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向かうはローレス領
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「食べきれない分の肉は、塩漬けにしたり今夜燻製にして日持ちできるように処理して、道の途中に家があれば野菜か果物と交換してもらいましょう」
仔ジカの肉処理をおおまかに終えて、川の水で手を洗いながら俺が言うと、肉処理を手伝ってくれていたレースウィックがバッと悲痛な顔で振り返った。
「交換しちゃうの!?せっかくのお肉なのに!?」
「腐らせる方が勿体ないですよ。それに何も今日食べれなかった肉を全て交換するわけではないです。野草と塩を揉みこんだ肉は腸詰にしましたし、燻製にしておけば明後日くらいまでは俺たちも肉が食べれますよ」
「まさかと思ってたけど、腸詰ってウィンナーのことなのよね!?ならいいわ!成長盛りにお肉が食べれないなんて拷問よ!」
肉が食べれると分かったとたん、レースウィックは満面の笑みになった。そして川土手の上に群生していた直径50cmはある大葉に、処理した肉を包んで野営地の方へ鼻歌を歌いながら戻っていく。
どんなに上位魔導士でも、食に関しては年相応らしい。
話を聞いていたはずのディルグラートは、肉を処理したナイフを川で洗いつつ何も言わなかったが口元は笑っていた。
オムファロスと同じロード種だと自己紹介で言っていた。エルフ種のように耳が長くとがっているのではなくロード種は耳の長さは人種と変わらないが、耳先が尖っていてエルフに次ぐ長寿である。身体能力に優れ、寿命は約300年ほど。
オムファロスのように力をつけて上位種のハイ・ロードへ至れば倍の600年は生きる。
人の年齢で考えればディルグラートは30前の歳に見えるが、実際は100歳と言われてもロードならありえた。ロード種の特徴はとにかく一生の8割を30代ほどの容姿で生きるため、外見での年齢判別がしにくい種族なのだ。
「ディルグラートさんはずいぶん落ち着いていらっしゃるんですね。でも本当は地位の高い方なんですよね、なのに面倒な雑用もすすんでしてくださいますし。騎士のみなさんは皆そうなのでしょうか?」
ローレス領までの旅はとても順調だった。予定より2、3日早く到着できそうだった。なので、今日はいつもより早く野営に入り、近くで獲物をとって食料を調達しようと言い出したのはディルグラートだ。
コジカという獲物もしっかり捕ってきたので、今夜は久しぶりに肉にありつけるし、川があるから交代で水浴びもできる。夜はゆっくり休めるだろう。
道中も馬車の手綱を握る御者役に自ら進んでなってくれたりと、帝国将軍の直属の騎士とは思えない身の低さだ。
(オムファロスの直属なら、帝国内でもかなり地位は高い。。なのに今回のPTの中で、表向き戦力にならないのは俺だから、雑用は俺がなんでもしようと思っていたのに、ディルグラートがなんか協力的なんだよな。オムファロスになんか言われてたりするのか?)
