Hold on me〜あなたがいれば

紅 華月

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落花ノ章

7 年齢不詳の着物美人、現る

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「…なぁ美優。実はな…来週末にウチの会のフロント企業店の『視察』がある。毎月恒例のモンなんだが…」

「……『視察』、ですか?」

「あぁ。」

『フロント企業』は別名“企業舎弟”とも呼ばれ、暴力団組織が設立し資金を得る為に興した会社などを指す。

『北斗聖龍会』は観光地札幌という土地柄から会社よりも接客を旨とする店を持つ事を選択し、飲食店やスナック、キャバクラや風俗店など数十店舗を構えている。

会の幹部らは月一のペースで各々持ち回りの店舗を回り、店の雰囲気や働く人間の様子…更には店を任せている責任者と直接会って話を聞いたりなどするのだ。

…圭介に言わせると、その『視察』が近くあるらしい。

「……。良かったら…行かないか?一緒に。つうか『来てくれ。』が本音だな。」

「…えっと…」

「…あ。安心しろ、オレが回るのは『スナック』で、『風俗』なんかじゃねぇ…」

「あ…ビックリしました。さすがにそういう所には…ちょっと…」

「誰が連れてくかっ。…スナックは『女の世界』だからな…正直オレは苦手だ。だからお前がいてくれるだけでも助かる。」

「……。圭介さんのお役に立てます?私…」

「おうよ、精神的にぜんっぜん違うなっ。…だから…一緒に行ってくれねぇか。」

「…はい。」

「うしっ。そんじゃあ…翠に頼んで小洒落て行こうぜ…美優。」

「ふふっ。いいですよ、別に…」

「ダメだ。…オレがお前を飾り立てたいんだよ。」

こうしていよいよと話は進み…圭介が美優を連れて『アモーレ・ミオ』を訪れた頃には、翠は既に候補をいくつも用意して手薬煉引いて待っていた。

両手を広げワキワキと動かすその姿と用意の周到さに、さすがの圭介もドン引きである。

「…お前…金儲けとなると凄まじいな…」

「あら失礼ね。『商売上手』と言って欲しいわ。…ささ、美優様♪こちらでご試着なさってみて?どれもきっとお似合いですわ。何せこの『私』の見立てなんですもの。」

「……。おい翠…美優が怖がってんぞ…この前、マジで何したんだよ。」

自分の背中にペッタリと張り付き、ふるふると小さく震える美優を可愛いと思いつつも、翠に物申すが『ふふふっ♪』としか返ってこなかった。

結局彼女は翠のらしからぬ怪力によって、圭介の背中からベリッと剥がされ…あっという間に奥に消えていく。そんなマンガの中のような出来事を経た翌週末…

22時を少し過ぎた頃、高級スナックバー『モナムール』の前に黒塗りの高級車が2台、連なって止まる。

前の車からまず降りてきたのは司と将也。共に2人は車スーツ黒タイ姿で、普段のラフな格好とはまるで違った。

その2人が駆け寄り、後ろの車のドアを開けると降りて来たその人を迎える。

…圭介もまた黒地に薄く透かし柄が入ったスーツに身を包み、彼には珍しく青系のネクタイを締め長めの髪もカッチリと上げていた。そしてその襟元には代紋の『金バッチ』が輝く。

普段は全く出番のないこのバッチも、『視察』や『会合』の時だけに特別に許されている代物だ。その頃には連れて来た若衆らも車から降りて出揃う。

…と、いつもならすぐに入店してしまう所だが…この日は違った。

「…美優。」

そう…彼には約束通り、大事な可愛い『連れ』がいる。

圭介に手を引かれ車を降りた美優は、スカイブルーのカクテルドレスを着ていた。丈は僅か長めの膝下だがタイトなデザインで同色のオーバースカートが華やかさを出してくれる。髪型もドレスに合わせてアップにまとめていた。

「…ありがとうございます、圭介さん。」

「おう。」

互いに笑い合い楽しそうな2人を、若衆らは元より司や将也は見ているだけでほっこり和む。そして何より羨ましい。

だが中へ入ろうと歩き出した時…僅か数歩で美優は『コケッ』となり、圭介や皆をアワアワと慌てさせた。

「おいっ、み、美優っ…」

「「姉貴!」」

「だ、大丈夫ですっ…ごめんなさい…」

「……。まぁ、いいわ…オレが支えててやる。入んぞ。」

彼女としては慣れないヒールの高さに問題があるのだが…それだけではない事が後にわかる。

そうしてようやく、圭介に腰から抱えられるように支えられ店内へと入ると…

「…いらっしゃいませ、ようこそ『モナムール』へ。…お待ちしておりましたわ、清水様。」

「ひと月振りか?ママ。すっかりご無沙汰しちまって…」

「そうですわね。それまではプライベートでもいらして下さってましたから、すっかりお見限りかと泣き暮らしてましたわ。」

「……ウソくせぇ…」

「あらま…ほほっ。…あの…ところで、こちらの方が噂の『可愛い女(ひと)』なのかしら?」

「…ったく、どこからそんな話を仕入れてくんだか。…オレの連れだ、名前は美優。名前の通り、優しい可愛い女でな…オレが泣き言言ったら付いて来てくれた。」

「まぁ。」

「…初めまして、美優と申します。いつも清水がお世話になっております…」

「とんでもございません…初めまして、当店『モナムール』のオーナーママを務めております『みずき』と申します。お見知り置き下さいませね。」

「…はい、こちらこそ。」

「さぁ、立ち話も何ですから…奥の方へ参りましょう。皆さんもどうぞこちらへ。」

店の最上級席『VIP』席へと案内され、圭介が着座するのを見てから美優もその隣に座る。そして更に司や将也ら若衆らが座る…という『序列』が既に成っている事に、密かに見ていたみずきは驚く。

