリス・ウォイド】が無かったら、こうして一緒に星空を見上げている俺はいない」
冒険者ギルドでそんなことをヴィルフリートは考えていたのかと思うと、急に感慨深いような、くすぐったいような不思議な気持ちになる。
【カリス・ヴォイド】は元々は自分がヴィルフリートを危険に晒したくなくて、グングニルのメンテのついでに無理やり押し付けたようなものだ。<制限解除>があることに気づいたときも、ヴィルフリートは激しく怒りこそしなかったけれど、決して喜んではいなかった。
リアナの裏ダンジョン攻略で、【カリス・ヴォイド】を託していたお陰でヴィルフリートが助かったのは事実だ。
けれども、己が死ぬかもしれないという最後まで【カリス・ヴォイド】を選ばなかったヴィルフリートに、自分が一抹の寂しさを内心感じたのも事実で。
けれど、こうして改めてお礼を言われると、【カリス・ヴォイド】を託しておいて良かったと嬉しい気持ちが湧き上がってくる。
何より、単純にヴィルフリートがギルドではなく、自分を選んでくれたことが嬉しかった。
「それでだな……。話戻して、俺がシエルのモノになるって言った意味なんだが……」
「ん?」
急に神妙な声色になったヴィルフリートに、ぐるりと体を反転させられた。
なんとなくあの言葉のニュアンスは、自分が受け取った意味と違う気が薄々しているが、あの場はノアンとビルフッドもいて、意味を尋ねることができないままである。
「あれは、シエルのPTに残るって意味だけじゃなくてだな………」
「他に何の意味が?」
潜り込んでいた寝袋の中で、腕枕してくれている顔を見上げた。見上げた寝袋の隙間から、夜空の星の明かりに、薄っすら照らされたヴィルフリートの顔が見える。
けれどそれもすぐに真っ暗闇になってしまった。
代わりに見上げた自分の唇に触れる柔らかな感触。
再び寝袋の隙間に明かりが差し込めば、見下ろすヴィルフリートの顔は夜でも分かるくらい真っ赤で。それを隠すように今度は両腕で抱きしめられた。
力強いその腕は軽く押してもびくともしない。けど少しだけ震えている。
(今のってヴィルにキスされた?)
「えっと、自分まだ女じゃないんですが?」
「知ってる………」
全くの予想外展開に、頭が混乱するどころか、むしろ冷静になってしまう。
(逆だ…。頭が混乱して何も考えられないようにしてるんだ。混乱しちゃってもまともな考えができるわけもないし……)
冒険者ギルドでヴィルフリートが言った真意が、ノアンとビルフッドには伝わったのに、肝心の自分には全く伝わっていなくて、だからあんな憐悲の眼差しを向けられたのかと今頃理解する。
我ながらなんて鈍い。リアルでも告白されたことはもちろん、異性と付き合ったこともなくて、そっち関係はほんとうに疎くて……思いもよらなかった……。ごめんなさい……。
「でもヴィルは胸ある方が好きでしょ?フルールベルのおねぇさん達だって、みんな胸大きかったし。自分、胸ないよ?」
ついでに付け足せば、この前、想定外の【黒の書】の自動記述で体が女性体になったときだって、ヴィルフリートは胸を揉ませてくれと懇願してきた。ヴィルフリートは絶対巨乳好きだ。断言する。
「胸はそこまで重要視していないから、強調するな……」
視線が宙を向いた。絶対嘘だ。しかし、そうは言われても、何分、急な話なので返事に困ってしまう。
ヴィルフリートのことはとても頼りにしている。元から強かったし、冒険者として経験も豊富でこの世界のことに詳しい。
ログインしたばかりのころの弱った姿は見られまくりだし、UMA嫌い(乗るのが)もバレている。
『シエル様、貴方様は世界中から狙われております。<レヴィ・スーン>を手に入れればどんな願いも叶えると皆信じております』
ハムストレムのダンジョンを出た帰り道、ユスティアが頭を垂れて、恐る恐る忠告してきた。
とりわけ、自分が<レヴィ・スーン>とかいう世界から狙われている存在であることを教えてくれて、ダンジョンの情報を教えてくれたことは感謝してもしきれない。そして誰にも言わずに内緒にしてくれていることも。
イマイチ自覚が湧かないとしても。
「返事とかはまだしなくていいから……。でも、たまにでいいから思い出してくれ……」
「ホントにたまに思い出すだけでいいの?」
無意識に出た言葉に自分自身が驚いた。
マズイと思っても、もう言ってしまった言葉は取り消せない。
(何言ってるの私!?せっかく返事を先延ばしにしていいって言ってるのに!!)
