チートキャラで閉鎖されたVRMMOゲームにログインしたら神の代行者でした

トキオ

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終息へむけて

7 星空

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 雲一つない満点の星空。
 小さな瞬きを何度も繰り返しながら、少しづつ西の空へと移動していく。
 こんな空は、リアルならば電車に何時間も乗って田舎の方へ行かなければ、見られない。

「まだ起きていたのか?」

 隣で寝ていたヴィルフリートが、自分が起きている気配に気づいたらしい。大き目の寝袋は2人で寝ても、シングルベッドほど狭くない。
 ピピ・コリンを出て、徒歩で次の目的地へ向かう途中の野宿。エアーボードはレンタル中としても、UMAに乗るのはナイ。
 
 寝袋の横から顔を少しだけ覗かせて、空をじっと見上げる。

「星、見てた。キレイだね」

「キレイだが、星なんてそう珍しいものじゃないだろ?夜になれば曇ってなきゃいつでも見れる」

「自分がいたところじゃ見れないんだよ」

「……星が見れないのか?ずっと部屋の中にいたとか?」

「それも無くはないんだけれど、自分のいたところはね、夜でも外はすごく明るくて、星の小さい明かりは地上の光に打ち消されてほとんど見えないし、空もこんなに広くなくて」

「夜でもすごく明るい?」

 電気の明かりを知らないらしいヴィルフリートが戸惑った気配がして、クスリと笑む。

 真っ暗な空を見上げることはほとんどなく、見上げても高いビルや建物で縁どられた空は四角く、小さかった。

(だからここが本当にリアルとは違う世界、ゲームの世界なんだなって……)

 思い出したリアルに、急に胸が締め付けられて、寝袋の中に潜り込む。
 そうすると真っ暗闇に包まれた。

「シーツの中潜り込んで、息苦しくないか?」

 寝袋の上から、少し呆れてるような声がする。
 少し息苦しい気はしなくもないけれど、我慢できないほどではない。

「平気」
 
 リアルのベッドで寝ていたころは、ちゃんと顔を布団から出していた。ではいつから布団の中に潜り込んで寝るようになったか?というと、心当たりはあった。

 ログインしてすぐに馬酔いし、夜も気持ち悪くて寝込んでいたとき、ふと夜中に目覚めて見上げた星々の輝きに目を奪われた。

 頬を撫でる外気の冷たさや周りの木々の葉擦れの音、小さな虫の鳴き声も、自分を取り囲む全てがリアルではないのだと実感した。
 その現実離れした光景に、ちっぽけな自分など簡単にゲーム世界に飲み込まれてしまいそうで、怖くなって寝袋の中に潜り込んだ。
 
 そうすると周りの音は小さくなり、リアルと同じ暗闇の中で、気休めでも安堵した。あれ以来、眠るときはシーツや寝袋の中に潜り込むようになってしまった。
 
 そして今は暗闇に包まれるだけでなく、隣にヴィルフリートがいてくれるお陰で温かい。

「なぁ、ピピ・コリンの冒険者ギルドで俺がさ、シエルのモノになるって言ってくれって頼んだの覚えてるか?」

 話しながら横を向いたヴィルフリートの腕が首下に回されて、腕枕をされている恰好になった。背中越しに感じるヴィルフリートの体温。不快ではないので好きなようにさせておく。

「言ってたね。せっかくSランクにまでなったのに、あれでギルドから目を付けられただろうね。勿体ない」

「目を付けられたっていうならお前も一緒だぞ。要らない喧嘩まで吹っ掛けたし、これからの行動を探ってくるはずだ」

「別に周りをウロチョロするくらいなら無視するもん。多少不快だけど」

 ただし正面切って喧嘩を売ってきたなら、買わざるを得ないだろうとは自分の人生論だ。
相手から言われてばかりでなぁなぁで逃げていると、状況が悪化するだけになる場合があることを知っている。
 
 時にハッキリと此方の意思を示すことはとても大切だ。

「……礼を言うのがだいぶ遅れたけど、槍、ありがとうな」

「でも結局最後まで<制限解除>選ばなかったじゃない。知ってるよ」

 離れていてもPTメンバーの戦闘ログは残っている。ヴィルフリートは自分が託したカリス・ウォイドを選ばなかった。
 【カリス・ウォイド】が出現したのは、戦闘による闘魔力ゲージがMAXになったゆえの『自動解除』にすぎない。

