異世界召喚者は冒険者ギルド受付になりました(隠れ兼業は魔王と帝国元帥です)

トキオ

文字の大きさ
4 / 19
向かうはローレス領

4

しおりを挟む
先に女性たちが水浴びし、後から交代で男が水浴びに入る。その女性たちがゆっくり水浴びしている間に、俺とアンフェルディスはせっせと肉の燻製準備をしていた。

「あとはしばらく待てば燻製肉の出来上がりですね」

「これの作り方も冒険者たちに?」

 アンフェルディスが興味深々に俺が作った簡易燻製器を覗き込む。ちなみにディルグラートは規律正しい騎士を見込まれて、女性たちの水浴びの見張り役になっている。

 今回の移動手段は馬車だ。馬車はリュックに荷物を背負って移動するより、多くの荷物を乗せられる。皇都から出発したとき荷のほとんどは日持ちする食料だったが、その中に少しだけ料理器具と日用品を乗せてもらった。

 金網とフライパン、そして鍋だ。決して大きいものではないがこれがあるだけで、味気ない食事がぐっと美味しくなる。

 食料が入っていたが既に消費し終えて空になった木箱を燻製の囲いに使わせてもらう。
あとは火を消した炭の上に位置を高くした網を浮かせておいて、燻製にしたい肉を並べて蓋を閉めれば終わりだ。

「違います。これはギルド支部の近くにある飯屋のご主人に教えてもらったんです。エリスが給仕しているって言えばわかりますか?」

「あの店か。確かに夜にだす燻製チーズは美味い。酒のツマミに何度か持ち帰り用に買って帰ったこともある」

「3週間もかかる旅なら、道中で手に入れた食料を日持ちさせる方法はないかと思って、飯屋の主人に聞てみたんです。そうしたら塩と網を持って行けっておっしゃって燻製の仕方を教えてくれました。でも味は期待しないでくださいね。あくまで肉の腐敗を防ぐための処理ですから」

「いや、俺も現役の冒険者だったころは数え切れないほど野宿してきたが、塩は携帯していたが燻製までは流石にした経験がない。あの頃、このやり方を知っていれば食料を無駄にすることはなかったな」

 塩は料理の味を加えたり食料の防腐効果だけでなく、生きていく上で大事な栄養になる。汗をかけば体から塩分がでてしまうし、尿だって塩分が入っている。塩を摂取しなければ生物は生きていけない。

 だから旅をするとき、必ず塩だけは持っていかなくてはならない必需品だ。

「石鹸も女性たちがとても喜んでいた」

「それこそ女性の冒険者の方が言ってたんです。旅の間、絶対石鹸だけは携帯しているって。女性にとって石鹸一つで旅は天と地ほども違うそうです」

 今回の旅で俺が一個だけ荷に入れたのが<石鹸>だ。もちろん香油が入った高価なものではなく、帝国内で広く普及している一般的な石鹸だ。それを一個荷に積んでいるだけで、これまで十分に体を清めることができず、ストレスをため込んでいた女性たちが上機嫌になる。

 (とくにギィリやレースウィックは貴族出身な上、ほとんど皇都暮らしで、こういう旅に慣れていないだろうし。毎日風呂に入れないというのはストレスだろうな)

 魔導軍団長とその直属の上位魔導士であれば、皇都の、それも1級か2級あたりに2人は家があり、毎日ゆっくりと風呂に入っていたことだろう。それが体を拭くのがせいぜいで、水浴びもままならない旅になれば、どうしてもストレスに感じるはずだ。

 旅の途中に立ち寄れる村や宿屋があれば泊まることが出来るが、毎日泊まれるわけではなく、次にいつ水浴びできるか分からない。だから少しくらい水浴びが長くなってもいいから、着ている肌着類も洗えそうだったら今のうちに洗えばいい。

 俺の説明に納得したようにアンフェルディスは頷いた。

「なるほど。男は水を頭からかぶれば十分だが、女性たちはそうはいかないだろう。本当にレイは冒険者たちの話をよく聞いている」

「受付でそれくらいしか俺はできませんから」

 話を聞くといっても少し女性たちの愚痴を聞く程度だ。旅で立ち寄ったどこの町はご飯が美味しかったとか、部屋のベッドに敷かれたシーツがちゃんと洗ってないっぽいとか、いい話から愚痴までピンキリである。

 他にも女性がいるPTでは依頼難易度に加えて、行先に宿があるとか川が近くにあるとか、そういった衛生面を考慮した依頼の選び方をしているとまで教えるのは余計なのだろうと黙っておく。

 「時にレイは皇都で1人暮らしをしていると聞いたのだが、皇都育ちではないのだろう?出身はどこか聞いても?」

 アンフェルディスの口調は穏やかだったが、

(ちょうど2人しかいないし、探りか?探りにしては出身地なんてあまりにも見え透いた探りだけど)

 急に尋ねられたからと困るような質問ではない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...