20 / 35
20.悪霊
しおりを挟む
いつもなら人が遊んでいるはずの公園には、誰もいなかった。
「人払いの結界じゃな」
「流石にわかるんですね」
ハムアキラの言葉に土御門君が頷く。
「このような事、お主のような若い者が対処しておるのか?」
「あなたには、関係ない事です」
「冷たいのじゃ」
「詐欺師に優しくする道理はありませんから」
「せめてわしの話を聞いてから判断して欲しいのじゃ」
ハムアキラは悲しげな顔をする。土御門君は少し考えた末に言う。
「なら、あなたがこれから来るモノに対処できたら話位は聞きましょう」
「本当か!」
ハムアキラは明るい声をあげる。
「できるなら、ですが」
話していた二人が、同時に公園の入り口を見た。
「来たようじゃな」
ハムアキラの言葉に私も二人が向いている方を見ると、まだそんな時間じゃないのに、周りが夕暮れ時の様に薄暗くなっていた。そして、ゆっくりと大きな黒い塊が近づいて来ていた。近づくにつれ、細かいところまで見えるようになってくる。それは公園にある遊具よりも大きく、時々表面が蠢いて苦悶する人の顔が浮かび上がる。
「なにあれ……」
思わずこぼれた呟きに土御門君が反応する。
「強い悪霊が他の悪霊を取り込んで大きくなったモノみたいだ」
「え、そんな、大丈夫なの?」
「危ないから、藤崎さんは後ろにいて欲しい」
目を離すと襲い掛かられそうな恐怖から、あいつから目を離さずに後退る。
「ハムアキラ、気を付けて」
「問題ないのじゃ」
「無理だと思ったらすぐに言ってください。父さんに知らせて対処してもらいますから」
「ほう。父君が陰陽師なのか」
ハムアキラの言葉に、土御門君は頷く。
「はい。僕も対処法は収めていますが、流石に、こんな大物は僕だけでは厳しいので」
そんなにヤバいやつが来てるの?
びっくりして二人の背中を見つめるけど、ハムアキラは無造作に足を踏み出した。悪霊は巨体を蠢かせて手のような細長い物を体から生やすと、ハムアキラを掴もうと手を伸ばす。
「無駄じゃ」
ハムアキラが腕を一振りすると、腕のような物は塵のような物になって消えていく。束帯って言っていたっけ。和服の袖が、腕の動きで翻って恐ろしいはずなのに美しい。
「朱雀・玄武・白虎・勾陳・帝台・文王・三台・玉女・青龍」
手を刀のような形にして縦横に動かすと、ハムアキラ自身が光りを纏っていく。最後の言葉と共に目を開けていられないくらいの光が辺りを照らし、目を開けたらさっきの悪霊は跡形もなく消え去っていた。
「……消えたの?」
「終わったから、もう大丈夫なのじゃ。心晴は大丈夫か?」
安心させるよう、微笑みを浮かべたハムアキラが振り返る。
「うん、ハムアキラのおかげだよ。お疲れ様」
「うむ。疲れたのじゃ」
あれだけ高圧的だった土御門君は驚いたようにハムアキラを見ていて何も言わない。でも、その目には先程までの敵意はなく、純粋な驚きに満ちていた。
「土御門君、どうしたの?」
どうしたんだろう。恐る恐る声を掛けると、はっとしたように私を見て、ハムアキラに視線を戻した。
「…………あなたは、何者なんですか?」
「だから、安倍晴明じゃと言っておろう」
「でも――」
土御門君が何事か言いかけたところで、盛大に誰かのお腹が鳴った。
「すまぬ、限界のようじゃ」
そうして、ポンという音と共に人の姿のハムアキラが消えてしまう。
「え⁉」
「こっちじゃ」
ポシェットの中から声が聞こえ、私は驚く土御門君に構わず、ハムスターの人形を手に乗せる。
「ハムアキラ、どうしたの?」
「……予定外に力を使ったから、お腹が減りすぎて人型を維持できなかったのじゃ」
ハムアキラは別人のように元気がない。
「ど、どうしよう⁉ 食べ物何も持ってないよ……!」
慌てる私に、土御門君が声をかける。
「ひとまず、家に来なよ。おやつ位は出せるから」
「あ、ありがとう……!」
「いや、もともとその予定だったし、その、二人の話も聞きたいから」
反射的に出たお礼の言葉に、土御門君は気まずげに言う。
私達はひとまず土御門君のお家へと移動した。
「人払いの結界じゃな」
「流石にわかるんですね」
ハムアキラの言葉に土御門君が頷く。