当然びくっとヴィルフリートの体が震える。
ヤバい。今のは恋愛音痴の自分だって悪手だってわかった。
目をぱちくりと丸くさせたかと思うと、ヴィルフリートは今まで一緒にいて、一度も見たことのない顔になって顔を近づけてきた。
(またキスしようとしてる!?待って!待って!ストップ!)
逃げなければと思うのに、ヴィルフリートの腕ががっちり自分を抱きしめていて抜け出せない。
(ひぃぅ!待ってください!ヴィルフリートさん!)
――ピコン
ヴィルフリートと再び唇が重なる間際、チャットとは違う音に閉じかけていた目を開く。
ヴィルフリートも告知音に動きを止めてくれた。助かった。
腕を伸ばして被っていた寝袋をがばっと退ければ、そこに四角いウィンドウが立ち上がっていた。
表示内容は、
――――――――――――――――
PT加入申請が届きました。
ツヴァング・リッツのPT加入を了承しますか?
Yes or NO ?
――――――――――――――――
「なんだこれ?ツヴァング?」
PTへの申請なのでメンバーであるヴィルフリートにも、この画面が見えているのだろう。
あと少しのところを邪魔されたせいか、思いっきり眉間に皺が寄っている。
「PT入りたいって申し込みが来てる」
「はぁ!?勝手に抜けてった奴がなんで今頃!?」
「さぁ?」
とぼけつつ『Yes』を選択すると、ウィンドウはそれでパッと消える。
途端にPTリストの一番したにツヴァングの名前が追加された。
「って!なんでYes押した!?」
「何でだろうね~。入りたいって言ってきてるんだから入ればいいんじゃない?そろそろ遅いし寝るね。おやすみ」
さきほどどかした寝袋をまた被りなおして、もそもそとヴィルフリートの胸下あたりに顔を埋めた。
突然のハプニングだったが、ツヴァングのお陰でどうにか逃げきれたらしい。
ツヴァングの店前を野次馬が取り囲んでいて、結局挨拶もしないで街を出ることになった。せっかくニートに戻れるだろうに、どうしてまたPTに入りたいと考えたのか分からないが、とにかく今はそのツヴァングの気まぐれに感謝しておく。
「あ!こら!」
頭の上でまだヴィルフリートが何か言ってるけれど断固聞こえないフリだ。
小さな瞬きを何度も繰り返しながら、少しづつ西の空へと移動していく。
こんな空は、リアルならば電車に何時間も乗って田舎の方へ行かなければ、見られない。
「まだ起きていたのか?」
隣で寝ていたヴィルフリートが、自分が起きている気配に気づいたらしい。大き目の寝袋は2人で寝ても、シングルベッドほど狭くない。
ピピ・コリンを出て、徒歩で次の目的地へ向かう途中の野宿。エアーボードはレンタル中としても、UMAに乗るのはナイ。
寝袋の横から顔を少しだけ覗かせて、空をじっと見上げる。
「星、見てた。キレイだね」
「キレイだが、星なんてそう珍しいものじゃないだろ?夜になれば曇ってなきゃいつでも見れる」
「自分がいたところじゃ見れないんだよ」
「……星が見れないのか?ずっと部屋の中にいたとか?」
「それも無くはないんだけれど、自分のいたところはね、夜でも外はすごく明るくて、星の小さい明かりは地上の光に打ち消されてほとんど見えないし、空もこんなに広くなくて」
「夜でもすごく明るい?」
電気の明かりを知らないらしいヴィルフリートが戸惑った気配がして、クスリと笑む。
