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番外編 本部長霧山悠斗の恋
『ロリコン疑惑』とトチ狂った若頭
しおりを挟む突然ほのかの身に降りかかった『非日常』。霧山にとってはありふれたものであっても、彼女には初めて遭遇した『恐怖』である。
性的乱暴を目的とする見ず知らずの他人から、一方的に暴力を受け怪我をした彼女を連れて来たのは、今や会のお抱え医師である南雲の元だ。
事前に連絡して受け入れを承諾してもらうと、迎えた南雲とその弟の健、看護士長の志穂は色々な意味で驚きのあまり声を張り上げてしまいそうになった。
「き、霧山くん…」
「……。口ん中、切ってるようで今は話せないみたいです…名前は『平井ほのか』。」
「び、びっくりしたよ…てっきり霧山くんか会の誰かなんだとばかり…、…ま、まぁいいや…平井ほのかさん?手当てしようね…健先生、士長…頼むね、女の子だから丁重に。」
「わかりました。…大丈夫?さぁ行きましょうね。」
「…、…」
「大丈夫だ、2人とも『良い人』だから。ちゃんと待ってる…安心しろ。」
不安そうに振り向いたほのかを安心させるようにそう言うと、力なく頷いてようやく歩き出し処置室へと消えていく。…そんな中、小さく息を吐き出した霧山の視線とぶつかったのは、話を聞きたくて仕方ない南雲の興味津々な目だった。
「…、…何ですか南雲先生…」
「いやぁ…何て言うか…んー、聞きたい事が山のよぉーにドンドコとあり過ぎて…」
「…。だいたいの察しは付きますよ…ほのかの事ですよね。」
「ッ、『ほのか』っ?!…名前で呼んじゃう?しかも呼び捨て。今更親戚やら従妹(いとこ)なんて言っても通じないよ?第一、似てないし。全く。」
「…。自分の『女』ですよ…先生のご明察の通りに。但し会の奴らには言わないで下さい、会長や若頭すら知らないんですから。」
「え、2人とも知らないの?!…うわぁ…清水が知ったらどんな反応するかなぁ?」
「…面白がってますね、完全に。止めてください下さいマジで。ネチネチ絡まれるのは勘弁ですよ。」
「あのさぁ霧山くん…彼女っていくつなの?言い方悪いかもしれないけど…めちゃくちゃ『若く』ない?」
「……。何歳に見えます?」
「んー。頑張って見積もって『20歳』!」
「……、…18す。」
「へぇーそうなんだぁー18歳…、…って18?!高校生?!もしかしてっ…、…霧山くん『ロリコン』?」
「違いますよ。何言ってんすか。殺しますよ。」
「…何気にサラッと怖い事、言わないでくれるかな?…そっかぁ…清水の奴、霧山くんに先越されちゃったなぁ。」
『大丈夫なのかな?…アイツ本当に。』とトホホ顔になった南雲。どうやら友人である若頭清水の行く末を案じているようだ。
「しかしすごいなぁ…7歳年下の『彼女』かぁ。可愛くてたまんないっしょ。」
「…。さぁ?…どうなんすかね…」
「またぁ~。霧山くんってツンデレだよなぁ~。…ところで、さぁ…彼女の『怪我』なんだけど…」
「………。」
「…何があった?まさか霧山くんが彼女を殴ったんじゃない…よな?」
「…。何があったか、については『黙秘』します。けど自分がやった訳じゃないです。…ンな事しませんよ。」
「……だよねー。霧山くんは『頭脳派』だし、女に手ぇ上げるなんてまずないよね。…それ『系』が相手ならともかく。」
「………。」
その言葉に霧山は黙り込んだ。南雲が医者として、患者の為にやらなければならない仕事を始めたのがわかったからだ。
そうなると『じゃあ誰が?』となるものであるが…彼は本題であるそれを口にしなかった。医師には何らかの被害に遭ったであろうと見られる患者が搬送された場合、警察に通報し届け出る義務が課せられている。
…だが南雲がこれ以上の詳細を聞き出そうとしなかったのは、霧山が『北斗聖龍会』に属する極道であるから。あらぬ疑いをかけられサツに目を付けられるのは勘弁願いたいだろう。ほのかとのアレコレを聞いていたのもその為だ。…多少の、いやかなりの興味本意もあったが。
「…まぁ何にせよさ、ほのかちゃんの怪我はそんな心配する程じゃないと思う。けれど打撲は『打撲』だから、ちょっとは気ぃ使ってあげなね。」
「……。」
「心の方も…大丈夫。霧山くんが側にいさえすれば、ね♪」
そう言って笑う南雲には、どこか頼れる兄貴といった風情がある。弟を持つ身という事を差し置いても、やはり昔の『杵柄』がそうさせるのだろうと霧山は思った。
やがて処置室から士長らに連れられ出てきたほのかは、腫れが目立ってきた頬に保冷剤を当てていた。
「…。大丈夫か?」
「…、…」
「平井さんなんですけど…念のため、切れた口の中の傷は軽く縫いました。使った糸は傷が治癒する頃には吸収、というか溶ける物なので抜糸は必要ないです。しばらくは柔らかい食事が良いと思います。」
「……。」
「その他、特に異常は見受けられません。痛み止めの薬を渡してますので…それで様子を。」
「…わかりました。ありがとうございます健先生…世話になりました。」
処置をした健から説明を受け、礼を口にした霧山は彼女を連れ病院を後にする。
車に乗ってふと時計を見やると、既に時間は深夜帯…いつもならほのかを自宅まで送っている頃だった。
