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大学生の長期休暇は青春。そう信じていた高校生の頃の自分がどれだけ愚鈍であったか、今ならよく分かる。
何もしないという訳ではない。何なら今私達は少ない資金で気軽に行ける旅行先に向かっている最中だ。
だが、免許を取ってすぐの私にとって、蛇行する細い峠道を車で通過するというのは、いくらなんでもハードルが高すぎる。
ジャン負けで仕方なく助手席に座っている乙瀬も生きた心地がしないらしく、冷や汗だらだらだ。
「今あと何分くらいで着くの?」
風景写真を撮り終えた周防が私に言う。
「ナビではあと20分くらい」
「おっけ~」
「シュウ、お前そんな運転ヘタだったのか?」
「ヘタなんじゃない、慣れてないだけだ」
「へいへい分かってますって」
古谷はそう言うと炭酸ジュースを手に取り、スマホの相手を始めた。
こっちの気も知らないで呑気に...。心の中で悪態をついた、その時
「うわっ!」
おもむろに古谷が叫ぶ。そしてそのはずみに...
キュルルルルルッ!
間違ってアクセルを踏んでしまった。車は急発進し、数百メートル先のカーブに向かって加速した。
すぐにブレーキを踏んだが、まだ車は勢いにのっている。死に物狂いで足に全体重をかけた。
なんとか車は減速し、ガードレールに軽くぶつかり、止まった。血の気が引いた。
後ろを振り返ると古谷がファンタグレープにまみれて、浅い呼吸をしている。左右の二人も青くなっていた。
「びっくりさせんなよ...」
私はなんとか絞り出した。
...
8/5
紆余曲折を経た私達は、ついに目的地に到着した。亜寒村だ。
岐阜県アカンダナ山の山頂から少し外れた位置にあるこの場所は、自然豊かな小さい集落だ。今ぐらいの時期だと、吹雪や極寒の心配もなく、安全に気を休めることができる。
ちなみにこの場所を選んだのは「せっかくの旅行ならありきたりな場所じゃなくてマイナーな所がいい。その方が貸し切りっぽくてテンション上がる」という乙瀬の希望に沿ったものだ。しかし想像以上に険しい道のりと先の寿命が縮む経験をしてここに辿り着くというのは、正直全く割に合わない。
予約した民泊は村の入口のすぐそばにあった。「ぬくもり亭」と書かれた大きい看板があったのですぐ分かった。車がもう1, 2台停められるかというぐらいの広さの駐車場に車を止めた時、ようやく私の2時間半の苦行は終わりを迎えた。「免許返納したい。」今以上にそう思うことは今後ないだろう。
...
入ってみると、意外にも中は「民宿」というより「ロッジ」と呼ぶ方が似合うレイアウトだった。受付の天井が吹き抜けになっていて、採光のためか天窓がついている。部屋は2階にあるらしく、ちらっと上へ続く階段が見えた。受付には、よく分からない木彫りの何かしらが置いてある。ご当地キャラだろうか。
「予約したのって誰だっけ?」
「確かシュウじゃなかったっけ」
「あ、ごめん。すぐチェックインするからちょっと待って」
しかし、係員さんと話していた私は、絶望した。予約がないらしい。...もしかしてミスったか?いや、そんなはずはない。電話で予約したんだからミスなんてそうそうしないはずだ。
「お名前をもう一度伺ってもいいですか?」
「物川です」
「えっと...すいません、細川様のご予約は入っておりません」
「あの、物川です」
「淀川様ですか?」
「物川です!」
「ああすいません、物川様でしたか。珍しいお名前ですね」
「...ありがとうございます」
一人で帰ってやろうと決意する一歩手前に、今私はいる。
...
思い直した。結構いい部屋だ。そこらへんのやっすいホテルと比べれば一目瞭然である。和室と洋室が分かれていて、和室からの景色もなかなかの物だ。押入れを開けてみると布団と、ご丁寧にマットレスまで用意されている。荷物を置いて一段落、という時。
コンコン
誰だ?と思い小走りで玄関に行き、ドアを開く。朝月だ。
「どうしたの?」
「この後どうする?って勇耶くんが」
直接言いにこいよ...まあいいけど。
「とりあえず各々自由タイムでいいと思うよ。今日は移動日の予定だったし」
「分かった。じゃあ私は部屋で休んでる」
「オッケー。あ、そうだ。確か夕食が夜8時だったから出かけるならそれまでには戻れって言っておいてくれない?」
「うん、伝えとく」
「ありがとう」
そうだ、夕食までどう時間を潰そう?
...
とりあえず僕は村の中を散歩してみることにした。といっても村は村。面白そうなものはほぼない。強いて言うとするなら、始めてみた野菜の無人販売所くらいだ。明日には祭があると聞いたが、準備している様子もあまりない。もう帰ろうか、と思ったが...。
「ん、なんだこれ」
私はふと足を止めた。
そこそこの大きさの祠がある。祠の中には白い偶像らしきものが置いてある。何かの神でも祀っているんだろうか。今度この辺りの人に聞いてみよう、そう思い私はそれを写真におさめた。
...
