チートキャラで閉鎖されたVRMMOゲームにログインしたら神の代行者でした

トキオ

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難航旅路

3 可愛いスリ

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 夕方になって出向いたレストランで、テーブルに運ばれてきた料理の見栄えはどれも美味しそうだった。
 香ばしく焼かれた鶏肉が、色とりどりの野菜で盛り付けれ、コーンスープも丁寧に裏ごししているのか、滑らかな舌触りだ。
 しかし、肝心の味が、

『美味しくない』

 むしろマズイ。まだゴムを噛んでいたほうがマシな気がする。
 何も味がいないというのは、こんなにもマズイものだとは初めて知った。

『そりゃあこれだけ周りからじろじろ見られたら、どんな飯でもマズくなるだろうな』

 自分の食事の感想に、ヴィルフリートは賛同し頷くものの、口に運ぶフォークの手は休めない。出された食事は美味いマズイに関わらず、残さず食べるのが彼の信条らしい。
 好き嫌いしないなんてエラいな。

 ツヴァングも無言で食べてはいるが、並べられた料理の皿に、最低限のマナーとして一口づつ口をつけているだけだ。ちゃんとした意味で食べているかどうかは怪しい。
 貴族というよりは社会人としてのマナーを強く感じる。

 対して、自分はもうお腹いっぱい過ぎて、一口も入らない。果実を絞ったのだろうジュースが注がれたコップも、口を付けているだけだ。
 とうとうフォークも置いてしまった。作ってくれた人ごめんなさい。

 (ちょっと考えれば気づけたことよね……。こんなマナー厳しそうなレストランでフードマントを被ったまま食事できるわけないって……)

 日が落ちてから、宿で案内されたレストランに出向いたところまでは良かった。
 アデルクライシスにログインしてから、ずっと庶民向けの食事か携帯食しか食べてこなかったので、上流階級の金持ちが食べる食事がどんなものか、実は内心楽しみだった。

 しかし、すっかり忘れていた。
 自分の中二病な容姿がどれだけ目立つかを。

 レストランの入口でコートやマントを預かりますと言われて、ようやく思い出した。
 こんなマナー厳しそうな場所で、フード被ったままで食事したいなんて言い出せない。
 リアルでもレストランでフード被ったまま食事してたら、不審人物扱いだ。

   仕方なくマントを脱いだ自分を、案内係が見惚れながら舌を噛みながら案内したのは、よりにもよってレストラン中央の席で。
 周りに座っている客たちから、チラチラと好奇の視線を向けられながらの夕食になった。

 これまで大人数の場所でマントを脱いだことがなかったけれど、中二病設定の自分の容姿がどれだけ人の目を集めるのか、様々と思い知らされた心地だ。
 
 耳に届く小声で話される内容は、どれも容姿に関するものばかりで、賞賛からはじまり、誰だか知ってるか?、どこの宿に泊っているのか?といったものが殆どで。
 まるで見世物になった気分だ。

 しかし、聞こえてくる噂話の中に、気になるワードを見つける。

――本当に美し……ね、先日お会いした聖女様もお美しい……けれど、どちらの方かしら。もしか…たら新しい聖女様だったり……かしら

 また聞こえた。
 こう何度も同じワードを出されると、気にならなくても次第に気になっていく。

『さっきから聖女がどうのこうの聞こえるんだけど、聖女って知ってる?』

『この国は教会が治めているようなもんだが、聖なる力やら癒しの力を持ってるだの言われてる女がいて、民から崇められてんだよ。そいつとお前を比較してるんだろ』

『聖女……』

 さして興味も無さそうなツヴァングの説明に、そういえばラグレシアの国にはそういう設定の女性がいたなと思い出す。
 もちろん聖女として民衆の人気を集めるためには、それなりに容姿の良い女性でなくてはならないことは、想像に容易い。

『出ようぜ。もう食う気ないだろ?』

 ヴィルフリートがチャットで言えば、ツヴァングも無言でフォークを置く。
 やはり2人も自分と同じ席で、こんなにジロジロ見られながらの食事は美味しくなかったのだろう。そう思うと余計に申し訳なくなった。

『ごめんね。今度から食事をする場所は気を付ける』

『気にするな。シエルが顔を見せればこうなることくらい分かってたのに、俺も気づけなかった』

『謝るほどのたいした飯じゃねぇよ。これなら酒場のツマミの方がまだマシだ』

 2人に心の中でそっと謝る。宿に戻ったら何かデザートを2人に差し入れよう。
 そして席を立とうとして、

「失礼いたします。あちらのお客様が、宜しければ食後のデザートをご一緒にどうかとお尋ねになっております。上階の個室をご用意されるそうなのですが、いかがでしょうか?」

 ウェイターに声をかけられて、手が指し示す方に視線だけ向けると、窓際に座っている。見るからに金持ち商人然とした身なりの男女が、数人座っている席があった。
 そして此方の方をチラリとも見ず、グラスに注がれたワインを飲んでいる。 

(一緒にデザート食べたところで、楽しめなさそうね)

 自分たちのことについて、彼是詮索されるのが目に見えている。そんな席にわざわざ行く必要はない。

「遠慮する。もう帰るから、デザートもキャンセルでお願い」

「えっ!?な、何か料理で口に合わないものがありましたでしょうか?すぐに別のものとお取替えいたします!」

 席から立ち上がった自分たちに、ウェイターは机の上に並べられた料理が、ほとんど手つかずであることに気づいたのだろう。
 慌てて引き留めようとしたが、既に立ち上がっていたヴィルフリートとツヴァングの2人がひと睨みするとウェイターも息をのんで、それ以上は何も言ってこなくなった。

