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番外編 本部長霧山悠斗の恋
悠斗さんの覚悟とほのかの危機
しおりを挟む霧山の『人探し』が鋭意続行される中、変わらず毎日会い続けている2人は、他からはわからないかもしれないが幸せだった。
だが…いつものように大通りで待つほのかの表情はこの数日前から暗い。その理由は母から告げられた言葉にあった。
『ほのか。お父さんがね…東大受験なんて馬鹿は止めろ、って。貴女にこんな話、したくはないけれど…正直言って進学自体、行かせてあげられるかどうかも厳しいの。…ねぇほのか、進学を諦めて就職したらどう?夜遅くに帰って来るのも、お母さん心配なのよ。』
「…っ、…どっちも好き勝手してるクセに…っ。」
悔しげに口唇を噛む今の彼女は、いつも無邪気に笑うほのかとはちょっと違う。そんな彼女の肩をポン!と叩く人がやっと来た。
「っ?!…ゆ、悠斗さんっ…」
「おう。どうした?何回も呼んだのに返事もしねぇから、このまんま誘拐しちまおうかと思っていた。」
「あ、ははっ…それも良いけど…警察の人、呼ばれちゃうよ?」
「…。そいつは厄介だな、会に迷惑掛けちまう。…行くぞ。」
「……うん…」
「…。何か…あったか?話くらい聞いてやるぞ?…ウチでな。」
「…っ、…」
ほのかの手をしっかりと握り、車に乗せて自宅マンションに連れて来た霧山は、早速とばかりソファーに座る。
「…どうした、こっち座れ。」
「…うん…」
コーヒー片手に彼女の重い口から語られる話を黙って聞いた彼は、ふぅん…と小さく息を吐く。
「進学は諦めろ…か。言っちゃなんだが『今更』だな。」
「……。」
「だったらハナから進学させねぇって言や良い話だ。『塾通い』もお前が費やした『労力』も無駄だぜ。」
「ん…私もそう思う。悠斗さんが来る前にね、塾に電話してみたの。…昨日付けで退塾になってた…」
「…。親も本気、ってか…、…」
「……。」
「…。ほのかは…どうしたい。この先…進学か、就職か。」
「…進学は、したいけど…多分、ううん、絶対無理。進学にはお金が掛かるもん。…だから就職しか道はないけど…」
「おっと。お前に金を出せる大人は『親』だけか?」
「…へ?」
「ほのかがどうしても進学してぇんなら…俺がその金、出してやる。その代わりお前には『条件』がある。」
「…っ、もしかしてっ…どっかの風俗で働いて返せって事?…や、ヤダッ…」
「あー、早とちりすんなや。ンな事させねぇって。」
「じゃあ…何?」
「…。簡単な事だ。俺の『嫁』になる事。…な?悩むのもアホらしい。」
「……。」
「進学先には『霧山ほのか』として通うのが絶対条件だ。指輪も絶対外すな。通学の行き帰りは俺が車で送る。…おぉ、何気に楽しそうだっ。」
「……。」
「仮にほのかが『就職』を選んだとしても、結果的には同じだな。…お前の就職先は『有限会社霧山悠斗』ただ1つしかねぇから。しかも定年退職無しの永久就職。他は認めんっ。」
「……。」
「…。おい、聞いてんのか?悠斗さんの『一世一代のプロポーズ』をっ。」
「っ!…やっぱ、そうなの?」
「お前なぁ!人が柄にもなく真剣にっ!この短い時間で色んな『覚悟』決めたんだぞっ。まず!俺は確実にお前の親父に殴られる!18は『未成年』!学校とか塾の後にウチに帰さずにこっちに連れ込んでんだからな!その上、俺はお前が卒業してすぐに嫁にくれって言うんだ!俺が親なら石狩湾に雁字搦めにして沈めんぞっ!それでも足らねぇわ!」
「……。い、一気にしゃべった…ね。」
「…ぜぇ…そ、そういう『覚悟』を…男はするんだよっ…けどな、ほのか…」
「う?」
「俺は例えお前の親父に殴られようが何されようが…引く気はねぇからな。黙って甘んじて受け入れる。サツを呼ばれたって構やしねぇ…極道やめろってんなら、足洗って堅気になってやる!」
