Hold on me〜あなたがいれば

紅 華月

文字の大きさ
70 / 97
結実ノ章

45 未来永劫、降る雪と共にこの幸せを…

しおりを挟む

「わ、若?…もしかして、弟か妹が欲しいんすか?」

「やっぱ1人は寂しいんすかね。自分は郁哉がいつも一緒だったんで、ちょっと計りかねるんすけど…」

「…流ちゃん?兄弟、欲しいの?」

「う?わかんない。でもね、りゅうのとうたんとかあかん、なかよちだからっ。…だから、くゆ?」

…どうやら流は、兄弟が欲しい訳ではないが両親が『仲良し』だから、自分の家にも赤ちゃんが来るのだと解釈したらしい。…南雲が言った『仲良し』の意味がちょっと違うが。

「…そうかそうか…お父ちゃんとお母ちゃんは『仲良し』か。…何か見られたか?清水。」

「あにょね、やぐもパパ!とうたんね、かあかんに『ちゅー』…ふが?!」

「流ぅ!やめろ、ダメだ!しー、だ!」

「…ふがふが?(ちー、なの?)」

「あぁそうだ。母ちゃんが唸って威嚇すっからダメだ。」

「あーらら♪圭介ぇ~、お前子供の前ではそういう事はやめとけって。こうやってバラされるんだからっ。」

「……。」

南雲に楽しげに言われ、圭介はヘソを曲げたかのように視線を逸らす。慌てて口を塞いだが、時すでに遅し、なのだ。

「流ちゃん、大丈夫よっ。流ちゃんのお家にも鳥さんが赤ちゃん連れて来てくれるわ。すぐにでも♪…ねぇ、お父ちゃん?」

「…。さぁてな。…でもな流…その鳥は赤ん坊を母ちゃんの『腹ん中』に置いてくんだ。置いてかれた母ちゃんは、めちゃくちゃ大変になる。…流は今までみてぇに構ってもらえなくなるかもしれないんだぞ?…それでもいいのか?」