真っ暗な空を見上げることはほとんどなく、見上げても高いビルや建物で縁どられた空は四角く、小さかった。
(だからここが本当にリアルとは違う世界、ゲームの世界なんだなって……)
思い出したリアルに、急に胸が締め付けられて、寝袋の中に潜り込む。
そうすると真っ暗闇に包まれた。
「シーツの中潜り込んで、息苦しくないか?」
寝袋の上から、少し呆れてるような声がする。
少し息苦しい気はしなくもないけれど、我慢できないほどではない。
「平気」
リアルのベッドで寝ていたころは、ちゃんと顔を布団から出していた。ではいつから布団の中に潜り込んで寝るようになったか?というと、心当たりはあった。
ログインしてすぐに馬酔いし、夜も気持ち悪くて寝込んでいたとき、ふと夜中に目覚めて見上げた星々の輝きに目を奪われた。
頬を撫でる外気の冷たさや周りの木々の葉擦れの音、小さな虫の鳴き声も、自分を取り囲む全てがリアルではないのだと実感した。
その現実離れした光景に、ちっぽけな自分など簡単にゲーム世界に飲み込まれてしまいそうで、怖くなって寝袋の中に潜り込んだ。
そうすると周りの音は小さくなり、リアルと同じ暗闇の中で、気休めでも安堵した。あれ以来、眠るときはシーツや寝袋の中に潜り込むようになってしまった。
そして今は暗闇に包まれるだけでなく、隣にヴィルフリートがいてくれるお陰で温かい。
「なぁ、ピピ・コリンの冒険者ギルドで俺がさ、シエルのモノになるって言ってくれって頼んだの覚えてるか?」
話しながら横を向いたヴィルフリートの腕が首下に回されて、腕枕をされている恰好になった。背中越しに感じるヴィルフリートの体温。不快ではないので好きなようにさせておく。
「言ってたね。せっかくSランクにまでなったのに、あれでギルドから目を付けられただろうね。勿体ない」
「目を付けられたっていうならお前も一緒だぞ。要らない喧嘩まで吹っ掛けたし、これからの行動を探ってくるはずだ」
「別に周りをウロチョロするくらいなら無視するもん。多少不快だけど」
ただし正面切って喧嘩を売ってきたなら、買わざるを得ないだろうとは自分の人生論だ。
相手から言われてばかりでなぁなぁで逃げていると、状況が悪化するだけになる場合があることを知っている。
時にハッキリと此方の意思を示すことはとても大切だ。
「……礼を言うのがだいぶ遅れたけど、槍、ありがとうな」
「でも結局最後まで<制限解除>選ばなかったじゃない。知ってるよ」
離れていてもPTメンバーの戦闘ログは残っている。ヴィルフリートは自分が託した力を選ばなかった。
【カリス・ウォイド】が出現したのは、戦闘による闘魔力ゲージがMAXになったゆえの『自動解除』にすぎない。
元々使っていたグングニル・アドはS5ランクで究極スキルは備わっていないから、 闘魔力の蓄積ゲージも備わっていない。しかしグングニル・アドをベースに【カリス・ウォイド】を組み込んだことで、 闘魔力の蓄積ゲージが備わった。
ゲージがMAXになってもグングニル・アドでは究極スキルを放ち、ゲージを解放できない。だから自動で槍は【カリス・ウォイド】へ移行したにすぎない。
「それでもだ。シエルがグングニルに【カリス・ヴォイド】を組み込んでいたお陰で、俺は死なずにすんだ。そして………ノアンにギルドとシエルのどちらかを取れと迫られたとき、このPTに残る方を選べた」
「【カリス・ヴォイド】のお陰?」