「っ!?」
「てなワケで、平井ほのかに問う。俺のプロポーズ…マルかバツか。」
互いに真剣に見つめ合い、僅か重苦しい空気が流れる中…ほのかがニコリと笑う。それは2人が出逢った時から変わらない『無邪気な笑顔』だ。
「まるーーっ!!マル以外にある訳ないっ!!」
きゃー♪という奇声にも似た声を上げながらそう叫び、満面笑みのほのかが勢いよく飛びつく。…けれど、その勢いが良すぎた余りに霧山の首を見事にロックしていた。
「っぐぇ!…ち、ちょ…ほ、ほのかっ…わか、ったっ…わかったからっ…落ち着けっ…」
「やたー♪すっごく嬉しいっ!きゃー♪」
「ほのかっ!…く、首っ…締まってっ…っだぁ!!落ち着けぇい!殺す気か俺を!」
「え、ダメ!悠斗さんっ…死んじゃヤダぁ~…」
「…。お、お前な…言ってる事とやってる事、真逆だぞっ…」
“ふぅ…”と息を吐きながら一気に噴き出した嫌な汗を拭う彼は、今やすっかりほのかのペースに飲まれていた。
だが…そのほのかペースの流れが、この後の霧山の発言を機にくるりと逆転する。
「…おし。じゃあほのか…色々頑張って腹を括った上、この先も頑張れるように『褒美』をくれ。」
「…、…ご褒美?」
『この手は何デスカ?』とでも言うように、自らの腰に両手を巻きつけガッチリとほのかをホールドしている霧山を、首を傾げながら見上げる。
「…。お前も良く言うだろ?『ご褒美ぷりーず。』って。…俺にもくれや。」
「んーと…それって『キス』だけじゃないよ、ね…?たぶん…いや絶対。」
「ククッ、よくわかったな。…俺が欲しいのはお前自身…ほのかの『全部』だ。」
「っ…」
「無理に、とは言わねぇよ。いずれは俺のモンになるんだからな。…それまではキスで我慢しといてやる。」
そう言って目を閉じた霧山は、ほのかの真意を天秤にかける。彼女を揶揄って遊んでいると言っても過言ではない。
けれど言った言葉は本当で、今すぐ望んでいる訳ではない彼だったのだが…『むぅ…』と唸り、しばらくを悩んでいたらしいほのかはその答えを出す。
…首元にすがりつき、尋常じゃない程に赤くなってる彼女を可愛いと思いながら『かの時代のYES NO枕があったら喜んだだろうか?』…と、僅かおバカな事を考えた霧山だった。
・・・・・・
そんな霧山の『変化』には会の面々は一切気付きもしない。…何せ普段の彼は鉄仮面にも等しい程に無表情。なので、何かを思い出しフッと笑おうものなら…
「……。か、会長っ…キリが、…とうとう『壊れ』ちまったみてぇすよ。」
「…。この世の終わり、ですねぇ…」
まるで異物を見るかのようにギョッとする始末。文句の1つも言ってやろうかとも思うが、若頭清水はすぐに頭に血を滾らて手を出してくる男なので面倒になった。
会に入ってからというもの、こんな風に飄々とそして何事にも深く関わって来なかったのが起因か、それともS気質の二面性の為か。
…どちらにせよ、皆は知らなさ過ぎる。本当の彼は自らの可愛い者はとことん可愛がる『溺愛体質』なのだ。それでいて普段はツラっとしているのだからタチが悪い事この上ない。
ともあれ。行き着くべき所にようやく辿り着き、尚も足りないと言わんばかりに毎日を過ごす2人だったが、ひっそりと忍び寄る影に全く気付きもしていなかった。
それが起きたのはしばらくの日が経ったある日の事。いつものようにほのかは大通りの決められた場所で霧山と待ち合わせていた。
翌日が土曜の祝日とあってか、いつにも増してカップルの軍団が行き交う中…3人組の若者が彼女へと声を掛けてきた。
「可愛いお姉ちゃん♪俺らと遊ばない?」
「……。待ち合わせ、してるので。」
「けどさぁー、もうずっとそこにいんじゃん?来ないんじゃね?」
「…っ…」
