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2.もしもやり直せるのなら
「お熱はないようですね。では、少し早いですが目覚めのお茶の御支度を致しますね」
ケイトが背を向けている間に急いで周囲を確認すると、ケイトの言葉を信じるしかないようだった。
片付けていたはずの、何年か前の誕生日に贈られたウサギのぬいぐるみが部屋に飾られたままになっており、小物や家具も昔の私の好みのもので揃えられている。
最初に感じた違和感は、部屋の装飾が今の私には少し幼く感じるのものだったからだ。
(何が起きているのかわからないけれど、もし本当に十四歳に戻っているのなら、もう一度、やり直せるということ……?)
なら絶対にあんな思いはしたくない。
牢屋の中は蒸し暑く、汚くて、お腹も減って。
でも、それ以上に辛かったのは、私を信じてくれる人も、私を愛してくれている人も、誰も、一人もいなかったという現実。
毒杯ではなく、斬首ということは、この家からも除籍されて平民になっていたということで。
(そうならないためには、きっと、行動を変えなくてはいけないのよね。私に、できるかしら……?)
一度目、あれほど私を振り回した『愛されたい』という感情は消えていない。
どうせ何をどう努力しても、父にも、婚約者にも愛してもらえなかったのだ。
記憶の通りに動かなければいいのかもしれないけれど、それは私にとっては愛してもらうことを諦めるということでもある。
だって、もともと愛されていたのなら、愛してもらうために努力なんて必要ないはずなのだから。
結末がわかっているからといって、そう簡単に行動を変えられるとは思えなかった。
(難しいかもしれないけれど、やらなければ最悪が待っているのよね。……だったら、今度は私だけを見てくれる人を探せばいいのかしら?)
愛し愛される関係を婚約者と結べるのならそれが最善だけれど、一度目の失敗を経てもその方法がわからない。
だったら今度こそ私を見て愛してくれる人を見つけて、私もその人のことを愛したい。
ただ、それには一つ問題がある。
殿下との婚約が結ばれた後だったら、表立っては探すのは控えるべきだからだ。
世間体もあるし、一応、殿下の婚約者という未婚の令嬢のトップとして規範を示す立場でもある。
あまり非難を集めるやり方はしたくない。
それに、何年も待つことになるが、殿下があの方と恋に落ちた後なら、婚約解消を提案しても反対されないだろう。
(うん、ちょっとだけ、探し始めるのが遅くなるだけ)
ずっとお父様と殿下のことを見ていた私に他に気になる人がいるはずもなく、急ぐ必要はない。
ただ、学園に入り殿下が恋に落ちるまで、一年近くもあるのだと思うと少し憂鬱だった。
その間、殿下との交流は続くのだ。
一度目はそれだけの時間をかけても殿下との信頼関係は結べなかったのに、意味があるのだろうかと思ってしまう。
思考に沈んでいると、懐かしい花模様のカップがお盆ごと差し出された。
いつだったか割れてしまったはずの、私が気に入っていたものだ。
「さぁ、こちら、準備が出来ました」
カップに口を付けると、懐かしい味だった。
誰が淹れても変わらないはずなのに、ケイトが淹れた紅茶は不思議と心を落ち着かせるような、そんな気がするのだ。
私はケイトに尋ねた。
「ところで、ケイト、私の婚約のことについてなんだけど」
そういって見上げると、ケイトは首を傾げた。
「王太子殿下とのご婚約についてですか? 私よりも、侯爵閣下に言われた方がよろしいかと思いますが……」
戸惑いを浮かべるケイトに、現実の厳しさを知る。
出来れば婚約前に戻っていて欲しかったが、もう婚約は結ばれた後だったらしい。
ありえないだろうと思いながら、今の時点で婚約の解消は難しいだろうなと思いつつ、ケイトに尋ねる。
「なんだか、王太子殿下とのご婚約は、私には荷が重い気がしてきたの。辞退できる方法はないかしら……」
この婚約は、政略によるものだったはずだ。
もしかしたら一度目と違いがあるかもしれないと、一縷の望みをかけてケイトに尋ねると、ケイトは困ったように眉尻を下げた。
「このご婚約は、王家も望まれてのことと伺っております。ですので、そう簡単に覆ることはないかと存じます」
やはり婚約の解消は難しいようだ。
「何をご不安に思っていらっしゃるのですか?」
ケイトの質問に、迷った末に事実を口にする。
「……怖い夢を見たの。それで自信がなくなってしまったみたい」
ケイトは納得したように頷いた。
「きっと、責任を感じすぎて不安になってしまわれたのかもしれませんね。今日は就寝前にリラックスできるお茶をお持ちするように致しましょう」
「……うん、お願い」
それで解決することだと思えないが、ケイトの心遣いは嬉しくて素直に受け取ることにする。
ケイトはほっと息をついた。
私の不可解な言動で、困らせてしまったのだろう。
ケイトが背を向けている間に急いで周囲を確認すると、ケイトの言葉を信じるしかないようだった。
片付けていたはずの、何年か前の誕生日に贈られたウサギのぬいぐるみが部屋に飾られたままになっており、小物や家具も昔の私の好みのもので揃えられている。
最初に感じた違和感は、部屋の装飾が今の私には少し幼く感じるのものだったからだ。
(何が起きているのかわからないけれど、もし本当に十四歳に戻っているのなら、もう一度、やり直せるということ……?)