 元々使っていたグングニル・アドはS5ランクで究極スキルは備わっていないから、 闘魔力の蓄積ゲージも備わっていない。しかしグングニル・アドをベースに【カリス・ウォイド】を組み込んだことで、 闘魔力の蓄積ゲージが備わった。

 ゲージがMAXになってもグングニル・アドでは究極スキルを放ち、ゲージを解放できない。だから自動で槍は【カリス・ウォイド】へ移行したにすぎない。

「それでもだ。シエルがグングニルに【カリス・ヴォイド】を組み込んでいたお陰で、俺は死なずにすんだ。そして………ノアンにギルドとシエルのどちらかを取れと迫られたとき、このPTに残る方を選べた」

「【カリス・ヴォイド】のお陰?」

「俺がもしあのとき、ノアンにPTの詳細を話していたら、シエルは話すことを止めはしないだろうが、俺をPTから外していただろう?」

「………そうだね」

「冒険者になったころから、俺の傍にはずっとグングニルが共にあった。でも、俺の相棒はもうグングニル・アドじゃない。シエルにもらった【カリス・ヴォイド】だ」

 ヴィルフリートは淡々と話す。
 道中、暇なので、アイテムボックスの使い方を教えたけれど、ヴィルフリートはやっぱり槍は背中に背負っている。それが慣れているかららしい。

 自分がいつも何もない空間からアイテムを取り出しているのを、他人事のように便利だなと言っていた。
 それを自分も使えるようになるとは、考えもしなかったようだ。

 とくに目の前のアイテムが消えて、アイテムボックス欄にアイコンとなって表示されるのは、仕組みが理解できず頭を悩ませていたので、考えるだけ無駄とアドバイスした。

(こういうのってプログラミングの領域でしょ?私だって詳しい説明できないもの。考えても分からないことは、そういうものだって受け入れたほうが楽よね)

 ただ、【カリス・ウォイド】は外見的に派手な槍なので、不必要に見られて注目を集めないよう、幅のある布を巻いて隠している。

「だから、ノアンに迫られたとき、シエルを選ぶことに迷いはなかった。何より【カリス・ウォイド】が無かったら、こうして一緒に星空を見上げている俺はいない」

 冒険者ギルドでそんなことをヴィルフリートは考えていたのかと思うと、急に感慨深いような、くすぐったいような不思議な気持ちになる。

 【カリス・ヴォイド】は元々は自分がヴィルフリートを危険に晒したくなくて、グングニルのメンテのついでに無理やり押し付けたようなものだ。<制限解除>があることに気づいたときも、ヴィルフリートは激しく怒りこそしなかったけれど、決して喜んではいなかった。

 リアナの裏ダンジョン攻略で、【カリス・ヴォイド】を託していたお陰でヴィルフリートが助かったのは事実だ。
 けれども、己が死ぬかもしれないという最後まで【カリス・ヴォイド】を選ばなかったヴィルフリートに、自分が一抹の寂しさを内心感じたのも事実で。
 
 けれど、こうして改めてお礼を言われると、【カリス・ヴォイド】を託しておいて良かったと嬉しい気持ちが湧き上がってくる。
 何より、単純にヴィルフリートがギルドではなく、自分を選んでくれたことが嬉しかった。

「それでだな……。話戻して、俺がシエルのモノになるって言った意味なんだが……」

「ん?」

 急に神妙な声色になったヴィルフリートに、ぐるりと体を反転させられた。
 なんとなくあの言葉のニュアンスは、自分が受け取った意味と違う気が薄々しているが、あの場はノアンとビルフッドもいて、意味を尋ねることができないままである。

「あれは、シエルのPTに残るって意味だけじゃなくてだな………」

「他に何の意味が?」

 潜り込んでいた寝袋の中で、腕枕してくれている顔を見上げた。見上げた寝袋の隙間から、夜空の星の明かりに、薄っすら照らされたヴィルフリートの顔が見える。
 けれどそれもすぐに真っ暗闇になってしまった。

 代わりに見上げた自分の唇に触れる柔らかな感触。

 再び寝袋の隙間に明かりが差し込めば、見下ろすヴィルフリートの顔は夜でも分かるくらい真っ赤で。それを隠すように今度は両腕で抱きしめられた。
 力強いその腕は軽く押してもびくともしない。けど少しだけ震えている。

(今のってヴィルにキスされた?)