「俺がもしあのとき、ノアンにPTの詳細を話していたら、シエルは話すことを止めはしないだろうが、俺をPTから外していただろう?」
「………そうだね」
「冒険者になったころから、俺の傍にはずっとグングニルが共にあった。でも、俺の相棒はもうグングニル・アドじゃない。シエルにもらった【カリス・ヴォイド】だ」
ヴィルフリートは淡々と話す。
道中、暇なので、アイテムボックスの使い方を教えたけれど、ヴィルフリートはやっぱり槍は背中に背負っている。それが慣れているかららしい。
自分がいつも何もない空間からアイテムを取り出しているのを、他人事のように便利だなと言っていた。
それを自分も使えるようになるとは、考えもしなかったようだ。
とくに目の前のアイテムが消えて、アイテムボックス欄にアイコンとなって表示されるのは、仕組みが理解できず頭を悩ませていたので、考えるだけ無駄とアドバイスした。
(こういうのってプログラミングの領域でしょ?私だって詳しい説明できないもの。考えても分からないことは、そういうものだって受け入れたほうが楽よね)
ただ、【カリス・ウォイド】は外見的に派手な槍なので、不必要に見られて注目を集めないよう、幅のある布を巻いて隠している。
「だから、ノアンに迫られたとき、シエルを選ぶことに迷いはなかった。何より【カリス・ウォイド】が無かったら、こうして一緒に星空を見上げている俺はいない」
冒険者ギルドでそんなことをヴィルフリートは考えていたのかと思うと、急に感慨深いような、くすぐったいような不思議な気持ちになる。
【カリス・ヴォイド】は元々は自分がヴィルフリートを危険に晒したくなくて、グングニルのメンテのついでに無理やり押し付けたようなものだ。<制限解除>があることに気づいたときも、ヴィルフリートは激しく怒りこそしなかったけれど、決して喜んではいなかった。
リアナの裏ダンジョン攻略で、【カリス・ヴォイド】を託していたお陰でヴィルフリートが助かったのは事実だ。
けれども、己が死ぬかもしれないという最後まで【カリス・ヴォイド】を選ばなかったヴィルフリートに、自分が一抹の寂しさを内心感じたのも事実で。
けれど、こうして改めてお礼を言われると、【カリス・ヴォイド】を託しておいて良かったと嬉しい気持ちが湧き上がってくる。
何より、単純にヴィルフリートがギルドではなく、自分を選んでくれたことが嬉しかった。
「それでだな……。話戻して、俺がシエルのモノになるって言った意味なんだが……」
「ん?」
急に神妙な声色になったヴィルフリートに、ぐるりと体を反転させられた。
なんとなくあの言葉のニュアンスは、自分が受け取った意味と違う気が薄々しているが、あの場はノアンとビルフッドもいて、意味を尋ねることができないままである。
「あれは、シエルのPTに残るって意味だけじゃなくてだな………」
「他に何の意味が?」
潜り込んでいた寝袋の中で、腕枕してくれている顔を見上げた。見上げた寝袋の隙間から、夜空の星の明かりに、薄っすら照らされたヴィルフリートの顔が見える。
けれどそれもすぐに真っ暗闇になってしまった。
代わりに見上げた自分の唇に触れる柔らかな感触。
再び寝袋の隙間に明かりが差し込めば、見下ろすヴィルフリートの顔は夜でも分かるくらい真っ赤で。それを隠すように今度は両腕で抱きしめられた。
力強いその腕は軽く押してもびくともしない。けど少しだけ震えている。
(今のってヴィルにキスされた?)