なら絶対にあんな思いはしたくない。
牢屋の中は蒸し暑く、汚くて、お腹も減って。
でも、それ以上に辛かったのは、私を信じてくれる人も、私を愛してくれている人も、誰も、一人もいなかったという現実。
毒杯ではなく、斬首ということは、この家からも除籍されて平民になっていたということで。
(そうならないためには、きっと、行動を変えなくてはいけないのよね。私に、できるかしら……?)
一度目、あれほど私を振り回した『愛されたい』という感情は消えていない。
どうせ何をどう努力しても、父にも、婚約者にも愛してもらえなかったのだ。
記憶の通りに動かなければいいのかもしれないけれど、それは私にとっては愛してもらうことを諦めるということでもある。
だって、もともと愛されていたのなら、愛してもらうために努力なんて必要ないはずなのだから。
結末がわかっているからといって、そう簡単に行動を変えられるとは思えなかった。
(難しいかもしれないけれど、やらなければ最悪が待っているのよね。……だったら、今度は私だけを見てくれる人を探せばいいのかしら?)
愛し愛される関係を婚約者と結べるのならそれが最善だけれど、一度目の失敗を経てもその方法がわからない。
だったら今度こそ私を見て愛してくれる人を見つけて、私もその人のことを愛したい。
ただ、それには一つ問題がある。
殿下との婚約が結ばれた後だったら、表立っては探すのは控えるべきだからだ。
世間体もあるし、一応、殿下の婚約者という未婚の令嬢のトップとして規範を示す立場でもある。
あまり非難を集めるやり方はしたくない。
それに、何年も待つことになるが、殿下があの方と恋に落ちた後なら、婚約解消を提案しても反対されないだろう。
(うん、ちょっとだけ、探し始めるのが遅くなるだけ)
ずっとお父様と殿下のことを見ていた私に他に気になる人がいるはずもなく、急ぐ必要はない。
ただ、学園に入り殿下が恋に落ちるまで、一年近くもあるのだと思うと少し憂鬱だった。
その間、殿下との交流は続くのだ。
一度目はそれだけの時間をかけても殿下との信頼関係は結べなかったのに、意味があるのだろうかと思ってしまう。
思考に沈んでいると、懐かしい花模様のカップがお盆ごと差し出された。
いつだったか割れてしまったはずの、私が気に入っていたものだ。
「さぁ、こちら、準備が出来ました」
カップに口を付けると、懐かしい味だった。
誰が淹れても変わらないはずなのに、ケイトが淹れた紅茶は不思議と心を落ち着かせるような、そんな気がするのだ。
私はケイトに尋ねた。
「ところで、ケイト、私の婚約のことについてなんだけど」
そういって見上げると、ケイトは首を傾げた。
「王太子殿下とのご婚約についてですか? 私よりも、侯爵閣下に言われた方がよろしいかと思いますが……」
戸惑いを浮かべるケイトに、現実の厳しさを知る。
出来れば婚約前に戻っていて欲しかったが、もう婚約は結ばれた後だったらしい。
ありえないだろうと思いながら、今の時点で婚約の解消は難しいだろうなと思いつつ、ケイトに尋ねる。
「なんだか、王太子殿下とのご婚約は、私には荷が重い気がしてきたの。辞退できる方法はないかしら……」
この婚約は、政略によるものだったはずだ。
もしかしたら一度目と違いがあるかもしれないと、一縷の望みをかけてケイトに尋ねると、ケイトは困ったように眉尻を下げた。
「このご婚約は、王家も望まれてのことと伺っております。ですので、そう簡単に覆ることはないかと存じます」
やはり婚約の解消は難しいようだ。
「何をご不安に思っていらっしゃるのですか?」
ケイトの質問に、迷った末に事実を口にする。
「……怖い夢を見たの。それで自信がなくなってしまったみたい」
ケイトは納得したように頷いた。
「きっと、責任を感じすぎて不安になってしまわれたのかもしれませんね。今日は就寝前にリラックスできるお茶をお持ちするように致しましょう」
「……うん、お願い」
それで解決することだと思えないが、ケイトの心遣いは嬉しくて素直に受け取ることにする。
ケイトはほっと息をついた。
私の不可解な言動で、困らせてしまったのだろう。
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