「えっと、自分まだ女じゃないんですが?」

「知ってる………」

 全くの予想外展開に、頭が混乱するどころか、むしろ冷静になってしまう。

(逆だ…。頭が混乱して何も考えられないようにしてるんだ。混乱しちゃってもまともな考えができるわけもないし……)

 冒険者ギルドでヴィルフリートが言った真意が、ノアンとビルフッドには伝わったのに、肝心の自分には全く伝わっていなくて、だからあんな憐悲の眼差しを向けられたのかと今頃理解する。

 我ながらなんて鈍い。リアルでも告白されたことはもちろん、異性と付き合ったこともなくて、そっち関係はほんとうに疎くて……思いもよらなかった……。ごめんなさい……。

「でもヴィルは胸ある方が好きでしょ?フルールベルのおねぇさん達だって、みんな胸大きかったし。自分、胸ないよ?」

 ついでに付け足せば、この前、想定外の【黒の書】の自動記述で体が女性体になったときだって、ヴィルフリートは胸を揉ませてくれと懇願してきた。ヴィルフリートは絶対巨乳好きだ。断言する。

「胸はそこまで重要視していないから、強調するな……」

 視線が宙を向いた。絶対嘘だ。しかし、そうは言われても、何分、急な話なので返事に困ってしまう。
 ヴィルフリートのことはとても頼りにしている。元から強かったし、冒険者として経験も豊富でこの世界のことに詳しい。

 ログインしたばかりのころの弱った姿は見られまくりだし、UMA嫌い(乗るのが)もバレている。

『シエル様、貴方様は世界中から狙われております。<レヴィ・スーン>を手に入れればどんな願いも叶えると皆信じております』

 ハムストレムのダンジョンを出た帰り道、ユスティアが頭を垂れて、恐る恐る忠告してきた。

 とりわけ、自分が<レヴィ・スーン>とかいう世界から狙われている存在であることを教えてくれて、ダンジョンの情報を教えてくれたことは感謝してもしきれない。そして誰にも言わずに内緒にしてくれていることも。
 イマイチ自覚が湧かないとしても。
  
「返事とかはまだしなくていいから……。でも、たまにでいいから思い出してくれ……」
 
「ホントにたまに思い出すだけでいいの?」

 無意識に出た言葉に自分自身が驚いた。
 マズイと思っても、もう言ってしまった言葉は取り消せない。

(何言ってるの私!?せっかく返事を先延ばしにしていいって言ってるのに!!)

 当然びくっとヴィルフリートの体が震える。 
 ヤバい。今のは恋愛音痴の自分だって悪手だってわかった。

 目をぱちくりと丸くさせたかと思うと、ヴィルフリートは今まで一緒にいて、一度も見たことのない顔になって顔を近づけてきた。

(またキスしようとしてる!?待って!待って!ストップ!)

 逃げなければと思うのに、ヴィルフリートの腕ががっちり自分を抱きしめていて抜け出せない。

(ひぃぅ!待ってください!ヴィルフリートさん!)

――ピコン

 ヴィルフリートと再び唇が重なる間際、チャットとは違う音に閉じかけていた目を開く。
 ヴィルフリートも告知音に動きを止めてくれた。助かった。

 腕を伸ばして被っていた寝袋をがばっと退ければ、そこに四角いウィンドウが立ち上がっていた。
 表示内容は、

――――――――――――――――

 PT加入申請が届きました。
 ツヴァング・リッツのPT加入を了承しますか?

 Yes or NO ?

――――――――――――――――


「なんだこれ?ツヴァング?」

 PTへの申請なのでメンバーであるヴィルフリートにも、この画面が見えているのだろう。 
 あと少しのところを邪魔されたせいか、思いっきり眉間に皺が寄っている。

「PT入りたいって申し込みが来てる」

「はぁ!?勝手に抜けてった奴がなんで今頃!?」

「さぁ?」

 とぼけつつ『Yes』を選択すると、ウィンドウはそれでパッと消える。
 途端にPTリストの一番したにツヴァングの名前が追加された。

「って!なんでYes押した!?」

「何でだろうね~。入りたいって言ってきてるんだから入ればいいんじゃない?そろそろ遅いし寝るね。おやすみ」

 さきほどどかした寝袋をまた被りなおして、もそもそとヴィルフリートの胸下あたりに顔を埋めた。
 突然のハプニングだったが、ツヴァングのお陰でどうにか逃げきれたらしい。

 ツヴァングの店前を野次馬が取り囲んでいて、結局挨拶もしないで街を出ることになった。せっかくニートに戻れるだろうに、どうしてまたPTに入りたいと考えたのか分からないが、とにかく今はそのツヴァングの気まぐれに感謝しておく。

「あ!こら!」

 頭の上でまだヴィルフリートが何か言ってるけれど断固聞こえないフリだ。
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