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3回目の卒業パーティー
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「一年って早いのね」
「いきなりどうしたの?」
「だって、シャーロット様の卒業パーティーが、つい最近の事だったみたいに思うんだもの」
「…本当だね」
三年目のダンスフロアに、装飾やドレスを纏い着飾った私達。
勿論行われているのは私達の卒業パーティーだ。
みんなパートナーとのダンスを終え、家同士の親交を深める為にまた違う人と踊りだす者も多い。
でも私はダンスに加わらない。
見てるだけでも楽しいしね。あ、ほら、ダンスが苦手な子が足を踏んじゃったけど、それすらも可愛いって顔に書いてある男性が居る。なんとも微笑ましいじゃないか。
アンネも色々な男性達から引っ張りだこで、全然話せないのはちょっと寂しいけど…。
「アイラも婚約者とダンスしたんでしょ?他に行かなくていいの?壁の花って笑われちゃうよ」
「えー…、あー…やっぱり必要だよねぇ…。うん、踊るか」
「あ、アイラ嬢!ミアルワ嬢!」
ほぼ壁の花と化していた私達に向かって走ってくるのは、同クラスだったレオナルドだ。
彼とは二年間同クラスで、時々ではあったけれど親交があった男子生徒の一人だった。彼は私と同じ伯爵位である。
「二人ともいつも以上に綺麗なんだから、壁の花なんて勿体ないよ?ミアルワ嬢だって今日は一度も踊ってないじゃないか。良かったら一曲どう?」
深い緑色をした髪を一括りにした彼から差し伸べられた手。
私は触れることなくふるふると首を横に振った。
「ごめんね、レオナルド様。勿体ないお誘いだけど、私が誰かと踊ったって話がもし漏れたら…すっごくヤキモチ妬いちゃう人がいるから」
その一言にきょとん、とオリーブ色の瞳を瞬かせ、途端吹き出して笑い出した。それはアイラも同じで、二人して笑っている。
「ちょ、…!何も笑うことないじゃない!」
「あははっ、だって…本当にすごく愛されてるんだなって。…くふ、あはは、アンバー嬢…いや、シャーロット王女様がそんなに独占欲が強いなんて知らなかったよ」
「ふふ、分かる分かる。シャーロット様って全然そういう事しなさそうだったもんね?それともミーアと会って変わったんじゃない?」
「もう…、ほら、レオナルド様。アイラを貸してあげますから踊ってきてくださいよ」
「そうしようかな。アイラ嬢、手を」
「仕方ないわねえ、ずっとミーアの惚気を聞いてるのもあれだから、一回だけよ?」
「あははっ、そこは大丈夫。僕も婚約者が居るしね」
アイラはレオナルド様の手を取って、フロアの真ん中を陣取る勢いで早足で向かって行った。
レオナルド様は商会もやってるし、人脈を作っておいて損はないだろう。現に…話しかけられなかったらしい令嬢が不服そうな顔をしているのが視界の端に写った。
当の本人は全く気付いてない上に、二人は会話も弾んでいるようで楽しそうだ。
貴族なんだからすぐ感情を出しちゃダメ何じゃなかったっけ?習っただけだけど。
パーティーに、やっぱりシャロンは来れなかった。
忙しいのは百も承知だったし、分かっていた事だけれど…、少し寂しい。
卒業式も後数日後という時期に、何の報せもなくシャロンから卒業祝いだとドレスと装飾が送られてきた。
広げて見ると最初のラベンダー色に近いけれど、青を混ぜた青紫…。ウィスタリア色のドレスにブラックスピネルの宝石をあしらったそれは、私とシャロンの瞳の色を重ねた様なドレスが嬉しかった。
オフショルダーのドレスを着るとまだ肌寒かった。それを見兼ねたヴァルが狐のマフラーの様な形状に変化し、首元を温めてくれる事になったのは偶然だ。
「ありがとうヴァル、これで寒くないよ」
「む、それなら良い。…、本当にルーチェリアに行くのか?」
喧騒が、一瞬止んだ。音楽は流れ続けていると言うのに。
「…ルーチェリア国。シャロンが望むなら、私はそこに行きたい。……国に、行ったら…ヴァルとはもう一緒に居られないの…?」
耳元に聞こえる声。微かな距離で聞こえる互いの声。それはとても、震えてしまっていた。
私はシャロンを選びたい。あの人と同じ世界を見て、隣に居たいの。
はあ、とヴァルの大きめの溜息が聞こえてきたと思ったら、纏わり付いてるふかふかが強くなった。待って待ってヴァル、締まってる!締まってる!
