Hold on me〜あなたがいれば

紅 華月

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番外編 本部長霧山悠斗の恋

全てが日の目を見る時

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全てが落ち着き、日常がようやく戻って来た。霧山もほのかも通常運転で毎日を過ごしていた、のだが…

「だーかーらー!何度も言ったよ?その話はもう終わりっ。…え、それもダメって言ったよね?何でって…ダメなものはダメだ!…って言われたの…」

ほのかはずっと電話で話をしている。かれこれ数時間に及ぶ。しかも内容は同じ事で、まるで堂々巡りである。…さすがの霧山も呆れてくる。

「とにかくそういう事っ。じゃあね!またね!」

無理矢理に、それていて一方的に電話をやっとの思いで切った嫁が盛大に溜息を吐く。

「…。お前のダチは男狂いなのか?何の為に進学したんだか…」

「周りでどんどんカップル成立しちゃって焦っちゃってるみたい…はぁ。…ねぇ悠斗さん?やっぱり…」

「駄目に決まってんだろが。俺が会わせられる野郎は皆『極道』なんだぞ。」

「…だよねー…」

「ダチの幸せ願うならな、堅気のマシな男を捕まえさせてまともな恋愛させろ。」

「むっ。それって、悠斗さんは『マシじゃない』って聞こえる!私たちはまともな恋愛じゃなかったの?!」

「…。お前は…、…俺と知り合ったのが『運のツキ』だ。初めて逢ったあの日に惚れちまったんだろ?…俺に。」

「まぁーねー♪」

楽しげにきゃは♪と笑うほのかと、ドヤ顔でニヤリとする霧山。今となっては至極どうでも良い事で幼妻相手に意地を張る。…何に置いても自分が僅かでも“優位”でいたいらしい。

そんな夫婦水入らずの時間を過ごす2人だったが…ピンポン♪と、来訪者がやって来た。

この霧山家には来る者などほとんど無く、夫婦は『?』を浮かべて互いに首を傾げ合い、何を考えるでもなくほのかが玄関へと向かった。

「は~…い?」

「……。……」

「…。え…っと…?」

「…。おい…ココ、霧山悠斗の『根城』だよな?」

「…ね、根城…」

「あの…その言い方じゃ伝わらないと思いますよ?圭介さん。…お若そうな方なんですから。」

現在、玄関を開けたほのかの目の前にはスラリと背の高いグラサン男と、見るからに20代前半としか見えない色白美女がしっかりと手を繋いで並び立っている。目つきこそわからないが上から見下ろされる様は威圧が半端なく…ほのかは本能的な恐怖心から数歩後退った。

やがては奥から霧山もやって来たのだが、その顔が呆れから驚愕の表情へと変わる。

「…よぉ、キリ。開いたドアからいきなり『女』が出てきたから、部屋を間違えたのかってビビっちまったぜ。」

「わ、若頭っ…美優さんまで…」

「こんにちはキリさん。突然お訪ねしてすいません。」

家主の登場に応えて、グラサンをチャッと外した若頭清水がニヤリと笑い、隣の美優はペコリと頭を下げる。…繋がれたままの手が、まるで若頭の予期せぬ暴走を抑えているかのようにも見えなくもない。

玄関では何だから…と、リビングに案内された来訪者2人は霧山と向かい合ってソファーへと腰掛ける。ほのかはその間におもてなしの飲み物を準備し始めた。

「ったく…相変わらずお前んチは機械(メカ)だらけだな。こんな並べたって手は2つしかねぇんだぜ?意味あんのかよ。」

「…。あるから置いてるんじゃないですか。」

「でも凄いですね。キリさんらしいといいますか…」

リビングの一角を陣取るパソコンや機材の数々を眺め見てそれぞれが思う事を口にする。けれども霧山としては正直言ってそんな事はどうでも良く…若頭が何故家にまでわざわざやって来たのか、何故『ほのか』を見ても何も言わないのか…何の素振りを見せるでもない兄貴分の考えがわからず戸惑ってしまう。

…だがその戸惑いを顔にも態度にも出さないのが『鉄仮面・霧山』なのだ。

「あ、の…宜しければ、お飲み物…どうぞ。」

「すいません、ありがとうございます。」

「……。やっと会えたな…お嬢さん。」

「…へ?!」

僅かな沈黙の後、ほのかの顔をジッと見ていた清水はポツリと呟く。これに驚いたのは言われたほのかだけではない…場にいる霧山も美優も、何が起きた?知り合いか?と目を丸くして見開いた。

「キリ…オレが全く『何も知らずに』今日までいたとでも思っていやがったか?だったらとんだ誤算だな。オレはこんなでも会を預かる若頭やってんだぜ、てめぇら下のモンの面倒見んのも役割だ。盃どうのこうの関係なく…会のモンは、オレの大事な『兄弟』だからな。」

「……っ…」

「オレは、美優が会長と意図せず会っちまった時、会長に言われた事がある。『女1人くらい自分だけで守ろうなんて過信が過ぎる。』ってな。…てめぇが惚れた女なんだからそれが当たり前、そう思っていたが…なるほどって思った。多分会長は『お前には仲間がいるのだからもっと頼れ。』って事をその言葉に含んだんだ。…だからなキリ…」

「……。」

「会長の言葉を借りて、オレも同じ事を言わせてもらうぜ。…女1人くらい自分だけで守ろう、なんて『過信』が過ぎるぜ。てめぇに何かあれば、お前の女は誰にもどこにも頼れねぇ…会としても困る。お前はウチの大事な本部長なんだからよ。」

「…、…ありがとう、ございますっ…若頭っ…」

「…で?こうなったからには、ちゃんと紹介してくれんだろ?どこから拉致って来たお嬢さんなんだ?」

「ら、拉致って…ご自分と一緒にしないで下さい。」

「るせっ、聞いてる事に答えろっ。」

「…。改めて紹介します…ほのかといいます。…自分の『嫁』です。」

「ほうほう、“ほのか”ってのか。んで『嫁』やって…ンなっ、嫁だぁ?!」

「…わ。キリさんいつの間に…おめでとうございます♪」

「呑気に祝辞送ってんじゃねぇ!美優っ。…よ、嫁って…アンタ、じゃ悪りぃか…ほのか、歳はナンボなんだ?どう見たって…」

「18です♪ついこの間、高校卒業しましたっ。」

「…、…じ、18だぁ?」

「わ、若い…ですね。」

「…。コレが、ほのかとの事を自分がひた隠しにして来た最大の『理由』です。」

「「……。」」

しばしの沈黙の後。清水から“プチッ”という、本来なら聞こえるはずのない音が聞こえ…そしてカーン!とゴングが鳴った。

「うぉい!キリ!コラァ!!てめぇ、7つも若ぇ女囲っておきながらオレらにひた隠しって!水臭え通り越してんぞ!」

「では言わせてもらいますが!知ったら知ったで揶揄ってくるでしょ?!只でさえ真次や南雲先生に『ロリコン?』て言われてきたんですっ、面倒だったんすよ!」

「面倒でもオレには話せや!つうか何で南雲が知ってんだよ!おかしくねぇか?!」

「色々あって、行き掛かり上仕方なかったんです!もう過ぎた事じゃないですかっ。」

「過ぎた事だとぉ?上に報告すんのが『筋』ってモンだろがっ、あァ?!」

ヤイヤイ、ギャーギャーと良い歳した男2人がテーブル挟んで言い争う。似た者同士で昔からの光景を他所に、美優は清水の側をスルスルと抜け出しほのかの前に膝を突き屈んだ。

