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番外編 本部長霧山悠斗の恋
節目
しおりを挟む日々は穏やかに過ぎていく。…あんなにドタバタとざわついていたのが嘘のよう。
俄かに晴れ渡り温かなこの日、ほのかの卒業式が行われる。仕事の合間にちょっとだけと考えていた霧山だったが、会長から休むようにと言われ素直に受け取った。
あわやいつもの癖で日頃の縦縞スーツを着そうになってしまったが、可愛い嫁の為にと濃紺のスーツに替えマンションを出る。
着いた頃には既に式の最中…静かに中へと入って1番後ろの椅子に座る。生徒や関係者が多いせいで肝心の嫁が見つけられはしなかったものの、霧山はそっと最後まで見守った。
「やっと卒業だぁー!大学に行ったら好きに出来るぅ!」
「私はまず彼氏作るっ。…イイ男、ゲットしてみせる!」
「あはは♪頑張ってね、2人ともっ。」
「…ねぇほのか。アンタ本当に大丈夫なの?受験戦争からは自分から脱落するし、かといって就職探してたようには見えなかったけれど。」
「んふふ♪大丈夫っ。卒業したらやる事、ちゃんとあるからっ。」
「「…?」」
式場となっていた体育館を出て来たほのかとその友人2人。こんな事を話しながら歩いていると、ほのかが『あっ!』と声を上げる。
「悠斗さん!」
「「っ?!ユウトさん?!」」
「…おう。もう帰れんのか?」
「ん、帰れるよっ。…へ?」
はたと見れば、友人2人がぽーっとなって霧山をガン見していた。それを受け、霧山の目が僅か警戒するようにスッと細まる。
「あ…えと、私の友達の香理と紗良。高校3年間ずっと同じクラスで仲良くしてくれたの。でこの人は霧山悠斗さん…私の『旦那様』♪」
「「だ、旦那様?!」」
きゃ♪と照れてるほのかとは対照的に友人2人はそれどころじゃない。
「ち、ちょっと!いったいどういう事?!」
「ほのかアンタ…結婚、したの?!」
「うん、したよ。今年に入ってすぐに。卒業するまで言わないでおこうと思って…ゴメンね?」
「「……、…」」
「…悪かったな。こっちの事情が色々あったのと、俺がコイツの卒業まで待てなかったんだ。…許してやってくれ。」
「えっ…あ、は、はい…」
「ほのかに会いてぇ時はいつだって連絡すりゃ良い。…俺の嫁になったからって縛るつもりはないし、やる事なんかたかが知れてる。」
「うっそ、大変なんだよ?家事のあれこれやるのっ。」
「…ンだよ、一端に嫁さん業やってるつもりか?大変なのはお前が要領悪いせいだ。」
「…えぅ。…んと、そういう事だから…気にしないでいつでも連絡ちょうだいっ。」
「ウチの嫁さんが世話になったな、2人とも。これからも仲良くしてやってくれ。…行くぞ、ほのか。」
「じゃあまたね、バイバーイ!」
連れ立って歩くラブラブな霧山とほのかを見送りながら、友人2人がポツリと呟く。
「…めっちゃイイ男…」
「ちょっともぉ~、どうなってるのー?!ズルいほのかぁ…」
「…でもさ紗良。ダンナって言ってたあの人…どう見ても『歳上』、だよね?」
「ん、そだねー。怖いくらい渋系だねー。スーツだって着慣れてます!って感じ。」
「「…あんなイイ男…札幌にもいたんだ…」」
3年もの付き合いがありながら何も知らなかった友人2人は再びポツンと呟き…『今度会ったらダンナの“友達”紹介してもらおう。』と誓うのだった。
そんな事など露とも知らない新婚さんのこちら。夜になって霧山はほのかに告げる。
『…外に出るから準備しろ。』
言われるままに支度をして、何故か迎えの車に乗って着いた先は…
「…。ここって…何?ドコ?」
「看板見れや。書いてんだろ、料亭って。」