“送るか?”と聞いてみると…口を開くと引っ張られてしまい痛い彼女は、スマホのメモ機能にこんな事を打ち霧山に見せた。
『帰りたくない。1人でいたくない。悠斗さんと一緒にいたい。』
…その言葉が、何だか妙に切実で痛々しい程に霧山の胸中に迫るものがある。
「…わかった。じゃあウチ行くぞ。」
そう言ってぽふぽふと頭を撫でてやると、ハンドルを握り自らのマンションへと車を向けたのだった。それが奇しくも恋人として過ごしてきた2人が、共に同じ夜を過ごす『初めての日』となった。
…互いの身体を知ってはいても、翌朝を迎える事なくその日の内にほのかをきっちり家へと帰していた霧山。親に挨拶するまではそうあるべきだろうという、彼なりの『腹積もり』だったのだが…こんな事が起きてしまった以上、彼女に言われるまでもなく帰すつもりなどなかった。
こんな風にプライベートに気を取られている内にも季節は流れ、2人が出逢った夏から秋を駆け抜け冬の背が僅か見え始めた頃…とうとう霧山は、抱えていた“問題”を会社の社長でもある会長笛木に報告した。
「…。長く行方知れずだったのが、残った答えは『自殺』…ですか。契約を結んだ際は、信用に足ると判断したのですよね?」
「はい。なので正直言って自分もこの結果に驚いています。…申し訳ありません。」
「…ふむ、まぁ致し方ない事でしょう。この契約に関してはまだ打つ手があります。」
「…。名を連ねる返済責任者…つまりは『娘』から取る、と。」
「そういう事です。近い内に清水に行かせましょう。…契約者が死亡となった以上、この件は早くカタを付けてしまわないと後々面倒な事になりかねませんからね。」
「……。」
こうしてこの契約の早期解決及び完結を図るべく、動かされたのが若頭清水だ。この金融会社に置いて、取立てを担当する彼が動く事は『最終手段』と言っても過言ではない。
だが…様々な事を懸念し心配すらしていた笛木や霧山の予想をはるか斜め上をいく予期せぬ展開が起きてしまった。
霧山がそれを知ったのは、一部幹部から『歩く災害』とまで揶揄される清水が動いてから2日後の事。
「…うぅっ…若頭ぁ…」
「すんませんすぅ…」
「……。」
事務所のパソコンに向かっていた霧山だったが、朝から若衆らがグスグスと泣いて悲観に暮れていた。そんな彼らを若衆頭の小田切は苦笑いで見守る。
「お前ら、いい加減もう泣くな!これぞ『極道のケジメ』ってヤツだっ。若頭だってちゃんと理解していなさるって!」
「でも!あの若頭が!俺ら下っ端に黙ってリンチ食らってるなんてっ…くぅっ…」
「そうっすよ!何でっ…何でなんすか?!」
「…はぁ。だからっ、仕方なかったんだ!会長の命令に背く気かっ…ったく。」
「……。小田切、何なんですか?このカオスは。若頭がリンチとか聞こえましたけど。」
「あ…キリさん。すいません、湿っぽくて。…いやね、実は…」
苦笑いを崩す事なく、小田切は事の次第を説明する。それを聞いて霧山は会長室へと駆け込んだ。
「会長!…どういう事ですっ、あの契約は早期解決して『終了』とする為に若頭をっ…」
「まぁ落ち着きなさい霧山。…しかし珍しいですねぇ、お前がそんなに顔色を変えるなんて。」
「…ッ…」
「契約に関しては『完済』となりましたよ。なのであの件についてはもう既に無き物、という事です。」
「か、完済?!…娘が70万の大金を、父親の為と気前良く払ったとでも?預金でもあったってんですか!」
「ふむ…完済は『完済』なんですがね、金の出所は娘からではありません。…清水が娘に代わって叩きつけて来たんですよ、金額を上回る『100万』にして。しかも自腹を切って。」
「は、はぁ?!全く意味がわかりませんよっ、何故若頭がっ?!」
「……。『惚れた』んだそうです、女に。」
顔をグン!と近付けてきた笛木の口からいったい何が飛び出すのか…と瞬時に身構えたのが、出てきたその言葉に肩透かしを食らいカクンと下がる。
「ほ…惚れたって!良い歳こいた野郎が一目惚れでもしたってんですか!そこいらの童貞でもあるまいし!」
「知りませんよ…私に噛み付かれても。けどこの2日程、女の住まいを見張らせてますが部屋には戻ってないようです。」
「…ッ、まさか…」
「恐らく、一昨日の内から『拉致監禁』…いやいや、自分のマンションに囲っているのでしょう。…私を恐れているんですよ、清水は。」
『現に携帯に電話しても出ませんしねぇ。』と笛木は溜息を漏らす。…だがしかし。いくら惚れたにせよ、やる事があまりに突飛ではないか…と顔を顰める。
「まぁとにかく。清水の事はしばらくほっときなさい。その内に思い出したように出て来るでしょうから。…あぁコレ、その100万です。社に納めて完済手続きを正式に進めて下さい。」
「………。」
ポフン!と手渡されたキャッシュの100万束を手に、半ば呆然としながらも“マジでコレで良いのか?”と自問する。
けれどそれは、霧山が正しかったのだ。若頭が不在となる…その本当の意味も、そして後に起こる出来事も…彼にはこの時、知り得ない事だった。
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