「さ、お飲み物は何になさいましょう?色々ありますけれど…清水様はいつものバーボンで宜しいのかしら。」

「…頼む。」

「美優様は何になさいます?カクテルなどもご用意出来ますわよ?当店自慢のバーテンダーに腕を振るわせますわ。」

「…あ…えっと…」

「それとも…『ピンクシャンパン』などいかが?可愛らしい美優様にピッタリだわ。」

「…う~んとぉ…」

「あ!そうっ!私、是非にも美優様と『差し向かい』で乾杯させて頂きたいわ。…待ち焦がれてやっとお会い出来たんですもの…ふふ♪」

「あ、あの!…」

「おいママ。悪りぃがウチのには…『これ以上』酒は飲ませないでくれないか。」

「…あら…何故かしら?」

「……。実は…オレもついこの間知ったんだけどよ…美優は酒がほとんど飲めねぇらしくて…」

「え?!」

「けど人間が良過ぎるせいで、ここに来るまでに回ってきた各店のママに『1杯だけ♪』って縋られて断れ切れねぇで、マジでその1杯に付き合ってるんだよ。…だから悪りぃけど、勘弁してやってくれ。」

「あらまぁ…大変でしたわね美優様。」

「そうなんすよみずきママ!ウチの『姉貴』はマジで良い人過ぎなんす!」

「もぉ…見てらんないすよぉ…マジで大丈夫すか?」

「だ、大丈夫ですっ…ご心配をお掛けしてごめんなさい、司さん将也さん。」

「……。オレも、お前が気になって全然酔えねぇ…」

「…すいません。」

「あらあら。それはちょっと違うんじゃない?貴方はいつだってどんなに飲んだって、よっぽどない限り“酔わない”でしょう?『しーくん』。」

「っ…『しーくん』?!」

「あらやだ、ごめんなさい…実は清水様と私は昔からの知り合いなのよ。…会長の笛木様も含めてね。」

「あ…そうなんですねっ。びっくりしちゃいました…」

「何だと思ったんだよっ。」

「ままっ…要はウチの兄貴と姉貴は『お熱い』ってオチで!」

「まっ!ふふっ…上手い事言うわねぇ、司くんっ。」

場にいる皆でわはは!と笑い合ったところで、空気を読んだボーイの手によって飲み物が配られる。そしてここに来るまでに、下戸ながらにも『1杯だけ』攻撃に耐えてきた美優には烏龍茶が渡された。

「それじゃ…今後の『モナムール』の発展に乾杯っ。」

「ありがとうございます。更なる貢献が出来ます様、務めさせて頂きますわ。」

『乾杯!』という声と同時、ひと口付けた後には拍手が挙がる。この乾杯のたったひと言にも意味があり、圭介が入店し飲み物が用意されるまでの間に見た『印象評価』。

発展という言葉が使われた『モナムール』は、最高ランクを評価され…それに対してママであるみずきは『ありがとうございます。』と返礼したのだった。

「ところで…各店って事は、もしかしてウチが最後なのかしら?」

「やっぱママが古くからの知り合いってなると、どうにもどっかで気が緩んじまう。…同時に『緊張』もあるけどな。」

「…そう思って頂けて光栄ですわ。」

「……。それに…美優の事も、ゆっくり会わせたかったしな。」

「あらあら。結局そっちに行っちゃうのね…寂しいっ。こーんな小さい頃から知ってるのにっ。」

「んな小っさくねぇしっ。…知り合ったのは『族』の頃だっつうの。」

「……。…『族』…」

「そういや、美優に話してねぇな。…オレは会に入る前ってか、学校にも行かねぇでこの辺を爆音出して走り回ってたんだぜ。」

「いわゆる『暴走族』ね。可愛かったわねー、あの頃のしーくんっ。」

「…可愛いとか言うなっ、10代の只のクソガキだっ。」

「うわぁ、族の頃の兄貴!会いたかったす!」

「…めちゃかっけぇ~…」

「司、将也、お前なぁ…ンな事言って持ち上げたって何もねぇぞ!…後で小遣いやっからなっ。」

「「うす!」」

「ずりぃ!若頭ぁ…」

「あぁ、わかったわかった!今日のオレは美優が側にいてすこぶる機嫌が良い。だからお前らも今日は特別だぁ!…その代わり!他の奴らや幹部にゃ内緒だぜ!」

『あざーす!若頭!』

「ふふっ♪良かったですねぇ、皆さんっ。もらえる時はもらっちゃいましょ!」

『うす!あざーす!姉貴!』

「ややっ、やめて下さいっ…私はそんな風に呼ばなくて良いんですっ…」

「ダメなんす!姉貴は『姉貴』す!じゃないと俺らが兄貴にシバカれるす。」

そんな話を交わす美優と若衆らを眺め見たみずきは、彼女の背にこっそりと周り圭介の腕をツンツンと突く。

「…美優さん、とても可愛らしくて優しい素敵な女(ひと)ね。…安心したわ。」

「母親かよ、アンタは…」

「だって…もう何年も女なんかいなかったじゃないのよ。これでも心配してたのよ?」

「そりゃどうも。」

「…ん?あれ…何のお話ですか?」

「いえ。今清水様にお惚気を聞かされておりましたの、ほほっ。」

「………。」

みずきの『説明』に良く言うわとでも言いたげに、圭介はげんなりした表情を浮かべる。だがママみずきの“口撃”は正にここからだった。
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