視線を向けた看板には『高級料亭・景雲郷』とあった。
「り、料亭?!」
「お前、この前『いいなぁ。』みてぇな事を言ってたろ。奮発してココで飯だ。」
「…うわぁ…」
中へ入っていくと、数人の仲居さんが立ち並び2人を出迎える。その中から1人の女性が進み出てくる。
「いらっしゃいませ霧山様。本日はご予約、誠にありがとうございます。」
「いや、急な事で申し訳ない。」
「とんでもございません。」
「…自分の『嫁』です。今日、ちょっと祝い事がありまして…」
「は、初めまして!き、霧山が…お世話になってますっ。」
「まぁ…お初にお目に掛かります。当料亭の女将を務めております。霧山様を始め、会の皆様にはご贔屓頂いております。」
「…あ、はぁ…」
華美になり過ぎない程度の鮮やかな着物を着こなす女将に圧倒されるほのかには、それ以上の言葉が出てこない。
「とは申せ、霧山様が此処を『個』として訪れますのは、今夜が初めてでございますが。」
「……。」
「ふっふふふ。…さぁどうぞ中へ。」
さも楽しいとばかり笑った女将の案内について行くと、着いた先は館内の1番奥にあたる個室だ。会の人間が利用する時は、必ずと言ってココを充てがわれる。
「こちらの個室は中庭が見えまして、当料亭自慢のお席にございます。」
「…うわぁー、すごく綺麗…」
中庭が垣間見え、その自然溢れる景色を前にして感慨の声が上がる。田舎街とはいえ『市』を頂く札幌…だが車で数十分程離れただけで簡単に自然に触れる事が出来るのだ。
「それではお料理をお運び致しますね。」
その言葉を皮切りに、個室には次々と料理が運び込まれ…あっという間にテーブルが埋め尽くされた。焼き物から活き造りといった数々の皿はどれも美味しそうである。
「霧山様。板長を務めております当料亭の主人より、こちらをお預かり致しました。…祝い事ならば是非にと。」
「…。こうなると思ってました…ありがたく頂戴します。」
「久々なのでご挨拶をと申しておりましたが、何分只今手が離せないようでございます…」
「俺らの事はお気になさらず。…宜しくお伝え下さい。」
『失礼致します。ごゆっくりお過ごし下さいませ。』…静々と下がる女将を送って、2人は数多の作品のような料理に舌鼓を打つ。
「んーっ!美味しい♪」
「…まるで普段はろくなモン食っちゃいねぇみたいな反応だな。」
「そういう事じゃないよっ。自然見ながらご飯なんて贅沢だなぁって。」
「…。まぁ、な…」
「悠斗さん…何で、連れて来てくれたの?」
「…。今日、卒業した事でお前が持ってた『高校生』って肩書きがなくなった。節目を迎えたんだから、それは祝わないとな。」
「…、…ありがとう、悠斗さん。」
霧山にはほのかが卒業したらある事を決めていた。だがそれには触れる事なく、2人だけの祝いの宴は続く。
「ね、板長さんから頂き物しちゃうって事は…知ってる人なの?」
「ここの板長とウチの会長が古くからの付き合いで、何度か俺も会ってる。」
「ふぅーん…、…飲まないの?せっかく冷たいのに温くなっちゃうよ。」
「…だな。頂戴したモンだ、ご相伴にあずかるか。」
「じゃあお酌してあげるっ。」
板長からの差し入れられた地酒の冷酒を可愛い嫁に酌してもらい味わう。かなり飲みやすい日本酒とわかり、差し入れられた『意味』までをも深読みしてしまう。
…板長は『祝いなら、2人で飲んで“楽しめ”。』と下世話に言っているのだ。
「…。美味しい?」
「あ?あぁ…まぁな。…、…お前も飲んでみるか?」
「え、いいよっ。私まだ20歳なってないもんっ。」
「学生身分も終わって、人の嫁にもなったんだ…こうなりゃ18も20もねぇだろ、大人だオトナ。」
こうして人生初の試みに挑戦する事になったほのかなのだが…