部屋に戻ってたがまだ時間は18時22分。まだ夕食まで1時間以上ある。
...そういえば、一階の休憩室に自販機があったな。コーヒーでも買うか。
にしても、やっぱり田舎だな。やることが全く無い。祭りもやるらしいしそこまでの辛抱だな。
...腹減ったな
何もしないという訳ではない。何なら今私達は少ない資金で気軽に行ける旅行先に向かっている最中だ。
だが、免許を取ってすぐの私にとって、蛇行する細い峠道を車で通過するというのは、いくらなんでもハードルが高すぎる。
ジャン負けで仕方なく助手席に座っている乙瀬も生きた心地がしないらしく、冷や汗だらだらだ。
「今あと何分くらいで着くの?」
風景写真を撮り終えた周防が私に言う。
「ナビではあと20分くらい」
「おっけ~」
「シュウ、お前そんな運転ヘタだったのか?」
「ヘタなんじゃない、慣れてないだけだ」
「へいへい分かってますって」
古谷はそう言うと炭酸ジュースを手に取り、スマホの相手を始めた。
こっちの気も知らないで呑気に...。心の中で悪態をついた、その時
「うわっ!」
おもむろに古谷が叫ぶ。そしてそのはずみに...
キュルルルルルッ!
間違ってアクセルを踏んでしまった。車は急発進し、数百メートル先のカーブに向かって加速した。
すぐにブレーキを踏んだが、まだ車は勢いにのっている。死に物狂いで足に全体重をかけた。
なんとか車は減速し、ガードレールに軽くぶつかり、止まった。血の気が引いた。
後ろを振り返ると古谷がファンタグレープにまみれて、浅い呼吸をしている。左右の二人も青くなっていた。
「びっくりさせんなよ...」
私はなんとか絞り出した。
...
8/5
紆余曲折を経た私達は、ついに目的地に到着した。亜寒村だ。
岐阜県アカンダナ山の山頂から少し外れた位置にあるこの場所は、自然豊かな小さい集落だ。今ぐらいの時期だと、吹雪や極寒の心配もなく、安全に気を休めることができる。
ちなみにこの場所を選んだのは「せっかくの旅行ならありきたりな場所じゃなくてマイナーな所がいい。その方が貸し切りっぽくてテンション上がる」という乙瀬の希望に沿ったものだ。しかし想像以上に険しい道のりと先の寿命が縮む経験をしてここに辿り着くというのは、正直全く割に合わない。
予約した民泊は村の入口のすぐそばにあった。「ぬくもり亭」と書かれた大きい看板があったのですぐ分かった。車がもう1, 2台停められるかというぐらいの広さの駐車場に車を止めた時、ようやく私の2時間半の苦行は終わりを迎えた。「免許返納したい。」今以上にそう思うことは今後ないだろう。
...
入ってみると、意外にも中は「民宿」というより「ロッジ」と呼ぶ方が似合うレイアウトだった。受付の天井が吹き抜けになっていて、採光のためか天窓がついている。部屋は2階にあるらしく、ちらっと上へ続く階段が見えた。受付には、よく分からない木彫りの何かしらが置いてある。ご当地キャラだろうか。
「予約したのって誰だっけ?」
「確かシュウじゃなかったっけ」
「あ、ごめん。すぐチェックインするからちょっと待って」
しかし、係員さんと話していた私は、絶望した。予約がないらしい。...もしかしてミスったか?いや、そんなはずはない。電話で予約したんだからミスなんてそうそうしないはずだ。
「お名前をもう一度伺ってもいいですか?」
「物川です」
「えっと...すいません、細川様のご予約は入っておりません」
「あの、物川です」
「淀川様ですか?」
「物川です!」
「ああすいません、物川様でしたか。珍しいお名前ですね」
「...ありがとうございます」
一人で帰ってやろうと決意する一歩手前に、今私はいる。
...
思い直した。結構いい部屋だ。そこらへんのやっすいホテルと比べれば一目瞭然である。和室と洋室が分かれていて、和室からの景色もなかなかの物だ。押入れを開けてみると布団と、ご丁寧にマットレスまで用意されている。荷物を置いて一段落、という時。
コンコン
誰だ?と思い小走りで玄関に行き、ドアを開く。朝月だ。
「どうしたの?」
「この後どうする?って勇耶くんが」
直接言いにこいよ...まあいいけど。
「とりあえず各々自由タイムでいいと思うよ。今日は移動日の予定だったし」
「分かった。じゃあ私は部屋で休んでる」
「オッケー。あ、そうだ。確か夕食が夜8時だったから出かけるならそれまでには戻れって言っておいてくれない?」
「うん、伝えとく」
「ありがとう」
そうだ、夕食までどう時間を潰そう?
...
とりあえず僕は村の中を散歩してみることにした。といっても村は村。面白そうなものはほぼない。強いて言うとするなら、始めてみた野菜の無人販売所くらいだ。明日には祭があると聞いたが、準備している様子もあまりない。もう帰ろうか、と思ったが...。
「ん、なんだこれ」
私はふと足を止めた。
そこそこの大きさの祠がある。祠の中には白い偶像らしきものが置いてある。何かの神でも祀っているんだろうか。今度この辺りの人に聞いてみよう、そう思い私はそれを写真におさめた。
...
部屋に戻ってたがまだ時間は18時22分。まだ夕食まで1時間以上ある。
...そういえば、一階の休憩室に自販機があったな。コーヒーでも買うか。
にしても、やっぱり田舎だな。やることが全く無い。祭りもやるらしいしそこまでの辛抱だな。
...腹減ったな
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