 (さすがSランク冒険者と一級鑑定士のガチ睨みは違うわぁ~)

 こういうのは強さもだが、サマになっていることの方が大事なのだ。
 どれだけ場数を踏めば、ヤクザ紛いの睨みを効かせられるようになるのだろう。
 
 口に合う合わないじゃないんだけど、変にいうとまた引き留められそうなので、自分も黙っておく。今後こういう場所に来るときは、先に個室があるかどうか確認しておくことにしよう。

 店を出る間際には、奥から店長らしき男が降りてきて、デザートの代わりにお土産をどうぞと焼き菓子の詰め合わせ的な箱を押し付けられた。
 この様子では、レストランで食事をしていた客たちだけでなく、店員たちも奥で何か噂していたのかもしれない。

(別にそんな気を使わなくたってよかったのに)
 
 まだ食事を初めてそんなに時間が経っておらず、まだ街の通りには家路に付こうとしている人を多く見かける。
 そんなすれ違う人々に視線を向けていたら、持っていた菓子の箱がバッと奪われてしまう。

「あっ」

「おっと、待て。それはお前のじゃないだろ?人から者を盗るのはよくないぞ」

 素早く菓子箱を奪って逃げようとした子供を掴まえたのはヴィルフリートだ。子供の首根っこを握って、宙に持ち上げてしまえば、足をばたつかせようとも無力に等しい。
 レストランの件があるにしろ、注意散漫だったようだ。スリの子供が近づいていたのにい全然気づけなかった。

「うるせぇ!離しやがれ!うすらとんかち!」

 言葉遣いはスリのテンプレだろう。身なりの服装は汚れていて、ところどころ破けている。10歳くらいの男の子だ。
 捕まっても、中身を知ってか知らずか、菓子箱だけは返さないとばかりに両腕に握りしめている。

(ハムストレムの王都ほどじゃないにしろ、通りの石畳も、建物も整えられたキレイな街だなぁとは思っていたけど、やっぱりそれだけじゃなさそうね)

 キレイなだけの街などありえない。街が栄えるなら、栄えただけの皺寄せがどこかに必ず出てくる。
 日中はあまり目立たなくても、日が落ちれば目に入りやすくなる。

「おうおう、暴れるな。別にそれを返してもらえれば、痛い目に合わせようなんて思ってねぇから」

「ヴィル、離してあげて。どうせ食べないお菓子だからその子にプレゼントしようよ。それより、ねぇ君はどこから来たの?」

「どこだっていいだろ!?いいから離せよ!この」

「教えてくれたら、お礼にそのお菓子だけじゃなく、もっとたくさんのお菓子もあげるよ。約束する。どうせ自分たちは旅の最中に、ちょっとこの町に立ち寄っただけだから、街のエライ人たちには君のことは黙っておくし」

 ヴィルフリートにぶら下げられたままの子供に向かって話しかける。食べる気のないお菓子をやるくらい構わない。しかし、捕まっても決して菓子を手放そうとしない子供の、腕や足の細さが気になった。

 勘だけれど、子供が菓子箱を盗ろうとしたのは自分だけのためではない気がする。
 持って帰りたい誰かがいて、そのために菓子箱を奪い返されないように必死になっている。

「金持ちはみんな嘘つきヤロウばっかだ。騙されねぇ」

「どうして自分たちがお金持ちだと思ったの?」

「あの店から出てきただろ。あそこで飯を食うのは金持ちだけだ」

 鼻で笑って正直に答えた子供に、なるほど、と納得する。あのレストランは街の宿、それも宿代の高い部屋に泊る上客向けのレストランだ。
 確かにあそこから出てくる客は、金を持っている確率が高いだろう。

 なのに、護衛の供も連れずたった3人で出てきて、周りに警戒心もそぞろな自分を、子供はカモと踏んだのだろう。

 目の付け所は間違っていない。
 ただし、相手が悪かった。

「じゃあ、お菓子をあげる証拠に、ハイ」

 アイテムボックスから取り出した飴玉を子供の口の中にポイと入れる。一瞬だけ驚いた子供は目を丸くしたけれど、口の中に広がりはじめただろう甘味に、叫んでいた口を閉ざしもごもごさせ始めた。

「美味しい?」

「これくらい、普通だ……。別に、スラムなんて汚ねぇ場所、金持ちが行ったって何もねぇぞ?それに、くせぇし」

 さっきまでのように口悪く叫んでいたら、せっかく食べている飴玉が飛び出てしまうのが分かってるのか、暴れるのを止め、口ごもらせながら念押ししてくる。
 あと一押しだ。

「全然平気」

『シエル』

 やめておけと、チャットで止めてきたのは、まだ子供の首根っこを掴んで宙づりにしているヴィルフリートだったが、構わず子供に話かける。

「お願い、スラムに連れてって?」
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感想 2

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みんなの感想(2件)

鈴仙
2020.02.11 鈴仙

とても面白かったです。
更新お待ちしております。執筆頑張ってください。
応援してます。

2020.02.12 トキオ

ご感想ありがとうございます!とてもうれしいです!
また少しづつ更新がんばります!

解除
おそまつ茶トラ

ダンジョンに関して、半年前移行は以降の誤字かなと。
あと、半年前以降という表現は不自然なので、ここ半年以内に出来たとかの方が違和感なく自然だと思います。

2019.12.17 トキオ

ご指摘ありがとうございます!
自分でも何か違和感を感じつつ、なんて表現したらいいのか
迷っていたので助かりました!
半年前以降→半年以内に修正しました!

解除

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