実は俺が元帥であるとオムファロスから知らされているとは考えたくない。
(俺のことになると、途端にアイツは何も見えなくなるからな。勝手に暴走してなきゃいいけど)
だが、皇都を出発する前のあの様子を思い返すと、ディルグラートがオムファロスから俺が潜入しているからくれぐれも警護を頼むとか雑用は全部ディルグラートがしろとか、余計なことを命令している可能性は否定できない。
「特に意識はしてないが、今は騎士であると同時にPTの1人だと思っている。皆で協力しあうのは当然だ」
これまた低く落ち着いた声で返される。
大人らしい返事だが、模範解答過ぎて判断がつかない。
「だが、実際この調査のメンバーは豪華なメンツが揃っている。アンフェルディス殿にとィリフェルノ殿は共にSSランクの冒険者、魔導軍団長のギィリ殿とレースウィック殿。新しいダンジョンの調査とはいえ、PTを組むにしろこの戦力の半分でも十分過ぎるくらいだ。だから俺が帝国での地位がいくら高かろうと、このPTでは下っ端ってことさ」
軽く片目を閉じる。周りに自分たち二人しかいないからこそ、ディルグラートの本音が垣間見えた瞬間だった。
そんなことを言われたらギルド受付の俺の立場はどうなのか。
雲が流れる空を見上げ、ふぅ、と溜息が出た。
「将軍直属の騎士で下っ端なら俺はもう底辺すぎですね」
「要はそれぞれに役割があるということだ。キミはモンスターの知識や情報を我らに教えるのが仕事だ。なのにダンジョンにつくまでに疲れて倒れてしまってはどうしようもない。まだ本番前だ。キミが気負って無理をする必要はないよ」
言い終わりざま、背中をバンっと叩かれて、危うく川へ顔からつっこみそうになってしまった。
「いだっ!あぶなっ!」
なのに、ディルグラートの方は、ははははと笑っているのだから、これはオムファロスから俺のことについて何も聞いていないと考えていいだろう。
(元帥と分かってて背中をどついて笑い飛ばせる度胸があるなら、後でディルグラートを大臣か何かにできないかアーネストに相談しよう)
他国との使者や商人たちとも腹の探り合いが出来る優秀な狸になってくれるだろう。
「今回のダンジョンですが、裏ダンジョンがあるかもしれないと聞きました」
「らしいな。世界に多く存在するダンジョンの中でも、裏ダンジョンが存在するダンジョンは数少ない」
それまで穏やかだったディルグラートの表情がきゅっと引き締められた。
「出発前、他の裏ダンジョンの報告書をアンフェルディス支部長に見せていただいたのですが、通常のモンスターとはだいぶ異なるモンスターが出現するみたいですね。出現するモンスターも桁違いに強いと報告にあります。罠も始めてみるパターンの罠だったとか。それを警戒して、念には念を入れてこのPTなのでしょうね」
他のダンジョンで裏ダンジョンの存在が明らかになった時、今回のように調査に向かったPTが全滅したという記録が残っていた。PT内容はSランク1人をPTリーダーに他はAランク数人、そしてダンジョン発生した国の騎士たちだった。
ダンジョン調査の戦力としては十分だ。しかし、全滅した。
(だからダンジョンは怖い。外の世界と違って、一度中に入ってしまったら逃げ場がなくなってしまう)
強さだけでなくギミックを解き明かし、罠を掻い潜る発想力や応用力を要求される。
単純な強さだけでは攻略どころか、ギミックを解けず閉じ込められて死ぬ恐れがある。
仔ジカの肉処理をおおまかに終えて、川の水で手を洗いながら俺が言うと、肉処理を手伝ってくれていたレースウィックがバッと悲痛な顔で振り返った。
「交換しちゃうの!?せっかくのお肉なのに!?」
「腐らせる方が勿体ないですよ。それに何も今日食べれなかった肉を全て交換するわけではないです。野草と塩を揉みこんだ肉は腸詰にしましたし、燻製にしておけば明後日くらいまでは俺たちも肉が食べれますよ」
「まさかと思ってたけど、腸詰ってウィンナーのことなのよね!?ならいいわ!成長盛りにお肉が食べれないなんて拷問よ!」
肉が食べれると分かったとたん、レースウィックは満面の笑みになった。そして川土手の上に群生していた直径50cmはある大葉に、処理した肉を包んで野営地の方へ鼻歌を歌いながら戻っていく。
どんなに上位魔導士でも、食に関しては年相応らしい。
話を聞いていたはずのディルグラートは、肉を処理したナイフを川で洗いつつ何も言わなかったが口元は笑っていた。
オムファロスと同じロード種だと自己紹介で言っていた。エルフ種のように耳が長くとがっているのではなくロード種は耳の長さは人種と変わらないが、耳先が尖っていてエルフに次ぐ長寿である。身体能力に優れ、寿命は約300年ほど。
オムファロスのように力をつけて上位種のハイ・ロードへ至れば倍の600年は生きる。
人の年齢で考えればディルグラートは30前の歳に見えるが、実際は100歳と言われてもロードならありえた。ロード種の特徴はとにかく一生の8割を30代ほどの容姿で生きるため、外見での年齢判別がしにくい種族なのだ。
「ディルグラートさんはずいぶん落ち着いていらっしゃるんですね。でも本当は地位の高い方なんですよね、なのに面倒な雑用もすすんでしてくださいますし。騎士のみなさんは皆そうなのでしょうか?」
ローレス領までの旅はとても順調だった。予定より2、3日早く到着できそうだった。なので、今日はいつもより早く野営に入り、近くで獲物をとって食料を調達しようと言い出したのはディルグラートだ。
コジカという獲物もしっかり捕ってきたので、今夜は久しぶりに肉にありつけるし、川があるから交代で水浴びもできる。夜はゆっくり休めるだろう。
道中も馬車の手綱を握る御者役に自ら進んでなってくれたりと、帝国将軍の直属の騎士とは思えない身の低さだ。
(オムファロスの直属なら、帝国内でもかなり地位は高い。。なのに今回のPTの中で、表向き戦力にならないのは俺だから、雑用は俺がなんでもしようと思っていたのに、ディルグラートがなんか協力的なんだよな。オムファロスになんか言われてたりするのか?)