「このような事、お主のような若い者が対処しておるのか?」
「あなたには、関係ない事です」
「冷たいのじゃ」
「詐欺師に優しくする道理はありませんから」
「せめてわしの話を聞いてから判断して欲しいのじゃ」
ハムアキラは悲しげな顔をする。土御門君は少し考えた末に言う。
「なら、あなたがこれから来るモノに対処できたら話位は聞きましょう」
「本当か!」
ハムアキラは明るい声をあげる。
「できるなら、ですが」
話していた二人が、同時に公園の入り口を見た。
「来たようじゃな」
ハムアキラの言葉に私も二人が向いている方を見ると、まだそんな時間じゃないのに、周りが夕暮れ時の様に薄暗くなっていた。そして、ゆっくりと大きな黒い塊が近づいて来ていた。近づくにつれ、細かいところまで見えるようになってくる。それは公園にある遊具よりも大きく、時々表面が蠢いて苦悶する人の顔が浮かび上がる。
「なにあれ……」
思わずこぼれた呟きに土御門君が反応する。
「強い悪霊が他の悪霊を取り込んで大きくなったモノみたいだ」
「え、そんな、大丈夫なの?」
「危ないから、藤崎さんは後ろにいて欲しい」
目を離すと襲い掛かられそうな恐怖から、あいつから目を離さずに後退る。
「ハムアキラ、気を付けて」
「問題ないのじゃ」
「無理だと思ったらすぐに言ってください。父さんに知らせて対処してもらいますから」
「ほう。父君が陰陽師なのか」
ハムアキラの言葉に、土御門君は頷く。
「はい。僕も対処法は収めていますが、流石に、こんな大物は僕だけでは厳しいので」
そんなにヤバいやつが来てるの?
びっくりして二人の背中を見つめるけど、ハムアキラは無造作に足を踏み出した。悪霊は巨体を蠢かせて手のような細長い物を体から生やすと、ハムアキラを掴もうと手を伸ばす。
「無駄じゃ」
ハムアキラが腕を一振りすると、腕のような物は塵のような物になって消えていく。束帯って言っていたっけ。和服の袖が、腕の動きで翻って恐ろしいはずなのに美しい。
「朱雀・玄武・白虎・勾陳・帝台・文王・三台・玉女・青龍」
手を刀のような形にして縦横に動かすと、ハムアキラ自身が光りを纏っていく。最後の言葉と共に目を開けていられないくらいの光が辺りを照らし、目を開けたらさっきの悪霊は跡形もなく消え去っていた。
「……消えたの?」
「終わったから、もう大丈夫なのじゃ。心晴は大丈夫か?」
安心させるよう、微笑みを浮かべたハムアキラが振り返る。
「うん、ハムアキラのおかげだよ。お疲れ様」
「うむ。疲れたのじゃ」
あれだけ高圧的だった土御門君は驚いたようにハムアキラを見ていて何も言わない。でも、その目には先程までの敵意はなく、純粋な驚きに満ちていた。
「土御門君、どうしたの?」
どうしたんだろう。恐る恐る声を掛けると、はっとしたように私を見て、ハムアキラに視線を戻した。
「…………あなたは、何者なんですか?」
「だから、安倍晴明じゃと言っておろう」
「でも――」
土御門君が何事か言いかけたところで、盛大に誰かのお腹が鳴った。
「すまぬ、限界のようじゃ」
そうして、ポンという音と共に人の姿のハムアキラが消えてしまう。
「え⁉」
「こっちじゃ」
ポシェットの中から声が聞こえ、私は驚く土御門君に構わず、ハムスターの人形を手に乗せる。
「ハムアキラ、どうしたの?」
「……予定外に力を使ったから、お腹が減りすぎて人型を維持できなかったのじゃ」
ハムアキラは別人のように元気がない。
「ど、どうしよう⁉ 食べ物何も持ってないよ……!」
慌てる私に、土御門君が声をかける。
「ひとまず、家に来なよ。おやつ位は出せるから」
「あ、ありがとう……!」
「いや、もともとその予定だったし、その、二人の話も聞きたいから」
反射的に出たお礼の言葉に、土御門君は気まずげに言う。
私達はひとまず土御門君のお家へと移動した。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
ぽんちゃん、しっぽ!
こいちろう
児童書・童話
タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる