【完結】生贄娘と呪われ神の契約婚

乙原ゆん

文字の大きさ
15 / 65

十五.生贄娘、砥青と話す

しおりを挟む
 砥青が来て三日。
 今日は白麗は都合がつかないとのことで、朝食の席には現れなかった。
 残念に思いながらも、香世は砥青と朝食を食べ、そのまま場所を変えてその日の授業が始まる。
 授業の開始前に、砥青はこほんと咳払いの後、少し言いにくそうに口を開いた。

「今日は、授業の前に一つ奥方様に尋ねたいことがあるのです」
「何でしょうか」
「今更の質問になりますが、奥方様はどうして薬師になりたいと思われたのですか?」
「薬師になりたい理由、ですか?」

 頷く砥青に、香世は続ける。

「それは、もともと父が薬師で、私も薬師を目指しておりました。それで、今も目指しております」

 砥青がどのような意図でそう言ったのかわからなかったが、香世はそう口にする。
 だが、砥青はその答えでは納得できなかったようだ。

「なるほど、ですが、それは地上でのこと。こちらでは奥方様の暮らしは保証されていらっしゃるではないですか。なのに、わざわざ薬師の勉強を始められたことが疑問でして」

 部屋の端に控えている桜が厳しい目で砥青を見ていて、砥青は慌てたように付け加える。

「誤解なされないでください。私は、奥方様の熱意を疑っているわけではありません。その、奥方様は遊んで暮らしていても良いはずなのに、真剣に学ばれているので。むしろ、何か必要があってのことかと思っておりました。そうでしたら、むしろそちらに照準を合わせた授業をした方がよろしいかとも考えているのです」

 砥青の言葉に香世は首を振る。

「必要に迫られて、というわけではありません。私は、怪我や病気で苦しむ人のために薬を調合する父の背中を見て育ちました。幼い頃は、私もそうやって生きていきたいと思っていたのですが、あいにく私は薬師に必要な事を色々と教わる前に、父を亡くしてしまって、薬師になるのを諦めざるをえませんでした」
「それは、お悔やみ申し上げます。苦労してこられたのですね」
「いえ。周りの方に恵まれていたおかげで、そう酷い暮らしではなかったと思います」

 ほっと肩を落とす砥青に、香世は続ける。

「今までの私は、誰かに助けてもらうばかりでした。なので、いつかは、私も誰かを助けることができるような人間になりたいのです。でも、今のままでは何もできません。それで、薬師の知識を授けていただけたら、その、すぐにでは無理でも、いつかは誰かの役に立つのではないかと思って」

 話していて、気が付く。
 確かに、他の人に助けてもらってきた分、周りにその恩を返したいと思う。
 でも、一番は、助けてもらった白麗に、役に立つと思ってもらいたいのだ。

(それに、何もできない人間だと、見限られたくない……)

 白麗に花嫁として扱ってもらっているが、この結婚も白麗に必要があってのこと。
 契約が不要になれば、香世は元の村に返されるだろう。
 でも、もし、香世が薬師としての腕を磨き、役に立つと認めてもらえたなら、ずっと側に置いてもらえるかもしれない。
 贅沢な暮らしが目的ではない。
 ただ、白麗の側を離れたくないのだ。
 白麗は、ずっと香世に好意を示してくれている。
 そんな存在と離れて、再び一人で生きていくことなんて、もう、香世には考えられなかった。
 両親を亡くしてから、三年も経つ。
 助けてくれる人もいたし、一人での暮らしにはもう馴れたと思っていたのに、思った以上に孤独を感じていたようだった。
 薬師を目指す理由の底に、そんなよこしまな思いがあることに気が付いてしまい、香世は慌ててその思いを振り払う。

「白麗様には、折角機会をいただきました。ですので、砥青様が授けてくださるなら、その全てを学びたいと思っています」
「わかりました。では、授業はこのままの方針で進めましょう」

 砥青は、納得したように頷いている。

「香世様、なんて素晴らしいお志……」

 桜が感動したように香世を見ているが、香世としては自分に下心があることに気が付いてしまったので、桜の感動を素直に受け取ることはできなかった。

「そういうことでしたら、このまま授業を進めましょう」
「よろしくお願いします」

 頭を下げた香世に、砥青は頷き昨日の続きの図録を開くように言うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...