ぱしぱしと叩くと理解してくれたのか解放してくれた…。
し、死ぬかと思った。
「ミワは我と契約した時の事、覚えておるか?」
「え…?うん…覚えてるけど…。真っ暗な空間に居た時、だよね?」
「そうじゃ。精霊王である我との契約。それは確かにミワを助ける為に必要であった。…だが、精霊王との契約はそこらの精霊と契約するのとでは訳が違う。ま、簡単に言って婚姻関係と言っても過言ではない」
ちょっと待って聞いてない。
「話しておらんかったからな」
心読むな。
というか、え、じゃあ私はこの国から出られないの?
「ヴァル……」
「…ミワが危惧しておるような事はないぞ。どこに居ようと、お主は我と一心同体。契約とはそういうものじゃ」
「でも、此処はヴァルが守護しているから成り立っている国なんでしょう…?それなのに、ヴァルは…ドゥンケール国から、…出られるの?」
「最初に何処で会ったかもう忘れたのか?」
「でも、ルーチェリアって確か光の…」
「…そう、我の対になる国だ。多少の行き来は面倒だが、行けない事もない。…ただ、長居出来る事も…ないがな」
長居が出来ない…?
それじゃあ、もし私がシャロンと暮らす事になって、ルーチェリア国に永住になったら…。
「わたし…、ヴァルと離れなきゃいけないの…?」
「……。なに、すぐ会える距離じゃ。そう落ち込むでない」
ヴァルは否定をしていない。つまり…そういう事なんだろう。
私は首元を覆っているヴァルのふかふかしたそこに顔を埋めた。
ずっと一緒だった。
私が、美和が死んだあの日から18年。
ずっと、ヴァルは私を見守っててくれた…なのに。
「私、ヴァルに感謝してる」
「うむ」
「この国がとても好きになったよ」
「そうか」
「…私、まだ、恩返し…出来てない…」
「ずっと我と一緒に過ごしてくれた時間が褒美のようなもんじゃ。あの娘にお主を預けるまでは傍に居る。それに、お主に渡した加護も能力も消えない。だから…ミワ」
「ウィスタリア公爵との婚姻、おめでとう。立派に育ったな…ミワ」
まるでお父さんみたいな言い方。
でも、きっとヴァルからしたら私は娘みたいなもので、娘を嫁に出す父親みたいな心情なんだろう。
ずっと護っててくれてありがとう。
「あら、今日は晴れ舞台だというのに。一体誰に泣かされたのかしら?」
その声が耳に響くと、私はすぐさまその方向へ顔を向けた。
間違いない。
嗚呼、今日のドレスも綺麗よ。
私の服と対になっていて、ブラックのドレスにあしらわれたウィスタリア色の宝石。
周りの人も彼女の存在に気付き、更には私とドレスが対である事がすぐ分かった人もいる。
「ヴァル様、あまりミアを泣かせないでくださいませ」
ん?
「泣かすつもりはなかったぞ。ただ嫁に出すのは惜しいも我に付き合ってもらった礼をやっただけだ」
ねえちょっと。
「それに小娘、ミワはお前の事を想って毎晩枕を濡らしていたのじゃぞ。お主こそが一番ミワを泣かせておるというのに…」
「あら、そうなの?ミア?」
私より先になんでヴァルと話してるの!?
…というか!そんなキラキラした目で見ないで…!
なんで?なんでシャロンは普通にヴァルと話してるの?
なにその旧知の仲みたいな雰囲気!
…折角のシャロンとの再会なのに、なんだか喜べない…。
こんなに嬉しいのに。
…これは独占欲だ。そう気付いてしまったらもう、戻れない。
「ミア」
さっきまでヴァルと話していた時とは明らかに違う声色に、下げてしまった頭をもう一度上げた。
そこには確かに、確かに…私のシャロンが居た。
「約束の通り、一年越しに迎えに来たわ。…会いたかった、ミア」
もう、こんな事ならずっと二人で掛け合いでもしていて欲しかったよ。
そう思うくらい、私の瞳に張った水膜はボロボロと溢れて、止まる事を知らない。
「…折角のお化粧が台無しよ?…そんなミアも…」
シャロンが何かを言おうとしてた。
それを遮って、気付いたら私はシャロンの胸の中に飛び込んでしまっていた。
髪を梳く指先。
触れる体温。
聞こえる鼓動。
見上げた時に向けられる…笑顔。
ずっとずっと、私が欲しかったもの。
「シャロン…!シャロン…っ、わたし、私も、…っ会いたかった!会いたかったぁ…っ」
「…ごめんねミア。寂しい思いをさせてしまって…」
決壊したダムは塞き止められない様に、私の涙は溢れて溢れて、それでも嬉しくて胸が熱い。
「顔を上げて、わたくしのミア」
「…、嫌、今、酷い顔してるから…」
「大丈夫。どんなミアも好きよ」
本当だろうか?余りの悲惨に百年の恋も冷めてしまうのではないか?
そう思考を回すも、私はシャロンの言う事に逆らえる筈もなく顔を上げた。
嗚呼、一年前と何ら変わらない…綺麗な藤色。
「やっぱり可愛いじゃないの。目が真っ赤…兎みたいね」
彼女の親指が私の目元をなぞる。
少しメイクが落ちてしまったかもしれないけれど、そんな事どうでも良かった。
撫でてくる指に擦り寄ると、一瞬シャロンがなんとも言えない表情を浮かべながらはあ、と長い溜息を吐く。
「懐いた猫を撫でてる気分だわ」
「猫の方が可愛い…」
「そういう事じゃないのだけれど…まあいいわ」
私はシャロンの言っている意味が分からず、首を傾げる事しか出来なかった。
「いきなりどうしたの?」
「だって、シャーロット様の卒業パーティーが、つい最近の事だったみたいに思うんだもの」
「…本当だね」
三年目のダンスフロアに、装飾やドレスを纏い着飾った私達。
勿論行われているのは私達の卒業パーティーだ。
みんなパートナーとのダンスを終え、家同士の親交を深める為にまた違う人と踊りだす者も多い。
でも私はダンスに加わらない。
見てるだけでも楽しいしね。あ、ほら、ダンスが苦手な子が足を踏んじゃったけど、それすらも可愛いって顔に書いてある男性が居る。なんとも微笑ましいじゃないか。
アンネも色々な男性達から引っ張りだこで、全然話せないのはちょっと寂しいけど…。
「アイラも婚約者とダンスしたんでしょ?他に行かなくていいの?壁の花って笑われちゃうよ」
「えー…、あー…やっぱり必要だよねぇ…。うん、踊るか」
「あ、アイラ嬢!ミアルワ嬢!」
ほぼ壁の花と化していた私達に向かって走ってくるのは、同クラスだったレオナルドだ。
彼とは二年間同クラスで、時々ではあったけれど親交があった男子生徒の一人だった。彼は私と同じ伯爵位である。
「二人ともいつも以上に綺麗なんだから、壁の花なんて勿体ないよ?ミアルワ嬢だって今日は一度も踊ってないじゃないか。良かったら一曲どう?」
深い緑色をした髪を一括りにした彼から差し伸べられた手。
私は触れることなくふるふると首を横に振った。
「ごめんね、レオナルド様。勿体ないお誘いだけど、私が誰かと踊ったって話がもし漏れたら…すっごくヤキモチ妬いちゃう人がいるから」
その一言にきょとん、とオリーブ色の瞳を瞬かせ、途端吹き出して笑い出した。それはアイラも同じで、二人して笑っている。
「ちょ、…!何も笑うことないじゃない!」
「あははっ、だって…本当にすごく愛されてるんだなって。…くふ、あはは、アンバー嬢…いや、シャーロット王女様がそんなに独占欲が強いなんて知らなかったよ」
「ふふ、分かる分かる。シャーロット様って全然そういう事しなさそうだったもんね?それともミーアと会って変わったんじゃない?」
「もう…、ほら、レオナルド様。アイラを貸してあげますから踊ってきてくださいよ」
「そうしようかな。アイラ嬢、手を」
「仕方ないわねえ、ずっとミーアの惚気を聞いてるのもあれだから、一回だけよ?」
「あははっ、そこは大丈夫。僕も婚約者が居るしね」
アイラはレオナルド様の手を取って、フロアの真ん中を陣取る勢いで早足で向かって行った。
レオナルド様は商会もやってるし、人脈を作っておいて損はないだろう。現に…話しかけられなかったらしい令嬢が不服そうな顔をしているのが視界の端に写った。
当の本人は全く気付いてない上に、二人は会話も弾んでいるようで楽しそうだ。
貴族なんだからすぐ感情を出しちゃダメ何じゃなかったっけ?習っただけだけど。
パーティーに、やっぱりシャロンは来れなかった。
忙しいのは百も承知だったし、分かっていた事だけれど…、少し寂しい。
卒業式も後数日後という時期に、何の報せもなくシャロンから卒業祝いだとドレスと装飾が送られてきた。
広げて見ると最初のラベンダー色に近いけれど、青を混ぜた青紫…。ウィスタリア色のドレスにブラックスピネルの宝石をあしらったそれは、私とシャロンの瞳の色を重ねた様なドレスが嬉しかった。
オフショルダーのドレスを着るとまだ肌寒かった。それを見兼ねたヴァルが狐のマフラーの様な形状に変化し、首元を温めてくれる事になったのは偶然だ。
「ありがとうヴァル、これで寒くないよ」
「む、それなら良い。…、本当にルーチェリアに行くのか?」
喧騒が、一瞬止んだ。音楽は流れ続けていると言うのに。
「…ルーチェリア国。シャロンが望むなら、私はそこに行きたい。……国に、行ったら…ヴァルとはもう一緒に居られないの…?」
耳元に聞こえる声。微かな距離で聞こえる互いの声。それはとても、震えてしまっていた。
私はシャロンを選びたい。あの人と同じ世界を見て、隣に居たいの。
はあ、とヴァルの大きめの溜息が聞こえてきたと思ったら、纏わり付いてるふかふかが強くなった。待って待ってヴァル、締まってる!締まってる!
ぱしぱしと叩くと理解してくれたのか解放してくれた…。
し、死ぬかと思った。
「ミワは我と契約した時の事、覚えておるか?」
「え…?うん…覚えてるけど…。真っ暗な空間に居た時、だよね?」
「そうじゃ。精霊王である我との契約。それは確かにミワを助ける為に必要であった。…だが、精霊王との契約はそこらの精霊と契約するのとでは訳が違う。ま、簡単に言って婚姻関係と言っても過言ではない」
ちょっと待って聞いてない。
「話しておらんかったからな」
心読むな。
というか、え、じゃあ私はこの国から出られないの?
「ヴァル……」
「…ミワが危惧しておるような事はないぞ。どこに居ようと、お主は我と一心同体。契約とはそういうものじゃ」
「でも、此処はヴァルが守護しているから成り立っている国なんでしょう…?それなのに、ヴァルは…ドゥンケール国から、…出られるの?」
「最初に何処で会ったかもう忘れたのか?」
「でも、ルーチェリアって確か光の…」
「…そう、我の対になる国だ。多少の行き来は面倒だが、行けない事もない。…ただ、長居出来る事も…ないがな」
長居が出来ない…?
それじゃあ、もし私がシャロンと暮らす事になって、ルーチェリア国に永住になったら…。
「わたし…、ヴァルと離れなきゃいけないの…?」
「……。なに、すぐ会える距離じゃ。そう落ち込むでない」
ヴァルは否定をしていない。つまり…そういう事なんだろう。
私は首元を覆っているヴァルのふかふかしたそこに顔を埋めた。
ずっと一緒だった。
私が、美和が死んだあの日から18年。
ずっと、ヴァルは私を見守っててくれた…なのに。
「私、ヴァルに感謝してる」
「うむ」
「この国がとても好きになったよ」
「そうか」
「…私、まだ、恩返し…出来てない…」
「ずっと我と一緒に過ごしてくれた時間が褒美のようなもんじゃ。あの娘にお主を預けるまでは傍に居る。それに、お主に渡した加護も能力も消えない。だから…ミワ」
「ウィスタリア公爵との婚姻、おめでとう。立派に育ったな…ミワ」
まるでお父さんみたいな言い方。
でも、きっとヴァルからしたら私は娘みたいなもので、娘を嫁に出す父親みたいな心情なんだろう。
ずっと護っててくれてありがとう。
「あら、今日は晴れ舞台だというのに。一体誰に泣かされたのかしら?」
その声が耳に響くと、私はすぐさまその方向へ顔を向けた。
間違いない。
嗚呼、今日のドレスも綺麗よ。
私の服と対になっていて、ブラックのドレスにあしらわれたウィスタリア色の宝石。
周りの人も彼女の存在に気付き、更には私とドレスが対である事がすぐ分かった人もいる。
「ヴァル様、あまりミアを泣かせないでくださいませ」
ん?
「泣かすつもりはなかったぞ。ただ嫁に出すのは惜しいも我に付き合ってもらった礼をやっただけだ」
ねえちょっと。
「それに小娘、ミワはお前の事を想って毎晩枕を濡らしていたのじゃぞ。お主こそが一番ミワを泣かせておるというのに…」
「あら、そうなの?ミア?」
私より先になんでヴァルと話してるの!?
…というか!そんなキラキラした目で見ないで…!
なんで?なんでシャロンは普通にヴァルと話してるの?
なにその旧知の仲みたいな雰囲気!
…折角のシャロンとの再会なのに、なんだか喜べない…。
こんなに嬉しいのに。
…これは独占欲だ。そう気付いてしまったらもう、戻れない。
「ミア」
さっきまでヴァルと話していた時とは明らかに違う声色に、下げてしまった頭をもう一度上げた。
そこには確かに、確かに…私のシャロンが居た。
「約束の通り、一年越しに迎えに来たわ。…会いたかった、ミア」
もう、こんな事ならずっと二人で掛け合いでもしていて欲しかったよ。
そう思うくらい、私の瞳に張った水膜はボロボロと溢れて、止まる事を知らない。
「…折角のお化粧が台無しよ?…そんなミアも…」
シャロンが何かを言おうとしてた。
それを遮って、気付いたら私はシャロンの胸の中に飛び込んでしまっていた。
髪を梳く指先。
触れる体温。
聞こえる鼓動。
見上げた時に向けられる…笑顔。
ずっとずっと、私が欲しかったもの。
「シャロン…!シャロン…っ、わたし、私も、…っ会いたかった!会いたかったぁ…っ」
「…ごめんねミア。寂しい思いをさせてしまって…」
決壊したダムは塞き止められない様に、私の涙は溢れて溢れて、それでも嬉しくて胸が熱い。
「顔を上げて、わたくしのミア」
「…、嫌、今、酷い顔してるから…」
「大丈夫。どんなミアも好きよ」
本当だろうか?余りの悲惨に百年の恋も冷めてしまうのではないか?
そう思考を回すも、私はシャロンの言う事に逆らえる筈もなく顔を上げた。
嗚呼、一年前と何ら変わらない…綺麗な藤色。
「やっぱり可愛いじゃないの。目が真っ赤…兎みたいね」
彼女の親指が私の目元をなぞる。
少しメイクが落ちてしまったかもしれないけれど、そんな事どうでも良かった。
撫でてくる指に擦り寄ると、一瞬シャロンがなんとも言えない表情を浮かべながらはあ、と長い溜息を吐く。
「懐いた猫を撫でてる気分だわ」
「猫の方が可愛い…」
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私はシャロンの言っている意味が分からず、首を傾げる事しか出来なかった。
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