「えっと、自分まだ女じゃないんですが?」
「知ってる………」
全くの予想外展開に、頭が混乱するどころか、むしろ冷静になってしまう。
(逆だ…。頭が混乱して何も考えられないようにしてるんだ。混乱しちゃってもまともな考えができるわけもないし……)
冒険者ギルドでヴィルフリートが言った真意が、ノアンとビルフッドには伝わったのに、肝心の自分には全く伝わっていなくて、だからあんな憐悲の眼差しを向けられたのかと今頃理解する。
我ながらなんて鈍い。リアルでも告白されたことはもちろん、異性と付き合ったこともなくて、そっち関係はほんとうに疎くて……思いもよらなかった……。ごめんなさい……。
「でもヴィルは胸ある方が好きでしょ?フルールベルのおねぇさん達だって、みんな胸大きかったし。自分、胸ないよ?」
ついでに付け足せば、この前、想定外の【黒の書】の自動記述で体が女性体になったときだって、ヴィルフリートは胸を揉ませてくれと懇願してきた。ヴィルフリートは絶対巨乳好きだ。断言する。
「胸はそこまで重要視していないから、強調するな……」
視線が宙を向いた。絶対嘘だ。しかし、そうは言われても、何分、急な話なので返事に困ってしまう。
ヴィルフリートのことはとても頼りにしている。元から強かったし、冒険者として経験も豊富でこの世界のことに詳しい。
ログインしたばかりのころの弱った姿は見られまくりだし、UMA嫌い(乗るのが)もバレている。
『シエル様、貴方様は世界中から狙われております。<レヴィ・スーン>を手に入れればどんな願いも叶えると皆信じております』
ハムストレムのダンジョンを出た帰り道、ユスティアが頭を垂れて、恐る恐る忠告してきた。
とりわけ、自分が<レヴィ・スーン>とかいう世界から狙われている存在であることを教えてくれて、ダンジョンの情報を教えてくれたことは感謝してもしきれない。そして誰にも言わずに内緒にしてくれていることも。
イマイチ自覚が湧かないとしても。
「返事とかはまだしなくていいから……。でも、たまにでいいから思い出してくれ……」
「ホントにたまに思い出すだけでいいの?」
無意識に出た言葉に自分自身が驚いた。
マズイと思っても、もう言ってしまった言葉は取り消せない。
(何言ってるの私!?せっかく返事を先延ばしにしていいって言ってるのに!!)
当然びくっとヴィルフリートの体が震える。
ヤバい。今のは恋愛音痴の自分だって悪手だってわかった。
目をぱちくりと丸くさせたかと思うと、ヴィルフリートは今まで一緒にいて、一度も見たことのない顔になって顔を近づけてきた。
(またキスしようとしてる!?待って!待って!ストップ!)
逃げなければと思うのに、ヴィルフリートの腕ががっちり自分を抱きしめていて抜け出せない。
(ひぃぅ!待ってください!ヴィルフリートさん!)
――ピコン
ヴィルフリートと再び唇が重なる間際、チャットとは違う音に閉じかけていた目を開く。
ヴィルフリートも告知音に動きを止めてくれた。助かった。
腕を伸ばして被っていた寝袋をがばっと退ければ、そこに四角いウィンドウが立ち上がっていた。
表示内容は、
――――――――――――――――
PT加入申請が届きました。
ツヴァング・リッツのPT加入を了承しますか?
Yes or NO ?
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「なんだこれ?ツヴァング?」
PTへの申請なのでメンバーであるヴィルフリートにも、この画面が見えているのだろう。
あと少しのところを邪魔されたせいか、思いっきり眉間に皺が寄っている。
「PT入りたいって申し込みが来てる」
「はぁ!?勝手に抜けてった奴がなんで今頃!?」
「さぁ?」
とぼけつつ『Yes』を選択すると、ウィンドウはそれでパッと消える。
途端にPTリストの一番したにツヴァングの名前が追加された。
「って!なんでYes押した!?」
「何でだろうね~。入りたいって言ってきてるんだから入ればいいんじゃない?そろそろ遅いし寝るね。おやすみ」
さきほどどかした寝袋をまた被りなおして、もそもそとヴィルフリートの胸下あたりに顔を埋めた。
突然のハプニングだったが、ツヴァングのお陰でどうにか逃げきれたらしい。
ツヴァングの店前を野次馬が取り囲んでいて、結局挨拶もしないで街を出ることになった。せっかくニートに戻れるだろうに、どうしてまたPTに入りたいと考えたのか分からないが、とにかく今はそのツヴァングの気まぐれに感謝しておく。
「あ!こら!」
頭の上でまだヴィルフリートが何か言ってるけれど断固聞こえないフリだ。
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