この日の霧山はどうした事か、なかなかほのかを迎えに現れなかった。だが『悪い、待たせる。』というメールを受け取っていたので、急な仕事が入ったのだろうと理解したのだ。…そこにつけ込むかのように男達はニヤリと笑う。
「こんな可愛コちゃん、待たせるとかどぉかしてるって!…俺らと遊んだ方が“楽しい”よ?」
「ヤです。」
「はい決まり~♪…ヤダっていうのを『無理矢理』ってのも、また楽しいよねー♪」
「っ?!やっ…離して!!」
3人に取り囲まれ、無理矢理引っ張って行かれる途中で路地裏へと入っていくのがわかり、ほのかは力の限り叫び暴れる。すると豹変したように表情を変えた1人の男はドン!と彼女を押し倒した。
「黙れや!ギャーギャーうるせえ女だなぁ…ま、それも『今の内』だけどな。」
「っ?!」
…彼女の目に写ったのは、キラリと光る鋭利な針が付いた2本の『注射器』。病院でよく目にする物であっても、こんな場所で見る物ではない。
「…この中身、何かわかるぅ?…すんげぇイイモンなんだぜ?2本とも中身違うけど、結果的には同じ効果があるんだ…コレ使って、俺らと『超楽しいコト』…しようぜ?」
「…っ、…や…いやぁ!!!」
ギラリと光を放つ男の目に恐怖し、腹の底から叫び声を上げたほのかの顔面をガン!と拳が捉える。その後も女相手という事をわかっていないかのように何度か殴り暴行する。
「…。おい何やってんだ?…俺も仲間に入れてくれや。」
「……あぁ?」
「但し…『違う意味』、だけどな?」
「っ?!」
そこに現れた霧山は、明らかに怒りのオーラを背負っていた。見るからに『極道』を語るに相応しいその様のままツカツカと近寄り、脇にいる2人を瞬時に蹴り上げ黙らせると最後の1人が持つ注射器を取り上げる為に腕ごと捻り上げる。
「いっ!いででででっ!!」
「…こんなモン、どうやって手に入れた?このクソガキが。」
「るせぇ!玄武組の兄貴達の『為に』やってんだよ!1回でも使えば次が欲しくて売れるようになるからなっ!!」
「…。やっぱり玄武、か…アホもここまで来りゃ手が付けられねぇな。どっちにしたってここらは『他人のシマ』だぜ…勝手すんじゃねぇよ。」
「…、…は?!…他人の…って、まさか?!」
「何も知らずに来たってのか。…玄武の組長と若頭の京極に言っとけ。『この落とし前、きっちり付けてもらう。』ってな。…まぁ、会えればの話だが。」
睨みを利かせそう言うと、霧山は3人をズルズルと引っ張って路地裏から出て行く。そして足蹴にしたまま話をした1人に持っていた注射2本を無言でブス!と打ち込み、中身を空にしてしまった。付いてしまった『指紋』も拭き取り、男の手に握らせる。
…するとすぐに男の様子が変わって来た。下半身をモジモジとさせるその姿を見て『…やっぱな。』と呟く。
「…おい。悪いがちょっと警察に連絡してくれないか。…ヤバい薬使って動けなくなってる男がいるって。」
「え?!…は、はい!」
通りすがりのカップルの男に頼み、警察を呼んでもらうともう1人の女には近くのコンビニからガムテープを借りて来て欲しいと頼む。
やがて戻った女からそれを受け取り、3人をまとめて雁字搦めにガムテでまとめてしまうと、ポイと捨てるかのように道路の隅っこに蹴って転がした。
「…てめぇらの行き先は『豚箱』だ。それでも良しと思うんだな。」
「や、野郎っ…待てやてめぇ!っ、こんな事っ…玄武の兄貴達がっ…」
「フンッ、やれるモンならやってみろや。『北斗聖龍会』霧山悠斗を甘く見んじゃねぇぞ。」
それを最後に場を離れた霧山には3人が後にどうなろうと知った事ではない。彼は路地裏で震えていたほのかを抱え、人目に付かないように車まで来ると『ある場所』へ向かい走り出したのだった。
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