「あ、あの…ほのか、さん?…えっと…仲良く、して下さい…ね?」

「…。…は、はいっ!」

美優の纏う優しいふんわりとした笑みに見惚れたほのかだったが、すぐに元気に頷き返事をする。それを受けた美優は『ふふ♪』と嬉しげに笑みを深めた。

「おいコラ、美優!オレをほっとくなっ。しかも何気に懐いてんじゃねぇっ。」

「え、えへ♪」

霧山との“ファイト”の傍らで勝手に側を離れたと清水が憤慨する。それを受けて相手をしていた霧山が冷めたように言う。

「…。ちょっと側を離れただけでコレですか。…大変ですね美優さん、こんな男に惚れられて…同情します。」

「んだ?キリ…喧嘩売ってんのか、あァ?」

普段なら会長や小田切といった止め役がいるのだが、今は『まぁまぁ。』なんぞと言ってくれる人もなく…ほっといたら本当に延々と小競り合いが続きそうな形相だ。

だが息巻いた事を言ったにも関わらず、清水は何かを思うかのようにフッと黙り、そしてそれまで立ち上がっていた腰を落ち着けドカリと座る。

…ふと気付けば、美優がほのかの前から清水の隣へと『戻って』いて、何かを訴えるかのように見上げている。その無言の視線がどうやら痛い所を突いていたようだ。

「…。わかった…わかったから、ンな目で見るな美優。…わかってる…」

「はい、圭介さん。」

「……。」

「さすがに何ヶ月も一緒に暮らしてりゃ、若頭の扱いにも慣れたものですね。…実際どうなんです?何かと暑苦しくありません?コノヒト。」

「…おい。何で最後カタコトなんだよ、言い方がよ。」

「あ、暑苦しいって…悠斗さんっ。」

「だってそうだろ。惚れた腫れたはわかるがちょっと離れただけで『ほっとくな』とか…暑苦しい以外何がある?こんなんじゃ美優さんは何も出来やしない。」

「…キリ、てめぇなぁ…」

「ふふふ♪今はもう慣れちゃいました。最初の頃は確かにちょっと戸惑った、というか困りましたけど…私は家族以外の男性は圭介さんしか知らないので、こんなモノなのかな?って。」

「…。ンな訳ないじゃないですか。若頭が異常な『引っ付き虫』なんすよ。」

現にこうして話している最中も、清水の右手は美優の腰にある。それは彼の固執する表れでもある。

「若頭の気持ちは、わからなくもないですがね…」

「…。お前…ここちょっと前からよくそうやって言うよな。何だ?ほのかを得て心境が変わったか。」

「……。」

「まぁ…得た人間(ヤツ)じゃねぇとわからねぇわな。『本気で惚れた女が出来りゃわかる』…その言葉の真の意味をよ。オレだって本当の意味で理解したのなんかつい去年で、そいつを教えてくれたのが美優だ。…まぁ元は流平に言われた言葉だったが…」

「…立花さん、ですか…」

今年も時期に流平の命日が巡って来る。彼の話になると、霧山はどうあっても共に逝った流平の女『咲希』を思わずにはいられない。

…彼女はまだ18歳という若さで世を去った。しかも自らの意思ではなく流平の“道連れ”として。

彼がそうしたのには精神的に壊れ、自我を失っていた咲希の未来を憂いての事だ。亡くなる僅か前には彼女の側にいる事すら辛かった流平だったが、自分のせいでこうなってしまった咲希を捨て別れる事も出来ず…かと言って族の仲間に頼る事も出来ず、しなかった。

結果的に様々な事が流平の肩に重くのしかかり、2人の自死という悲しい結末を迎えてしまったのだった。

…奇しくも、霧山が出逢い本気で惚れた女は『18歳』。ありそうでいて中々無い、偶然にしては些か出来過ぎのようなこの出逢いに、流平から何かを託されているような気がしている。

「流平も喜んでるかもな…自分の『後輩』が自分が愛した女と同じ歳の女を嫁にしたんだからよ。…重てぇかもしんねぇが、アイツがしたくても出来なかった事をお前が叶えてやってくれ…キリ。」

「…はい。」

「ところでよ…お前、オレらの事をいつになったら嫁に紹介すんだよ。」

「いや、若頭が畳み掛けて話してくるんで…、…ほのか、ウチの組織の若頭だ。」

「…ンだよ、随分とぞんざいだな。…『北斗聖龍会』若頭の清水圭介だ。こっちはオレの連れの美優。本人も何か言ってたみてぇだが、まぁ女同士仲良くやってくれ。」

「美優です。よろしくお願いします。」

「ほ、ほのかです!よろしくお願いしますっ…話に聞いてた通りですねっ。」

「…。おいキリ…お前、オレらの『何』を喋ってんだ?あァ?」

「ま、イロイロと。気にしないで下さい…コイツ、斜めに抜けてるんで。」

「ちょっと悠斗さんっ。また私の事、お間抜けって言ってる?!」

「そうだろがっ。誰彼構わず思った事をポンポン喋りやがってっ…空気読めや、ちょっとは!」

「…うぅっ。」

「あっははは!何だかんだ言って良いコンビじゃねぇかっ…な?美優。」

「はい、私もそう思います。」

声高に笑う清水と隣の美優は楽しげに笑い合う。その様をほのかはちょっとだけ羨ましげに見つめた。霧山からの話のせいで『怖く、面倒臭い』という、僅か性格に難アリのイメージがあっただけに意外に良い人で拍子抜けしてもいる。

「…若頭。そもそも今日は何しに来たんですか?」

「…。しょっぱなが衝撃的だったからすっかり忘れちまってたぜ。…実はよ…」

…ここへ来て、ようやくこの日の『本題』が清水の口から語られたのだった。
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