「にゃはは♪…んふふふー♪」
「…、…はぁ…やっぱこうなったか…」
僅か30分後…見事にほのかが酔っ払ってしまい、さっきからずっとニマニマと怪しく笑っていた。何となくこうなると予想はしていたが、ほろ酔い程度だろうという考えが甘かった。
「えへへ~♪悠斗しゃーん♪」
「ンだよ…酔っ払い。」
「にゃはは!悠斗しゃ~~んっ♪」
「だから何なんだよっ、さっきからっ。」
「悠斗しゃん、ちゅよいねー…おしゃけっ。」
「…。こんな量で潰れてられるか。俺なんかより強い人はいるって。」
「…ほぇ…だえ?」
「ウチの会長と若頭。特に若頭は底なしの『ザル』だ。滅多に酔って潰れる事がねぇ。」
「しょこなし?…じゃる?…、…きゃははは!じゃるぅー♪しゃるー♪」
「…。お前…ザルもサルも一緒くたになってるだろ。…完全に飲まれてんな…コイツ。」
尚もにゃははは♪と笑い転げるほのかは、どうやら『笑い上戸』のようだ。
時間ともなり、もはや腰が立たない程にグニャグニャの嫁を傍から抱えながらどうにか歩かせ、送りの車に乗り込む。実の所、もう一ヶ所寄りたい所があったのだが…果たして連れて行っても良いものかと悩み始める。
「…随分と可愛い嫁さんじゃねぇか、キリ。」
「っ、…拓馬さん…」
走り出してしばらくが経ち、ふと声を掛けられ目を向けると、驚く事に運転しているのは料亭の板長だった。未だ残る僅か鋭い目でありながらニヤリと笑う。
「驚かさないで下さいよ…」
「はは!悪りぃな、やっと手が離れたからよ。顔見に行こうとしたらもう帰るって聞いたから、そんじゃ俺が送るわってな。」
「…。相変わらずですね…アナタ。」
「人間そうそう変われりゃしねぇって。…お前も相変わらずの『鉄仮面』っぷりだなぁ。」
「余計な世話すよ…」
「…祝い事だって?」
「ウチのがようやく今日で学生身分から放免されましたんで。」
「おいおい。未成年に酒飲ませるたぁ…悪りぃ野郎だなぁ~キリ!」
「その冷酒を差し入れたのは何処のどいつだ!」
「だって俺、知らねぇモンよ。…キリの嫁がこんな若えなんて。年、いくつ違う?」
「…。7つ…違います。」
「くぁーっ、若いねぇ!羨ましいねぇ!ヤり放題だな!」
「……、…」
「おぉ、ヤり放題といや…八雲と圭介は“生きて”んのか?」
何故その言葉で2人を思い出すのかがわからない。しかも生き死にを確認するのは如何なものか。
「…。お2人とも永らえてピンピンとしてますよ。ちょっと前まで色々とありましたけどね…」
「ふむ…そか。まぁ極道やってりゃ、こっちにその気なくたって向こうからカチコミだ何だ仕掛けてくらぁな。圭介もどうせ変わんねぇんだろ。」
「惚れた今の女が至極真っ当な人なので…ちょっとだけ変わったかもしれませんねぇ。」
「…は?惚れた…って、あの圭介がか?…はぁー、あんだけ女っつう女を食い散らかしてきた男が。こりゃ驚きだ。」
「若頭も時期に身ぃ固めるつもりのようですよ。…それだけ惚れてるみたいなので。」
「…。その若頭を差し置いて、先に身ぃ固めておきながら未だにすっトボけてる『奴』もいるしなぁ…ケッケッケ!こりゃとんだダークホースだぜ。」
「…ふにゃ…だーくぅ…、…ちょこ~?」
「…。何言ってんだ、酔っ払い野郎が…寝惚けてんのかっ。」
「わっははは!どんだけ飲んでもケロッとしてるみずきや翠に比べりゃ、相当可愛げあるじゃねぇかっ。ンな目くじら立てんなってっ。」
…豪快に笑うその道の『先輩』に不満顔をみせながらも、“この俺が惚れた女なんだから当たり前だ。”とひっそり胸を張る霧山なのだった。
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