「ぷは!うん!りゅう、あかたんといっぱいあしょぶ!ちょこもあげゆ!」

「あっはは!流っ、赤ちゃんはチョコは食べれない。お前くらいに大きくならないとな。」

「よーし!…おい南雲、健に言っとけ。数ヶ月後には美優が診察に行くってな。」

「お、何だかやる気満々だな、おい…数打ちゃ何たらを地で行くつもりか?」

「うるせっ、オレの『的中率』を甘く見んなっ。…あぁ後、2人目は立ち会うからな。それも言っとけ。」

「…。うぅ…私の意思はどこに行けばいいんでしょうか…」

「あ…み、美優…後で話、ちゃんとしような…な?」

「…。全く…明るい家族計画も良いが、ちょっとは美優さんの気持ちも考えたらどうなんだ?」

「…可哀想に美優さん…しーくんに惚れられちゃったのが、そもそもよねぇ…」

「おいコラ。…あんだって?」

よよよ…と泣き真似をしながらモソリと呟いたその言葉に、圭介が過敏に反応し鋭くツッコむ。その様が何ともおかしくて、場が一気に笑いと幸せに溢れた。

・・・・・・

楽しい日々を過ごしながら、数ヶ月が経ち…ある日の日常には父子の姿があった。

「とうたん。…かあかんは?」

「母ちゃんは出掛けてるぞ。」

「…。かあかん…りゅう、おいてった…」

「おいおい。行く時『行ってきます』って言ってったろ。お前もバイバイしてたじゃねぇか。」

「……。」

「…流、母ちゃんが作ったおやつ食うか?チョコのドーナツだぞ。」

時計を見ると15時過ぎ。確かに出て行ってから数時間が経っている。気を逸らす目的を持ちながらちょうどおやつ時なので言ったのだが…流はダッとどこかへと行ってしまう。

「おーい、流ー?ドーナツ食わねぇのかー?…って、何持って来た?」

戻って来た流は、小さな身体いっぱいで大きな本らしき物を抱えていた。…けれど父圭介はその表紙に覚えがある。

ドン!とガラステーブルに乗せ、流はそれを開く。中は…

「りゅうのとうたんとかあかん!」

「…。何でお前…それのある場所、知ってるんだ…?」

小さな手によって捲られた中では、在りし日の自分と愛する嫁が幸せそうに笑っていた。流が持って来たのは、両親の『結婚写真』だ。

「とうたんとかあかん、にこにこちてゆ。」

「そりゃあな。こーんな顔してたら怖えだろ?」

「にゃはははは♪」

“よいせっ”と自らも座り、息子を胡座の上に座らせて一緒に見る。

「…とうたん、かっちょいい…」

「お、そうか?ありがとな、流。」

「かあかん、ちれい!」

「…そうだな、母ちゃん綺麗だな…って、今もだろ。」

「うん!」

「…とうたん…うれちい?」

「ん?そうだなぁ…嬉しかったな。父ちゃんは母ちゃんが大好きだったからな…今も大好きだけどなっ。」

「りゅうも!かあかん、ちゅき♪とうたんもちゅき♪」

「でもなぁ…父ちゃん、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだぞ?みんなに見られて。」

「にゃはは!はじゅかちっ♪」

こんな温かな会話をしつつも、息子の口におやつのドーナツを小さく割り放り込む。もぐもぐと元気に咀嚼しゴクゴクと牛乳を飲み込む姿を見て、父は目を細めた。

「んぐ。…かあかん、まだ?」

「んー…そろそろ帰って来ると思うけどなぁ…」

やはり母が恋しいのか、流の小さな手が写真の母をナデナデする。その時…玄関が開く音と『ただいま~』という声が聞こえてきた。

「っ、かあかん!」

「おし流!母ちゃん迎えに行くぞっ。」

「おー♪」

膝から飛び降り、走り出した流の後を追って付いて行くと

「ただいま帰りました、圭介さん。」

「おう、お帰り…美優。」

「かあかん!」

「流くんただいまっ♪お父ちゃんと一緒に良い子でいられたかな?」

「うん。りゅう、いいこっ。」

「ほんと?…後でお父ちゃんにお話、聞いちゃうよ?」

笑顔で笑い合う母と子、なのだが…圭介は夫として僅かな違いと違和感を見逃さない。

「荷物はオレが運ぶ。…中に入ってろ。」

「…すいません、ありがとうございます。」

流を抱き上げ、中へと入る美優を見送りながら…圭介は傍らに立つ幹哉に問う。

「…おい、何かあったか?」

「特として何も。…ただ姐さん、ちょっと体調悪いみたいです。車中、顔色悪かったんで。」

「…わかった…済まなかったな、ご苦労さん。」

「失礼します、会長。」

朝になって急に『出掛けたいので、流くんお願いしていいですか?』と言われた時、僅か不思議には思ったのが…

「…。ま、美優の事だ、すぐに話してくれるだろうさ。」

…と自己解決し、中へと入っていった。

リビングでは帰って来た母に甘え、ぎゅーぎゅーとしがみつきながら笑う息子がいる。そんな2人の姿を視線の端に捉えながらも、圭介はレジ袋を開けて中身の物を冷蔵庫へと入れようとした。

「…あ、あの…圭介さん?」

「おう、なした。」

「…うぅ。…えっと、ですね…ちょっと、お話、が…」

「あァ?動いてはいるけど聞いてるって。なした?」

「…実は、その…斯く斯く然々、諸々とありまして、ですね…」

「ちょっと待て。省略し過ぎ…だ…、…あ?」

「っ!とうたんっ、とうたん!!『にゅーにゅー』!『にゅーにゅー』おっこちゆ!」

「ッ、うぉ!っぶねぇ…サンキューな流。…がしかしだ…前にもした事があるようなこの会話…、…ッ?!」

言いながらもハッと気付いた圭介は、息子のアシストで大惨事を免れた『牛乳』を避難させてから、ドスドスと大股で歩くとソファーに座る美優の前にしゃがみ込んだ。

「…準備は出来てる、バッチコイだっ。」

「…。…ハイ?」

やり取りから全てを察したらしい圭介が両腕を広げて構える。それを見て、流も真似して小さな身体でめいっぱい腕を広げた。

「美優の様子から大体の予想が付いた。けどオレはちゃんとお前の口から聞きてぇ。」

「りゅう、よくわかんない!」

「お前には後で教えてやるからな。」

「…。えと…健先生から『おめでとうございます♪』って言われた…って言えば、わかってもらえますか?」

「……。」

「…え、えへ♪」

「よ…」

「…『よ』?」

「よっっしゃーーぁっ!!ーははは!美優ぅ!やっぱお前は最高の『嫁』だぁー!!」

「うっひゃ?!」

“想像が付いた”とはいえ、やはり言葉でちゃんと聞ければ喜びは一入となり、それを表現するかのように、目の前の嫁を抱き上げる。

流の時もそうだったが、尋常ではない喜び様に幼い息子すらびっくりして両目を見開きクリクリとして見上げた。

「ほぁ…とうたん、かあかん“だっこ”ちてゆ…」

「はっははは!よっしゃよっしゃあ!!流っ、南雲のおっちゃんが言ってた『鳥』が来たぞ!」

「…?…どこ?とりしゃん。…いない…」

「恥ずかしがり屋だからな!すぐ帰っちまったんだ。…流、ちゃんと『兄ちゃん』出来るか?」

「うん!できゆ!」

「おうっ、やっぱ父ちゃんの子だなぁ!よっしゃ流!お前も来い!」

「にゃはははっ♪」

抱き上げる嫁をそのままに、片腕だけで息子をも抱き上げ家族は喜びを共にする。そこには笑顔という名の大輪の花が咲いた。

…こうしてこの数ヶ月後、紆余曲折ありながらも産まれたのが第二子長女の『小梅』である。

無事の出産の知りすぐさま駆け付けた美優の祖父ミハエル・ロゼーニョは、腕にした2人目のひ孫の可愛らしさに流の時同様ロシアへ連れ帰ろうと画策したが…

「てめぇクソジジイ!毎度毎度連れてこうとすんじゃねぇ!人のガキ何だと思ってやがるっ!」

「ひいじい、メ!かえちてっ、『うーたん』かえちて!りゅうのいもおと!」

「オウ、ゴメンナサイデス。デスガ…コンナニカワイクテハ…ハナシタクナイデス!」

「…っ、良かったですね…ドン。まだまだ長生きなさらなければいけませんねっ…」

「るせぇエネッツァ!余計な事言うなやっ。ジジイはさっさとくたばれぇ!」

「…ジーザス。ナントイウコトイウデスカ、コゾウ…」

「お、お祖父ちゃんっ…いい加減そろそろ返して…」

だが未だ『可愛い、可愛い』と頬を擦り寄せる祖父の耳に、母であるはずの美優の声は一切聞こえていないのだった。



…突き落とされた奈落を這い上がった先で待っていたのは、これ以上はないと思える幸せと本当の愛…

『Hold on me』…貴方がいれば、何も怖くない…

『Hold on me』…お前がいれば、何もいらない…

そして共通し重なる2人の想いは…『Stay with me』“私の(オレの)、側にいて”。

確固たるその想いを胸に、かけがえのない恋人から夫婦へ…そして家族となった2人は、可愛い子らと共に更なる幸せを積み重ねていく。

…北の地に降り注ぐ雪の結晶のように…
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

気がつけば異世界

蝋梅
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

処理中です...