実は俺が元帥であるとオムファロスから知らされているとは考えたくない。
(俺のことになると、途端にアイツは何も見えなくなるからな。勝手に暴走してなきゃいいけど)
だが、皇都を出発する前のあの様子を思い返すと、ディルグラートがオムファロスから俺が潜入しているからくれぐれも警護を頼むとか雑用は全部ディルグラートがしろとか、余計なことを命令している可能性は否定できない。
「特に意識はしてないが、今は騎士であると同時にPTの1人だと思っている。皆で協力しあうのは当然だ」
これまた低く落ち着いた声で返される。
大人らしい返事だが、模範解答過ぎて判断がつかない。
「だが、実際この調査のメンバーは豪華なメンツが揃っている。アンフェルディス殿にとィリフェルノ殿は共にSSランクの冒険者、魔導軍団長のギィリ殿とレースウィック殿。新しいダンジョンの調査とはいえ、PTを組むにしろこの戦力の半分でも十分過ぎるくらいだ。だから俺が帝国での地位がいくら高かろうと、このPTでは下っ端ってことさ」
軽く片目を閉じる。周りに自分たち二人しかいないからこそ、ディルグラートの本音が垣間見えた瞬間だった。
そんなことを言われたらギルド受付の俺の立場はどうなのか。
雲が流れる空を見上げ、ふぅ、と溜息が出た。
「将軍直属の騎士で下っ端なら俺はもう底辺すぎですね」
「要はそれぞれに役割があるということだ。キミはモンスターの知識や情報を我らに教えるのが仕事だ。なのにダンジョンにつくまでに疲れて倒れてしまってはどうしようもない。まだ本番前だ。キミが気負って無理をする必要はないよ」
言い終わりざま、背中をバンっと叩かれて、危うく川へ顔からつっこみそうになってしまった。
「いだっ!あぶなっ!」
なのに、ディルグラートの方は、ははははと笑っているのだから、これはオムファロスから俺のことについて何も聞いていないと考えていいだろう。
(元帥と分かってて背中をどついて笑い飛ばせる度胸があるなら、後でディルグラートを大臣か何かにできないかアーネストに相談しよう)
他国との使者や商人たちとも腹の探り合いが出来る優秀な狸になってくれるだろう。
「今回のダンジョンですが、裏ダンジョンがあるかもしれないと聞きました」
「らしいな。世界に多く存在するダンジョンの中でも、裏ダンジョンが存在するダンジョンは数少ない」
それまで穏やかだったディルグラートの表情がきゅっと引き締められた。
「出発前、他の裏ダンジョンの報告書をアンフェルディス支部長に見せていただいたのですが、通常のモンスターとはだいぶ異なるモンスターが出現するみたいですね。出現するモンスターも桁違いに強いと報告にあります。罠も始めてみるパターンの罠だったとか。それを警戒して、念には念を入れてこのPTなのでしょうね」
他のダンジョンで裏ダンジョンの存在が明らかになった時、今回のように調査に向かったPTが全滅したという記録が残っていた。PT内容はSランク1人をPTリーダーに他はAランク数人、そしてダンジョン発生した国の騎士たちだった。
ダンジョン調査の戦力としては十分だ。しかし、全滅した。
(だからダンジョンは怖い。外の世界と違って、一度中に入ってしまったら逃げ場がなくなってしまう)
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